“当時の談話”

スイス金融システムの大異変

8月以来、大手各紙は警視庁による山口組系暴力団による組織的なヤミ金融摘発事件について報道を繰り返している。（スイスの一部、ローカル紙にも報道された。）そして、その一部がチューリッヒの大手銀行、クレディスイスの口座にあることが発覚、、、と、これだけだと特に目新しい点はないのだが、実はこの裏には、スイスのチューリッヒ州検察当局が、外務省を通じて上記関係者のスイス大手銀行口座の存在を外交ルート経由で摘発したことに端を発している点が大いに注目の的となる。つまりこれは、従来のスイス金融界では、絶対にありえなかった全くの新しい‘ハプニング’なのだが、以下、その背景を辿ることとする。

そもそもスイスの金融システムなるものは、キーワードとして、口座内容が絶対に第三者に知られないよう、銀行サイドで徹底した秘密保持制度を取っており、特に今や悪名高き‘匿名番号口座’については、当事者以外には、その内容は絶対に分らないものとされてきた。まず、スイスにかかるシステムが生まれた　歴史的背景を追ってみると以下の通りである。

1685年、時のフランス国王ルイ14世は宗教改革の結果、1598年にアンリ4世が世界史で有名な‘ナント勅令’によって保証した信教の自由に関する法律の廃止を宣言した。これは、日々に勢力を増しつつあった新教徒の活動を封じる目的であったのだが、その結果、膨大な数の新教徒が続々と亡命を図った。そして、その最大の目的地が信教自由の地で、カルヴインの生まれ故郷であったジュネーブだった。

その中で、特に精密加工業者、そして　パリなど都市を中心に勢力を伸ばしつつあった金融組織の加盟者が特に目立った存在であったのだが、前者がジュラ山脈に定着して芽生えたのがスイスの時計産業、そして　ジュネーブ市内に拠点を置いて、徐々に勢力を延ばしてきたのが、名だたるスイスの個人銀行の起源である。（もちろん、他方、チューリヒ、バーゼルンなど、ドイツ語圏においても、中世来、南北の貿易の中心として金の管理システムが発達し、また当時スイス唯一の輸出商品であった‘傭兵’の仕送り金を家族が運営するに当って、銀行組織はジュネーブとは全く別途に形成されてきたが、事、秘密口座的な感覚は、あくまで最初にジュネーブの個人銀行が先駆者として築いたものである。）

具体的には1713年、世代は代わって、当時国王となったルイ16世が、かって祖父が迫害した新教徒達がジュネーブに設立した個人銀行の優秀さを耳にし、資産の大部分を預け入れるという、まことに皮肉な結果を生んだのだが、この際、スイス個人銀行は、王の資産の委託を受けた口座を‘compte de Roi de France’ （フランス国王指定口座）と命名した。

そして、時のジュネーブ州当局は、こんな大事な御客さんは、それなりのサービスを保証せねばならぬとあって、何と議会許可なしの情報開示を全面的に禁止する法令を施行したのが、秘密口座の始まりとされている。

次いで、1789年のフランス革命で、再び莫大な資本逃避が始まり、ナポレオンまでが顧客に加わることとなる。他方、ドイツにおいても　異変が起こる。1931年、頽廃しきったワイマール共和国で、あまりにも国外への資産逃避が目立ちだしたのに対して政府は外貨統制令を発令し、スパイ活動による摘発が開始される。これは　ヒットラー政権になって、さらにエスカレートし、1934年には、海外資産禁止法（死刑の罰則）が施行されると共に、ナチのスパイが大挙してとスイスを訪れ始めた。

その後、フランスは社会政権となるが、資産逃避対策は厳しくなる一方で、1932年、 BASLER HANDELSBANK口座所持発覚で、フランス著名人二千人逮捕されるというハプニングが起こるのだが、ここに来てスイス連邦政府は、こうしちゃおられないということで1934年、スイス民法97条、code d’obligation、及び銀行法47条 で、秘密口座制度を正式に法制化する。（具体的には、これは特に銀行員の罰則規定を明文化したもので、顧客の秘密を漏らしたものは、六ヶ月以内の禁固、　50、000フランの罰金が課せられることになった。）

さて、負け色が濃くなった1940/年以降、45年にかけてナチ政権当事者は占領国の貴金属を総てスイスに隠匿し始める。かくして、終戦と共に、スイスはまさに世界各国の‘台風の目’的存在と化した。

　次へ 　前へ

▲このページのＴＯＰへ　　　　　 HOME > 番外地4掲示板

★阿修羅♪　http://www.asyura2.com/ 　since 1995
　題名には必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
掲示板,ＭＬを含むこのサイトすべての
一切の引用、転載、リンクを許可いたします。確認メールは不要です。
引用元リンクを表示してください。