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「これからの会話については何があっても他言しないと誓ってほしい」アメリカ特使ジミーはそう言った。
「了解しました。」柳瀬はそう答えるしかなかった。
「日本の赤字は1000兆円になる。本来なら国家破産しているのだが、未だ破産には至ってはいない、だが、時間の問題でもある。日本経済が破綻する事は世界経済においても非常に困る。それは君にも分かっていると思うが、最悪の場合は世界的な大恐慌にもなりうる」ジミーはここで一端言葉を切って柳瀬の反応を伺うように柳瀬を見つめた。そして続けた。
「大統領は、日米安保を大切に考えている。仮に日本国が破綻を回避するため超法規的処置を行ったとしても日米同盟は揺らぐ事は無い。」またも言葉を切ってしばらく沈黙した。
「北朝鮮は今や世界にとっても驚異になろうとしている。拉致問題もあり日本にとっては敵国と認識されていても当然と思えるところだか、あのような国は資本主義の国において統治する事が望ましいと誰もが考えるところだ。」
柳瀬はジミーの言わんとしている事を察して恐怖に近い感情を抱いていた。
「日本国がアジアの中で中心となるべき大国である事はどの国にも異論はない事だろう」ジミーはただ続けて言った。
「イラク戦での日本の活躍と平和憲法への決別をした事を大統領も大変歓迎しています。これからの日本は必要な時には何時でも出兵できるという事だが、国の破綻以上の緊急事態はそうは無いと思えます。」ジミーは続けた。
「潜在的驚異となる敵国、内部の危機的状況、外された足枷・・・。日本のする決断にはアメリカは支援を行えると思うが、今回は、アジアの主たる日本の主体性が問われる時でもある」ジミーはそう言ったのだった。
その時、柳瀬はジミーの本心、アメリカの本心を考える余裕がなかった。アメリカはキリスト教徒以外の国を決して本心から信頼する事はなく、長期的には異教徒を排除することを計画している事を考えもしなかった。まして、日本人をインディアンの亡霊と思っているジミーの本心など知る筈もなかったのである。
第1章
「もちろん、表向きにはアメリカは積極的支持はしてくれません。しかし、積極的に批判もしないと約束してくれました。グレナダ、アフガン、イラクと過去アメリカは平和維持の名目で侵略に近い軍事行動を行っています。アジアの平和維持において日本が必要としたのなら一定の理解と場合によっては日米同盟の同盟国としての役割を果たす事になるとの意見を国連において用意するとの事です。」柳瀬は会議の席でそう言った。
「しかし、北朝鮮に核があったとしたら危険ではないかね」そう言ったのは山本である。
「それは無いでしょう」柳瀬では無く黒沢が言う「もし、北朝鮮が核を所有していたならば、アメリカが自ら動くはずです。アメリカは前のイラクで失敗したので今回は我々にその役を回したと言う事でしょう。アメリカの持つ情報を全て総合した結果、北には仮に核を開発中であってもまだ完成はしていないとの結論でしょう。」
「意見は一通り出尽くしましたか?」議長を務める三輪がまとめに入る「今日の国家破産に対して日本の取りうる道は、貯蓄凍結から徳政令、大増税と福祉の切り捨て、戦略的行為から他国に活路を見いだす。の三案が示された訳ですが、他にありますか?」三輪が一回り会議の出席者を見渡す。
案は出ないようであった。 「では、決を取りますか」三輪はそう言った。
議論は不十分であった。最初に結論ありきの議論であり、議論、会議と言うよりは説明会のようなものであった。
だが、この場の出席者全員にとっては議論とはそのようなものであった。誰も疑問に思う者はいなかった。
そうして、決は取られたのである。
思えば、第二次大戦敗戦後、日本はずっとアメリカの手のひらの上で踊っていた。奇跡的な大復興、これは対ソの前線基地として不沈空母として育てられたためである。ソビエト連邦が崩壊した時に日本は経済を変えなければいけなかった。だが、老人によって構成された内閣にはそれを思いつく者がいなかった。対イラン戦においてイラクは育てられ捨てられた。アメリカの超長期的戦略は第二次大戦終結より始まっていた。湾岸戦争において軍事行動を取らなかった日本を必要以上に辱め、イラク戦においては憲法を捨てさせ、さらにアジアの異教徒たちの粛清期に入ろうとしている事に誰も気付いてはいなかった。
ノストラダムスの予言には最後に戦うのはアメリカと中国という意味のものがあるが、予言は当たるのではなく、当たるように誘導するものがいるから当たるように見えるということもある。恐るべきアメリカのシンクタンクたちはキリスト教の秘教義を実現させようとする者で構成されていた。
第2章
「流石に日本国が積極的に侵略行為を行うという事はできません。戦争の発端は韓国と北朝鮮の間に起こる事になります。」神田が説明をしている。極一部の者のみの極秘会議である。「日本の立場とすると韓国に対して集団的自衛権の発動によって救援に入るというシナリオです。韓国の協力者には北朝鮮との統一のためとの事で協力を求めます。最終的には北朝鮮領土を韓国に売るとでも考えてもらうと分かりやすいかもしれません。アメリカとの協力により韓国、北朝鮮、中国、更に周辺諸国に武器を売り、韓国との協力により北朝鮮を平定し韓国に恩を貸しながら領土の調整と儲けを計ります。場合によっては中国の介入もあるかもしれませんが、アメリカと協力で本格介入を阻止します。」
ズサンな計画といえた。だが、それに誰も気付かなかった。平和憲法下で育った世代である。これから始まろうとしている事に興奮していた。興奮は理屈ではない感情である。愛が人を盲目にさせるように、興奮は全ての判断力を麻痺させてしまう。
歴史に残る様々な愚かしい行為と同じ道がまた開かれようとしていた。
第3章
「何を考えているのだ」藤亮は思わず声にだして言った。
総理の秘密諮問機関の出した結論があまりにも無謀なものだったからだ。
中国の存在が非常に矮小化されている。北朝鮮一国相手であっても現在の日本の戦力を冷静に判断した時には危険なのに「アメリカとの協力によって介入を阻止する」という一文で処理されているのでは子供の意見である。
日本は日清戦争に勝った時から「中国」をウドの大木と見ている風潮がある。日露戦争からノモンハンへの経験が全く生かされていないのである。日清戦争は過去のものであり中国は五大大国の一つである。近代化は進み核は日本をとらえているにもかかわらず、未だに田舎の大国との潜在意識があるのである。
マスメディアも積極的には中国の情報を流しはしない。流されるのは欧米諸国の情報ばかりである。
ノモンハンで当時最強と言われた関東軍が近代化されたロシアに惨敗したことすら知らない日本人は多い。
「日本には過去の栄光の幻影を追う老人政治家と、現実を理解せず机上の空論のみを唱える官僚だけしかいないのか」藤はそう毒づいた。
もちろん今回のこの計画は極秘裏に行われる。シナリオは38度線で緊張が高まる(高める)、小競り合いが起こり(起こす)、集団的自衛権の行使として日本は韓国を支援と称して韓国に駐留、戦端が開く(開かせる)、というものだ。国会も会議も何もない。総理の判断と決断のみでその計画は実行に移される事になる。
(野党が総理は重大案件を国民に負託を受けていない評論家に丸投げしていると騒いでいたが、こんな形でしっぺ返しが来るとは・・・、総理に会わねばならないか・・・)
藤はそれでも総理がこんな簡単な判断を間違える事はないと思っていた。
藤も判断ミスをしていた。総理の持つ情報は内閣調査室の藤と同等ではないという事を藤は見落としていた。総じて政治家は情報を持っていないのである。
彼らに与えられる情報は彼らの側近たちによって選別され、尚かつその選ばれた情報すら彼らの喜びそうな情報に変換されて伝えられる。そう言った意味では政治家という人種こそが日本の実態や本当の情報に一番弱い人種という事を藤も軽視していたのである。
第4章
「無理です。」伊達が言った。自衛隊の叩き上がりで日頃「最近の若者は自衛隊に資格の所得のために腰掛けとして来る者ばかりだ。敗戦後、日本には本当の硬派はいなくなってしまった。」を口癖にしている漢である伊達が言ったのだ。
「絶対に勝てません。」湾岸戦争、イラク派兵時には一番積極的だった伊達にしてそれが意見であった。
「中国は抑えると上部は言っている」と三浦
「中国抜きで勝てません。韓国との連合は巧くいきません。主導権を主張しあって共同戦線は組めないでしょう」と伊達
ここでも現場を知る者と知らぬ者の乖離があった。
「ヘタをすると後ろから撃たれます。そうでなくても日本に北朝鮮と戦い抜く力はありません。北朝鮮をなめすぎています。場合によれば初期段階は近代兵器で少し優位になるかもしれません。が、北の兵器も日本にさほど劣る物ではありませんし、国防隊には人間がいません。今から徴兵令をだしたとしてもとても使い物にはなりませんし、敵地で消耗戦になれば結果は見えてます。最初の一撃で致命的打撃を与えるのは不可能であり。消耗戦にはできないとなれば・・・」
「これは命令だよ。」三浦は伊達の意見を断ち切った。「徴兵もないし、作戦的に苦しいのは分かる、だが命令なのだよ。命令が下された時には与えられた条件下で任務の遂行に全力を尽くすのが君たちの仕事だよ」
作戦的に苦しいのではなく、作戦が破綻しているのだと言う事を三浦は理解しようともしなかった。そもそも三浦は意見を聞きに来たのであり命令を伝達に来たのではなかったのだが。
普段他人の意見を素直に聞き入れて新たな知識を求めようとせずに、自分の主張を押し通す事のみを正しいと思っている三浦の一言が破滅への一歩になる可能性をひめていることを三浦は想像すらしていない。
第5章
浮浪者が急激に減っていた。
いつもは会社につくまでに5〜6人は見かけるのだが最近はほとんど見かけない。
(政府の改革の影響で少し経済が上向いてきたのかな?)鈴木はそう思ったりしている。
「鈴木!」声が掛かった。市川であった。「韓国と北朝鮮の間で戦争になるかもしれないぜ」
しばらく前より二国間の関係は悪化しているとの事だったが、今日小規模ながら銃撃戦があったとの事を市川は言った。
「現在においては本格的な戦争になる事は双方の破滅になる可能性が強いのでブレーキが掛かって戦争までは行かないだろう。」鈴木はそう言って市川をたしなめる。
「そうかな〜?、核を持っていない国同士ならそうも言い切れないのではないか。現に中東では定期的に戦争が行われているし・・・」市川は不満そうだった。
「じゃあ、お前は本気で戦争になると思うのか?」と鈴木
「それは・・・」市川が口ごもる。「たしかに、そこまでは行かないと思うけど、もし行けば楽しいかな〜って」市川は笑った。不謹慎な意見だった。
平和な日常会話といえた。
日本の人口の5%になる失業者、その中で兵役に耐える人数だけでも数十万人にはなる、アメリカより無償貸与とされたアメリカの旧式兵器が彼らに与えられている事を鈴木も市川も想像すらしていなかった。
エピローグ(終章)
光があった。
それは魔の光であり。圧倒的暴力の光であった。
最初に神は「光あれ!」と言われたとか・・・
だが、今回の光は消滅の光であった。
核、
日本はほとんど瞬時に消滅したのである。
よく、京都が核の被爆から免れたのは日本の文化の保存のためとか思っている人がいるが基本的には誤った認識である。
外国では日本の文化などなんとも思っていない人が圧倒的多数である「京都」が核の洗礼を受けなかったのは単に終戦と爆撃目標の順番の問題である。
また、東京に天皇がいたから目標から外されたという認識も同様である。先日戦争秘話として次期目標に東京があったことが発表されたようである。
確かに日本の文化を好きな人もいる。その人達の意見が攻撃目標の順番に多少の変化をもたらした可能性はある。ただ、そんな人は極々少数なのだ。アメリカ人で親日派と呼ばれる人の政治での影響力などはゼロと言っても過言では無い。
今回はアメリカは日本を中国に売ったのだった。中国は核の本格実験、アジアの覇者としての力の誇示をしたかった。
アメリカは経済的に生意気なアジアの島国が目障りになっていた。さらには中国の広大な領土からの資源への発言権確保の意味から中国外交をより親密にする必要があった。その後、白色人種と黄色人種の対立構造は人類の種に関係する物語になっていくのだが・・・
今は両者の利害は一致していた。世界の中ではアジアの片隅にあった。生意気で物真似上手な有色人種が滅んだだけである。
国際為替市場にはかなりの混乱があり、一部の親日派の人達からは核を使用した中国に凄まじい非難があったが、やがて忘れ去られていった。あたかもアメリカ大陸は昔から白人の国家であるかのように・・・正当なアメリカ人は黄色人種であった事を忘れ去るかのように・・・
すべては終わったのである。 了
怖いですね、世の中って。
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