MHD(電磁流体)発電とは
高温を利用するため超高効率発電が期待できます
現在、一次エネルギーの約40%が電力発生に消費されています。したがって、発電効率を高めることは、省資源や地球環境を守るため大変重要と言えます。ところで、発電効率を高めるにはどうしたら良いでしょうか。それは、発電プラントで利用されている流体の利用温度を高めることです。たとえば、ガスタービンや蒸気タービンを利用した発電所では、燃焼ガスの温度や蒸気の温度を高めることです。しかし、ガスタービンや蒸気タービンなどの回転機械では機械的な強度の問題から、温度を高めることには限界があります。そこで、MHD発電が登場することになります。MHD発電では、ガスタービンや蒸気タービンとは異なり、回転部分はなく、発電機は高温に耐えるセラミックスと電極で構成されています。したがって、1,700℃から2,700℃という高温の流体を利用でき、60%以上の超高効率発電が期待できます。
MHD発電の原理は簡単です
MHD発電は、Magneto-hydro-dynamics発電を省略したもので、電磁流体力学発電と呼ばれています。発電の原理を図1に示しましたが、発電機に流入する高温の作動気体には強力な磁場が印加されます。この時、ファラデーの電磁誘導の法則(フレミングの右手の法則)により、作動気体の運動方向と磁場の方向の両方に直角な方向に電圧が発生し、作動気体の中には電流が流れます。この電流を電極を通して外に電力として取出します。発電機には、図1のようなファラデー電流を電力として取出すファラデー発電機の他に、図2のようなディスク形ホール発電機があります。発電原理はファラデー方発電機と同じですが、ホール方発電機では磁場の印加により電流がファラデー方向(円周方向)と直角に流れる性質を利用し、半径方向の電流を電力として取出します。本研究室ではこのディスク形ホール発電機の研究を主に行っています。
発電性能はプラズマと超音速流れに依存しています
MHD発電で使用する流体には、燃焼ガス、液体金属、希ガスなどがありますが、本研究室ではアルゴンやヘリウムなどの希ガスを用いた発電方式の研究を行っています。この方式はクローズドサイクルMHD発電と呼ばれています。この方式では、希ガスに電気伝導性を与えるため微量のアルカリ金属(セシウム、カリウムなど)を添加します。この添加をシーディングと言いますが、アルカリ金属をシードされた超音速流れの中には電磁誘導の法則により起電力が誘起され、この電界により電子の温度(3000-5000K)が気体の温度より遥かに高い非平衡プラズマが生成されます。この非平衡プラズマの挙動は大変面白く、プラズマが空間的に非一様な場合(図3)には、発電性能は劣化します。しかし、シードの量を最適にした場合には、図4のように内部に千アンペア程度の電流が流れているにもかかわらず、ほぼ一様なプラズマが形成されます。発電機内の気体の圧力は大気圧程度であり、これまでの常識では雷に代表されるように放電は収縮します。しかし、図4のようにほぼ一様なプラズマの生成に成功し、同時に世界最高の発電性能が達成できました。
プラズマと同じように超音速流れの挙動も発電性能に大きな影響を与えます。流れの中に衝撃波や大きな圧力損失がある場合には、発電性能は劣化します。図5は発電機内に円形の衝撃波が生じた場合、図4は運転条件の最適化により衝撃波の発生を抑えることができた場合です。
発電の様子
下のリンクををクリックすると発電の様子を見ることができます。皆さんは電気を見たことがないと思いますが、ここでは電気がプラズマからの白い発光として見えます。超音速流れにブレーキ力が作用して圧力変動が生じ、それにより大きな音も聞こえます。この実験では、時間と共に発光も変化していますが最大400kWの電力が発生しています。
非発電時の発電機内の映像(25秒、6.4MB)
発電時の発電機内の映像(1分、14.2MB)
衝撃波管を用いたMHD発電装置の映像(6秒、1.73MB)
(衝撃波管の映像は、高速度カメラで撮影したものをゆっくり再生しています)