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ネットで流行「アインシュタインの予言」、人違い?
2006年06月07日11時06分
アインシュタイン博士が日本をべた褒めしたとされる「アインシュタインの予言」という文章が、ネットや一部の書籍で広まっている。だが実は、博士とはなんの関係もない言葉が孫引きで広まっただけだと、東京大学の中澤英雄教授(ドイツ文学)が主張している。調査でたどり着いたのは、シュタインという法学者の言葉とされていた文章だった。
「神に感謝する。我々に日本という尊い国をつくっておいてくれたことを」といったくだりがあるこの文章は、多少の相違はあるものの、1950年代から軍人や宗教家の書籍で紹介され始め、最近は日本文化を誇る「ちょっといい言葉」としてネットで引用されることも多くなった。
だが出典が常にあいまいで、内容も博士の思想とは相いれないのではと疑問を持った中澤教授が、この言葉のルーツを追ってみた。その結果、アインシュタインの言葉として引用されている例として一番古いのは、56年の書籍であることがわかった。
さらに戦前にさかのぼると、文意がよく似た文章が28(昭和3)年の『日本とは如何なる国ぞ』という本のなかに記されているのが確認できた。著者は、戦時中の日本の国体思想に大きな影響を与え、「八紘一宇」という言葉の提案者である宗教家の田中智学だった。
ただし、この本では予言を語った人物はローレンツ・フォン・シュタインという明治憲法成立にも大きな影響を与えたドイツ人の法学教授だとされていた。
中澤教授は、田中智学がこの言葉を知るもととなったシュタインの講義録などにも当たってみたが、該当する文章を見つけることはできなかったという。
結局、起源はシュタインの言葉でもなく、田中智学が自らの思想をシュタインに寄せて語った文章の可能性が高いと中澤教授は見る。それが孫引きを繰り返されているうちに、どこかで「アイン」がついて、アインシュタインの予言だということにされてしまったらしい。
中澤教授は「海外からみたらアインシュタインをかたってまで自国の自慢をしたいのかと、逆に日本への冷笑にもつながりかねない事態」と心配し、安易な孫引きにくぎを刺している。
■博士の言葉として流布「日本という尊い国に感謝」
例えば、『世界の偉人たちが贈る日本賛辞の至言33撰(せん)』(ごま書房、2005年)には、アインシュタイン博士の言葉として次のように記されている。
「近代日本の発展ほど世界を驚かせたものはない。一系の天皇を戴(いただ)いていることが、今日の日本をあらしめたのである。私はこのような尊い国が世界に一カ所ぐらいなくてはならないと考えていた。世界の未来は進むだけ進み、その間、幾度か争いは繰り返されて、最後の戦いに疲れるときが来る。そのとき人類は、まことの平和を求めて、世界的な盟主をあげなければならない。この世界の盟主なるものは、武力や金力ではなく、あらゆる国の歴史を抜きこえた最も古くてまた尊い家柄ではなくてはならぬ。世界の文化はアジアに始まって、アジアに帰る。それには、アジアの高峰、日本に立ち戻らねばならない。我々は神に感謝する。我々に日本という尊い国をつくっておいてくれたことを」
◇
〈アインシュタイン研究者の板垣良一・東海大教授(物理学史)の話〉 この言葉は、アインシュタインのものではないと断言できる。彼はキリスト教徒でもユダヤ教徒でもなく、「神」にこだわらない人だった。日記や文献を詳しく調べてきたが、彼が天皇制について述べた記録はない。
http://www.asahi.com/national/update/0607/TKY200606070141.html