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特報
2005.11.21
「官製市場」の裏側
板橋区教委幹部 ビデオ“出演”
「利用者もびっくりです!」。東京都板橋区教委幹部が、体育施設の指定管理者に選ばれた大手企業のビデオに登場し、結果的に企業に利用されていた疑いも出てきた。同区では現在、全庁挙げて区内業者育成が大きなテーマなだけに、この流れにも水を差す格好だ。施設運営を任す監督側と業務を代行する企業側との越えてはならない“一線”とは。 (吉原康和)
「初耳だ。びっくりした。事実なら、誤解を招きかねない行為で、それはまずい。調べた上で、(区教委幹部が)ビデオに登場している部分を早急にカットさせたい」
今月中旬、板橋区役所で本紙のインタビューに応じた小島基之助役は、記者の質問に一瞬、顔をこわばらせた。
ビデオ(録画時間約十五分)に区教委幹部が登場するのは最終シーンの一分程度。幹部は「半年ほど前に、社内向けなので出てほしい、というので約二十分ほどインタビューに応じた。話したことは取材などで答えている内容と同じだったと思う」と振りかえる。
だが、ビデオの大半は「公共体育施設の運営受託事業最新事例『東京都板橋区体育施設』」とのタイトルにあるように、同施設の指定管理者となったコナミスポーツ(本社・東京都品川区)の運営状況のPRがメーンだ。随所に企業が対外向けに使う「当社は」という言葉が出てくる。
ビデオ製作について、同社広報室は「始まってまもない指定管理者制度の事例を社内外に分かりやすく紹介することが目的」と説明。具体的な使途については「積極的なセールスプロモーションは行っていない」としながらも「(自治体などから)問い合わせがあった場合や、応募に際して他社とチームを組む必要がある場合に説明の補足に使用している」と対外的な業務利用も認めた。
■倍増を目指しPR当たり前
同社幹部は「区側の要望を受けて幹部のコメント部分は削除した」と答えた。
同社は、会員数約八十三万人を有する民間会員制スポーツクラブ業界最大手。今年九月末現在で、直営二百七施設を展開しているが、蓄積した運営ノウハウと運動プログラムを武器に、公共施設の運営受託事業にも積極的に進出。指定管理者として受託している体育施設は三十三にのぼる。来年四月から運営開始分の指定管理者について受託件数の倍増を目指しているという。
指定管理者制度に詳しい都内のコンサルタント会社幹部は「企業ならば、新しい制度であればあるほど、その受託実績をPRするのは当たり前で、むしろ、軽率なのは板橋区の幹部側だ。最終的に運営を評価するのは利用者で、運営を監督する側がその評価が定まらない段階でコメントすれば、企業にアドバンテージを与えることになる。企業が宣伝に利用しない手はない」と指摘する。
今回の板橋区教委幹部の“出演” に区幹部も神経をとがらせる。背景には、同区で指定管理者を導入した施設で、区内業者がなかなか受託できない実情がある。コナミスポーツが受託したのは区内の体育館、プールなど二十五の体育施設一括だった。こうした一括委託について「大手の独占が進み、地域の多様な担い手が育たない」という懸念もあるからだ。
「(応募資格は)板橋区内に本社(本店)があること」。同区では、区内の高齢者福祉施設の指定管理者の公募を皮切りに、先月から新たに応募資格を区内業者に限定する「地域要件」を課し、今後、全庁挙げて地元業者の育成に取り組む方針を決めたばかりだ。
「区内業者はなぜ、指定管理者になれないのか」「施設の規模、内容によっては、地元業者を優先してもいいのではないか」。九月区議会では、議員からこうした質問が相次いだ。
菅東一議員(自民)は「これまで指定管理者になった区内業者はゼロ。応募しても区外の大手ばかりが受託し、あきらめムードすら漂っている。もちろん、区内業者も勉強して力をつけないといけないが、行政としても支援していく姿勢を明確にすべきだ」と指摘。そのうえで「こうした方向で執行部が一丸となって取り組む矢先に、執行部の担当幹部が大手の宣伝に加担しているような印象を招くのは、好ましくない」と強調する。
板橋区が区内業者に限定して指定管理者を公募したのは「徳丸ふれあい館」と「仲町ふれあい館」の二館。いずれも、娯楽室や機能回復訓練室、浴室などを備え、六十歳以上のお年寄りや身体障害者の健康増進と介護予防を目的とした福祉施設だ。
今月十日には、区内業者を対象とした区主催の「指定管理者制度」の説明会と支援セミナーも開かれた。説明会や支援セミナーには区内業者を中心に延べ六十七社、約百人が出席した。
だが、こうした努力も今のところ功を奏したとは言えない。
「ふれあい館」の公募では、「仲町ふれあい館」に応募してきた区内業者は二団体、「徳丸ふれあい館」は一団体だけ。このため、「徳丸ふれあい館」は追加公募となり、十五日の受付締め切り日にやっと一団体が応募する低調さだ。
区内業者に限定して公募すれば、限られたエリアでの競争となり、サービスの低下を招きかねないという不安はある。
小島助役も「それはあり得る」と認めながらも「区内業者にできる仕事はなるべく区内業者に限定していく。地元業者育成も行政の務めだ」と強調する。
指定管理者制度では、サービスの向上、コスト削減という制度の目的と、地元業者育成のバランスをどう取るのか、という点も大きな課題だ。だが、それ以前に注意しなければならないのは運営を任す監督側と、管理者の企業側との節度ある関係だ。
■監督側の自覚で節度ある関係を
帝塚山大学の中川幾郎教授(地方自治)は「指定管理者に運営を委ねる指定期間は永久ではない。期限内にユーザーである市民の評価を受けるが、監督する側がコメントすれば、公平・平等な競争状態を予定している次回の審査会に向けて、特定企業にお墨付きを与えたとの誤解を招き、外部の評価にも利用されかねない」と指摘。そのうえで、両者の望ましい関係の在り方についてこう訴える。
「審査期間は、応募者と区職員、選定委員の接触禁止は当然だが、指定管理者の選定が終われば、むしろ、相互に綿密な打ち合わせを行い、コミュニケーションを図る必要がある。その場合でも、あくまでも監督する立場を自覚し、一線を引くことが肝要だ」
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20051121/mng_____tokuho__000.shtml