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□ホワイトハウス・スキャンダルの深層 [田中宇の国際ニュース解説]
http://tanakanews.com/f1101whitehouse.htm
ホワイトハウス・スキャンダルの深層
2005年11月1日 田中 宇
アメリカで、チェイニー副大統領の補佐官だったルイス・リビーが起訴され、辞任した。今回の起訴は、ホワイトハウスの高官が、イラク侵攻をめぐるウソを隠すため、違法な機密漏洩を行ったとされる疑惑事件の一部であり、アメリカのマスコミやウェブログでは「ホワイトハウスをめぐるスキャンダルがいよいよ始まった」という感じの記事が多い。(関連記事)
http://news.ft.com/cms/s/0e6c02e8-4713-11da-b8e5-00000e2511c8.html
「チェイニー副大統領も辞任に追い込まれ、後任の副大統領はライス国務長官が昇格して就任するだろう」「ライスは、そのまま共和党の次期大統領候補になるかも」「いやいや、ライスは妊娠中絶の容認に賛成なので、キリスト教原理主義が強い今の共和党では、大統領としてふさわしくない」といった気の早い記事まで出ている。(関連記事)
http://www.usnews.com/usnews/news/articles/051018/18whwatch.htm
大げさな報道ぶりとは裏腹に、今回のリビーに対する起訴内容は、大したことがない。起訴状は、リビーが議会での証言でウソをついたり、捜査妨害をした罪を問うものにすぎず、機密を漏洩した罪をリビーに問うていない。偽証罪すら、リビーが「曖昧な記憶をもとに証言した結果、間違えたのであって、意図的な偽証ではない」と主張し立証できれば、罪にならない。(関連記事)
http://www.guardian.co.uk/worldlatest/story/0,1280,-5378026,00.html
事件の捜査に当たっている特別検察官のパトリック・フィツジェラルドは、機密漏洩を行ったのが誰なのか、まだ示していないうえ「チェイニー副大統領は、犯罪には関与していない」と表明している。事件はしりすぼみに終わる可能性もある。(関連記事)
http://seattletimes.nwsource.com/html/politics/2002590749_leakcheney29.html
事件がどこまで波及するかは分からないが、このスキャンダルは構造として「イラク戦争は正しかったのか」という巨大な疑問に答えを出そうとする事件となっている。
▼事件の1層目と2層目
このスキャンダルについては、先々週の記事「アメリカの機密漏洩事件とシリア」に書いたが、改めて説明する。事件の発端は2003年7月、シンジケート・コラム(複数の媒体に同時配信される論評記事)やニューヨーク・タイムスなど、アメリカのいくつかのマスコミに、バレリー・プレイム・ウィルソンという女性がCIAの秘密要員であることを暴露する記事が出たことだ。
http://tanakanews.com/f1018syria.htm
CIAは、世界各地で秘密裏に核兵器開発がおこなわれていないかを探知する秘密調査網を持っており、それは表向き、一般企業の国際支店網という形を取っていた。プレイムは、その企業に勤め、国際的な秘密調査網を管理する任務を負っていた。プレイムがCIA要員だということが暴露されたため、秘密調査網の存在も世界に暴露されてしまい、CIAは重要な情報収集の手段を無効にされてしまった。
アメリカではCIAの秘密要員の正体を暴露することは違法とされている。そのため、誰がマスコミにプレイムの正体を暴露したのかが米議会で問題になり、司法省はフィツジェラルドを特別検察官に任命し、昨年春から捜査が始められた。
以上の説明は、事件の最も表層の部分である。事件には、この下に何層もの深層がある。2番目の層は、プレイムがCIAであることを暴露する最初の記事が出る8日前の2003年7月6日、プレイムの夫である外交官のジョセフ・ウィルソンが、ニューヨークタイムスに載せた投稿に関係している。ウィルソンは「ブッシュ政権は、イラクがニジェールからウランを買って核兵器を開発しようとしていた、という事実でない主張を行い、イラク侵攻を正当化した」とする政権批判の論文を書いた。
http://www.commondreams.org/views03/0706-02.htm
イラク侵攻の1年半前の2001年暮れから、米政府の中枢では、イタリアから持ち込まれたとされる1枚の「契約書」をめぐって論議になっていた。それは、アフリカのニジェール政府が、自国の鉱山のウランを、フセイン政権のイラクに売る約束をした文書だった。ウィルソンは、この契約書に対する調査を行った人である。(関連記事)
http://news.bbc.co.uk/2/hi/americas/3156166.stm
この文書については私は、すでに何度か記事にしている。契約書には、ニジェールの外務大臣の署名が入っていたが、署名は契約書が作られる10年前に退任した以前の大臣のものだった。契約書はニジェール政府の紋章の入った紙に印字されていたが、その紋章も、契約書の作成日にはすでに使われていない古いものだった。(関連記事)
http://tanakanews.com/d0408mi6.htm
ニジェールのウラン鉱山のうち一つは、フランスが採掘・販売の管理をしており、ニジェール政府が自由にできるものではなかった(全量が、フランスを通じ、日本などの電力会社に原発の燃料として長期契約で売られており、スポット売買はできない)。もう一つの鉱山は水没しており、採掘不能だった。(関連記事)
http://www.realcities.com/mld/krwashington/13024382.htm
▼ホワイトハウスとCIAの戦い
CIAは、この契約書をニセモノと判断したが、チェイニー副大統領らホワイトハウスの高官たちの何人かは「ニセモノではない」と言って聞かなかった。しかたがないのでCIAは2002年2月、アフリカ担当が長い外交官のウィルソンをニジェールに派遣して詳細に調べ、契約書がニセモノであることをホワイトハウスに納得させようとした。しかし、それも聞き入れられなかった。
「イラクがアフリカからウランを買って核兵器を開発しようとしている」という主張は、開戦直前の2003年1月にブッシュ大統領が発表した年頭教書演説にも盛り込まれ、イラクに侵攻する主な理由とされた。
開戦後、一段落したところで、ニジェールウランの契約書がニセモノだという話が再び米政界で問題になり、ウィルソンはホワイトハウスを批判する論文をニューヨークタイムスに書いた。
それに対するホワイトハウスからの「反撃」が、ウィルソンの妻のプレイムはCIA要員だということを暴露する記事を、8日後にマスコミに書かせたことだった。そして、これに対するCIA側からの「再反撃」が、プレイムの正体を暴露したことの違法性を問う今回のスキャンダルである。
つまり、多重構造をなす今回の機密漏洩事件は、1番目の層が「ホワイトハウスの高官がCIA要員の正体を暴露した罪」で、2番目の層が「ホワイトハウスが、ニジェールウランの契約書がニセモノだと知りながら、それを本物であるかのように装い、それを開戦事由にしてイラクに侵攻した罪」である。(関連記事)
http://www.antiwar.com/news/?articleid=7732
▼ブッシュにイラク撤退を迫るためのスキャンダル
機密漏洩事件の3番目の層は「開戦前からニセモノと分かっていたニジェールウラン契約書の問題を、なぜ今になってスキャンダルにするのか」ということに関係している。
ニジェールウラン契約書の件は、イラク侵攻前から米英の新聞に出ていた。米議会の議員らは皆、この件を簡単に知ることができたはずだ。しかし当時は皆、この件に知らんぷりをして、挙国一致でブッシュのイラク侵攻に賛成していた。
それはおそらく「米軍はイラクで快勝し、簡単に親米政権を作れる」という、当時のウォルフォウィッツ国防副長官らネオコンの主張を信じていたからだろう。当時のアメリカの好戦的な世論の中では、政治家は、快勝できる戦争に反対すると、後で政治生命を失うことになりかねなかった。
だがその後、予想に反してイラクは泥沼化し、アメリカの財政は逼迫し、戦死者は増え続け、ブッシュ大統領に対する支持率も下がり続けている。戦死を恐れて米軍に志願する人が減って新兵募集も滞っているのに、イラクの状況は好転せず、米軍は、開戦時よりも多い16万1千人をイラクに駐屯させざるを得ない状況だ。(関連記事)
http://news.yahoo.com/s/afp/20051027/pl_afp/usiraqforces
与党共和党内には、早期撤退を望む声が広がっている。その一方で、ブッシュ大統領は「何が何でもイラク占領を成功させて歴史に名を残す」と決意しているらしく、ゲリラが強い今の状況下で撤退計画を立てることを拒否している。(関連記事)
http://www.atimes.com/atimes/Middle_East/GJ28Ak01.html
そのため、イラクの泥沼化がひどくなってきた今春以降、共和党内では、ブッシュを追い詰め、イラク占領に対する態度を変えさせて早期撤退を実現したいと考える勢力が増えている。おそらくこの勢力は、今回の機密漏洩スキャンダルをなるべく大きな事件にしようと、特別検察官を後押ししている。
▼「サイゴン陥落」の二の舞か?
ブッシュが「強硬派」「右派」なので、これに対抗し、共和党内でイラクからの早期撤退を求めている勢力は「穏健派」「中道派」と呼ばれている。共和党の穏健派は、アメリカの軍事力や経済力、国際的な威信が、イラク戦争によって自滅的に削がれていることに歯止めをかけ「世界最強のアメリカ」を何とか維持することが目的である。
だが、イラクからの撤退は上手に行わないと、ベトナム戦争の「サイゴン陥落」のように、アメリカの威信を失墜させ、世界の反米勢力を活気づけ、ドル暴落などを引き起こす事態になりかねない。
アメリカがイラクから上手に撤退するためには、イラク国内の武装した諸勢力が米軍の撤退に乗じないよう、イラクの周辺諸国に頼んでコントロールしてもらう必要がある。イラクのシーア派はイランの支援を受けているし、スンニ派はサウジアラビアやシリアの言うことなら聞く。アメリカが上手に撤退するには、イランやシリアとの関係改善が必要である。共和党の穏健派は、秘密裏にシリアに代表団を派遣し、この件について話し合ったりした。(関連記事)
http://tanakanews.com/f1015syria.htm
ところがホワイトハウスのブッシュ大統領やライス国務長官は、こうした穏健派の動きを阻止するかのように、シリアやイランに対し「次はお前たちを潰す」と言っているに等しい敵対的な態度をとり続けている。
今後、ホワイトハウスの中枢にスキャンダルが及び、ブッシュ大統領は窮地に陥り、事件の摘発を推進する共和党穏健派と折り合いをつけるため、イラクから撤退せざるを得なくなるかもしれない。しかし、それまでにシリアやイランとアメリカの関係が改善されている可能性は低い。スキャンダルの結果、来年あたりに米軍がイラクから撤退するとなると、アメリカにとって「サイゴン陥落」以来の屈辱的な展開になりかねない。
しかも、米軍撤退後のイラクでは、シーア派に対するイランの、スンニ派に対するシリアの影響力が強まることは必至だ。アメリカは、イラクに侵攻したことにより、この地域の人々を前より反米にしてしまい、石油利権も失うことになる。
以上の3番目の深層からすると、機密漏洩事件は、ブッシュを追い詰めてイラクから撤退させるために、共和党穏健派が糸を引いていると思われるが、穏健派が思っているような上手なイラク撤退は、現状では難しい。
▼ネオコンの罪を暴く意図
機密漏洩事件の4番目の深層は、このスキャンダルが「ネオコンの罪を暴く」という様相を呈していることである。
ネオコン(新保守主義派)とは、イスラエルの右派(リクード右派)のアメリカ支部ともいうべき勢力で、イスラエルのためにアメリカの政策を動かす人々である。今回起訴されたルイス・リビーのほか、国防副長官だったポール・ウォルフォウィッツ(現・世界銀行総裁)、国防次官だったダグラス・ファイス(イスラエルのロビー団体AIPACが絡んだスパイ疑惑で辞任)、国務次官だったジョン・ボルトン(現・国連大使)、国防政策委員長だったリチャード・パールらがネオコンであるとされている。
http://www.tanakanews.com/e0903franklin.htm
ネオコンは1970年代の「米ソ雪解け」の時代、軍事費を削られて困っていたアメリカの軍事産業(軍産複合体)の復活に協力することを通じ、米政界の中枢に入り込んだ。ネオコンは、誇張やウソ情報、マスコミ操作を駆使し、小さな脅威を大きく見せることが特技だった。1980年代のレーガン政権では、ソ連の脅威を誇張し、レーガンにソ連を「悪の帝国」と呼ばせて「雪解け」を終わらせ、巨額のミサイル防衛構想を立ち上げた。これ以来、共和党では、ネオコン(イスラエルロビー)と軍産複合体との連合体が最有力の勢力となった。(関連記事)
http://tanakanews.com/d1214neocon.htm
1982年の米軍のレバノン侵攻や、1991年の湾岸戦争は「イスラエルの近くに米軍を長期駐屯させ、米軍をイスラエルの衛兵として使う」というネオコンの作戦に基づいたものだったが、イスラエルに良いように使われることを嫌う米政界の旧主流派の反攻によって、途中で切り上げて米軍が撤退するかたちで終わっている。2003年のイラク侵攻は、ネオコンにとって、湾岸戦争で果たせなかった「米軍をイラクに駐屯させる」という目標を12年ぶりに達成するものだった。(関連記事)
http://tanakanews.com/d1219neocon.htm
レーガン政権の2期8年間では、1期目の4年間は、ネオコンと軍産複合体の天下だったが、2期目に入ると、1985年前後に「イラン・コントラ事件」と「ジョナサン・ポラード事件」という、ネオコンとイスラエルを不利にする2つのスキャンダルが起こり、ネオコンは力を落とし、旧主流派(中道派)が巻き返した。
▼「イラン・コントラ事件」と同じ意味?
中道派は、レーガン政権内で巻き返した後、レーガンとゴルバチョフの会談を成功させ、軍事産業が勢力拡大の道具として使っていた冷戦を終わらせた。同時に、ドイツ統一を促進し、統一ドイツを核としたEUの結成を促し、EUをアメリカに対抗する大きな勢力にした。これにより、世界の覇権構造を多極化し、イスラエルやネオコンがアメリカの政権を牛耳っても、それが世界全体を牛耳ることにはならないという、新しい世界体制を作ろうとした。
EUは、パレスチナ問題でイスラエルを強く批判しているが、これはネオコンに牛耳られたアメリカがイスラエルを批判できない分を肩代わりする意味がある。
2001年に就任したブッシュ政権で、再び米政府の中枢に入ったネオコンは、中道派が作った世界の多極化傾向を無効にするため、911を機に「単独覇権主義」を打ち出した。これは「EUの覇権拡大を容認しない」「アメリカはEUや、その他の国際社会の言うことなど聞かない」という方針である。
同時にネオコンは、ホワイトハウスや国防総省で、イラクに侵攻するための理屈を作る工作活動を行った。その一つが、ニジェールウランの契約書である。このニセの契約書を作ったのは、イタリアの諜報機関の関係者であると指摘されているが、それをホワイトハウスに持ち込み、開戦事由として使ったのはネオコンである。(関連記事)
http://www.amconmag.com/2005/2005_11_07/feature.html
今後、機密漏洩事件の捜査の進展によっては「ニセの契約書を使って米軍にイラク侵攻させたのはネオコンである」ということが、アメリカの公式見解になっていく可能性がある。この事件は、レーガン政権時代の「イラン・コントラ事件」と同じ意味を持つかもしれない。
つまり「単独覇権主義」「中東民主化」など、ネオコン的な理論がブッシュ政権から一掃され、EUとの関係を再び緊密化し、中国やロシアの台頭を黙認して世界の多極化を進めるという中道派の戦略に取って代わられる可能性がある。
▼無茶なタカ派戦略をわざとやる新中道派
とはいえ、このような明確な方向転換は、今のブッシュ政権の状態からすると、考えにくい。
米政界には「ブッシュ政権がやっているネオコンの戦略は、アメリカの力を無駄遣いしているので、それをやめさせて、強いアメリカを復活させたい」と考えている「中道派」がいるのは事実である。しかしその一方で、中道派の中には「ネオコンの戦略をどんどん過激にやってアメリカの力を無駄遣いさせ、アメリカの覇権を故意に低下させることによって、世界を多極化したい」と考えている「新中道派」とでも呼ぶべき勢力がおり、こちらの方が、旧来の中道派よりも強い。
新中道派にとっては、ブッシュ政権を方向転換させる必要などない。タカ派的な強硬策をどんどん無茶にやっていれば、自然とアメリカは衰退し、中道派が目指していた多極化が実現され、弱くなったアメリカは国際協調主義の方針しかとれなくなる。ネオコンの政策を乗っ取って、中道派の政策を実現しようという戦略である。
私が見るところ、この乗っ取り策を最初にやったのは、パウエル前国務長官である。開戦前の記事「イラク戦争を乗っ取ったパウエル」にも書いたが、国務長官だったパウエルは、イラク侵攻の4カ月前の2002年12月中旬のホワイトハウスの会議以来、穏健派からタカ派に転じている。
http://tanakanews.com/c1226powell.htm
パウエルはその後「EUとの協調など必要ない」「国連のイラク査察はやっても意味がないので、早くやめて侵攻した方がいい」などとネオコン風の発言を繰り返しつつ、2003年2月には国連で、誰が見ても証拠になりそうもない事柄を並べて「これが、イラクが大量破壊兵器を開発している証拠だ」と演説した。これはどうみても、わざとアメリカに対する信頼を損なう行為だった。(関連記事)
http://tanakanews.com/d0210iraq.htm
▼パウエルの「隠れ多極化戦略」を受け継いだライス
私は当時は、パウエルは戦争を回避するために、タカ派に転じたふりをしているのだろうと思っていた。だから、イラク侵攻が実際に起きた時、これはパウエルら中道派の敗北で、ネオコンの勝利であると考えた。ところが、その後のブッシュ政権の行動は、予想に反するものだった。口ではタカ派的なことを言いながら、実際にやっていることは中国やロシアなどに対して譲歩する「隠れ多極化戦略」が始まったのである。(関連記事)
http://tanakanews.com/d0617neocon.htm
(多極化戦略の意味については こちらを参照) http://tanakanews.com/f0906multipolar.htm
その一方で、米軍はイラクの占領を故意に泥沼化しているのではないかと思われるような事態も始まった。当然の帰結として、イラク占領は泥沼化した。(関連記事)
http://tanakanews.com/d0811iraq.htm
2004年初めには、パウエルは「フォーリン・アフェアーズ」に「ブッシュ政権はロシア、インド、中国といった、大国との関係を強化する」「アメリカは、強くて安定し、経済力と外交力を持った大国として中国が台頭することを望んでいる」と主張する論文を書いた。私が「パウエルはタカ派のふりをすることで、中道派的な多極化を実現する作戦を実行していたのだ」と感じたのは、この論文を読んだときだった。(関連記事)
http://tanakanews.com/e0122powell.htm
今年初めにブッシュ政権の1期目が終わり、パウエルが辞任してライスが国務長官になった後は、ライスがパウエルの「隠れ多極主義」の戦略を引き継いだ。
たとえばライスは先日、中央アジアのタジキスタンを訪問し、ウズベキスタンから米軍基地が追い出されたことを受け、代わりにタジキスタンに米軍基地を置こうとしたが、断られた。ライスは、タジキスタンの大統領に対して「民主化せよ」と強く求めたため、嫌がられたのである。その結果、ウズベキスタンに続いてタジキスタンも、ロシア寄りの姿勢をはっきりと打ち出すようになった。(関連記事)
http://www.eurasianet.org/departments/insight/articles/eav102605a.shtml
ライスは、相手が怒ることを知りつつ「民主化」を会談のテーマとして持ち出し、うまくやれば親米になってくれる国々を、故意に反米の方向に追いやっている。そして、すべてが失敗した後になって譲歩を行い、世界を多極化する方向に動かしている。極端にタカ派的な姿勢をとることで、中道派的な結果を導き出している。
ライスは最近、イランやシリアを攻撃する言葉をさかんに発している。ライスは、ブッシュにも「ここで方向転換してはなりません」とアドバイスしているらしく、ブッシュもイランやシリアを非難する発言を繰り返している。(関連記事)
http://news.yahoo.com/s/nm/20051028/ts_nm/security_bush_dc_1
すでに述べたように、イランやシリアを反米の方向に追いやると、イラクから米軍がスムーズに撤退できなくなる。新中道派は、ブッシュを操り、ブッシュの願望とは正反対の、イラク占領の失敗すら画策しているように見える。
▼なぜわざわざ稚拙なニセ契約書を使ったか
このような新中道派の故意の失策は、ホワイトハウスの機密漏洩スキャンダルにも反映されている。機密漏洩事件の5番目の深層は「なぜイラク侵攻するのに、明らかにニセモノだと分かる契約書を本物だと言い続けるウソをつく必要があったのか」という疑問である。
ニジェールウランの契約書は、IAEA(国際原子力機関)も鑑定しているが、彼らは数時間の鑑定でニセモノと断定し「これがニセモノだと言うことは、素人がインターネットを使って調べれば分かることだ」と述べている。(関連記事)
http://tanakanews.com/d0408mi6.htm
古今東西の戦争の中には、最初から勝つと分かっている側が作った言いがかりや、粉飾された開戦事由によって引き起こされているものが意外に多いのではないかと私は思うのだが、勝者は開戦前の粉飾やウソを隠し通すことで「正義」を貫き、ウソは歴史の闇に葬られ、後世の人間がそれを知ることはない。
こうした歴史の常態からすると、アメリカのイラク戦争は、まるで異常である。ニジェールウラン契約書を開戦事由に使ってイラクに侵攻しようとするホワイトハウスのやり方に、CIAが反対したのは、契約書がすぐにニセモノと分かるものだったからだろう。もっと巧妙なニセモノ、巧妙なウソに基づいて戦争が行われるのなら、それは歴史の常態なのだから、CIAは反対しなかっただろう。
ニジェールウランを開戦事由とする件が、米政府の機密文書の段階で止まっていれば、後で誤魔化すことができ、まだ被害は少なかったはずだ。ホワイトハウスの高官たちも、文書はニセモノだと分かっていただろうから、当然そうすべきだった。
しかし実際には逆に、ニジェールウランの件は、わざわざブッシュ大統領の重要演説(年頭教書)の中にまで盛り込まれた。CIAのテネット長官は止めたが、ブッシュの演説文を書いたハドレイ大統領副補佐官は聞かなかった。ホワイトハウスの高官たちは、すぐにニセモノと分かる証拠に基づいた主張を、ブッシュの重要演説の中に盛り込むことで、後からウソがばれたときに被害が大きくなるように伏線を張ったかのようである。
ここから読みとれることは、ニジェールウランのニセの契約書は、ネオコンによってホワイトハウスに持ち込まれたが、ネオコンと対立していたはずの中道派も、ニセの契約書と知りながら、それを「アメリカを自滅させて世界を多極化する」という新中道派の戦略として使ったのではないか、という疑惑である。
しかし、こうした疑惑は、おそらく今後も表面化せず、歴史の闇にしまわれる可能性が高い。イラク戦争は「ネオコンが起こした失敗」として歴史に刻まれ「この失敗の結果、アメリカは衰退し、世界は自然に多極化した」というのが歴史の定説になるのかもしれない。中道派が戦争政策を乗っ取って世界の多極化のために使った、などとという話には、最後までならないだろう。
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●関連記事
* La Repubblica's Scoop, Confirmed
http://www.prospect.org/web/page.ww?section=root&name=ViewWeb&articleId=10506
* Iraq War Likely to Go on Trial Along With Libby
http://sfgate.com/cgi-bin/article.cgi?file=/c/a/2005/10/29/MNGGHFG5QU1.DTL
* Cheney and the 'Nuclear Threat': Jim Lobe
http://fairuse.1accesshost.com/news2/salon63.html
* Cheney 'cabal' hijacked foreign policy
http://news.ft.com/cms/s/afdb7b0c-40f3-11da-b3f9-00000e2511c8.html
・パウエルは、自分の側近にも真意を伝えていないようだ。
* ネオコンは中道派の別働隊だった?
・この記事の分析は、今回の記事とは異なり、ネオコンまでもが新中道派の一味ではないかと書いている。黒幕が誰であるかを特定することは困難だが、黒幕がやろうとしていることが「世界の多極化」だということは、だいたい見えてきた。
http://tanakanews.com/e0619neocon.htm
* CIAの反乱
・今回のスキャンダルの前には、CIAの反撃としてこんなこともあった。
http://tanakanews.com/e1015CIA.htm