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宮崎県清武町の養鶏場で鶏が大量死した事件は、H5型の高病原性鳥インフルエンザと判明。3年前、山口県で発生が確認されて以来、政府や養鶏関係者は水際作戦で感染防止に努めてきたが、ウイルスの再上陸を防ぐことはできなかった。世界規模で感染地域が拡大しているだけに、気になるのは今後。もっとも知りたい3つの疑問、「本当の危険度」を専門家に聞いた。 (山川剛史、竹内洋一)
高病原性鳥インフルエンザ カモなど野鳥もウイルスを保有するが、発症例はほとんどなく、鶏に大被害が出るのが特徴。通常は人間に感染しないが、変異により感染力を持つことがある。
(1)飛び火は
十五日朝、高病原性鳥インフルエンザ発生が確認された宮崎県清武町の養鶏場「谷口孵卵(ふらん)場黒坂農場」。白い防護服にマスク、ゴーグルを着けた県職員ら約百人が、プラスチックのケースを抱え、次々に鶏舎に入っていった。
大量死した鶏と十四日に殺処分された鶏、計約一万二千羽を焼却処分するのが目的。死骸(しがい)は完全密封され、トラックで約十八キロ離れた宮崎市内の焼却場に運ばれた。焼却には約三十時間かかり、十六日夜以降まで続く。同時に鶏ふんの除去や消毒作業が進められる。
しかし、肝心の感染ルート解明は「まったく手が付いていない状態。焼却処分が終わってから、しっかりやりたい」(宮崎県畜産課の担当者)と心もとない。
農林水産省によると、鳥インフルエンザの感染経路として考えられるのは、一般に(1)感染した鳥の入荷(2)渡り鳥など野鳥(3)人や物に付着したウイルスが鶏舎に入った(4)未承認ワクチンの不正使用−など。
(1)については、黒坂農場が鶏を仕入れた三重県内の農場を検査した結果、異常は確認されなかった。
三年前に発生した京都府や山口県などの例から、もっとも有力なのが(2)の野鳥が媒介となった可能性だ。
黒坂農場の近くで地鶏を飼育する男性(55)は「うちは県の指導で防鳥ネットを設置したし、消毒もきちんとしている。谷口さんのところだって同じように厳しく衛生管理していたはず。なぜ発生してしまったのか」と戸惑う。
■「どこでも発生可能性はある」
たしかに黒坂農場の鶏舎には防鳥ネットは付いていた。しかし農水省が助成事業で普及を進めている、窓をなくした「ウインドーレス型」の鶏舎ではなかった。同鶏舎の普及率は採卵養鶏場の羽数ベースで52%、肉鶏で33%にとどまる。
この野鳥経路が断ち切られない限り、鳥インフルエンザは全国のどこへ飛び火しても不思議ではない。
国立感染症研究所の岡田晴恵研究員は「今回は、二〇〇四年の京都での教訓を生かし、早い発見と封じ込めを実施している。養鶏業者も協力的で隠すようなことがなかった」と宮崎県の対応を評価。その上で「感染経路が確定していないので、どこでも鳥インフルエンザが発生する可能性はある」と強調する。
個人のホームページで鳥インフルエンザ問題への警鐘を鳴らし続けてきた北海道小樽市の保健所長、外岡立人氏も「国内で第二、第三の発生がある可能性が高い」と予測。「特にウイルスが活発化する一−三月は念には念を入れた対応が必要だ」と警鐘を鳴らす。
(2)人感染は
昨年はインドネシアやエジプト、中国など世界九カ国で計八十人が鳥インフルエンザに感染して死亡。今年に入ってからもインドネシアで四人が死亡、一人が重体で、さらに十人程度の疑わしい患者がいるとされる。
また最近の研究で、鳥インフルエンザが変異して、人から人へ感染する、新型のインフルエンザになることが報告されている。
宮崎県は「発生した養鶏場関係者に感染は認められていない。インフルエンザを疑われる患者には、海外の感染地域への渡航状況や養鶏場への出入りを聞き、該当者は検査結果が出るまでその病院にとどまってもらっている」と話すが、前出の外岡氏はもう一歩進めるべきだとの見解だ。
「人への感染力は不明な部分が多いが、本当に宮崎では人感染が起きていないのか。ただでさえインフルエンザが流行する時期なので、患者を対象に、通常型なのか新型なのか、ウイルスの型をきちんと調べるべきだ。こういう状況下では、十分すぎるくらい対処するのが危機管理。国は養鶏業者への風評被害ばかり心配するが、これでは人への感染に対応しきれていない」と指摘する。
ところで、今回の発生で、日本で新型インフルエンザ発生の危険性は高まったのだろうか。岡田氏は「そういうわけではない。日本には鳥インフルエンザを早期に封じ込める技術と資金がある」と慎重に話す。
が、同時に「海外で新型インフルエンザが大流行すれば、日本にもすぐに入ってくる。国民もその危険性を認知し、備えることが大事だ」と強調。新型インフルエンザの流行に備えて、二、三週間は出歩かないで暮らせるように食糧や日用品、常備薬などを備蓄することを提唱している。
(3)備えは
もし、新型インフルエンザが人に猛威を振るい始めた時、政府に十分な備えはあるのか。
厚生労働省の外口崇健康局長は「かなり対策を進めてきたのは確かだが、そのアンコは今まさに作っている最中。いま国内で大流行し始めたらどうかと問われれば、いまあるツールを総動員するとしか言えない」という。
確かに薬剤の備蓄関係は進んだ。一千五十万人分を備蓄する計画の抗ウイルス薬タミフルは、すでに七割方は完了。一千万人分を用意するワクチンも、製薬四社が量産に入っており、後は優先的に実施されている薬事法による審査結果を待つだけの状態だ。
国や自治体の行動計画についても、厚労省は十九日の有識者会議でその原案を示す。今月末から二月にかけては、国と自治体の連携がうまく取れるか初めての演習も実施する予定。
ただ、厚労省が想定するように全国で入院患者二百万人、死者六十四万人という最悪の状況が出現した場合、感染症用に事前に指定されている病院以外にも患者が殺到する。その備えは十分なのか。ワクチンの投与はどういう人を優先するのか、感染拡大を防ぐため患者の勝手な動きを封じるにはどうするのか。院内感染を防ぐには窓口の分離も必要になるが、各病院とも対応できるのか−。
この辺りの具体面については、まだ十分に詰まっていないのも事実だ。
外口局長は「緊急の場合は承認手続き中のワクチン投与も認めるなど柔軟な対応が必要になるだろう。幸いにも海外の感染例を見る限り、人への感染力は決して高くない。演習や議論を積み重ねる中で対応策を改定していくしかない」と話す。
前出の外岡氏は「今回の宮崎のケースにしても、多くの病院では『ああ、ニワトリの話か』くらいの認識しかない。すでに海外で起きている人への感染例も十分に情報が行きわたっていない」と危機感を持っている。
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20070116/mng_____tokuho__000.shtml
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