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縦並び社会・格差の現場から:眠りながら走れ
【AM0:00 兵庫県加古川市・権現湖パーキングエリア】
大型トラック運転手、高橋弘則さん(41)はハンドルの上に両足を乗せ、軽く伸びをして目を閉じた。夕食は広島のパーキングエリアでカキフライ定食をかきこんだ。
鹿児島市から薩摩の黒豚と高級黒毛和牛合わせて約9トンを積んで14時間半。運転席の後ろにある仮眠用の寝床は使わない。同乗した記者(36)に「こうして寝ると2、3時間で体がしびれて目が覚めるから」と言う。
寝過ごせば到着時刻を守れない。日程がきつければ、ほとんど寝ないで東京まで走る。東京や大阪までの往復を月に6〜7回こなす。ふた月で地球を1周する計算だ。持病の腰痛は注射で抑えている。
運送会社は90年以降の規制緩和で1.5倍の6万社に増えた。運賃の自由化や営業区域の撤廃が進み、競争はし烈を極める。運転手の労働時間が大幅に伸び、運送業の過労死認定(04年度、脳心臓疾患含む)は71件。全業界でワーストワンが3年続いている。
高橋さんは予定通り目を覚ました。朝5時、滋賀県彦根市の名神高速にさしかかる。昨年11月、ほぼ同じ時刻に大型トラックが関係した7人の死亡事故現場だ。この時間帯が最も眠くて辛い。急に速度を下げ、蛇行するトラックをよく見かけるという。
事故防止のため03年から大型トラックの速度制限装置が義務化され、時速90キロ以上出せなくなった。鹿児島−大阪間では前より2時間余計にかかるが、求められる到着時刻は同じだから仮眠時間をさらに奪う。高橋さんの勤める中堅運送会社でも昨年、運転手が2件の重傷事故を起こした。
ラジオからポップスが流れる。記者は眠気をこらえ、「働きすぎじゃないですか」と尋ねた。「うーん、僕らは走ってなんぼだからね」
【AM8:00 名古屋市・愛知食肉地方卸売市場】
自らフォークリフトを運転し、黒豚肉を降ろす。本来は業者の仕事だが、最近は運転手に任される。次の目的地に運ぶカナダ産牛肉も自分で積み込む。
4、5年前から荷物の小口化が進み、東京までの立ち寄り先は10か所を超えることもある。在庫を抱えたくない荷主がコスト削減を徹底してきたからだ。
大手運送会社は、さばけない仕事を下請けに回し、さらに孫請け、ひ孫請けに回されるようになった。間に5、6社はさんで来る荷もある。例えばトラック1台で14万円の仕事を10万円以下で請け負わされる。業界は一部大手が過去最高の利益を上げる一方、平均売上高は5年連続の減収。半数の会社は赤字に苦しむ。
高橋さんの手取りもこの数年で8万円ほど減った。家族は妻と2人の子供。家のローンも10年残っているが、減る一方の月収は30万円を切った。
【AM9:30 愛知県豊田市・食肉センター】
再び輸入牛肉と黒豚の積み降ろし。最近、牛肉は温度管理がうるさい。運転席には荷台の冷蔵室の温度計がある。表示は0・5度。降ろした後、凍っていないかチェックされる。「凍らせたら見た目も味も落ちる」からだ。失敗すれば弁償させられる。
「消費者のニーズでしょうが、きついですね」。時間指定の宅配が普及したことも、運転手に「時間厳守」の重圧をかける。高校を出て大工になったが時間に縛られない仕事にあこがれ、運転手に替わった。その自由はもうない。
【PM3:30 川崎市】
鹿児島から1400キロ。最後の荷降ろし先の近くに車を止め、3箱目のたばこを開けた。朝から何も食べていない。
内閣府によると、規制緩和によって荷主の企業側が得た利益は3兆9000億円。業界が規制緩和の「優等生」といわれる中で、末端の運転手は追い詰められていく。
「僕にはこの仕事しかないって言い聞かせてますから。でもいつまでやれるかな……」
翌朝、高橋さんは牛乳とヨーグルトを積んで大阪へ走り出した。
=つづく
毎日新聞 2005年12月31日 18時00分 (最終更新時間 12月31日 19時43分)
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/wadai/tatenarabi/news/20060101k0000m040010000c.html