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Re:食品安全委は何を評価してきたのか(論座11月号寄稿原稿) 『www.jimbo.tv』
http://www.asyura2.com/0601/gm12/msg/107.html
投稿者 World Watcher 日時 2005 年 12 月 28 日 22:45:34: DdDUJ9jrxQIPs
 

(回答先: 狂牛病界の内河健 [きっこの日記] 投稿者 white 日時 2005 年 12 月 28 日 21:01:19)

食品安全委は何を評価してきたのか
-米国産牛肉を入れるための茶番ではなかったか-
ジャーナリスト 神保哲生

 7月28日、郵政民営化法案に揺れる国会では、衆院農水委員会が開かれていた。解散総選挙まで取りざたされる緊迫した政治状況の中で、牛肉問題に関心を寄せる人は少なかったとみえ、傍聴席には記者の姿もまばらだった。どちらかというと閑散とした雰囲気の委員会室で、この日招かれていた一人の参考人の口から爆弾発言が飛び出したのは、間もなく散会になろうかという昼過ぎのことだった。
 参考人として出席していた食品安全委員会(以下食品安全委)プリオン専門調査会の品川森一委員は、それまで胸につかえていたものを吐き出すかのように喋り始めた。
 「私は去年12月に寺田(食品安全)委員長に辞表を出したのですが、委員長には今私に辞められると委員会が分解してしまうので、出席しなくていいから辞表は受け取れないと言われました。そのためそれ以来委員会には出席していないので、私に委員会のことを聞かれてもわかりません。」
 郵政一色に染まった国会にあって、この発言が注目を集めることはほとんどなかった。しかし、品川氏といえば、動物衛生研究所プリオン病研究センター長を務める日本におけるプリオン研究の第一人者の一人だ。その品川氏をして、この時期に食品安全委の委員を辞さねばならなかった理由とは一体何だったのか。
 実は食品安全委の委員の中で、辞意を表明していたのは品川氏だけではなかった。プリオン専門調査会の座長代理を務める金子清俊日本医科大学教授もまた今年3月の講演の中で、委員会のここまでの審議の内容が不本意であったことを理由に、辞意を仄めかしていた。
 日本におけるプリオン研究の中心的存在の2人が、米国産牛肉の輸入再開を見据えたこの重要な時期に相次いで匙を投げてしまうとは、食品安全委で今何が起きているのか。

 2003年12月に米国で一頭目のBSE感染牛が確認され、米国産牛肉の輸入が全面ストップして以来、米国産牛肉の輸入再開へ向けた厳しい交渉が、日米の政府間で続けられてきた。もし日米の政府間の交渉を表舞台とするならば、その進展のカギを握るいわば裏舞台となったのが食品安全委だった。ここが米国産牛肉を安全と評価しない限り、米国の牛肉の輸入が再開されることはないからだ。
 日米政府間交渉はすでに昨年10月には事実上終了し、米国産牛肉の輸入再開の枠組みは既に合意に達している。今や両国政府は、日本の食品安全委の安全宣言を待つばかりという状態だ。その安全宣言ももう間もなく出され、早ければ年内にも米国産牛肉の輸入が再開されようかというところまで来ている。
 しかし、BSE問題をめぐる1年半にわたる食品安全委の審議は、本当に中立、かつ公正なものと言えただろうか。本来は専門家たちが政治権力や経済権益から独立した環境の中で食品の安全性を科学的に評価する場であるはずの食品安全委が、外部からの不当によってその審議が歪められるようなことは本当になかったのか。そして何よりも、もしこうした一連の審議の末、近々米国産牛肉の輸入が再開された時、私たちはそれが専門家達の真摯な議論の結果安全であることが十分に確認されているものと信じてもいいのか。
 本来は独立した食品安全の評価機関であるはずの食品安全委の委員たちが、科学者としての良識と政治的な思惑の狭間で苦悩し続けたここまでの1年半にわたるBSE審議を検証した。


■いかに食品安全委は日米交渉に巻き込まれたか

 2003年12月に米国で最初のBSEが発見され、米国産牛肉の輸入は直ちにストップした。しかし、本誌6月号の『このまま米国産牛肉の輸入を再開して本当にいいのか』にも詳述した通り、米国における牛肉産業は政治的にも経済的にも巨大な基幹産業である。食肉産業にとっては上得意客の日本への輸出が止まったままの状態を、いつまでも黙って見ているはずがない。
 BSEが発生した直後に始まった米国産牛肉の輸入再開に向けた日米交渉は、当初から難航することが予想された。BSE発生国から牛肉の輸入を再開するためには、その国の安全対策が日本のそれと同等のものであることが証明される必要があるが、その時点での米国のBSE対策と日本のそれとの間には大きな開きがあったからだ。
 日本では2001年9月にアジアで初めてBSE感染牛が発見されたが、その際、政府の対応の不手際などもあって消費者がパニック的な反応を示し、牛肉の消費が激減したため、日本政府は混乱を鎮める必要性から出荷されるすべての牛にBSE検査を実施することになった。これがいわゆる「全頭検査」だ。BSE対策としては、本来「特定危険部位(SRM)」と呼ばれる、病原体のプリオンが蓄積されやすい脳や脊髄などを確実に除去することがもっとも重要とされ、検査はそれを補完するものと位置づけられる。日本よりも早くBSEが広がったEU諸国では検査は月齢30ヶ月以上の牛に限定している国がほとんどで、その意味では日本の全頭検査は世界に類を見ない厳しい基準だった。
 その日本と同等の安全基準を米国に期待するのが難しいことは、当初から容易に予想された。日本が米国産牛肉の輸入再開の条件として国内産牛肉並の対策を求めたのに対し、米国は全頭検査のみならず、あらゆる検査の導入を拒絶した。米国の主張は、検査はあくまでBSEの発生状況を監視するサーベーランス目的に行われるべきものであり、安全対策にはならないというものだった。
 国内並の安全対策を求める日本政府と、あくまで検査の導入を拒む米国政府との間でしばらく平行線が続いたが、日本政府は2004年の春頃の段階で、米国産牛肉の輸入を再開するためには日本の国内基準の緩和が不可欠になると判断したとみられる。確かに日本のBSE基準が国際的水準と比しても群を抜いて厳しいという客観的状況があったことも事実だが、何よりも米国側の要求が次第に強硬となり、牛肉の輸入再開問題が単なる農業担当者間の交渉ごとから、両国のトップを巻き込んだ政治・外交問題としての色彩を濃くしていったことが日本政府の背中を押していた。2004年の夏には、ブッシュ大統領自らが牛肉の対日輸出再開問題に言及するようになっていた。
 日本政府としては、米国政府があくまで検査に応じないのであれば、米国産牛肉の輸入を拒絶し続けるか、もしくは日本側の安全基準を緩和することでハードルを下げ、米国産牛肉が入り安い状況を作ってあげるかの二者択一しかない。ほとんど憲法を無視して無理矢理イラクに自衛隊を派遣してまで米国との良好な関係維持を優先してきた小泉政権にとって、牛肉問題で両国の関係が悪化することなど容認できるはずがなかった。つまり、その段階で日本政府にとって、BSE検査をしていないことだけを理由に米国産牛肉の輸入を未来永劫拒み続けることは、最初から選択肢になかったと見ていいだろう。
 実際に2004年の7月から8月にかけて筆者は米国のBSE事情を長期にわたり取材していたが、この頃から複数の米国政府関係者の口から、「日本が検査基準を緩めるので、ある年齢以下の牛の輸出が近々可能になる。あとはその年齢の線を徐々に緩めていけばいい。輸出再開にようやくメドがたってきた」といった言葉が聞かれるようになっていた。
 その頃、ブッシュ政権も数ヶ月後に大統領選を控え、民主党のケリー候補から猛烈な追い上げを受けていた。日本は7月に参院選があったため、小泉政権としてもそれまではこの問題であまり無理はできない状況にあったが、その参院選も終わると、米国産牛肉の輸入再開があたかも秒読み状態に入ったかのような空気が醸成されていた。
 そうした中にあって、米国産牛肉の輸入再開は、事実上食品安全委が日本の検査基準の緩和にゴーサインを出すかどうかにその成否が委ねられることになってしまった。好むと好まざるとにかかわらず、既にこの段階で食品安全委は、大変な政治的重荷を背負ってしまったのだった。


■いかに20ヶ月の線引きはなされたのか

 BSE問題の審議の舞台となった食品安全委は、2003年5月に施行された食品安全基本法に基づき首相に食品健康影響評価に関する意見を述べる独立機関として鳴り物入りで内閣府のもとに設置された。鳴り物入りといっても、実際は3人の非常勤委員を含むわずか7人の委員からなる小さな機関に過ぎない。実質的な審議はその下に置かれる16の専門調査会が行うことになっている。親委員会と呼ばれる食品安全委自体は、通常は専門調査会からあがってきた報告をそのまま大臣に答申することになる。
 ちなみに食品安全委自体は内閣府に所属する行政機関だが、その事務局は農水省や厚労省から一時的に出向する官僚が務めている。彼らは何年か食品安全委に籍を置いた後、いずれは出身官庁に戻ることになる。当然のことながら、所属官庁の意向を伺いながら行動することが多くなる。
 BSE問題について実質的な審議を行っているのは、12人の専門家からなるプリオン専門調査会だ。食品安全委のプリオン専門調査会は2003年7月1日付で坂口力厚労大臣(当時)から諮問された「牛の脊柱を含む食品の安全性確保について」を審議するために同年8月29日に第一回会合を開いた。もちろんその段階ではまだ米国にBSEは発生していない。同年12月に米国で最初のBSEが確認されたが、翌年4月になって、特に新しい諮問があったわけではないにもかかわらず、食品安全委からBSE全般に関する議論を深めるよう指示を受け、日本国内のBSE対策の見直しが始まった。委員の中にはこの段階でこの見直しが米国産牛肉の輸入再開と結びついているのではないかとの懸念を持った人も多かったが、政府の説明はあくまで両者は無関係ということだったので、「われわれとしてはそれを信じるしかなかった。」(金子清俊委員)
 そのような形で、目的が必ずしもはっきりしないまま2004年4月に始まった国内対策の見直しは、概ね毎月1回の審議を経て、9月には、『日本における牛海綿状脳症(BSE)対策について・中間とりまとめ』という一つの報告にまとめられた。
 時は日米間の交渉がかなり厳しい局面に差しかかっていた。また、米国も大統領選挙を数ヶ月後に控え、牛肉問題は政治的にもデリケートな問題になっていた。しかし、この段階ではそのこととプリオン専門調査会の議論が直接結びつくとは、少なくとも調査会の委員たちは考えていなかったとしても不思議はない。
 ところが、報告書のとりまとめにあたり事務局が用意してきた原案が委員のもとに提示されたあたりから、雲行きが怪しくなってきた。その原案には、そこまででBSEへの感染が確認された最も若い21ヶ月齢の牛から検出されたプリオンタンパク質がごく微量だったことを理由に、「20ヶ月齢以下の感染牛を現在の検出感度の検査法によって発見することは困難であると考えられる」との文言が盛り込まれていた。
 しかし、この一文については、委員たちから激しい異論が出る。たまたまこれまで感染が確認された一番若い牛が月齢21ヶ月だったからといって、この先20ヶ月以下の感染牛が出ないだろうなどということが予想などできるはずがない。科学者たちにとっては明らかに何ら科学的根拠のない20ヶ月の線引きは到底容認しがたいものだった。
 委員たちの20ヶ月の線引きに対する抵抗は激しく、最終的に原案にあった「20ヶ月以下は検出が困難」の一文は削除され、代わりに「21ヶ月以上の牛については現在の検査法によりBSEプリオンの存在が確認される可能性がある」と、むしろ全頭検査の有効性を評価した、原案とは正反対の文言が書き込まれることになった。
 ところが、専門調査会の委員たちは翌月の委員会で実際の報告書の内容を見て驚愕する。食品安全委の最終報告書には削除されたはずの20ヶ月の線引きが、そのまま残っていたからだ。
委員会の審議の中で委員たちは、「中間とりまとめ」の中の「結論」部分にあった「20ヶ月」の文言の削除は明確に求めていた。最終報告書からは、確かにその部分は指示通り削除されていた。しかし、結論に出てくる文言は、それと同様のものが普通は本文の中にもあるものだ。事務方は結論部分からは「20ヶ月」の文言を削ったが、本文にあった「20ヶ月」の文言は削除せずにそのまま残してしまったのだ。
 その後委員たちには、修正箇所のコピーのみが送られてきたため、(吉川座長)、本文に20ヶ月の線引きが残ったままになっていることを委員たちは知らないまま、翌月の委員会で政府に提出された報告書を受け取る形になってしまったのだった。
 委員からそのことの釈明を迫られた政府の担当者は、「結論」からは削るよう指示を受けたが、「本文」からは削るよう指示がなかったので、そのまま残しておいたと説明した。
 その釈明が真摯なものか、あるいは確信犯的なものか、つまり20ヶ月の線引きが作為的になされたものだったのか、あるいは偶然だったのかは、政府がそのような意図を否定している以上、それぞれの受け手の判断に委ねるしかない。しかし、いずれにしてもこのような経緯で、委員たちがあれだけ抵抗した20ヶ月の線引きが、皮肉にも委員たちの手によってなされてしまったことは事実だった。その後この20ヶ月の線引きは当然のことのように独り歩きを始める。
 委員会で20ヶ月の文言の挿入に最も激しく抵抗した委員の一人、山内一也氏(東大名誉教授・日本生物科学研究所主任研究員)は「官僚に完全に騙された」と怒りを露わにする。
 「結論からは削ったが、本文からは削れと言われなかったので削らなかったという説明を聞いた時、官僚の論理というものがこういう行為さえも可能にしてしまうことに、驚きを感じました。自分たちが置かれた状況を、この段階で私たち科学者はまだ気づいていなかったんでうすね。私たちの認識が甘かったんだと思います。」
 こうして委員たちの真意とは全く無関係に、20ヶ月の線引きが既成事実化されてしまった。いやむしろ真意とは正反対にと言った方がより正確だろう。これはまた、米国産牛肉の輸入再開へ向けた大きなハードルが一つクリアーされた瞬間だった。


■全頭検査の是非は諮問外?!

 まだその段階では、報告書に20ヶ月の線引きがなされたことの意味を必ずしも十分に理解していなかった委員が多い中、2004年10月15日に尾辻厚労大臣、島村農水大臣の連名である諮問が食品安全委に送られてきた。それは先に食品安全委から提出された「20ヶ月以下の検査は無意味」との報告を受ける形で、20ヶ月以下の牛へのBSE検査を廃止することでどの程度リスクが増すかを問う諮問だった。
 20ヶ月の線引き自体がそもそも不当なものだったわけだが、その不当な線引きに基づいて次の諮問が来てしまうこと自体が大きな問題だが、実はこの諮問も自体もかなり作為的な側面をもっていた。なぜならば、「20ヶ月以下の牛を検査対象から外すとどの程度リスクが増すか」と問われれば、「直接の影響はごく僅か」と答えざるを得ないことは、ある程度BSE問題を理解している者ならば容易に予想できることだったからだ。
 「諮問を見た瞬間に『しまった!』と思った」と山内氏は当時を振り返る。「この諮問では結論は議論する前からわかっている。諮問の文言にひっかけがあるんですよ。」
 山内氏の言う「引っかけ」とはこういうことだ。その時点で日本ではすでに350万頭を超える牛にBSE検査を施していたが、350万頭に対してBSEと判定された牛の中で月齢20ヶ月以下のものは一頭もいなかった。30ヶ月以下でも先述の通り21ヶ月と23ヶ月のわずか2頭しかいなかったのだ。つまり、このデータをもとに20ヶ月以下のBSE感染牛が見つかる確率を計算すると、限りなくゼロに近くなることは言うまでもない。そう聞かれれば、全うな科学者であれば誰でも「影響はごく僅か」と答えざるを得ないのだ。
 しかしその段階での全頭検査の意味は、実はそのような確率論に基づくものではなかった。その段階でも、そしてもちろん今も、BSEにはまだ未知な部分が多く、日本の場合感染ルートさえ特定されていない。当初は特定危険部位さえ除去しておけば安全という話だったが、その後、血液や末梢神経も危ないことが指摘されるようになった。また、少なくともその段階では、まだ日本では肉骨粉の飼料規制が完全に徹底されているとは言えず、特定危険部位についても遵守状況が100%とは言えない状況だった。ということは、かなりリスクは軽減されてはいるものの、まだ一定数のBSE感染牛が流通している可能性が否定できない。全頭検査はBSEのそうした科学的に未解明な部分や、飼料規制や特定危険部位の除去の不完全な部分を補完するセーフティネットの意味合いが強い。綱渡りのセーフティネットと同じで、何年もの間そこに落ちた人がいないからといって、それを取り除いていいということにはならない。これが、山内氏を始めとする多くの委員の意見だった。
 当然委員からは、全頭を緩和することの影響はごく僅かだが、上記のような理由から、今この段階で全頭検査をやめるべきではないとの意見が多く出された。ところが、「『今回の諮問では全頭検査をやめることの是非は問われていない』と言われてしまったんですよ」と山内氏はあきれ顔で語る。それが、山内氏がこの諮問を「ひっかけ」と呼んだ理由だった。つまり、諮問では20ヶ月以下を外すことでリスクがどの程度増すかは尋ねているが、全頭検査をやめるべきかどうかについては元々意見を求めていないので、そんなことは答えなくてよろしい、というのだ。
 2005年5月6日付で食品安全委から両大臣に送られた答申には、20歳以下の全頭検査をやめても増大するリスクは「無視できる〜非常に低い」にとどまるとの文言が盛り込まれたが、「今この段階で全頭検査をやめるべきではない」とする委員たちの意見やその理由が答申に含まれることはなかった。
BSE対策については、様々な意見があることは周知の通りだ。日本のBSE対策が行き過ぎだとする意見も根強い。しかし、そうした議論とは別に、ここまで見てきたように、今回日本のBSE対策の緩和が決まった経緯には、少なくとも科学者たちが中立的な立場から議論を行った結果達したものとは到底言えないものだった。
 この段階で、プリオン専門委員の中に、「こんなことはやっていられない」との思いを持つ人が出てきても不思議はない。自分たちが真面目に議論した内容とは明らかに異なる内容の報告書が出された上、次はその不当な報告書に基づいた恣意的な諮問が出てくる。これでは科学者たちもたまったものではない。国会の委員会で自らの辞任のあらましを明らかにした品川氏もそう感じた一人だった。
「10月15日の諮問を見て、私はもうこれはダメだなと思いました。やはり最初の20ヶ月の線引きがまちがいの始まりでした。線引きはできないといったのに、無理矢理線引きが行われ、その線引きを前提にズルズルと話が進んでいった。一旦あそこ(線引きの前)に戻って再出発しない限り、私はここでの審議内容に責任が持てない。そう考えて、抗議の意味も含めて私は辞表を出したんです。だって、私たちが何を言っても、出てくる結論は結局は役所が自分たちに都合のいいものを勝手に出してくるんだとしたら、私たちがどんなに真面目に議論しても意味がないではないですか。」
 山内氏は更に踏み込んで、国内のBSE対策の見直しをめぐる一連の議論は、米国産牛肉を入れるためのものだったことは間違いないとまで言う。
 「結局、米国産牛肉を入れるためなんですね。ならば最初からそう言えばよかったんですよ。しかし、私が何度聞いても、役所は絶対にそんなことはないと言う。だから、私たちは、そうではないことを前提に真剣に議論をしてきました。その結果、役所の意図するものとは異なる結論が出てしまった。そこで、それを無理矢理自分たち意図する方向に誘導しなければならなくなった。結局そういうことなのだと私は思っています。」


■最後の砦は米国産牛肉の安全性判断

 仮に食品安全委における一連の審議が、山内氏らが指摘するような米国産牛肉の輸入を再開するためのセレモニーだったとすれば、そのセレモニーもいよいよ最終段階に差しかかっている。
 昨年10月の20ヶ月の線引きの是非を問う諮問に続いて今年5月には、米国産牛肉の安全性を問う諮問が、同じく尾辻、島村両大臣によって食品安全委に送付されている。食品安全委によって米国産牛肉の安全性が国産牛肉と同等であるとの判定が下れば、検査なしでの米国産牛肉の輸入再開が実現することになる。
 しかし、この最終段階にきて、食品安全委は大きなハードルにぶち当たっている。米国産牛肉の安全性を判定する上で最低限必要となる情報が米国政府から開示されていないのだ。
 米国が、いわば出口部分でのチェックともいうべきBSE検査を行わない以上、その国の牛肉の安全性を担保するためには、入り口部分のチェックがこの上もなく重要になる。汚染された牛肉が入り口を通過してしまえば、検査が無い国ではもはやその先にセーフティネットは張られていない。
 入り口部分において牛肉の安全性を担保する要素は大きく分けて、BSE対策上もっとも重要とされるSRMの除去が徹底されているか、BSE蔓延の元凶とみられる肉骨粉の飼料規制が徹底されているかの2点が重要となる。
 しかしながら困ったことに、この2点について、米国の現状は非常に不安が多い。既にSRMの除去については、SRMの除去を監視する検査官の組合の幹部が、全米でSRMが除去されないケースが多いことを内部告発しているが、これを裏付ける形で米農務省は今年8月に牛肉加工業者がSRMの除去のルールに違反するケースが1036件見つかったと発表している。実際に米国の食肉工場ではSRMの除去は全く政府のチェックは受けていない。とてもではないが米国の現在のBSE対策が日本並みとは思えない客観的状況がある。
 また、飼料規制についても、残念ながら米国の現在の飼料規制は、日本やイギリスでBSEパニックが起きる以前の緩い状態のままだ。米国では牛の肉骨粉を牛に与えることは法律で禁止されたが、豚や鶏への投与は依然として認められている。しかも、その法律も肉骨粉が入った袋に「反芻動物に与えてはいけません」と書いた警告を義務づけているだけで、それ以上の強制力はなんら行使されていない。早い話が米国ではまだ肉骨粉が家畜の飼料としての広く使用され続けているのだ。しかも、その肉骨粉の中にはBSEの病原体が混入している可能性が非常に高いSRMや死亡牛まで入れていいことになっている。
 日本や英国の経験からみてもわかるように、肉骨粉の使用が全面的に禁止されない限り、常に交差汚染のリスクは残る。飼料工場の同じラインで牛用の飼料と豚用の飼料が製造されれば、微量ながら牛の飼料に豚や鶏の飼料が混入する。牛から牛の場合、わずか0.01ミリグラムでもプリオンが混ざればBSEに感染することがわかっている。ましてや米国は放牧の国だ。豚や鶏の餌を放し飼いにしている牛が食べてしまう可能性も排除できない。米国の飼料規制の現状はどう見ても日本やEUと同等レベルとは言えない。
 このように米国の現在のBSE対策は不安材料には事欠かないが、現時点ではSRM除去ルールの遵守状況とその監視体制、及び飼料規制の遵守状況と交差汚染のリスクについて、現在食品安全委にはほとんど必要な情報が提供されていない。
 プリオン専門調査会の吉川泰弘座長(東京大学大学院農学生命科学研究科獣医学専攻教授)も、「そうしたデータがない以上、われわれとしてはルールが100%守られていることを前提に評価するしかない。あとは役所の方で遵守状況を確認して判断してくれということになる」と、食品安全委は与えられた情報の範囲内でしか責任は取れないとの立場を明確にする。
 この言い分は一見無責任にも聞こえるかもしれないが、実はこれこそが食品安全委の委員たちが、これまでの苦い経験を通じて学んできた叡智だった。食品安全委は本来は食品の安全を科学的に評価する評価機関に過ぎない。政府から食の安全性に関する評価を求められ、科学者たちが純粋に科学的な見知からそれを評価する。そして、その評価に基づき、その他諸々の要素を勘案した上で、実際の施策を決めるのは本来は政治であり行政の仕事のはずだ。これが本来のリスク評価者とリスク管理者の役割分断のはずだった。
 ところが、まだ設立して日も浅い食品安全委では、それが必ずしも明確になっていなかった。そのため、行政に都合のいいように、管理機関としての役割まで押しつけられてしまった面が多分にあった。20ヶ月以下の牛を検査対象から外す決定にしても、一般には「食品安全委がそう決めたこと」と受けとめている人は決して少なくないだろう。しかし、事実は、食品安全委は安全性を評価しただけで、検査の緩和を決めたのは厚生省なのだ。もちろん、米国産牛肉が日本に入って来れないのは、食品安全委がそれを認めないからだと思っている人もきっと多いに違いない。それは食品安全の責任でもないし、そもそも委員会にそのようなことを決定する権限は無いのだ。
 何れにしても、9月に入りワシントンで議会の夏休み休暇が終われば、米国産牛肉の輸入再開を求めて、政府、議会、業界団体から矢のような要求が飛んでくることは避けられないだろう。日本でも政局の混乱が収束すれば、小泉政権もあらためてこの問題に直面せざるを得なくなる。誤解に基づくものとはいえ、食品安全委にかかる重圧は急激に大きくなるにちがいない。
 しかし、これは日米安全保障ならぬ、日本の食の安全保障問題である。また同時に、食品安全委の真の独立性がかかった問題でもある。もし、このBSE問題で、委員たちが自らの真意とは異なる答申が出され、委員たちから見て受け入れられないような施策が実施されるようなことがあれば、食品安全委の存在価値そのものが問われることになる。
 また、世界でもっとも厳しいBSE基準を持つ日本が米国産牛肉を安全と判断し輸入を再開すれば、実は自信を持って安全とは言い切れないかもしれない米国産牛肉の安全性に世界的なお墨付きを与えることにもなる。その意味においても、日本の責任は重大だ。既にプリオンに汚染されている可能性が排除できない米国製の肉骨粉が、中国を始めとする第三国にも大量に輸出されているという。
日本の食の安全を守る最後の砦として、評価機関としての食品安全委の今後の動向を注意深く見守っていきたいと思う。(じんぼうてつお)

<関連サイト>

ビデオニュース・ドットコム
丸激トーク・オン・ディマンド
第241回[2005年11月4日]
「米国産牛肉輸入問題とは何だったのか」
http://www.videonews.com/
プレビューWMP
http://www.videonews.com/asx/marugeki_backnumber_pre/marugeki241_pre.asx

ビデオニュース・ドットコム
丸激トーク・オン・ディマンド
第209回 [2005年4月2日]
BSE安全宣言のカラクリを斬る
ゲスト:山内一也氏(食品安全委・プリオン専門調査会専門委員)
http://www.videonews.com/marugeki/marugekirecent1.html
プレビューWMP
http://www.videonews.com/asx/marugeki_backnumber_pre/marugeki209_pre.asx

http://www.jimbo.tv/commentary/000141.php

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