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縦並び社会・格差の現場から:限界集落
「お父さん、帰ってきたよー」。望月花代さん(77)は一人残された家の仏壇に手を合わせた。
南アルプスを望む山梨県早川町の大原野地区。夫の正芳さん(82)は昨年12月15日に亡くなった。かつて200人以上が暮らした集落は、花代さんと隣人の女性2人だけになった。
バイクで1時間かけ、隣町のスーパーへ行った帰りの事故だった。亡くなる1週間前、記者(32)は消えゆく集落を取材するため、正芳さんに会った。痛む足を杖代わりの竹棒でコツコツ叩き、「この足じゃ来年から単車も駄目さあ」と話していた。「でもここが一番ええ。ここを出ていかんでよかった」
町の96%を覆う森林は戦後、焼け野原の東京に木材をもたらした。しかし、木材輸入自由化で林業は衰退し、約300人いた林業従事者は10分の1にまで減った。
町に残されたのは、下草刈りや間伐がされていない「放置林」だ。町の森林組合の長谷川空五さん(62)は「大雨が降れば土が流出し、根がむき出しになってやがて木は死ぬ」と心配する。
日本は京都議定書で、二酸化炭素など温室効果ガスの6%削減を義務づけられた。うち3.9%を森林で吸収する計算だが、整備が十分な場合の数字だ。全国の人工林の約8割は未整備で、国は地方公共団体に対策を求める。しかし、早川町で放置されている私有林を1回間伐するだけで約10億円かかる。しかも3割前後は地主の負担だ。
長谷川さんは言う。「年金で細々暮らす地主のじいさんたちに出せるか。森はお前らが守れと言われても、できん」
過疎と呼ばれた時代より加速度を増し、消滅の危機にある日本の「限界集落」。旧国土庁の調査では99年からの10年で419、その後は1690の集落が消えるという。
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急しゅんな四国山地に囲まれる高知県大川村。南西部の山あいに1人で暮らす山中テル子さん(88)は昨夏、5日間ロウソクで過ごした。豪雨で停電し、山道は土砂崩れで寸断されて家が孤立した。「昔はあまり崩れることはなかったんですけど。何ででしょうねえ」
村の人口は、離島を除けば全国最少の518人。75年に早明浦(きめうら)ダムができ、中心部が水没して人口は激減した。村議選の候補がそろわず、定数(8)割れが続く。隣町からは合併を拒否された。
人手不足で森の荒廃が進み、大雨のたびに大量の土砂が流出する。放置林からの流出量は、間伐林の10倍に達するという。この2年間、村内約100カ所で土砂災害が起き、復旧工事費は村の年間予算を超えた。
山中さんは心臓が悪く、村営診療所に月2回通う。送迎のワゴン車が止まる場所まで細い山道を40分歩き、急な場所は這って行く。しかし、厳しい財政のため、診療所の存続すら危うい。
「診療所のおかげで生きてます。ありがたいことです」
都会に訴え始めた町もある。
北海道下川町は東京23区とほぼ同じ面積にトドマツやカラマツの林が広がる。町有林だけでも、自家用車約4800台が1年間に出す二酸化炭素を吸収できる計算だ。
人口減少で税収が落ち込み、国の補助金も減って森の整備が進まない。町は昨年4月に「森林づくり寄付条例」を制定し、都会の企業や個人に寄付を呼びかけた。しかし、ほとんどの企業から何の回答もない。
春からは東証1、2部上場の約2200社に協力を求める方針だが、見通しはない。二酸化炭素を排出する企業に課税して税収の半分を放置林整備の財源にする国の環境税も昨年12月、財界の反対で先送りされた。
担当の町職員、三条幹男さん(45)は「地方を切り捨てたら、だれが地球環境を守れるのか。都会の人にも考えてほしい」と言う。
三条さんは12年前にカラマツ林を買った。当時植えた苗木は、ようやく3メートルの高さになった。成木になるのは30年以上先だ。
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毎日新聞 2006年1月9日 17時31分 (最終更新時間 1月9日 20時19分)
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/wadai/tatenarabi/news/20060110k0000m040012000c.html