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http://www.juno.dti.ne.jp/~tkitaba/bse/news/07011501.htm
07.1.15
キリンビールの米国子会社・Hematech社や米国農務省農業研究局動物疾病研究所の研究者チームが、遺伝子組み換え技術とクローン技術を使って作り出したプリオン蛋白質を持たない牛が生後19ヵ月まで健康で、いかなる外見上の発達異常も認められなかったと発表した。
James M Robl et al.,Production of cattle lacking prion protein,Nature Biotechnology,January 2007(25-1),pp132-138:Abstract
このような研究の目的は、異常プリオン蛋白質汚染がないことを保証するポリクローナル抗体を産出するために利用できるBSEに免疫を持つ牛を作りだすことにあるとされる。また、このような牛は医薬品の生産に利用される安全な血清の研究にも利用できるという。ところが、正常なプリオン蛋白質がなくても少なくとも19ヵ月齢までは健康上・発達上の問題がなかったというこの発見は、BSE対策をとんでもない方向に捻じ曲げる可能性も生みだしたようだ。
BSEは正常プリオン蛋白質が変形した異常プリオン蛋白質が引き起こすと信じられており、従って正常プリオンがそもそも存在しなければBSEも起こらないだろうと、これら研究者は、このような牛がBSEのない牛を生産するためにも承認される可能性があると期待する。わが国食品安全委員会プリオン専門調査会専門委員の小野寺節東京大教授は、「今回の技術を使えば、人に異常プリオンを広げる心配がない牛を、産業的につくることができる可能性がある」(プリオン持たない牛の飼育に成功 BSE解明に有用、asahi.com、07.1.1)とまで言う。
遺伝子組み換え、クローンニングに伴う安全上の問題が解決されたわけではない。また、この実験だけでプリオン蛋白質のない牛に通常の牛には見られないいかなる問題も起きないことが保証されるわけではない。従って、このような牛を「産業的につくる」時代が来るのかどうかはわからないし、来るとしてもかなり先のことであろう。
それでも、このような可能性に平然と言及する専門家がおり、マスコミもこれに何の疑問も呈さないことに、「科学技術社会」に対する底知れぬ怖れを覚えるのである。狂牛病は、人間に牛の”飼い方”に関する根本的反省を迫った。レヴィ・ストロースは、狂牛病が既に肉の消費が自然発生的に低下しつつある西欧社会の変化を加速し、肉は「とっておきの宴会」のために、自由の身となり・野生に戻った家畜の「狩猟」によってしか手に入らなくなること、つまり、グローバル文明を僭称する”食肉文明”の消滅さえ期待した。
ところが、専門家たちは、狂牛病の脅威から逃れる道を、自然には存在しないプリオン蛋白質を持たないクローン牛で世界を埋め尽くすことに見出そうとしているわけだ。こんな牛が”産業的”に生産されることになれば、世界中の農家がその飼育に走るだろう。プリオン蛋白質を持ち、遺伝的多様性を持つ本来の牛は動物園でしか見られなくなり、あるいは絶滅するだろう。科学者・技術者・消費者は、それでも人間が安全になるなら結構だとでもいうのだろうか。しかし、唯一残ったクローン牛も病気や環境変化で全滅してしまうかもしれない。
(今年は年初から、何を言う気力も失わせるようなニュースが続いているが、そのなかの一つを、気力を振り絞ってやっと取り上げてみた。しかし、もはや、何を言っても、知らせても無駄ではあろうとの思いが強い)
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