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「愛国反日教育の弊害」「若いインターネット世代の出現」「国内社会矛盾のガス抜き」などなど、日本のマスメディアは反日デモの背景分析として、これまでもさんざん言われたような内容を繰り返すだけ。
「どうなっているんだ?」
「なにかおかしくはないか?」
今回の反日デモの異様さ、不自然さを説明できるものは見当たらない。
北京での反日デモが上海や他の地方都市へ拡大していくのをニュースで追いながら違和感が募っていく。これまでの中国では見られなかった民衆街頭デモをテレビのニュースで繰り返し見ているうちに既視感にとらわれていた。
プラカード、横断幕、反日Tシャツなど何かにとても似ているのだ。米投資家ジョージ・ソロス氏の主宰するソロス財団が先鋭的な組織に肩入れし、非暴力街頭行動を先導したことが知られているグルジアの「バラ革命」、ウクライナの「オレンジ革命」のパターンに酷似してはいないだろうか、という疑念がむくむくと湧きあがる。
そんな時、読売新聞のWebサイトで4月16日の深夜に流れた「反日運動、在米華人団体などが発端か※」という記事に目が止まった。米国西岸の在米華人団体(中国系アメリカ人の団体)が今回大陸で起こった反日デモの発端は自分たちの活動にあると認めたという内容だ。
在米華人団体には89年の天安門事件で国外脱出した民主運動活動家が多数紛れ込んでいる。かれらは共産党独裁の大陸の政治体制へさまざまな揺さぶりを掛けているのだが、その大多数が「反日」であり、日本の戦争責任を執拗に追及してきた。すなわちこの文脈では中国の政治民主化とは「反日」活動の激化であるということを指摘し、認識している日本国内の報道は非常に少ない。
共産党政権が「愛国教育」で抗日の歴史を教えているのは国内の引き締めだが、在米華人の民主化を要求するグループは反日を利用した混乱で中央政府を追い詰めようとしているという現実があるのだ。これを「まさか」とお人よしの日本人は考えるかもしれないが、ニューヨークの米外交問題評議会によって創刊された外交専門誌「フォーリン・アフェアーズ」にあった記事(アジアの将来を左右する「日本の歴史認識」)は衝撃的だった。
「われわれは日本人を殺すつもりだ」と彼は明るく語った。
「エッ、何だって?」
「われわれは日本人ビジネスマンを殺す。日本企業は怖がって中国に投資しなくなる。そうなれば、中国政府に圧力をかけるのは簡単になる」
「まさか?」
「いや、われわれはまじめだ。最近ではデモも出版もできない。つまり、われわれが民主主義のためにできる唯一のことは、日本のビジネスマンを殺すことなんだ」
これは89年の天安門事件直後の北京での会話の再現であるという。
これと同じような会話が、今回も北京や上海で交わされていたのかもしれないと思うと背筋が寒くなる。
勃興する中国に対しては東アジアの安定のために、安保条約での日米同盟を緊密にし、日本とアメリカは協調して中国に対抗する必要がある、というのは最近よく目にする論調だ。日本とアメリカは強い信頼関係で結ばれているから安全だ、と思っている人が多いだろうが、日本とだけではなく、アメリカは中国とも深い絆で結ばれているのをあまり注意していない。
■ CHINESE AMERICAN MUSEUM
■ Organizatiom of Chinese Americans
19世紀、中国からアメリカへの移民は日本よりも早く始まっている。そして今、アメリカの中国系人口は243万を超え、アメリカ総人口の0.9%を占めるようになり、大統領選挙でも大きな発言力を有するまで成長している。シリコンバレーの優秀な研究者の多くは、中国人とインド人であるということはよく知られている。シリコンバレーで最先端のITエンジニアとして成功した中国人は在米華人ネットワークの支援を受けて帰国(海亀派)後、IT分野だけでなくさまざまなベンチャー企業を起こし、成功者も多く出ている。こうした人的なネットワークで中米は緊密につながっている。
・・・
この数年、日本企業の中国進出は生産拠点としてだけでなく、成長する最後の巨大市場へと雪崩をうって進んできた。バブル崩壊後の長きにわたる構造的な不況から脱却しつつあるのは、「政冷経熱」といわれながらもこうした日中経済の相互依存関係が伸展したからであるのは間違いない。こうした状況は、同じように中国市場を狙っている欧米には面白くないことである。地理的な関係からも日本が圧倒的に有利なのだから、これに対抗するには何か策略が必要だと考える連中は当然でてくる。
一方、欧州ではEUが東へ拡大して大きな存在感を持つようになってきている。唯一の超大国アメリカを牽制しつつ、国際政治やグローバリズムの草刈り場とならないためにはアジア地域の連帯が必要だと考えるのは自然な流れだろう。ASEAN+3(日中韓)首脳会議から「東アジア・フォーラム」が発足し、「東アジア共同体」への具体化の歴史的な一歩を進めようとしたところ、案の定、アメリカからの横槍が入り、あれよあれよと言う間に日韓も日中もこの数年で最悪の状況になってしまった。
まるで赤子の手を捻るが如き容易さで日本は東アジアの中で孤立してしまった。
おかしくはないだろうか? 日韓離反を前哨戦として、日中離反を企んだ誰かは、今ほくそ笑んでいるのじゃないだろうか?
アメリカはイラク、中東で手一杯で暫くは身動きできそうにない。その間に日中が接近して「東アジア共同体」などというものをつくられては、21世紀のアメリカの覇権は大きく揺らいでしまうと危惧していることは、最近の米中央情報局(CIA)などで組織する国家情報会議(NIC)のレポートをみてもわかることだ。
「世界の新たな主要プレーヤー」として中国とインドが台頭することにより、21世紀は両国に率いられた「アジアの世紀」になり、「日本は中国に対抗するか、追随するかの選択を迫られる」と指摘した。
アジア地域の火種である朝鮮半島、台湾海峡のいずれの情勢も15年以内に「重大な局面が訪れる」と予測。これをどう解決するかによって、アジアにおける米国の将来の役割、日本の地位が規定されると強調した。
報告書は20年の時点でも「米国があらゆる次元の力を持つ最も重要な国家であり続ける」として米国中心の構造は維持されるとしながら、中国とインドの台頭は19世紀のドイツ、20世紀の米国に匹敵し、地政学上「劇的なインパクト」を与えると指摘。両国の台頭に伴う摩擦をいかに抑えるかが世界安定化の鍵になるとの見解を示した。(共同通信) - 1月14日
つまりアメリカには日中離反を仕掛ける大きな動機があるということ。日中関係が不安定になり日本企業の中国市場での活動に影響が出るようになれば、アメリカだけでなく、EUにも大きな商機が転がり込むというシナリオだろう。
アメリカは中国の台頭を予測しながらも今は自分が出ていって対抗するつもりはない。それよりも日本を中国にぶつけることで先ずは時間稼ぎをしつつ、日中が相互に疲弊すればしめたものと考えているのだろう。こういう戦略を国際関係論の政治学では「バックパッシング(buck-passing=責任転嫁)」というらしい。日本が東アジアで孤立を深めれば、頼るべき相手はアメリカしかなくなるので、米軍の再編成に抱き込めばよろしい、てな筋書きが見える。東アジアが将来ドンパチときな臭くなった時に最初にぶつけられるのは自衛隊が改組された日本国軍ということになる。しばらくは高みの見物で潮時をみて善意の仲介者で登場すればよいし、日本国軍で手におえなくなった時に出て行ったので十分だということ。
アメリカで「ネオコン」との論争に勝ったとされる「(ネオ)リアリスト」と呼ばれる戦略家たちは甚だ人が悪い、えげつない思考方法を臆面もなく展開するという。リアリズムというのは「パワーによる国際政治論」であり、けっして美術教科書に出てくる写実主義ではない。「国際政治というのはすべて権力の力学による闘争なのだ!」と現実的(realistic)に考える理論で、だからリアリズム(現実主義)なのだという。この理論の中核にある「権力=パワー」というコンセプトは主に軍事力によって体現される理解され、国際政治を動かす「パワー(power)」というのは、「軍事力による脅しや実際の行動(攻撃)によって、相手の国を自国の意思にしたがわせる能力」という身も蓋もない理論。先日世界を歴訪した新国務長官、ライス女史は攻撃的リアリズムの大家ミアシャイマーの流れを継承する鋭才と言われている人である。
軍事行動の前哨戦は、謀略と陰謀である。戦わずして勝つことの重要さは、孫子の兵法も教えている。日本でも戦国末から江戸初期までは為政者の常識であり、謀略と陰謀に長けていたものが最後に勝ち残った。現代で最も謀略を好む国家といえば……、これはアメリカ合衆国の右に出るものはないだろう。南米でのCIAを使った数々の政権転覆工作、中東での謀略など枚挙に暇がない。これが東アジアでの局地的な冷戦構造をつくり出すためバックパッシングを仕掛けようと蠢き始めたのではないだろうか。だとすれば厄介なことこの上ない。
国際政治では安直に騙されるのは「馬鹿」を通り越し、国益を損ない、国民の安全と財産を守れないということでは「悪」に近いのだろう。翻って日本の外交にこうしたタフネスさが備わっているかどうかと考えると……、暗澹たるものがある。ジャーナリストだけでなく、国際政治の研究家もこの分野は少ないと言うからかなり危ない。
21世紀はグローバリズムとリアリズムの時代で幕を開けたということを、希望的な観測を捨て、現実(リアリズム)として認識した上で、今回の中国の反日デモをみると見えてくる景色はかなり変わるのではないだろうか。
江沢民の後を継いだ中国の胡錦涛指導部が今一番必要なのは経済発展のための国内の安定、それと海外投資を途切れさせない国際協調のはずだ。それを損なうのが明らかで、かれらが裏で糸を引いて反日を煽っているという推論はどうも納得できない。政権継承後、90年代に対米関係の改善とは裏腹に日本との関係を悪くした江沢民路線の修正をし、親日的なメッセージを送り、歩み寄りを模索していたのではなかったのか。
野火のように広がった反日デモの原因には、鬱積した日本への不信感が民衆の間にあったにせよ、それに火をつけて煽ったのは誰なのか? 謎と闇は深そうだ。