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(回答先: 月暦 投稿者 月の輪 日時 2005 年 12 月 24 日 07:15:13)
(以下)
「人肉嗜食」 中島敦他 (ちくま文庫・猟奇文学館3)
『監禁淫楽』『人獣怪婚』と続いたシリーズの悼尾を飾る本書は、ラストにふさわしい秀作ぞろい。カンニバリズムは多くの作家の琴線に触れるものがあるのでしょうなあ。
普通に考えればグロティスクきわまりない行為のはずだが、そこは文学者、ネットに氾濫する悪趣味サイトのような(よく知らんけど)露悪的な作品はない。人肉食が妙にうまそうだったり、エロティックだったり、悲哀に満ちていたりする。
村山塊多「悪魔の舌」。発表は大正三年という人肉食小説の先駆的作品。素朴だがそれだけに迫力がある。作者は夭折の天才作家にして画家。
生島治郎「香肉(シャンロウ)」。中国料理と中国美人の描写は手馴れていて美味そうだが、やや通俗的で物足りない。中国料理と中国美人と人肉食なら、山田風太郎の『妖異金瓶梅』という傑作があるのだが。
小松左京「秘密(タブ)」。狂気とファンタジーがないまぜになった奇妙な味の一編。夫に食べられることを悲しそうに承知する妻が哀切きわまりない。しかし小松左京にはもう一編強烈なカニバリズム作品があるので、そちらを選んで欲しかったな。なんといっても自分自身を食べる話なのだからすごい(題名失念!)。
杉本苑子「夜叉神堂の男」。語りの見事な怪談噺。食人の呪いにとりつかれたのが美形の寺小姓だというのがエロティック。
夢枕獏「ことろの首」。怖くて愉快な民話的ファンタジー。筒井康隆の『熊の木本線』を連想させるといえば雰囲気をわかってもらえるかもしれない。
牧逸馬「肉屋に化けた人鬼」。唯一ノンフィクション。実話の主人公の方が、他の創作作品のだれよりも食べた人数が多いのだから驚きだ。しかも職業は「肉屋」なのだから当然・・。
山田正紀「薫煙肉(ハム)の中の鉄」。マッドマックスばりの設定は魅力的なのだが、登場人物の心理がもうひとつピンとこない。文章もうまくないが、アクションシーンだけはなかなかいい。まさしく「食うか食われるか」である。
宇能鴻一郎「姫君を食う話」。本書及び本シリーズの白眉といっていい傑作。冒頭のモツ焼き屋のグルメ描写のうまそうなこと、女体美描写の精緻なこと、好いてはならない女人に恋着した武士のマゾヒスティックな哀切さ。いずれも谷崎潤一郎を彷彿とさせる素晴らしさだ。しかも、本書で唯一食人シーンがない作品だというのがまたすごい。