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http://www.jca.apc.org/~kmasuoka/articles/WPlegality.html
チェルシー・ブラウン&益岡賢
2005年11月28日
米軍が行った2004年11月のファルージャ攻撃についてイタリアのテレビが報じて以来、米軍が燐兵器を使ったことが話題になっています。
比較的まっとうな扱いの報道やネット上の紹介がある一方、米国の宣伝を自ら買って出る「自主的スターリン親衛隊おこちゃま版」型、あるいは「『荘子』列禦寇篇痔を舐むただし金さえもらえない」型の記事も散見されます。
米国のイラク侵略と不法占領自体がそもそも国際法に違反した犯罪ですから、その枠組みの中で米軍が犯した犯罪を指摘することは屋上屋を重ねるようなものですが、とりあえず、国際法の専門家の協力を得て、多少官僚的に、法的な論点を整理しておきます。
最初に、いくつかの前提を。
White Phosphorusは「白燐」と訳しておきます。なお、白燐弾は「弾」。一方、白燐爆弾は重さ数十キロの小型爆弾で、攻撃用のものは爆発後周囲のものを発火させます。
白燐弾でも白燐爆弾でも、法的な議論には大きな影響はありません。人権や人道、残忍な手段による戦争の制限をめぐる国際法では、新たにどんどん開発されるさまざまな兵器をも対象とすべく、「対人地雷」といった例外を除いて、兵器の種類によって禁止事項を定めるのではなく効果によって定めることがよくあるからです(「対人地雷」もまた類概念で、その概念自身は効果を含む属性により定められます)。
法の規定は、一般概念を定めて、その上で曖昧性を廃すために具体的な記述を相互に排他的かつ和をとれば全体を覆うように与える、あるいは例外規定を定める、というかたちに完全に形式化されてはいませんし、完全に形式化され得るものでもありませんが、一定程度そのようなかたちをとります。また、法体系は全体が相互に関係します。ですから、特定の条項だけを取り上げて「だから云々」という議論は、その断片を見る場合には妥当そうに思えても、必ずしもそうではないことがあります。少なくとも、Roberts, A. and Guelff, R. Documents on the Laws of War, 3rd ed. Oxford: Oxford University Press.の目次程度は見て、戦争に関係する国際的な法全体の見取り図は理解しておく必要があるでしょう。
以下、本論
白燐兵器が通常兵器か化学兵器かによって関連する法は異なる。
(1)米国が主張するように(ただし以下も参照)、白燐兵器が通常の焼夷兵器である場合。
焼夷兵器の使用の禁止又は制限に関する議定書(1980年の、特定通常兵器使用禁止制限条約の第III議定書)は、「いかなる状況の下においても、文民たる住民全体、個々の文民又は民用物を焼夷兵器による攻撃の対象とすることは禁止し」ており(第二条1)、また、「いかなる状況の下においても、人口周密の地域内に位置する軍事目標を空中から投射する焼夷兵器による攻撃の対象とすることは禁止し」ており(第二条2)、「人口周密の地域内に位置する軍事目標を空中から投射する方法以外の方法により焼夷兵器による攻撃の対象とすることも」禁止している(第二条3)。
ただし、米国は特定通常兵器使用禁止制限条約は批准したものの、第III議定書は批准していないため、ファルージャでの米国による白燐兵器の使用はこの議定書にしたがって違法であるとの議論はできない。
しかしながら、(a)1907年の、陸戦の法規慣例に関する条約(ハーグ陸戦条約)およびその条約付属書、および(b)1977年のジュネーブ諸条約第一追加議定書のもとで、ファルージャにおける白燐兵器の使用は不法であると論ずることができる。
ハーグ陸戦条約の付属書は次のように述べている。
第22条:交戦者は、害敵手段の選択に付、無制限の権利を有するものにあらず。
第23条:特別の条約をもって定めたる禁止のほか、以下は特に禁止する:
(e)不必要の苦痛を与える兵器、投射物その他の物質を使用すること。
これらの規定は非常に基本的で一般的なものである。これに対して、1977年のジュネーブ条約第一追加議定書は、戦闘行為の結果に対する文民の保護をめぐり、はるかに詳細で特定的な規定を与えている。これは、上で述べた1907年のハーグ条約を具体化し補足する位置づけを持つものである。けれども、米国は同議定書に署名はしたが批准はしていない。したがって、ファルージャにおける米軍の犯罪について同議定書に特に訴えることもできない。
しかしながら、ファルージャにおける白燐兵器の使用は国際慣習法のもとで不法であると論ずることができる。第一に、1907年のハーグ条約/付属書は慣習法の反映であると見なされている。第二に、1977年のジュネーブ条約第一議定書に定められた保護規定の多くは、慣習法の地位を有する国際人道法の一連の一般原則に包含されている。すなわち、(a)文民と戦闘員とを区別する原則(識別の原則)および無差別攻撃の禁止(「紛争当事者は常に戦闘員と非戦闘員、軍事標的と民用物を区別しなくてはならない」、また、文民および文民の財産にもたらす結果を無視した軍事行動をとってはならない)。(b)軍事的必要性の原則(紛争の当事者は軍事的に必要な兵力および方法と手段しか用いてはならない)、(c)余分の危害や不必要の苦痛を生じせしめることの禁止、である[注:一般原則および引用は、"The International Legality of Depleted Uranium", by Avril McDonald [Head of the Section of International Humanitarian Law and International Criminal Law at the TMC Asser Institute for International Law in The Hague, the Netherlands, and Managing Editor of the Yearbook of International Humanitarian Law] , Background Paper for presentation on "The International Legal Ramifications of the Use of DU Weapons", Symposium on The Health Impact of Depleted Uranium Munitions, held at the New York Academy of Medicine, 14 June 2003.より]
なお、焼夷兵器には、「焼夷効果が付随的である弾薬類」や「焼夷効果により人に火傷を負わせることを特に目的としていない」ものは含まれないと特定通常兵器使用禁止制限条約にはありますが、「おこちゃまスターリン親衛隊」的に米国の片棒を担ぐのではない限り、これにより白燐兵器を焼夷兵器から除外することは困難です(再び、米国自身による議論として下記参照)。
(2)白燐兵器が化学兵器である場合。
1993年の化学兵器禁止条約のもとで、化学兵器の使用は禁止されている(第1条(b))。文民たるか戦闘員たるかを問わず、化学兵器は誰に対して使用することも不法である。
同条約の第2条によると、「『化学兵器』とは、次の物を合わせたもの又は次の物を個別にいう。
(a)毒性化学物質及びその前駆物質。ただし、この条約によって禁止されていない目的のためのものであり、かつ、種類及び量が当該目的に適合する場合を除く。
(b)弾薬類及び装置であって、その使用の結果放出されることとなる(a)に規定する毒性化学物質の毒性によって、死その他の害を引き起こすように特別に設計されたもの
(c)(b)に規定する弾薬類及び装置の使用に直接関連して使用するように特別に設計された装置」
現在の論争点は、害を引き起こすのが白燐兵器の熱かそれとも毒性物質か、である。毒性物質であるならば、白燐兵器は化学物質と定義できる。化学兵器禁止条約の実施状況をモニターする組織である「化学兵器禁止のための組織」のピーター・カイザーは、BBCに対し、「白燐の毒性、腐食性を特に兵器として用いる意図があるならば、当然それは禁止される。というのも・・・・・・化学物質の毒性により害や死を引き起こすために用いられる化学物質はどんなものであれ化学兵器と見なされるからである」(
http: //news.bbc.co.uk/2/hi/americas/4442988.stm
)。けれども、やはり彼にインタビューしたインディペンデント紙によると、「白燐が引き起こした火傷は熱によるもので化学物質によるものではなく、化学兵器禁止条約では禁止されていない」という。BBCの記事とは対立する見解である[注:ただし、インディペンデント紙の記事はカイザーの言葉の直接引用ではなく、記者が言い換えたものである:
http: //news.independent.co.uk/world/americas/article327094.ece
)
ただし、米軍自身が白燐を兵器として使用するのは不法だということを知っていたという証拠がある。ジョージ・モンビオットは、「カンザス州フォート・リーベンワースにある米軍司令部士官学校が出版した『バトル・ブック』の中に、「白燐を人間の標的に用いることは陸戦法に反する」と書いてあることをデイヴィッド・トレイナーが発見した」と書いている(
http: //www.guardian.co.uk/Columnists/Column/0,5673,1647998,00.html
)。
彼はまた、機密解除された米国国防省の1991年の文書が、サダムがクルド人に対して「白燐化学兵器」を使ったかも知れないと書いてある下りも引用している。この文言は、ペンタゴンが実際に、白燐を不法な化学兵器と考えていることを示している。該当部分は:
イラクは白燐化学兵器をイラク=トルコ=イラン国境地帯のクルド人住民に対して使ったかも知れない。
1991年2月末、連合軍がイラクに圧勝したのち、クルド人反乱部隊がイラク北部でイラク軍に対する闘争を激化させた。クルド人蜂起に対して加えられた残忍な弾圧の際、サダム(フセイン)大統領に忠実なイラク軍兵士たちは、白燐(WP)化学兵器をエルビル州とドフク州のクルド人反乱部隊と住民に対して用いたかも知れない。
法的にも政治的にも、白燐は化学兵器であり国際法のもとで禁止されているという議論のほうが強力なのは確かである。