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2006年3月4日発行
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JMM [Japan Mail Media] No.364 Saturday Edition
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http://ryumurakami.jmm.co.jp/
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▼INDEX▼
■ 『from 911/USAレポート』第240回
「ブッシュの危機と日米関係」
■ 冷泉彰彦 :作家(米国ニュージャージー州在住)
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■ 『from 911/USAレポート』第240回
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「ブッシュの危機と日米関係」
NBCでは34%、CNNと「USAトゥデー」の連合調査では38%、ブッシュ
大統領への支持率は、就任後最低の危険な状態が続いています。先週は、NYを中心
にした主要港湾の管理業務をアラブ首長国連邦の会社に譲渡する契約の問題が騒ぎに
なりました。
この港湾問題は、結局45日の審査期間を設けることで、議会とホワイトハウスの
妥協が成立して議会がまずは点数を稼いだ格好です。そんな中、今週も更にブッシュ
政権を追い込もうと、議会筋、そしてメディアは「手を変え品を変えて」様々な問題
を取り上げてきています。
まず、3月に入った時点でホットな話題になってきたのは、「カトリーナ」です。
この問題に関して、ほぼ全責任を負わされる形で連邦政府から解雇された、元FEM
A(フィーマ、緊急事態庁)長官のマイケル・ブラウンが猛然と「逆襲」に出ている
のです。
カトリーナの被害からまだまだ復興のメドの立っていないニューオーリンズでは、
「マルディ・グラ」というカーニバルのお祭りに注目が集まっていました。本来であ
れば、全米最大規模のカーニバルとして、たいへん有名で、特にヨーロッパからの観
光客を集める一大イベントです。
今年は、観光客がそれほど集まらない中、復興へ向けた街の勢いをつけようと、市
民としては手作りのイベントを盛り上げる努力を続けていました。こうした動きを紹
介しようと、各メディアはニュースキャスターをルイジアナに送り込んで、特番を
やっていたのですが、丁度この行事にタイミングを合わせるように、問題の「ブラウ
ン氏」がTVに再登場し始めたのです。
さて、このマイケル・ブラウン氏といえば、この欄でもお伝えした通り、連邦政府
の「カトリーナ」対策の「遅れ」を象徴する人物として、2005年8月31日の被
災、そしてその直後からのニューオーリンズの混乱に関する責任者として、政治的に
もメディアの好奇心の対象としても、「袋だたき」という状態でした。
やれ「前職が馬主協会の会長で、危機管理の経験はゼロ」とか「渦中のルイジアナ
から、ワシントン郊外の自宅に帰りたいと泣き言をもらした」とか、メディアは言い
たい放題でした。そのような「国民感情」に押されるように、ブラウン氏はFEMA
長官の職にとどまりながら、「カトリーナ復興の指揮権」を軍に渡すよう命じられ、
ルイジアナからワシントンへ引き揚げさせられたのです。
程なくして、FEMA長官の職からも更迭されると、このブラウン氏はすぐに政権
批判を開始しました。「オレは再三に渡って事前警告した。だが、連邦政府は何も動
いてくれなかった」というのですが、昨年秋の時点では、その言葉を信じる人間はほ
とんどゼロでした。「要するにコイツが悪いんだろう。他の連中も悪かったんだろう
が」というのがイメージとして定着していたのです。
ところが、今回そのブラウン氏が猛然と反撃に出たのには「材料」がありました。
それは、8月28日のFEMAとブッシュ大統領の間で行われたビデオ会議の記録映
像です。上陸の約2日前、高温の海水にエネルギーを供給されたハリケーンが、メキ
シコ湾で異常発達している時のものでした。ブッシュ大統領は、テキサス州クロフォ
ードの「山荘」にいて、ワシントンの会議にビデオ電話で「参加」という格好になっ
ています。
ブッシュ大統領は、この会議で「心配するな。連邦政府は準備万端だ。ハリケーン
の最中だけでなく、通過後のクリーンアップにも対応できる」と言っています。です
が、ブラウン長官(当時)はこの回答には満足せず「大統領、控えめな言い方をして
もですね、これはデカいんです。FEMAでは全員が色めき立っています。お分かり
ですか」と、尋常ではない雰囲気を伝えています。
そして「ニューオーリンズでは、最後のシェルターだというので、スーパードーム
に人が集まっています。でもこの場所は海面下なんです。それにこのドームの屋根も
心配です。更に言えば、壊滅的な被害を受けたときに対応する設備も、精神的なもの
も懸念されるんです」とハッキリ言っています。
各局のTVニュースでは、ハリケーンが上陸して堤防が決壊した後の9月1日の
ブッシュ大統領のインタビュービデオを並べて流していますが、ここでブッシュは
「誰も真剣に警告したものはいなかった」と喋っています。ですが、ブラウンに言わ
せると「ビデオ会議ではSOSを出している」のですから、これでは完全にブッシュ
の負けになります。
人々は、ルイジアナで前線指揮を取っていたブラウンの姿しか知りません。各局の
TVが「スーパードーム」の惨状を伝えながら、人々が「ヘルプ、ヘルプ」と叫ぶ中
で、対策の最高責任者でありながらバトン・ルージュ(ルイジアナの州都)から動か
ないで弁解ばかり言っている、というのがブラウンのイメージでした。
ですが、その数日前に「危険を予告」しているブラウンの映像は、危機感と精気に
あふれ、大変な剣幕で部下に準備を促しながら、大統領に「大変ですよ」と言ってい
るのです。何ともでき過ぎた感じの映像ですが、さすがに「ニセモノ」ということは
なさそうです。FEMAのメンバーの顔も映っていますし、TV会議の相手はブッ
シュ大統領だけでなく、ジョセフ・ハーギン次席補佐官も同席しているのですから、
否定のしようはないでしょう。
とにかく、ここ数日マイケル・ブラウンはTVのあらゆるニュース番組で出ずっぱ
りという状況です。3日のCNN『シチュエーション・ルーム』では、一旦悪者に
なって「平謝り」という印象を与え、しばらくして猛然と攻勢に出る、そんなやり方
が「個人のダメージコントロール」として成功しているというのです。
一方ブッシュ大統領は、アフガン、インド、パキスタンの歴訪中で留守ですが、ホ
ワイトハウスはビデオ映像に対して「大統領は危機の当初から十分に認識し、対応に
参加していた」という声明を出していますが、効果は薄いようです。ブラウン氏は毎
日TVに出てはブッシュとシャートフ(彼の直属の上司、国土保安長官)の非難を繰
り返していますが、政権側の防戦はできていないのです。
ブラウン氏は「シャートフは、テロ対策が本業と思っていたんですよ。要するにハ
リケーンなんてのは、あれは『自然災害だろ』で終わりだったんですよ」と24日の
インタビューで語っています。こうした発言が共和党系のブラウンから平然と出てく
るようになった、これは「反テロ」を巧妙に使ってきたブッシュ政権の求心力が消え
つつあることを象徴しているかのようです。
そのブッシュ大統領ですが、ワシントンがこの問題と、港湾管理の問題で政治的に
「ボウボウ燃えている」のに対して、政治的な得点を重ねようと目論んだのでしょう
か、大胆な南アジア訪問を決行中です。ですが、今のところは政治的得点どころか、
こちらでも失点を重ねているという印象が否定できません。
まず、電撃的に行われたアフガン訪問ですが、治安を理由に完全な極秘扱いで、訪
問の映像はブッシュがアフガンを離れてから「解禁」になるという状況でした。カル
ザイ大統領との共同声明もありましたが、カルザイ氏は英語でありきたりのスピーチ
をしただけ、各局の「番記者」もほとんど同行しませんでした。結果的に、アメリカ
では「カルザイ政権は米軍に守られてカブールを維持しているだけ、最近はタリバン
勢力が山岳部で伸長しており、兵力を削減した米軍は劣勢」という報道ばかりが目立
つありさまです。
次の訪問地のインドでは、核のエネルギー利用について、核燃料と技術をアメリカ
がインドに供与するという声明が、ブッシュ大統領、シン首相の首脳会談後に発表さ
れましたが、これも非常な冒険といえるでしょう。ブッシュ大統領自身、発表に対す
る世界の反応に対して神経過敏になったのか、予定していたタージ・マハル訪問を
キャンセルしています。
とにかく、核拡散防止条約に違反して核兵器を実質的に保有するインドに対して、
民生用の施設だけを対象に「国際機関の査察を受け入れる」ことを条件に核エネルギ
ーの利用を支持するというのは、余りに例外的な措置です。まず世界の主要国の同意
が必要であり、それよりも何よりも米議会の承認が必要です。また、インドのライバ
ルであり核武装の仮想的であるパキスタンとアメリカの同盟関係にも影響は大きいで
しょう。ブッシュとしては大きな賭けというべきです。
そのパキスタンをこれからブッシュは訪問しますが、その直前の2日にはパキスタ
ンのカラチで、大きな自爆テロ事件がありました。米国の総領事館が入居しているマ
リオットホテルの前で爆発があり、米国領事館員1人を含む4人が殺害されています。
ブッシュは直ちに声明を出して「テロが横行している証拠だが、私はひるまないで予
定通りパキスタンに行く」としています。
ですが、この事件、そしてインドの核問題と、パキスタンとの関係には暗雲が漂っ
ています。そんな中、イラク情勢は「内戦一歩手前」という事態になってきたようで、
アメリカ世論にも「内戦は避けられない」というムードが広がり出しました。
もう一つの懸念は経済です。ここへ来て、アメリカのGDP成長率も、住宅の販売
件数も鈍化が目立ってきました。私の家にも、「解雇されて収入がなくなったときに
クレジットカードの支払いを補償してくれる保険」という類いのセールス電話が数多
くかかってくるようになっています。金融業界は、ソフトランディングではなく、何
らかの「クラッシュ」に備え始めているということです。
仮に、今年の秋の中間選挙までに住宅価格のクラッシュなり、景気の大きな後退が
ありますと、これも政権には大きな痛手になるでしょう。いずれにしても、ブッシュ
政権にとっては、何もかもが瀬戸際になっています。ハリケーン問題、港湾問題、イ
ラク、アフガン、パキスタン、インド、どれを取っても妙案のない中、民主党から、
そして与党の共和党内からも批判を浴びている、これが現状です。
そんな中、日米関係は益々「蜜月」の度合いを深めています。先月のトリノ五輪で
は、荒川静香選手の女子フィギュアでの優勝は、アメリカでも極めて大きく取り上げ
られました。NYタイムスなどは、一面トップの写真に加えて、スポーツ面では大き
な荒川選手の写真をトップ掲載して最大限の扱いでしたし、全国紙の『USAトゥデ
ー』では荒川選手を中心にした表彰式の写真が一面トップでした。
驚いたのは独占中継をしたNBCで、通常はアメリカ選手が優勝してアメリカ国歌
の流れるケース以外は、表彰式は中継しないのですが、荒川選手の表彰の光景は全部
中継していました。つまり『君が代』がフルコーラスで流れたのです。その翌朝の
ニュース番組でも、表彰式の様子は何度も流れ部分的ではありますが、『君が代』が
電波に乗りました。善し悪しは別にして、この問題での「タブー」が知らないうちに
アメリカでも消えているようです。
話は変わりますが、日本のポップカルチャーの紹介も新しい段階に入っています。
今、アメリカのTVで流行しているのが「風雲たけし城」や「筋肉番付」の流れを汲
む視聴者参加型の「体力サバイバル」ゲームです。日本で放映された番組を買ってき
て、面白おかしくナレーションを付けるのですが、そこには日本人を差別するような
演出は皆無、とにかく面白い企画であり、頑張る参加者もスゴイということで人気が
出ているのです。
日本車も相変わらず好調で、今月に発刊される『コンシューマー・レポート』とい
う商品テスト誌の自動車特集号では、雑誌としてはじめて「全部門で日本車が1位」
になったそうです。このニュースはニュースとして各メディアで大きく取り上げられ
ましたが、「日本車=脅威」というイメージはそこにはなく、「ひたすら技術力の勝
利」という言い方がほとんどでした。
勿論、このままブッシュ政権が崩壊して、2009年に民主党政権が発足するよう
になれば、日米関係は変質するでしょう。ですが、過去の例のように「ジャパン・
パッシング」が起こるということにはならないように思います。自動車がそうである
ように、日本の文化がむしろアメリカへと影響を与え続けていく、その中で新しい日
米関係が見えてくるのではないでしょうか。
ポップカルチャーだけでなく、環境、核の拡散阻止、食文化など、どんどん日本の
中にある「良きもの」を紹介していくべきだと思います。ハリケーンに備えた防潮堤
の技術なども、日本が指導するべきなのです。その意味で、今回アカデミー賞の受賞
式に、アメリカのアニメファンから「神」として慕われる宮崎駿監督が早々に欠席を
表明したのは惜しまれます。
監督のアメリカ嫌いは有名ですが、アメリカのファンは「ミヤザキは英語を話さな
いから神秘的なまでの思想の純粋さを保っている」というイメージで見ているのです。
通訳を堂々と使いながら「アメリカを叱る」ミヤザキのスピーチにアメリカの人々が
聞き入る図というのも、長い目で見れば日米関係のためには良いことになったのでは
と思うのですが。
いずれにしても、乱世になりました。ここから先の政局は、日本もそうですが、小
手先の政治ゲームではもう進まないでしょう。人生観、人間観、世界観を、人に説明
できる一貫性として持っている人間が最後には時代を動かしていくように思います。
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冷泉彰彦(れいぜい・あきひこ)
作家。米ラトガース大学講師。1959年東京生まれ。東京大学文学部、コロンビア
大学大学院(修士)卒。著書に『9・11(セプテンバー・イレブンス) あの日か
らアメリカ人の心はどう変わったか』(小学館)『メジャーリーグの愛され方』(N
HK出版)<http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4140881496/jmm05-22>
最新訳に『チャター 〜全世界盗聴網が監視するテロと日常』(NHK出版)がある。
<http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4140810769/jmm05-22>
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JMM [Japan Mail Media] No.364 Saturday Edition
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独自配信:104,755部
まぐまぐ: 15,221部
melma! : 8,677部
発行部数:128,653部(8月1日現在)
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【発行】 有限会社 村上龍事務所
【編集】 村上龍
【WEB】 http://ryumurakami.jmm.co.jp/
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