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大本営発表は日本国民のサガである [どん底あるいは青い鳥。]
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投稿者 white 日時 2006 年 7 月 14 日 09:32:39: QYBiAyr6jr5Ac
 

□大本営発表は日本国民のサガである [どん底あるいは青い鳥。]

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 2006/07/12

大本営発表は日本国民のサガである

W杯の「戦前・戦中報道」が現実から大きく懸け離れていたことで「大本営発表」と揶揄されている(参照)。「いける! 勝てる!」と煽り続け、予選敗退してはじめて「実は選手たちはニンテンドーにハマッていた、雰囲気も悪いし勝てるわけない」という「事実」を出してくる。

伝える側は戦前にすでにそれらの事実を知っているし、勝てる見込みのないこともわかっている。それでも日本のメディアには「予選で敗退するやろね」と正直に報じる選択肢はない。

何にも知らずに見ている人は、何だ、日本はオーストラリアにもクロアチアにも勝てるんだと思い込む、こちらは戦争とは違い他愛がないと言えば言えるが、大本営の発表と大差はない。

厳しいグループリーグの戦いの末に、わずか勝ち点1を取っただけでブラジルとの戦いに臨むことになった日本に、本当は可能性は残されていない。しかし、それを口にすると、非国民にされるのは、戦争当時と変わらない。
(「日本のW杯報道は、大本営発表と同じだ」)
冬季五輪のメダル予想も同じだった。だがW杯でも五輪でも、戦前戦中にもし「見込みはない」などと報じようものなら、視聴者や読者、つまり国民からは必ず「非国民!」「空気読め!」の声が飛んだだろう。大本営発表を望んでいるのは他ならぬ国民なのだ。日本国民は戦前戦中には大本営発表しか受け付けないようにできている。

「ジーコ・ジャパンに予選を突破できる実力はない」は事実である。「ジーコ・ジャパンに予選を突破してほしい」は希望である。日本では常に事実は無視され希望のほうが増幅される。増幅され「空気」となった希望は人々の頭の中で事実と置き換わる。いつか事実が圧倒的な強さでもって空気の嘘を暴き出すまで、空気は日本国民の「現実」であり続ける。

空気の縛りは「そのメディアが相手にしている国民の規模」と比例する。影響力の大きいメディアほど空気の縛りが強い。少しでも空気に逆らう報道をしようものなら、たちまち罵倒の嵐に晒されるからだ。だからテレビでは「日本は予選敗退します」「取れるメダルは一個程度です」などとは絶対に言えない。

週刊誌だともう少し事実に近いところを報道できる。ネットでは「予選敗退に決まってんじゃん」という本音が横行する。先の戦争時には言論の自由が封殺されていたみたいに言われるけれど、あれなどもつまりは国民自らが「日本は勝てる」という希望的言説のみを望んでいたのだろう。限られた場所では「日本は負ける」と演説していた者もいたのだから。

なぜ日本という国は常に空気に、しかも明らかに事実と異なる空気に席巻されるのか。その根本にはおそらく、日本人独特の「察しの文化」が存在する。「察し」とは、相手の望みを察するばかりでなく、その望みを叶えるべく行動することまでを含んでいる。

W杯に関して、相手はどういう話を聞きたいだろうか。「日本は勝てない」という事実か。それとも「きっと勝てる」という嘘か。そりゃあ誰だって「勝てる」という言葉を聞きたいだろう。たとえ事実に基づくとはいえ「負ける」なんていう不愉快な予想など聞きたくはない。

相手がそれを聞きたいとなれば、たとえ嘘でも「日本は勝てる」と言わねばならない、それが日本の「察し」である。日本人にとっては、事実はもともと大きな意味を為さない。たとえ事実に反しても、相手の望みに適うこと、相手を失望させないことのほうが大事なのだ。

自分の望みを押し通すのは浅ましい。だが他人のためだとなれば、これは幾らでも主張し押しつけることができる。「自分はともかく、他人はみんなそう望んでいるはずだ」という個々の思いが重なり合って強大な空気が出来上がる。「みんなそう望んでいる、だからその望みを叶えろ、その望みに反することは許されない」というふうに。

「日本は負ける」という正直な見通しを「非国民だ」と罵る者は「自分以外のみんな」という葵の御紋を背負っている。どんなに相手を罵っても、それは自分のためではない。ワガママではないのだ。空気に「この私の望み」は含まれていない。あるとすれば「他人がこうだと推測してくれたであろう私の望み」だけである。私のためではなくみんなのために。それが空気の強さの秘密である。

空気とムードは異なるものだ。ムードは事実から染み出してくる。たとえばサッカーを知らない人でも、あちこち見聞きする情報から「日本は早々に負けそうだ」という雰囲気を察することは可能である。「事実から察する」とムードになる。そこにはその人なりの判断がある。「他人の望みを察する」結果が空気であるが、そこに判断なるものは存在しない。

五輪やW杯に見るように「勝てる」という空気が日本を勝たせることは決してない。勝つか負けるかは専ら事実に因っている。日本の実力という事実が他国(のチーム)に勝れば勝つし、足りなければ負ける、それだけだ。空気にはそうした事実を左右できる力はない。現実世界には空気のごときオカルトの入る隙間はないのだ。

ところが日本人は常に空気を崇めて事実を忘れる。事実を指摘する者は空気に「水を差す」者として激しく嫌悪される。「勝てる」という根拠のない空気がいつしか現実のすべてとなって、次の行動や決定の根拠にまでなってしまう。するとかつての「本物の戦争」がそうであったように、事実を見ずに空気に翻弄されたせいで負け戦がより悲惨なものになる。

日本人が日本人の美徳である「察し」をやめない限り、このパターンは続くだろう。察しをやめてどうするか。言葉で相手に尋ねることだ。「あなたはどういう報道を聞きたいか?」と。するとたいていの人は「事実に基づいた正確な報道を」と答えるだろう。そしたらそのとおりにやればいい。日頃から事実や真実を振りかざすのなら、空気は読んではいけないのだ。

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