★阿修羅♪ > 社会問題2 > 459.html ★阿修羅♪ |
Tweet |
縦並び社会・格差の現場から:時給は288円
時給850円。
本田茜さん(24)は昨年3月からオペレーターの派遣社員として秋田県横手市のコールセンター「テントラーウィズ」秋田横手支店で働く。保育園に通う子供2人と市営住宅で暮らしている。
職場は建築会社の社屋だった古い建物にある。同僚は正社員、パートを含め60人で、平均24歳。全国に電話をかけ、KDDIのサービスを売り込む。電話は多い日で200件。契約のノルマはないが、最近職場に個人成績グラフが張り出され、「これじゃあノルマと同じ」と思った。
企業の商品に関する顧客の質問に答えたり、セールスを請け負うコールセンターは98年ごろから地方にも進出し、現在200社近い。東京なら時給1300円前後かかる人件費の安さが大きな理由だ。大規模な設備投資もいらないし、電話回線さえあればどこでも仕事ができる。
秋田県の場合、04年度に誘致した企業8社のうちコールセンターが4社を占める。県は会社に代わって電話応対や方言矯正の職業訓練を行う。さらに通信回線使用料を5割負担したうえ、1人の雇用につき会社に年25万円の補助を出している。
電話応対のストレスで1年以内の離職率が9割ともいわれる業界で、同社は1割にとどまる。本田さんも体調を崩したことがあるが「辞めるつもりはない」という。前に見つけたパートは時給650円。資格や年齢を問われず、今より高給の仕事はほとんどない。
法律に基づく秋田の最低賃金608円は青森や沖縄と並んで全国一低い。
■ ■
ヘッドセットを着けた日本人の若者が、海を隔てた日本の客に話しかけている。その声とキーボードを叩く音しか聞こえない。
中国・大連。政府が「ハイテク区」に指定した地区の一角にライブドアグループのコールセンターがある。04年、現地に進出した。
働くのは同社の「中国語が学べるインターンシップ制度」に応募した約80人。堀江貴文社長がブログ「社長日記」で「マーケットが確実に拡大する中国でキャリアを積むことには意義があると思いますよ!」と紹介すると、説明会の申し込みは1時間で50件に上った。
時給は20元(約288円)。大連の大卒初任給の2倍にあたる。同社は当初、日本語のできる中国人の採用を検討したが、片言では顧客が満足しない。低賃金の日本人を連れてくることでコストを40パーセント削減できた。海外で日本の最低賃金法は適用されない。
記者(28)より一つ年上の五十嵐洋彰さん(29)は大連に来て1年になる。大学を出て親元の新潟で大手食品会社の子会社に就職した。親会社からの天下りが多い。「この人たちの高給を出すために働くのか」と思うと、定年まで働く自分を想像できず、5年で辞めた。
仕事は早朝、日中の2交代。社宅は28階建てマンションで、家賃は半分が自己負担だ。週3回の中国語レッスンは会社持ち。物価が安いから生活には困らないが、日本食レストランは高いから行かない。
「確かな生活を捨ててきた。でも行けば何か変わると思った」。契約は1年ごとの更新で最長5年。契約期間の途中で辞めると、日本からの渡航費やビザの取得経費を返さなければならない。五十嵐さんはもう1年いて中国語をマスターしたいが、どこまで上達できるか不安も感じる。将来の仕事はまだ考えられない。グループの社員になれるのはほんの一握りだ。
同様のコールセンターを運営するマスターピースは03年に進出した。まず時給10元で募集したところ120人もの応募があった。加藤舞子さん(26)は昨年2月から働いている。時給は20元。前は営業事務をしていたが「毎日の単調な繰り返しがいやになった」という。
閉塞感の漂う日本。その隙を突くように成長企業が若者を引き寄せる。
記者は加藤さんに「使い捨てになるとは思いませんか」と尋ねた。
「はい。それでもいいんです」
ご感想は、ファクス(03・3212・0635)か〒100−8051 毎日新聞社会部「縦並び社会」係まで。
Eメールはこちら
mailto:t.shakaibu@mbx.mainichi.co.jp
連載の内容についてご意見をうかがっています。アンケートにご協力下さい
毎日新聞 2006年1月4日 17時58分 (最終更新時間 1月4日 18時19分)
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/wadai/news/20060105k0000m040026000c.html