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社説:視点 格差社会考/3 現実無視の小泉首相…=論説委員・稲葉康生
◇現実無視の小泉首相、国民の実感も聞こう
国民の声に耳を傾け、暮らしの中でいま何を問題と感じているのかを的確につかみ、具体的な手立てを講じていく。これが政治の基本であり、政治家は常に国民の気持ちを真正面から受け止めることが求められているはずだ。
しかし、現実はどうか。毎日新聞をはじめメディアの世論調査によれば、多くの国民が「格差社会になりつつある」と答えている。これが生活者の実感なのである。だとすれば、国会の仕事は格差社会の議論をもっと深めることだ。しかし、議論は中途半端なままで終わっている。政治家が国民の声にいかに無頓着かの証明である。
野党が「格差拡大は小泉改革の失敗だ」と責め、小泉純一郎首相が反論するだけでは、何も生まれない。こんな議論を聞かされる国民はいい迷惑だ。
小泉首相の答弁や格差の認識について2点指摘したい。小泉首相の主張は(1)内閣府の統計データからは所得格差拡大は確認できない(2)どんな社会にも格差はあり、悪いことではない−−の二つだ。
まず内閣府のデータだが、やや古い統計で直近の実態を示すものではない。格差のとらえ方は調査対象などによっても変わるので、都合のいい統計だけで格差拡大の有無を判断するのは危険である。そもそも「一億総中流」社会であった日本では、格差についての認識が希薄で、実態を正確に把握する物差しは整備されていない。
年収200万円以下の低所得層が5世帯に1世帯に増えた▽非正規社員がこの10年で650万人増加▽経済協力開発機構(OECD)の先進国の中で日本の貧困率は5番目に高い▽生活保護世帯が100万世帯を突破▽貯蓄ゼロ世帯の増加。こうしたデータから総合判断すれば、格差拡大はないと言い切るには相当の無理がある。景気回復で少しは改善の動きもあるが、まだ格差の拡大に歯止めをかけるまでには改善していない。
小泉首相には「格差拡大のデータはない」と一面的な見方をせずに格差の実態を把握する調査を実施するよう指示してもらいたい。
次は格差社会をどう受け止めるかという視点だ。これも小泉首相が「悪いことではない」と答弁しており、取り付くしまがない。議論はそこで停止し先に進まない。
戦後日本は格差の少ない社会、努力すればみんなが中流になれる社会を目指し、それを実現してきた。生活保護や医療、年金など社会保障を整備するなど、セーフティーネットを整備してきた。
格差の少ない社会をめざすのか、自己責任・競争型の社会がいいのか。競争による格差を活気ある社会として評価するのか。勝ち組、負け組を作って格差が広がる社会を是とするのか。その答えを出すためにも、議論をあいまいなままにしてはならない。
政治は格差の議論から逃げてはならない。
毎日新聞 2006年3月22日 東京朝刊
http://www.mainichi-msn.co.jp/eye/shasetsu/news/20060322ddm005070063000c.html