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ミサイル発射で揺らぐ東アジア(2006年7月14日 持田直武)
持田直武 国際ニュース分析 http://www.mochida.net/report06/7myea.html
北朝鮮のミサイル発射が東アジアの勢力図を浮き彫りにした。日米は北朝鮮制裁決議案を国連安保理に提出して結束。これに対し、中ロは制裁阻止で連携。韓国も日本の動きを「過剰反応」と非難、日米の戦列から離脱した。東アジアの勢力図は、北朝鮮を囲む中ロ韓の大陸勢と日米の海洋勢の対立となった。
・日中が制裁をめぐって対決
北朝鮮が5日発射したミサイルは、短距離のスカッド、中距離ノドン、長距離テポドン2の計7発。短、中距離は日本攻撃、長距離テポドン2は米攻撃を想定している。日本政府は直ちに、北朝鮮の万景峰号の入港禁止など9項目の制裁措置を発動。国連安保理には、国連憲章7条に基づく制裁決議案を提出した。北朝鮮に対し、ミサイルの開発や、実験の中止を要求し、応じない場合、ミサイル関連物資や技術の移転禁止を加盟国に義務付けるという内容だ。
これに対し、北朝鮮は6日の外務省報道官声明で、「ミサイル発射は通常の軍事訓練の一つで、主権国家の権利」と主張、開発中止などの要求を拒否。その上で、「誰かが言いがかりをつけて圧力を加えるなら、別の形のより強力な物理的行動を取らざるをえない」と主張、制裁に対し報復を示唆した。北朝鮮の中央放送も9日、金正日総書記の発言として、「将軍様は早くから米帝侵略者に譲歩することはありえないと宣言。報復には報復で、全面戦争には全面戦争で対抗すると明言した」と伝えた。
日本が提出した制裁決議案は米英仏はじめ8カ国の共同提案となったが、常任理事国の中ロは制裁に反対。共同通信によれば、中国は「北朝鮮の孤立回避」など3つの理由を挙げ、日本に対し、決議案の取り下げを要求した。中国外務省の姜瑜副報道局長は「この決議案が可決されれば、朝鮮半島と北東アジアの平和と安定が損なわれ、安保理の分裂を招く」と主張、日本の動きを「過剰反応」と批判した。北朝鮮制裁をめぐって、日本と中国が国連安保理の場で真っ向から対決することになった。
・中国はヘゲモニー維持を賭けて動く
中国は、北朝鮮を制裁することに反対だが、ミサイル発射を容認しているわけではない。胡錦濤国家主席は11日、北朝鮮の楊亨燮最高人民会議常任副委員長と会談した際、「朝鮮半島情勢を悪化させるあらゆる行動に反対する」と述べ、ミサイル発射にも反対する立場を明確にした。実は、ミサイル発射前の6月28日、温家宝首相はオーストラリアのハワード首相と会談し、「発射に反対する」と述べ、それを北朝鮮にも伝えたという。しかし、北朝鮮は無視して、発射を強行した。これに対し、唐家セン国務委員は8日、自民党の逢沢自民党幹事長代理と会談した際、事前通報もせず発射したと不快感を表明した。
中国はロシアと共同で12日、日本の制裁決議案に対抗するため、北朝鮮非難決議案を安保理に提出した。駆け引きのためだが、中国がこのように北朝鮮を非難する決議案を出すのは異例のこと。北朝鮮に対する不満が背景にあることも間違いない。決議案の内容は、ミサイル発射を「極めて遺憾」とした上で、開発や実験の中止を求め、応じない場合、ミサイル関連技術や物資の移転を控えるよう国連加盟国に要請している。いわば、日本の決議案から国連憲章7条の強制力を除いたものだ。
中国はこうして制裁阻止の努力をする一方で、武大偉外務次官を10日から平壌に派遣し、北朝鮮の説得を続けた。中国の要求は、北朝鮮がミサイルの再発射をしないことと、6カ国協議に応じることの2つだ。期限は、ロシアのサンクトペテルブルクで15日から開催されるG−8の首脳会議まで。しかし、北朝鮮は容易に応じる気配を見せない。中国が説得に失敗すれば、日本提案の制裁決議案が力を増す。中国にとっては、北朝鮮に対するヘゲモニーを賭けた努力だった。
・中国の狙いは日米の介入阻止
中国が日本の制裁決議案に反対するのは、これが実施されれば、日米が制裁の指導権を握ることになるからだ。北朝鮮に対しては、米国が朝鮮戦争以来、独自の立場で経済制裁を実施している。これに加え、国連安保理が制裁を決めれば、北朝鮮経済を実質的に支えている中国と韓国も従わなければならない。しかも、制裁の実施情況は、朝鮮半島周辺に電子監視網を持つ日米が監視の役目を担うことになる。不満な北朝鮮が不穏な行動に走らないという保障はない。
韓国も日本が提出した制裁決議案に反対している。北朝鮮のミサイル発射に、日本が「過剰反応」していると、中国と同じ反対理由を挙げている。韓国通商外交部の秋圭昊報道官は米紙インターナショナル・ヘラルド・トリビューンの質問に、「中国が拒否権を発動し、日本提出の制裁決議案を葬るよう期待する」と答えたという。韓国の報道陣がこの発言を問題にすると、同報道官は「電話で質問を受けたが、中国の拒否権を期待するとは言ってない」と否定した。しかし、本音は米紙が報道した通りであり、韓国は、日米の戦列を離脱したと見られているのだ。
今回のミサイル発射で、東アジアの勢力図が浮き彫りになった。日本は米と協力していち早く北朝鮮制裁を打ち出した。これに対し、中国は真っ向から反対。ロシアと協力して北朝鮮を制裁から護る立場を取った。そして、韓国もこれに加わった。19世紀末から20世紀初頭、列強が朝鮮半島に進出した時、中国、ロシアは当時の大韓帝国を保護する大陸勢力、日米は海洋勢力と言われたことがある。ほぼ、100年を経過して、また同じ様な角逐をしていることになる。