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U.S.Air Force B-2A スピリット ステルス爆撃機
■[米空軍 ステルス戦略爆撃機 B-2A スピリット概要]
B-2Aスピリットは、B-52、B-1爆撃機の後継として開発された通常兵器及び核兵器を運用可能な
Multi-Role(多用途)爆撃任務を行なえるステルス戦略重爆撃機である。 当初は、高高度長距離
侵攻爆撃機として開発される予定だったが、1983年に米空軍は低空侵攻能力も要求し一部仕様
変更が行われて、B-1Bランサーに代わって低空侵攻核爆撃を担当する事になる。
B-2は、Northrop Grumman(ノースロップ・グラマン)社が開発し、その最大の特徴lは、
Low-Observability(低観測性)でStealth(ステルス性)を最大限に追求した機体設計で胴体部・水平
/垂直尾翼部を廃した全翼形態となっており、米国の航空機技術の粋を結集して開発された。
低被探知性は、レーダ反射はもとより赤外線放射・音響・視覚等全方位にわたってステルス設計が
施されて強固な防空網を突破する能力を有する。
特筆すべきは、本来戦略目標であるCOG(Center of Gravity:重心)を爆撃する戦略攻撃任務の他
に、アフガニスタン等では地上特殊部隊を支援する為にPGM(精密誘導兵器)を使用して
CAS(Close Air Support:近接航空支援)を高精度に行った戦術運用が見られた。
B-2ステルス爆撃機は、当初133機(量産機127機)生産される予定だったが、1機約2500億円もする
高価な爆撃機となった為、試験機は6機製作され、米議会の強硬な反対に合い量産機は15機の
量産にとどめられた。 その後試験機として開発されていた5機も部隊に配備され、エドワーズ空軍
基地にある実験用のB-2ステルス爆撃機1機も部隊配備され計21機が戦力化されている。
B-2の愛称はSpirit(スピリット)となっているが、米空軍の慣例では異例の1 機ごとに「Spirit of
州の名前」(ただし初号機のSpirit of Americaと19号機のSpirit of KittyHawkを除く)がついている。
米空軍の3タイプの戦略爆撃機。 上から
B-52Hストラトフォートレス、B-1Bランサー
B-2Aスピリット。
■[ノースロップ・グラマン B-2スピリット開発計画概要]
B-2は、B-52、B-1戦略爆撃機の後継として開発される事になるが、事実上B-1戦略爆撃機の開発
がキャンセルされた為、その代替案として開発計画が進められた。B-1Aランサー戦略爆撃機(*1)
は、超低空高亜音速侵攻爆撃機として1974年12月にプロトタイプ初号機が初飛行して以来順調に
テストを繰り返して、1978年より部隊配備を開始し244機の量産が予定されていたが、時のカーター
大統領(*2)によってB-1Aランサーの開発が急遽中止されたしまった。中止となった原因として当時
のソ連の対空防御網の急速な整備と強力な航空戦力の充実化で、いかに超低空高亜音速侵攻
能力を持たせたB-1でもその防空網突破が難しくなってしまった事。
また米空軍で開発間近となったALCM(空中発射巡航ミサイル)の登場でB-52戦略爆撃機に
ALCM(AGM-86)を搭載して運用する方が費用対効果の面からB-1を運用するよりはるかに安く
済むと算出されてしまい、1977年6月にB-1Aランサーの開発プログラムは中止が決定した。
開発が中止となったB-1Aランサーだが、START(Strategic Arms Reduction Treaty:戦略兵器
削減交渉)のカードとして政治的に利用するため試験プログラムは継続される事となるが、米空軍
では正式に中止となった時の保険として、まったく新しい戦術概念でソ連の強固な防空網を突破
する爆撃機の構想を計画するプロジェクトチームを極秘に発足させる事となる。
1978年極秘裏に米空軍内にATB(Advanced Technology Bomber)先進技術爆撃機計画が始動し、
ソ連のICBMサイロ(発射基地)、移動式ミサイルを攻撃する為の防空網縦深突破能力を持たせた
爆撃機を開発する事を目的とした。1980年にカーター大統領が、ATBプログラムを公表するまでは
極秘扱いとされ計画の概要も1988年4月までは一切が公表されなかった。これは、同プロジェクト
が米国の航空機製造技術の粋を集めて製作された為で、いかに当時のソ連の防空網を突破する
事が難しかったかを如実に物語っている。
ATBプログラムでは、B-1Aランサーの超低空高亜音速縦深侵攻能力に代わるコンセプトとして
レーダーに映らないLow-Observability(低観測性・低視認性)及びStealth(ステルス・隠密性)に
着目している。1974年5月、DARPA(米国国防省防衛高等研究計画局)で始められた航空機の
XST(実験ステルス技術)に関する研究では、Lockheed(ロッキード)社のSkunk Works(スカンク
ワークス:軍用機専門開発チーム)が開発を担当したF-117ナイトホークの試験機Have Blue
(ハブ・ブルー)やNorthrop(ノースロップ)社(*3)が研究を推進しているTACIT BLUE
(タシットブルー)ステルス実験機(*4)等がATBで注目され最有力候補に挙げられた。
米空軍は、1980年9月に各メーカーに要求仕様であるRFP(Request for Proposal)を提示し、
ロッキード社/ロックウェル社のチームとノースロップ社/ボーイング社のチームが競合する事に
なる。ロッキード社/ロックウェル社のチーム案では、F-117ナイトホークを大型化したATBが提案
され、ノースロップ社/ボーイング社のチーム案は、ノースロップ社で極秘に開発されていた全翼
実験機XB/YB-35及びYB-49を参考にした全翼形態のATBが提案されている。
1981年10月20日に米空軍は、ノースロップ社/ボーイング社のチーム案をATBの主契約企業に
選定し、飛行試験機6機、地上試験機2機、総額366億ドルに及ぶ契約を取り交わして開発が開始
する事となった。
(*1)B-1Aランサーは、1993〜96年までに全機が核攻撃能力を廃して通常爆弾搭載型侵攻爆撃機
に換装されてより米空軍で制式型式B-1B、ランサーの愛称を与えている。
(*2)ジミー・カーター 第39代米国大統領。任期1977年1月20日〜1981年1月20日。潜水艦員とし
て知られシーウルフ級3番艦ジミー・カーターの名が冠せられた。2002年ノーベル平和賞受賞。
(*3)1994年にノースロップ社がグラマン社を買収・合併
(*4)DARPAとノースロップ社が極秘に開発したステルス実験機で「沈黙の青」計画と呼称された。
フライトテストは、グルームレイク空軍秘密基地エリア 51で1982〜85年にかけて行なわれ、その
存在は1996年まで一切が公表されない機密事項だった。
ロッキード社スカンクワークスが開発したステルス
技術実験機ハブ・ブルー1号機。 そのステルス
技術は、F-117ナイト・ホークにフィードバックされ
ている。
ハブ・ブルー2号機。同機は2機製作され、いずれ
も事故で失っているが、ATBでは、これを大型化
して空軍に提案されていた。
1940年代からノースロップ社が開発してきた全翼
プログラムでXB/YB-35(プロペラ機)を改造し
アリソン社製ターボジェットエンジン8基を搭載した
全翼爆撃機YB-49。同機は量産はされなかった
ものの、後に高いステルス性を持つ事が判明して
B-2の開発の参考にされた。
DARPAとノースロップ社が、XSTで1978年から
極秘に開発・実験を行ったタシットブルー実験
機。継ぎ目の無い滑らかな曲線で設計・製造さ
れて高いステルス性が実証されている。
■[ノースロップ社 B-2戦略重爆撃機 開発過程]
ATB(先進技術爆撃機計画)に選定されたノースロップ社は、1940年代から米空軍と共同で実験を
繰り返してきた自社開発の全翼タイプの航空機XB/YB-35(プロペラ機)/YB-49(ジェット機)の
ノウハウを参考に設計を開始した。ノースロップ社のXB/YB-35及びYB-49は、当初航続距離を
延伸できるCd値(空気抵抗)の低い全翼タイプの飛行特性を研究する上で開発された経緯がある。
1957年にソ連のモスクワ無線工学院の軍事物理学者ピョートル・ウフィムツェフは電波が光と同様、
物体の表面で反射する時、従来の物理工学的な近似では解析不可能だった平面の交わるエッジ
部分の計算を可能した「物理工学的解析理論」を発表し、航空機デザインが電磁波に及ぼす各種
影響を考察している。
1971年にAFRL(US.Air Force Research Laboratory:米空軍研究所)は、この論文を入手し翻訳
作業の後、論文に着目したロッキード社の数学者ビル・シュレーダーが応用し、航空機設計に
おいて多数の三角形平面で構成し、それらの三角形の各3ケの頂点に対し「物理工学的解析
理論」を用いれば、翼の表面と翼の縁の部分に生じるレーダーの反射を正確に計算し、合成でき
る「エコー1プログラム」を開発し、レーダー波の照射を別の方向に反射させレーダーに映りにくい
F-117ナイトホークが開発された。
一方でノースロップ社は、ウフィムツェフの「物理工学的解析理論」を全翼タイプの航空機に適用
した場合、RCS(Radar Cross Section/レーダー反射断面積)を抑制する事を発見し、ステルス機
として開発する構想案が採用されている。
また、DARPAで始められた航空機のXST(実験ステルス技術)に参加したノースロップ社は、航空機
の設計に採用され始めたCAD/CAM(*5)を使用して「Continuous Curve」(連続した湾曲)で設計
されたステルス実験機TACIT BLUE(タシットブルー)でフライトテストを行い、ATBの設計に
フィードバックさせている。
ロッキード社のF-117ナイトホークは、当時高性能なコンピューターが無かった為膨大な計算を
必要とする「物理工学的解析理論」の三角形の面の数を減らす設計手法が取られて、平面を組み
合わせた機体デザインとなっている。このステルス技術は、レーダー波を照射を受けた方向に反射
させない手法だが、平面構成の機体デザインは空力特性を犠牲にする最大の欠点があった。
ノースロップ社が採用したコンピューター支援設計による「連続した湾曲」は、平面構成のステルス
技術をさらに発展させたもので、第二世代ステルス技術と呼ばれている。CAD/CAMによって設計
された滑らかな曲線によるデザインは、空力特性を犠牲にせずステルス特性を最大限に引き出せ
る事がTACIT BLUE(タシットブルー)でも実証されている。
ノースロップ社では、空力特性に優れ航続距離を延伸でき、RCS(レーダー反射断面積)を低減
できる全翼タイプを第二世代ステルス技術で設計するB-2戦略爆撃機の開発を開始する事となる。
1982年よりB-2試験機初号機(Air Vehicle-1)の設計と開発が認可され、続いて同年に2〜6号機
(AV2〜6)までが発注されている。
1983年に米空軍は、B-2に低空侵攻能力を要求しステルス仕様が強化され、戦略長距離
重爆撃機としての設計変更をノースロップ社に求めている。
機体製造に関しては、ノースロップ社が機首・尾部とステルス技術を担当し全体のマネージメント
を統括する。ボーイング社が後部翼部と主翼外縁部を担当し、LTV(リング・テムコ・ヴォート)(*6)
はエンジン部及び主翼内翼部を担当している。機体組み立ては、カルフォルニア州パームデール
(Palmdale Prodn Flt/Test Instln AF Plant 42 Airport)(*7)第42工場基地で行なわれ、
1988年11月23日にB-2試験機初号機(AV-1)がロールアウトしている。B-2A AV-1は、その後
八ヶ月にも及ぶ各種地上試験を経て、1989年7月17日にパームデール空軍基地より初飛行に
成功し、そのままカリフォルニア州エドワーズ空軍基地に飛行して、同基地内にあるAFFTC
(Air Force Flight Test Center)空軍飛行試験場で飛行概念実証(dem/val)フェーズを開始して
いる。試験機は計6機(AV-1〜6)まで製作され、AV-6が1993年2月2日に初飛行に成功すると、
米空軍は量産機の開発過程を認可し、1993年4月1日正式にミズーリ州Whiteman(ホワイトマン)
空軍基地第509爆撃航空団(509BW)を新設し第393爆撃飛行隊(393BS)にB-2Aを配備する事を
決定している。当初は、量産初号機のAV-7が部隊配備される予定だったが、ノースロップ社が
量産初号機のデーター収集を申し出た為、量産2号機(AV-8)が第393爆撃飛行隊に
最初に配備されたB-2Aスピリットとなった。
第509爆撃航空団(509BW)は、作戦司令部となる第509作戦運用群(509OG)の隷下に第393
爆撃飛行隊(393BS)を編成しB-2Aを8機を指揮下に置く。 続いて1998年1月8日に2番目の
第325爆撃飛行隊(325BS)が編成され同じく8機のB-2Aを配備している。 1996年11月7日には
394CTS(乗員飛行訓練隊)も編成されている。両爆撃飛行隊は合わせて16機を実戦運用し、
そのうち2機を常時核アラート任務に就けている。また試験機6機もB-2Aのコストが高騰した為
無駄にする事が出来ずに内5機もホワイトマン基地に配備される事となり、AV-1 1機だけは
エドワーズ空軍基地AFFTCに置かれアップグレードテストが行われている。
2000年7月14日にB-2A AV-1もホワイトマン基地に配備され試験機6機、量産機15機、計21機
が509BW指揮下に入る。
爆撃飛行隊に所属しない5機は、PDM(Programmed Depot Maintenance:定期デポ整備)の
サイクルに入っている為で、内1機は核アラート任務の予備機としている。B-2はステルス性を維持
する為に定期的にメンテナンスを行なう必要がある為、その運用にはホワイトマン基地に限られる
欠点があり海外展開する際にはホワイトマン基地から出撃し帰投するのが原則となっている。
1998年には、簡易型B-2専用組み立て式整備ハンガーをグアムのアンダーセン空軍基地に設置
し初の海外展開訓練が行なわれた。同基地には、米本土と同じ専用固定式整備ハンガーが4基
建設され韓国・シンガポール等の海外演習に参加するため出撃している。初の実戦投入となった
のは、1999年のコソボ紛争で期待通りの戦果を挙げたが、中でも注目されたのは中国大使館
誤爆事件(*8)が記憶に新しい。コソボ出撃では、ホワイトマン基地より2機のB-2Aスピリットが
作戦に従事し、直線距離で約8500kmを30時間弱で往復している。途中一回の空中給油を行い
ホワイトマン基地に無着陸で帰投している。2001年の対テロ戦争アフガニスタンにも出撃、直線
距離で11500kmもあり片道だけでも約40時間近くかかるため、2名のクルーでは負担が大きい事
を考慮して、一度インド洋のディエゴガルシア島に着陸しクルーを交代して米本土に帰投した。
2003年には、インド洋のディエゴガルシア島にB-2Aスピリットが展開し対イラク戦に投入されて
いる。2004年にノースロップ社は、AHFM(Alternate High-Frequency Material)代替高周波材と
呼ばれるステルスコーティングを新規開発し21機全機を改修する事としている。2005年3月には、
グアムのアンダーセン空軍基地に3機のB-2Aスピリットが配備されている。
(*5)CADは「Computer Aided Design」、CAMは「Computer Aided Manufacturing」の略で、
「コンピュータによる設計支援/製造支援」。
(*6)1992年にノースロップ社傘下に入り、ヴォート・エアクラフト社となる。
(*7)ロサンジェルス国際空港の北方約80km、モハービ砂漠最南部に位置する米空軍の第42
工場兼基地。3600m級滑走路を2本持つ巨大な航空基地で、ロッキード社、ボーイング社、
ノースロップ社等の工場も隣接され、Xプレーンの開発も行なわれている事で有名。
(*8)B-2の誤爆ではなくCIA(米中央情報局)が古い地図をもとに誤った情報を米空軍に提供した
事が原因。
■[B-2スピリット 機体/ステルス概要]
B-2の機体は、胴体部が無い全翼形態で主翼中央部を膨らませてコックピットと兵器倉、各種
装備スペースに充てており、主翼後縁はW字形に屈曲し平面形の角度が全て二次元的・
三次元的同角度平行に統一されている平面整列(Planform Alignment)設計となっている。
全翼形態となった事で、レーダーの反射リターンは、主翼の後退角33度に対応する前後左右の
4つの方向(4ローブ)に限定される事となり、4ローブ以外の角度から照射されたレーダーでは
探知されない事となり、RCS(レーダー反射断面積)も極小とする事が可能となった。
CAD/CAMによる「Continuous Curve」(連続した湾曲)コンティニアス・カーブは機体表面の凹凸
を無くし、爆装兵器を搭載する機内兵倉の開口部やメンテナンスハッチ、ランディング・ギア外扉
等も全て主翼前後縁角度と同じ角度に統一されている。最もレーダー波を反射し易いエンジンの
エアー・インテーク(吸入空気口)と排気ノズル等は、下方よりのレーダー探知を避ける為、全翼
形態の中央上部に設置され、そのエッジも主翼と同じ角度で統一されている。
「Continuous Curve」(連続した湾曲)コンティニアス・カーブで設計された機体形状は、設計値
との誤差が僅かでもRCS(レーダー反射断面積)にてき面に影響を与える為に、その製作には
厳密に管理された工程をへて開発されている。フレームやバルクヘッド等へ外皮(機体表面)の
取り付けはボルト、リベット、溶接等では表面の凹凸が出来てしまう為、内側からの接着/結合
法が採用されている。
機体表面にはRAM(Radar Absordnt Material/電波吸収剤)が使用され、レーダー波を減衰
させている。RAMの塗布は、通常異なるレーダー波に対処する為数種類の電波吸収剤を積層
して塗布されるが、B-2のRAMは約4層構造となっている模様。 機体表面外皮の継ぎ目や
パネルの微妙な隙間にはEAF(Electromagnetism Absorption Ferrite:電磁吸収フェライト)の
一種でレーダー波の波長だけを吸収するMAGRAM(Magnetic Radar Absorbing Material:
磁気レーダー吸収材)と呼ばれるテープを貼り付けてRCS(レーダー反射断面積)を低減させて
いる。B-2では一回の出撃のたびにこのテープ処理を入念に行いステルス性を確保する事と
なるが、定期的にテープの張替え作業を行うには約35時間前後の時間を要し、湿度と温度
変化に脆い為専用の整備ハンガーで作業を行わなければならない。その為B-2の運用は専用
のハンガーが必須となり結果的にホワイトマン基地にのみB-2が配備されている。
このハンガーは空調機能付で厳密に温度管理が可能となっている。B-2の運用に際しては、
固定式の専用ハンガーを設置するにはコストが掛かり過ぎるため、C-5ギャラクシー戦略
輸送機に積載できる簡易型B-2専用組み立て式整備ハンガーが開発され、前方作戦航空基地
に設置されればB-2の運用が可能となる。
米国の対テロ戦争アフガニスタンでは、クルーの負担が大きい事を考慮してインド洋の
ディエゴガルシア島に簡易型ハンガーを設置してB-2の出撃を支援している。
2003年にノースロップ社では、このMAGRAMテープの貼り付け作業によるB-2の稼働サイクル
低下を大幅に向上させる為にAHFM(Alternate High-Frequency Material)代替高周波材を
開発している。 AHFMのRAMコーティング処理の詳細は機密事項のため不明だが、B-2専用
PDM(定期デポ整備)ハンガーに4基のスプレー式噴霧装置を設置し、これまで約35時間前後
を要したテープ貼り付け作業を僅か30分程度にまで短縮させている。またこのAHFMのRAM
コーティング処理によって数回の出撃耐えられるステルス特性となりB-2の作戦運用上の
柔軟性が向上する事になった。
このAHFMのRAMコーティング処理は2004年6月のPDM(定期デポ整備)より順次全機行われ
る予定。
レーダーの被探知だけでは無く、赤外線ステルス対策も施されており赤外線抑制策は、最も
大きい発生源であるエンジン排気のアフターバーナーを使用せずに赤外線放出を最小限に
止めており、その排出には外気との混合を行なうミキサー装置と2次空気導入装置によって
排気温度を下げている。 排出ガスは、後部翼面上部を整流して排出しており大気との混合
形状を扁平にして放出している。 排気ガスの形状は、円形の排気ガス形状より扁平な方が
排出ガスの温度低下が早い。これにより赤外線追尾方式対空ミサイルでのB-2の撃墜は
ほぼ不可能とされている。地上SAMサイトよりの攻撃も翼上面に排出ガスが放出される為
赤外線探知は極めて難しいとされている。
太陽光によって熱せられる機体上部には、機体表面外皮に赤外線放射コーティングが
施されており、IRセンサー(赤外線シーカー)に探知されない波長に変換して大気中に熱放出
している。主翼中央部(B-2の場合胴体に相当する)の電子装置類も赤外線探知を避ける為
空冷/水冷装置が併用搭載されている。
B-2の操縦系は、乗員正副2名で行い、これはB-52の6名、B-1の4名より大幅に少なくなって
おり、乗員のワークロードを軽減する為に高度なコンピューター化が図られている。
飛行制御システムは、4重系統デジタルFBW(Fly by Wire=フライ・バイ・ワイヤ)方式で垂直
/水平尾翼が無い為に従来の航空機とは全く異なった操縦システムとなっている。主翼外翼
部後縁には、4つずつ(左右計8枚)の操舵翼面があり最内側から3つはエレボン(昇降陀兼
補助翼)(*9)として機体のロールとピッチを制御し、さらにB-2ではフラッペロン(*10)も兼ねる
特殊な役割も担う。最外側は機首方向を変える為に主翼面に上下に開くドラッグラダー
(スプリット・ラダー)が備えられヨー制御を行い、左右翼同時に開くとスピードブレーキとなり、
着陸した際のエアー・ブレーキも兼ねている。
B-2中央翼後端部には、GLAS(Gust Load Alleviation System:突風負荷軽減装置)と呼ばれ
る三角形の動翼があり飛行中の縦トリム、特にピッチレート(Ptich Rate)(*11)を抑制・制御す
る。全ての動翼は、空力特性・操縦応答性・ステルス特性を確保する為に大きめに設計され
ており、翼面積を大きく取る事によって小角度で機体をコントロールしRCS(レーダー反射
断面積)の増大を抑制している。
(*9)エレボン(Elevon)とは、昇降舵(エレベーター)と補助翼(エルロン)とを合成した造語で、
水平尾翼を持たないデルタ翼機や無尾翼機の主翼後縁に取り付けられており、昇降舵と
補助翼の二つの役割を持つ。左右を同時に動かすと機体に前後の傾きをもたせ昇降舵
として働く。左右を別々に動かすと、機体を左右に傾け補助翼として働く。
(*10)フラッペロン(flapperon)とは、フラップ(flap:高揚力装置)と、エルロン(aileron:補助翼)
を合成した造語で、B-2ではロール時の抗力を抑制する為にそれぞれが独立した制御が行
える様になっている。
(*11)機首方向の上下の縦揺れ
■[B-2A スピリット 兵装]
B-2は、ステルス性能を損なわずに兵装を搭載する為に、全て機内の兵器倉(Weapons Bay)
ウェポンベイに収めている。
兵器倉は、全翼形態の中央部左右2ヵ所に位置し、Rotary Launcher(ロータリー・ランチャー)
に各種兵装が搭載され、より大きな兵装は専用のラックユニットによって搭載される。