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【「よど号」ハイジャック事件】の「分水嶺」ーー岡崎福造氏の自伝『流動』の証言から
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投稿者 とこしえ 日時 2005 年 11 月 14 日 13:48:09: CkkAw/nLbPHJc
 

 北朝鮮による「拉致」事件に関連して時おり話題になる「よど号乗っ取り事件」。
 事件に関してさまざまな書籍が出ているが、「赤軍派」セクト内部にいた関係者から客観的な証言が得られる機会は数少ない。
 そうしたなか、当時、「よど号」事件の前の「赤軍派」一斉検挙で逮捕・拘留され、その後運動を離れ、現在は会社経営者として成功している岡崎福造氏の自伝『流動』(東邦出版刊)がこのほど上梓された。(『流動』という書名からかつての新左翼系の雑誌名を思い出す人も少なくないだろう。この雑誌と総会屋との繋がりを指摘する人も少なくないのであるが)
 岡崎氏自身が「赤軍派」に所属したのが短期間であることもあり、『流動』には「赤軍派」の活動状況についての詳細な叙述があるわけではない。しかし、『流動』には、見逃せない事実関係が書かれている。
 岡崎氏は、「よど号」事件の前にハイジャック計画について説明を受けていたというのである。
 「よど号」事件の前に、実行犯以外にも多くの末端の活動家が「計画」を知っていたのである。
 この事実から、思い出されることがある。それは、ハイジャック計画が事前に警備公安当局に察知されていたという説である。
 これはおそらくうわさ話なのだろうと、ずっと信じてこなったのであるが、今回、国会議事録を検索して確認することができた。
 調べてみると、「よど号」事件の直後、参議院予算委員会で警察庁の川島警備局長が、赤軍派内の協力者に金まで出していること、国外脱出計画を事前に察知していたことを示唆しつつ、何ら対策をとらなかったことを認めていた。
 1970年4月1日の参議院予算委員会の議事録を見てみたい。 以下は、質問者の渡辺武議員と警備局長の質疑応答である。
○渡辺武君 (前略)三月五日付の読売新聞によりますと、この赤軍派なる暴力学生集団は、ことし一月の政治集会で、サンフランシスコ、メキシコ、キューバ、北鮮などに武装蜂起の拠点をつくり、世界各地で一斉武装蜂起をするなどの方針をきめたという記事が載っております。さらに一これらの国への集団密航計画をすでに具体的に進めていると報じております。昨夜の朝日新聞の夕刊も同様の記事を載せておりますし、けさの朝日新聞は、日航機乗っ取りのうわさも捜査当局は事前にキャッチしておった、そうして警視庁公安一課を中心に赤軍派特捜班を編成してワン・ツー・ワン方式、つまり相手一人に対して係官一名という方式で警戒をしていたということが報じられております。ところが同じ昨晩の日本経済新聞の夕刊によりますと、最近赤軍派が比較的静かなところから、当局では一時のようなマン・ツー・マンによる警戒を行なってはいないという記事が載っているわけです。これは国民の間に非常に大きな疑惑を招いている、私どもはそう思います。そこで伺いたいことは、当局は当然この日航機の乗っ取りの問題こうした動きをキャッチしていたと思いますけれどもどうでしょうか。どんな捜査をいままでにやっておられたか、その点を伺いたいと思います。
○政府委員(川島広守君) お答えいたします。
 ただいまお尋ねの赤軍派でございますが、この派閥は昨年の七月の六日に明治大学の和泉校舎でいわゆる共産主義者同盟との分派争いで重傷者などを出すなど、いろいろな不法事犯があったわけでございます。以来現在まで、十一月五日の大菩薩峠の事件でございますとか、あるいは本富士警察署の事件でありますとか、あるいは大阪における派出所、交番の火災びんの襲撃事件でございますとか、そういうような不法事犯が合計で四十四件発生いたしておりまして、特に、昨年の九月には大阪でいわゆる大阪戦争と彼らが称し、あるいは十月には東京でまた東京戦争と称しまして、きわめて過激な不法行為を実は敢行してまいったわけでございます。さようなきわめて過激な集団でございますので、警察といたしましては、昨年の七月以降現在まできわめて精力的に彼らの動向につきましては現実に情報も入手につとめ、さらにまた彼らの危険な分子につきましては徹底したマークをいたしまして、今日に至ったわけでございますが、ただいま読み上げられました新聞に出ております報道の内容とは違いまして、警察といたしましていささかも油断をいたしておりません。なかんずく本日の予定でございましたが、午後の五時から日比谷の公会堂で彼らが言っておりますところの日本革命戦線準備委員会の結成大会を公会堂で開くということでございましたので特に力をそそぎまして、三月の中旬以降特におも立った活動家数十名につきましていまお話しのございましたような方法によって徹底してマークしてまいったわけでございますが、残念ながら今回の、本件の乗っ取り事件につきましてはまだいずれも正確には赤軍派の幹部であるかどうかは断定する材料はございませんけれども、先ほど大臣がお答え申しましたように、乗客の方々の証言なり、あるいはまた受付の人たちの面割りによりましておおむね間違いなかろうというようなところまでいま判断が進んでおるわけでございまして、いずれにしましても本件の事件についての端緒を得られなかったことははなはだ残念に存じておる次第でございます。
○渡辺武君 国外に脱出しようと、特に日航機乗っ取りをしようといううわさが流れていたという記事があるわけですが、この情報を事前にキャッチしておったかどうか。
○政府委員(川島広守君) お答えいたします。
 一月の十六日に全電通の会館で集会がございまして、そこでさまざまなことが議論されたという情報を入手いたしております。その中では、彼らの言っていることの中に、いわゆる国際的な根拠地をつくる必要があると、そういうふうな意味合いで、たとえばということでキューバなんかがその候補にあがっておる、あるいはサンフランシスコというようなことがあがっておったということは知っております。しかしながら、いまお話しのように、飛行機を乗っ取って云々でございますとかそういうふうな情報は入手しておりません。
○渡辺武君 今度彼らが行くと主張している朝鮮民主主義人民共和国の名前も一月の彼らの政治集会でははっきり出ている、ですから、少しいまの御答弁は、捜査当局がこれらの暴力学生集団に対してやっぱり捜査という点で若干甘かったのじゃないかというふうに考えざるを得ません、その点どうでしょう。
○政府委員(川島広守君) 先ほどのお答えに若干つけ加えたいと思いますが、飛行機を乗っ取って云々という情報はもちろんなかったわけでございますけれども、幹部の数人、何人かをキューバなんかに送ってそこでいわば革命のための訓練をするないしは武器の調達をはかるというふうな種類の内容の情報は入手いたしておりました。したがって、先ほども触れましたけれども、特に本日の結成大会、これが彼らはことしの秋にいわゆる彼らのことばで言います武装蜂起をしようということはかねて一月の集会でも言っておるわけでございますから、そういうふうな彼らの言っておりますことに従って、わがほうとしては厳重な視察内偵を遂げてきたわけでございます。ただ、いまお話しのございましたように、警察のほうの取り締まりが不十分であったというお話でございますが、本件に限って申せば、結果的にあのような不幸な事件が起こったわけでございますから、その点ははなはだ残念に考える次第でございます。
○渡辺武君 ところで、おととしだったと思いますが、おととしの八月六日に開かれた同じ暴力学生集団のアナーキスト団体ですが、背叛社という団体があります、この団体の爆発物取り締まり規則違反事件の東京地裁の公判に際して、警視庁公安一課の間々田警部補という人が情報を取るためと称して多額の金を背叛社の責任者とみなされる和田俊一なる男に渡して、さらに自民党本部を襲撃したらどうだというようなことまですすめていたことをこの和田本人が公判廷で述べております。そうしてこの事件が起こったその翌日に警視庁の山本鎮彦公安部長が、アナーキストに限らず暴力学生集団などに対しても活動家と接触しているということを記者会見で公言しているわけであります。こういう状態でありますから、警視庁あるいはその他の捜査当局が同じ暴力学生集団である赤軍派にも同様の接触があったんじゃないかというふうに考えますけれども、その点はどうでしょう。
政府委員(川島広守君) 先ほどお話し申し上げましたように、現在数多くございますこの過激な暴力集団のセクトの中でも、特に最も治安上配慮を必要とします??治安上最も問題でありますのがいま申しました赤軍派がその一つでございまするし、さらにまたお話がございました背叛社等の行動的なアナーキスト・グループ、これもその一つでございます。お尋ねに率直にお答え申しますならば、赤軍派の中にも現実に協力をしてもらっている者はたくさんございます。
○渡辺武君 そういう接触をしている、情報を取ると称して金まで渡しているという接触があるということですと、これは今度の日航機乗っ取り事件を事前にキャッチしていたんじゃないかというふうに考えられますけれども、重ねて御答弁いただきたい。
○政府委員(川島広守君) 先ほどもお答え申しましたように、昨年の秋以来本富士警察署をはじめといたしまして、大阪の幾つかの交番、派出所が襲撃を受けて、多くの警察官がけがをしておる事案につきましては先ほど申し上げましたとおりでありますが、もしもかりにこのようなことについての情報を得ました場合には、いずれも未然にさまざまな手を打ってやっておるわけでございます。現にたとえば大菩薩峠の場合でもそうでございますけれども、昨年の九月、十月の事案の中でいろいろ彼らが画策しましたものの中で、もしも決行されれば大事に至ったであろう事件は、数多く事前に検挙をして実は治安を守ってきたわけでございまして、今回は、先ほども触れましたように、本件につきましては残念ながらそのような情報の入手ができなかったわけでございます。

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 川島警備局長は、警備当局としての失態を暗に認めているかのようである。
 しかし、失態ではなく、意図された「見逃し」であったのかもしれない。
 実際は、警備公安当局は、「赤軍派」内部に協力者をつくるなど、マンツーマンで活動家をマークしていた。岡崎氏の自伝『流動』にも、「よど号」事件の前に「赤軍派」系学生の大量検挙があったことが明白である。
 事実関係を整理してみたい。
 警備当局は、ハイジャック計画の前に「赤軍派」活動家を大量に検挙した。「赤軍派」内部に協力者がいたとすれば、簡単なことだっただろう。もちろん、「ハイジャック計画」に関しても警備当局は知っていたはずである。
 「赤軍派」の末端の活動家たちは逮捕されたが、計画の中心メンバーは逮捕されなかった。そして、「よど号ハイジャック事件」は起こった。
 いったい警備公安当局は、なぜ、「赤軍派」活動家の一斉検挙を実施した一方で「よど号事件」だけは見逃したのか?
 今日では、ハイジャック事件が起こることによって日本社会に与える様々な影響-----左翼全体、学生運動全体のイメージダウン、治安強化を求める世論の拡大-----を予測したうえで、あえて計画を阻止しなかったという説が有力になっているが、未解明のままである。
 『流動』の著者・岡崎氏は、事件前に逮捕されたがゆえに「ハイジャック」の犯行グループに参加しないで済んだこと、セクトの「英雄」ではなく、無名の「一兵卒」のままでセクトを離れたことを人生の「幸運」ととらえている。そうしたとらえかたは、とても珍しく、実に清々しい。
 他方、「よど号」事件の実行犯たちは、事前に日本の為政者によって選ばれ、北朝鮮に送り込まれた、「期待の星」、「エリート」だったのかもしれない。そして、今も「北朝鮮」の脅威を野方図に煽る日本の権力者にとって都合のよい存在であり続けている。
 こうして考えると、「よど号」事件に参加した者としなかった者を峻別した「分水嶺」は、意外なほどに険しいものだったのかもしれない。

 ※岡崎福造氏の自伝『流動』はアマゾンなどネット書店でも購入できます。以下のURLから買えば、阿修羅運営費用のサポートができるはずです。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4809404862/asyuracom-22/qid=1131895948/sr=1-1/ref=sr_1_2_1/249-4376287-4838768

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