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縦並び社会・格差の現場から:やり直すために
記者(28)が待ち合わせをした男性(31)は、どこにでもいる同世代の若者に見えた。
「僕は社会の下側の人間ですから。早く消えてしまいたかった」。昨冬、インターネットで知り合った若い男女3人と関西のウィークリーマンションで集団自殺を図った。当時、無職。互いに偽名で呼び合った。睡眠薬を飲んで練炭に火をつけた後で1人が逃げ出し、未遂に終わる。
男性はなぜ死にたかったのか、繰り返し尋ねても理解しづらい。未遂後、工場でビデオやテレビの基盤を作るアルバイトを始めたという。「仕事が合っているとは思わないが、職場の居心地は悪くない」から、とりあえず続けてみるつもりだ。「もう少し生きてみようかな」。それでも時々、ネットの自殺サイトを見る。
厚生労働省は5歳ごとの年齢別の死因を毎年調査している。02年から3年連続して20〜30代の1位は自殺だ。
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JR川崎駅から路線バスで約30分。海底トンネルを抜けると、東京湾に倉庫街が浮かぶ。その一角にある配送センターから、箱詰めされた携帯電話が大型トラックで出荷されていく。
男性(34)はここのアルバイトの一人だ。高校を出て約10年間、印刷会社の正社員だった。不況で給料が出なくなり、29歳で退職した。3年間は別の配送センターで働いた。今の職場は5カ月目だ。
「誰にでもできる仕事。やりがいはないです」。約160人いるアルバイトは男女半々で20〜30代が多い。60歳を超えた人もいる。機種ごとに数千台、腰の高さほどに積み上げられた携帯電話の山を崩し、販売店別に仕分けしていく。多い日には5万台をさばく。
月収は手取りで17万円。両親と暮らす自宅のローンがまだ25年残っている。残業がある日は必ず応じる。昼食は300円の仕出し弁当。家で飲むビールだけはぜいたくをする。発泡酒ではなくスーパードライか黒ラベル。2本目が空いたころに眠る。
このままずるずると生活していくかもしれない。35歳を過ぎたら正社員にはなれないだろう。昨秋に一度、ハローワークへ行った。何社か気に入ったが、面接は受けていない。「僕には技術も学歴もない。口下手だし、うまく意欲を見せる自信がないんです」
記者(30)が「一番したいことは何ですか」と尋ねた。「恋愛です。彼女いない歴が生きてきた時間と同じですから」
UFJ総研が昨年4月にまとめたレポートによると、30〜34歳の男性が5年以内に結婚する割合は正社員が35.5%。フリーターは半分の17.5%にとどまる。
大阪市平野区のリサイクルショップ「ねこまる」で西浦寛和さん(31)が働き始めて2カ月になる。大学を出て就職したが3年目で辞め、アルバイトも長続きせず、ひきこもった。
若者の就労支援をする財団法人が大阪府の助成金で昨年11月に開店した。西浦さんは仕事探しに必要な知識や技術を身につける財団の「これから学級」で3カ月学び、ねこまるを紹介された。
財団スタッフの井村良英さん(30)は「不器用な人が多い」と言う。
アルバイトを続けるうちに年を取り、友人は減っていく。1週間、家族以外の誰とも話をしない。ぶらぶらしていると他人の目が気になるからコンビニ10軒をはしごする人、仕事の面接を受けても落とされるので、面接のない短期アルバイトばかりする人……。「おせっかいかも知れないが、彼らをいつまでも放っておけない」
フリーターは年々増加し、01年の417万人(15〜34歳)から10年には476万人に達するという予測もある。
西浦さんは世の中のスピードが速くなっていると感じるが、「もう逃げたくない」と思う。
ねこまるで働けるのは5カ月。そろそろ次の仕事を見つけなければならない。=おわり
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この連載は、鯨岡秀紀、矢野純一、吉富裕倫、井上卓弥、井上英介、鵜塚健、中西拓司、夫彰子、清水憲司、小松雄介、花谷寿人が担当しました。
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毎日新聞 2006年1月11日 17時22分 (最終更新時間 1月11日 17時51分)
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/wadai/tatenarabi/news/20060112k0000m040004000c.html