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続[アメリカにあって日本にない関係]--水面下での米朝の交流―(その2)--松尾文夫「アメリカ・ウォッチ」 
http://www.asyura2.com/0601/asia4/msg/470.html
投稿者 ミスター第二分類 日時 2006 年 5 月 12 日 00:53:11: syFUAx3Wc1pTw
 

[アメリカにあって日本にない関係]--水面下での米朝の交流―(その2)--松尾文夫「アメリカ・ウォッチ」 


※最後に記載されているDMZの件は政治的にはまさに驚くべき意味を持ちますので申し添えます。
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出典
http://homepage.mac.com/f_matsuo/blog/fmblog.html#qcg164339417


第2回 アメリカにあって日本にない関係(その2・完)
 ―緊張さらに高まる―

 (その一)を発信した後も、アメリカと北朝鮮の関係は、いぜんとして緊張状態が続いている。
六ヶ国協議も宙に浮き、改善の兆候はみえてこない。

 ブッシュ大統領は、4月28日、日本の拉致被害者、横田めぐみさんの母、早紀江さんと弟の拓也さん、韓国に住む脱北者家族らとホワイトハウス執務室で会見、北朝鮮との対決姿勢を「人権」の分野にまで広げた。
脱北者の受け入れも始めた。

 これに先立ち、日本の経済産業省は4月4日、日本の輸出業者に対し、核兵器や生物兵器など大量破壊兵器の開発への転用の懸念が払拭されない外国企業、組織についての情報を提供するためとして、「外国ユーザーリスト」の改定を発表、新たに北朝鮮二十団体、イラン四団体を加えた。

その新しいリストの中に、(その一)で紹介したアメリカのシラキュース大学とのIT交流の主役、金策工業総合大学が、平壌産院、平壌市市営図書館、平壌動物園などとともに入っていた。

 この制度は2002年に導入された大量破壊兵器の開発に役立つ輸出を、抜け穴なしに包括的に規制する、いわゆる「キャッチオール規制」の実効性を増すためのもので、リストに入った企業、組織への輸出には、輸出許可の申請が必要となる。

もちろん北朝鮮やイランだけではなく、中国、インド、イスラエル、イラン、シリア、パキスタン、アフガニスタン、そして台湾―と合計九ヶ国の国、地域の企業百八十五が対象となっている。

 この発表は、経済産業省のホームページで詳細に伝えられているものの、日本のメディアではほとんど報じられていない。
テロとの戦争の時代では、「ニュース」ではないのかもしれない。

 しかし、私はやはり、金策工業総合大学の名前がリストに入ったことに、拉致問題という深いトゲを持つ日朝間の緊張の新たな証拠をみた思いがする。

そして、ブッシュ大統領の横田早紀江さんらとの会見の動きとの連動を感じた。

 ―それでも研修を予定―

 にもかかわらずである。
ニューヨークのシラキュース―金策工業総合大学IT研修プロジェクトの責任者は、今年も、昨夏と同じようにIT基礎研修を北京で開催する計画だという。

今年はその後、さらに武漢でも開く案も浮上しているという。
経済産業省の発表を私よりも早く知った彼は、いまのところ全て予定通り、ワシントンの政府からはなんの問い合わせもないという。この辺は、今後ウォッチが必要である。

 しかし、この計画の事務局長役を務めるシラキュース大学のスチュアート・ソーソン教授が、昨年まとめたレポートによると、金策工業総合大学とのプロジェクトは、昨夏の北京セッションの段階から、シラキュース大学の「地域研究者と指導者セミナー」(RSLS)の一部として正式に位置づけられた。

このRSLSは、それぞれの国から選ばれた若い研究者や政策指導者に対し、将来の地域協力に役立てるためのIT技術を習得させるプログラムで、既に中国国務院直属の中国国家行政学院(CNSA)や名門の清華大学との交流で実績を上げている。

具体的には、昨年の場合、IT研修の基礎となる英語を読み、書き、話す能力の習得にしぼったレッスンが行われた。
 女性三人を含む北朝鮮参加者の多くは初めて国外に出る人たちで、最初は北京の北朝鮮大使館内に滞在して研修に参加、数日たってからホテルに入るなど緊張状態だったという。

しかし、やがて研修になじみ、笑い声も出て、北京市内観光や、ドナルド・グレッグ・コリア・ソサエティ会長(元駐韓大使)主催の夕食会などを経て、打ち解けた空気が生まれ、食後は韓国や中国からのオブザーバーも加わってカラオケに興じ、将来の「国境を越えた地域協力に必要な信頼関係」が達成されたという。

 資金面のスポンサーとしては、従来通りのヘンリー・ルース財団に加えて、今回は韓国からの寄付もあり、2005年11月には、金策工業総合大学の総長がシラキュース大学本部を訪問、こうした研究継続を確認する文書に調印しているのだ、とソーソン教授は述べている。

 ―「いい関係」の過去―

 平壌とシラキュースとの間では、まだインターネット交信も許されていない。

こうした厳しい条件下にも関わらず、米朝双方の熱意によるプロジェクトが、両者の声高な敵対の構図の水面下で実行に移されているということである。

 日本と中国、韓国との関係が、靖国問題でこれだけぎくしゃくする中で、朝鮮戦争の時期を除けば、日本のような不幸な過去をこの地域に持たない「アメリカにはあって、日本にはない関係」を、忘れてはならない。

 私がこの点にこだわり続けるのは、その歴史的な蓄積である。

 例えば、金正日書記の父親で、いまも北朝鮮建国の祖としてあがめられている故金日成主席は、日本統治時代、 アメリカの影響力を意識して育った。

この事実は意外に知られていない。
金主席の父親は、ソウルのアメリカ系ミッション・スクールで学んだ。

金主席自らも、旧満州吉林での中学生時代、日本統治前の1890年代にソウルでメソディスト派のアメリカ人宣教師によって設立されたチョンドン協会の四代目牧師で、吉林に逃れていたソン・ジョンドン師の援助を受けている。

 金日成主席は、このことを生涯忘れなかったという。
つまり、日本統治下の朝鮮半島では、アメリカ人宣教師とその後ろに控えた「アメリカという国」は、頼りになる「味方」であったということである。

 1994年10月、クリントン政権下で、北朝鮮の実験用原子炉などの凍結と引き換えに、アメリカが関係改善をコミットする「米朝枠組み合意」がまとまった背景には、この金主席の少年時代からのアメリカに対する個人的な「敬意」もあったとみられている。

事実、「米朝枠組み合意」成立後の米朝蜜月時代に、金主席は、アメリカに住 み医者をしていたソン・ジョンドン師の子息を平壌に招いて、手厚くもてなしている。

 このクリントン政権下の蜜月時代の個人的人脈が、現在のブッシュ政権下の対決状態の中でも、アメリカ国内で生き延びている事実を、報告しておきたい。

現在、スタンフォード大学名誉教授で朝鮮問題専門家のジョン・ルイス氏。
スタンフォード大学フリーマン国際研究所常設研究員も兼ねている。
1990年と91年、平壌でアメリカ、韓国当局者と北朝鮮指導部との対話セミナーを主催したことで知られ、94年の「米朝枠組み合意」の非公開付属文書「トラックII」によって、核凍結の「見返り」として資金援助などを行った立役者の一人である。

多くのアメリカの企業や財団から援助を引き出した実績を持つ。

 ルイス教授は現在も北朝鮮とのチャンネル役として、訪朝を続け、2004年1月の訪問の際には、寧辺(ヨンピョン)の核開発施設で「プルトニューム」だという物質をみせられ、結果として、北朝鮮の「核抑止力」の存在を証言するメッセンジャー役を務めた。


 ―DMZをまたいだターナー氏―

 アメリカ議会内にも、このルイス教授に連なる上院外交委員長のリチャード・ベーカー上院議員(共和党、インディアナ州選出)のスタッフであるキース・ルース氏。民主党の筆頭委員、ジョゼフ・バイデン上院議員(デラウェア州選出)スタッフのフランク・シャヌジ氏―といった人脈が健在である。

二人は2003年の訪朝後、ブッシュ政権に対し、北朝鮮との公式、非公式の接触拡大を求めた超党派の報告書を提出している。

 ブッシュ政権の激しい対決路線のもとでも、シラキュース大学が「世界中の閉ざされた社会の人々との友好関係樹立に挑戦するという建学以来の伝統」に沿って、金策工業総合大学と、IT研修を続けられるのは、こうしたアメリカの過去の土壌がある。

 それに、いま北朝鮮は、ニューヨークにれっきとした国連代表部という出先を持つ。

ニクソンと毛沢東が、日本の頭越しに握手した1972年のアメリカと中国の場合に比べて、いまアメリカと北朝鮮の間には、はるかに濃密なコミュニケーションがある。

まさに日本にない関係である。

 最後にもう一つ、報告しておく。
CNNの創業者で、現在は二つの財団を持ち、巨額の資金を注ぎ込んで地雷除去運動などに情熱を燃やすテッド・ターナー氏は、2005年の8月14日と15日、つまり日本の植民地からの解放記念日とその前夜祭行事の日に合わせて、平壌からソウルへと自家用機で南北軍事境界線(DMZ)をまたいで旅した。

自家用機が南北朝鮮両政府の許可を得て、こうした飛行を実現したのはこれが始めてだという。

 しかも、北京から平壌へ向かったターナー機には、北京でのシラキュース―金策のIT研修を主催したアメリカ側関係者も同乗していた。
DMZ一帯から地雷を除去し、「平和公園」にするのがターナー氏の夢で、16日の板門店側視察には、韓国側のDMZ隣接県の知事も同行し、ターナー・プロジェクトの実現に協力を申し出たという。

 アメリカと南北両朝鮮 の水面下での「距離」の近さを物語る、これ以上のエピソードはないと思う。

(その二・完)

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