★阿修羅♪ > 社会問題2 > 307.html ★阿修羅♪ |
Tweet |
暮らし・まち・安全のカルテ:日常の不安/1 防犯の街
◇囲われた別空間
屋根も壁も茶色で統一された約150棟の住宅が、建ち並ぶ。大阪府藤井寺市にある約2万平方メートルの敷地。周囲を高さ1・8メートルのブロック塀が、ぐるりと約550メートルにわたって囲っている。
一般車の出入り口は、警備員が詰める管理棟の脇だけだ。ここ以外に3カ所ある歩行者用出入り口には近く防犯カメラが設置され、画像を管理棟でモニターする。各戸に、センサーが異常を感知すると警備会社に通報する防犯システムがある。
住宅販売会社は、周辺と同じ3000万円台の価格に抑え、昨年7月に売り出した。「『安全』で差別化した」結果、既に9割が売れた。警備員や防犯システムの費用は10年間、販売会社が負担する。ある女性(29)は「実家が何度か空き巣に遭ったので、安心を基準に選んだ。囲われていても気にならない」と笑う。大半の住人が、初めての住宅購入。一生に一度の買い物の最大ポイントは、安全だった。
しかしこの街は、犯罪者だけでなく、周辺住民も寄せ付けない。近くの女性(57)は「入ったらダメと言われているみたい。近寄らない」と言う。地元の自治会役員の男性(51)は「今年は誰も地域の祭りに参加してもらえなかった。この辺は犯罪が少ないのに、あんなに囲う必要があるのか」と話す。塀の中から響く子どもの歓声。塀の外から見る目は厳しい。
◆ ◆
塀の代わりに、防犯カメラと警備員で守りを固める住宅地が、茨城県日立市にある。山林を切り開いた造成地に通じる2カ所の道に、2台ずつの防犯カメラ。敷地内2カ所の公園には、住民がパソコンで映像を見ることができるカメラが各2台ある。親たちは自宅で、公園で遊ぶ我が子の様子を見守れる。警備員の車が24時間、巡回し、防犯システムも入っている。
大手住宅メーカーが98年に売り出した時は、何も備えがなかった。03年まで6年近くで売れたのは133戸。うち17戸が空き巣に遭った。「物騒な場所」とうわさされ、暴走族が走り回り、空き区画にゴミが捨てられた。この会社の全国の販売拠点で、売り上げはワースト3に入っていた。
昨年、防犯設備を整え、「防犯の街」として周辺とほぼ同価格で売り始めた。防犯システムのオプション契約などに月数千円余計にかかる程度。空き巣も暴走族もゴミ投棄も止まった。2年足らずで新たに149戸が売れ、社内表彰を受けた。
「公園の様子をカメラで見られるのは、少し気持ち悪い」と言う女性もいるが、住民の男性(39)は「出張で不在がちなので、家族を残していても安心」と話す。
しかしここでも、周辺住民との壁が課題だ。9月に開いた盆踊りに、外に住む地域住民は原則、参加できなかった。逆に、地域の運動会に参加した「防犯の街」の男性(48)は「周りからほとんど話しかけられず、孤立した感じだった。敷居の高い住宅地と思われていると実感した」と言う。
将来は860区画の大規模住宅地となる。閉じた空間は、窮屈さも生む。庭のバーベキューは、煙が迷惑だと苦情が出たため原則禁止となった。
◆ ◆
囲われた街に求める安全。住宅金融公庫調査役でもある放送大学の竹井隆人講師は「米国には約2万カ所ある。日立市のような塀のないセキュリティータウンも含めると、国内にも既に約10カ所ある。日本でも、犯罪への不安を背景に増えていくだろう」と指摘する。
* *
「暮らし まち 安全のカルテ」第3部は、身の回りの安全、犯罪を取り上げる。=つづく
………………………………………………………………………………………………………
◇国民の48%「治安が悪化」
刑法犯の認知件数は96年から7年連続して戦後最多を更新し、ピークの02年には285万3739件を記録した。警察庁は03年を「治安回復元年」と位置づけ、自治体や住民ボランティアとの連携による官民一体の抑止対策に取り組んだ。この3年、刑法犯は漸減傾向で、今年上半期も前年同期比12・9%減となっている。しかし、今年の内閣府の調査で「今の日本で悪い方向に向かっている分野」として「治安」と答えた人は、昨年より8・4ポイント増えて47・9%に達し、98年の調査開始以来初めてトップとなるなど、国民の不安感はなお強い。
毎日新聞 2005年11月10日 東京朝刊
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/wadai/news/20051110ddm041040166000c.html