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体感治安:犯罪認知件数減っても…ジワリ悪化
殺人や窃盗など刑法犯の認知件数が、3年連続で減少する見通しになった。警察庁がまとめた犯罪情勢(1〜11月)では前年より1割以上減り、数字のうえでは、犯罪の増加傾向に一定の歯止めがかかった。しかし、内閣府の世論調査で、治安が悪い方に向かっていると答えた人が半数近くを占めるなど、安全を実感する「体感治安」はむしろ悪化している。広島や栃木で子供が殺害された事件などが影響しているとみられ、警察当局にとって体感治安の改善は急務だ。【河嶋浩司】
「『指数治安』の改善で、体感治安が落ち着くかと思えたが、それを突き崩したのは栃木県今市市の女児殺害事件。まだまだ不十分であることを認識している」。今年1〜11月の犯罪情勢を発表した22日、漆間巌警察庁長官はこう語った。
「指数治安」とは、刑法犯の認知件数や検挙率など、統計上の数字で示す。03年以降、認知件数は減っており、今年1〜11月は、前年同期を26万件余(11.0%)下回る約210万件だった。
漆間長官が体感治安悪化の要因の一つとして挙げた子供を巡る事件も、件数としては減っている。今年1〜11月に子供が被害者となった犯罪は、前年同期と比べて2万6141件(7.9%)少ない30万4216件だった。殺人などの凶悪犯も12.2%減少している。
だが、内閣府が今年実施した「社会意識に関する世論調査」で「今の日本で悪い方向に向かっている分野」(複数回答)として、47.9%の人が「治安」と回答。「景気」や「雇用・労働条件」などを抑え、98年12月の調査開始以来、初めてトップになった。
これは、体感治安の悪化を示すもので、土本武司・白鴎大法科大学院教授(刑事法)は「小学生殺害事件など、事件の質が以前より悪くなっていることに加え、少年事件の凶悪化、外国人犯罪が増えていることも、大きな要素となっている」と分析している。
かつて、警察は「検挙に勝る防犯なし」と指数治安の維持を目指してきた。戦後から75年ごろまで120万〜150万件台で推移した刑法犯認知件数は、98年には200万件を突破し、検挙が犯罪の増加に追いつかない状況に陥った。02年には285万3739件と戦後最多を記録した。
このため、03年に「緊急治安対策プログラム」を策定。警察力だけではなく、地域社会との連携強化や犯罪に強い街作りなど「犯罪抑止」に重点を置き、その尺度として、国民が安全や安心を実感する体感治安がクローズアップされ、改善を重視するようになった。
抑止力という点で見ると、侵入盗、自転車盗などの窃盗犯だけで、今年1〜11月は前年同期比で約20万件減少。警察庁幹部は「地域の活動など、警察との連携が効果をもたらした」と評価するが、こうした犯罪の抑止だけでは、体感治安の回復にはつながっていないのが現状だ。
◇改善策は「事件解決」
「別の地域の事件が解決しても、自分の子供が安心して外で遊べないのでは、何にもならない」。女児殺害が起きた今市市などの地域からは、こんな声が寄せられる。政府は「犯罪から子供を守るための対策に関する関係省庁連絡会議」を設置。登下校時や学習塾での子供の安全確保のため、省庁の間で連携を強化した。
具体的には(1)通学路のパトロールを実施する民間防犯ボランティアの支援(警察庁)(2)防犯のアドバイス役として警察官OBなどに委嘱しているスクールガードリーダーの拡大(文部科学省)(3)放課後に子供を預かる「生活塾の普及促進」事業の機能強化(厚生労働省)−−などだ。
また、学校や地域も、防犯ベルの配布やスクールバスの運用、防犯カメラの設置や警備員の配置など、さまざまな取り組み強化を急いでいる。
それでも、効果はすぐには表れない。警察庁幹部は「即効性のある対策を打ち立てるのは難しい。数字以上に、凶悪事件が国民に与える不安は大きく、結局は解決が重要な課題だ」と話す。
◇識者でも異なる見解
土本白鴎大法科大学院教授は「既に日本の安全神話は崩壊している」と強調。「警察官を増員して街頭に重点配置することや、罰則の強化、外国人管理の厳格化などが必要となるが、それだけでは限界がある」と話す。さらに「学校や家庭での教育を根本から立て直すことが大事。自分で身を守れない子供は一人で出歩かせないなど、大人が守ってやらなければならない時代だ。地域社会が協力して犯罪を防止する取り組みも強化が必要」と語った。
一方、前田雅英・首都大学東京都市教養学部長(刑事法)は「体感治安という言葉は学問的な概念ではなく、事件をマスコミが事件をどのように報道するかという面が大きい」と指摘。「刑法犯の認知件数がこの3年間で減少したことは、治安対策がそれになりに成功していることを意味する。治安悪化に一定の歯止めがかかったとみるべきで、あまり悲観的になることはない」と話している。
毎日新聞 2005年12月25日 0時28分 (最終更新時間 12月25日 1時34分)
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/jiken/news/20051225k0000m040099000c.html