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「プロヒューモ事件」主役の死
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投稿者 さすれば 日時 2006 年 3 月 11 日 17:37:00: reQxnNwQ2shuM
 

1963年ごろ、英国ばかりでなく世界を沸かせた大スキャンダルの主役、ジョン・プロヒューモ元陸相が3月9日死去した。91歳。当時プロヒューモが辞任し、マクミラン保守党内閣の崩壊に発展したが、彼が辞任したのは、高級コールガール、クリスティン・キーラーとのスキャンダルや機密漏洩問題が理由なのではなく、閣僚会議などでキーラーとの肉体関係を否定するという嘘をついたことが理由だった。後に彼は家族のことを考えて嘘をついたと弁解したが、当時この偽証辞任を聞いて、われわれ若者はさすが紳士の国だと感心したものである。

トニー・ブレアは臆面もなく嘘をつきっぱなしで、なお政権の座に居座っている。今や英国は紳士の国ではなく“貧士の国”に成り下がった。

プロヒューモ事件は、マスメディアの有り様についても教訓を残している。スキャンダルの発端は英国の『クイーン』という大衆雑誌の小さな記事である。すなわち、1962年7月、『クイーン』の「その後が気になる文句」というゴシップ欄に次のような記事が載った。
「……運転手付きのハンバー車に乗り込んだ男が、ロンドン目抜き通りのウィンポールミューズの某女のアパートの裏口から去ると、入れ替わりのように、やはり運転手付きのソヴィエト製リムジンが一台、アパートの表玄関に横付けになった……」
 この囲み欄は事件や人物に関する様々なゴシップを集めたもので、常に断片的な文章だそうだが、この記事も短く、これだけでは何のことやら分からない。某女とは一体誰なのか――。ところが、極めて少数の関係者にはこの記事の意味が分かった。アパートに住む女の名はクリスティン・キーラー、当時19歳、美貌の高級コールガール。裏口からひそかに姿を消す男は下院議員で陸軍大臣のジョン・プロヒューモ。表玄関の訪問客はイギリス駐在のソ連大使館付海軍武官補、イェヴゲニー・イヴァノフ中佐。この二人がキーラー嬢を張り合っているといううわさが、5月ごろから流れていたのだ。

その年の12月中旬、キーラー嬢の元愛人であるジョニー・エジクムという若い西インド人が、キーラー嬢のアパートにピストルを数発打ち込んだ。彼は逃げたが、後日警察に逮捕された。警察の捜査が進展するにつれ、キーラー嬢の周辺から、政界の大物や名門貴族、有名映画俳優などの名前が続々出てきた。関係者は一様に背筋の寒い思いをし始める。
翌年の3月8日、『ウェストミンスター秘密情報』という怪文書が出版された。そこにはスキャンダルの大雑把な輪郭が描かれていた。プロヒューモ陸相の名は出てこないが、「元女優を妻にしている大臣と、ソビエト連邦武官のイヴァノフ中佐が、ともに彼女の客であった」という暴露的な手紙を紹介している。
3月14日、『デイリー・エクスプレス』紙がこの出来事を初めて、一種遠回しな形で取り上げた。記事は、プロヒューモ陸相が一身上の理由で辞任を申し出たが、マクミラン首相は慰留したという内容。プロヒューモ陸相のスキャンダル、つまりキーラー嬢、あるいはイヴァノフ中佐との関係についてはまったく触れていない。ただし、その同じ紙面の右側に、「失踪」と題して、クリスティーン・キーラーの大きな写真が掲載されている。明らかに意図的な紙面構成である。
以後、大衆紙が連日同種の記事を載せた。ロンドンのパブではこの“上流社会のスキャンダル”の話題で持ちきりになった。うわさが国外にまで広がり、尾鰭がついて駆け回った。うわさは当然、イギリス議会で重大な問題になる。デイリー・エクスプレス紙のスクープ記事が出た夕刻、下院では労働党議員によるうわさについての質問が出た。
22日、下院で当のプロヒューモ陸相が個人ステートメントを読み上げる。身の潔白を訴える内容。「キーラー嬢の逃亡についてはまったく無関係である。また彼女は友人で、6回ほど会ったが、彼女との間に不道徳な関係はない」
大新聞はいったんは沈黙したが、うわさは沈静化せず、大衆誌がスキャンダルを追いかけ続けた。――

このような大スキャンダルは、大新聞は決して取り上げない。常に大衆誌やローカルなミニコミ紙がまず火をつけ、次第に燎原に広がって、歴史を動かすのである。

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