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http://www.mainichi-msn.co.jp/seiji/seitou/news/20051220dde012010019000c.html
◇ふくろうと国会にらむ
2005年が暮れようとしている。でも、この国、危うきことが多すぎる。その根っこに信念の喪失がありはしまいか。去年(こぞ)今年貫く棒の如(ごと)きもの−−。高浜虚子、晩年の句よろしく、変わらぬ思いを貫く人たちがいる。耳を傾けたい。
ぷんぷん、うまそうなにおいの立ち込める東京は赤坂のカレーショップ、そのビルの6階に土井たか子さんはいた。先の衆院選で落選してから、ここ、NGO「アジア人権基金」の一室に机を置いている。77歳の喜寿を迎えたばかり、お祝いのランもぷんぷんにおって。
「誕生日なんて、私、毎年1歳ずつ差し引いているんでね。いくつになったか忘れました。だいたい、このごろ若年寄りが増えていることに不安を感じとりますよ。あっちこっち、うじゃうじゃいる。永田町にもね。若返りは大事ですよ。でも、若いくせに、ものの考え方、行動が妙に年寄りくさい」
●政治にサヨナラできぬ
失礼ながら、そのエネルギッシュな口ぶりに驚く。衆院選では比例単独5位で立候補、名札は<土井たか子>でなく<社民党>。背水の陣で臨んだけれど、胸のバッジは消えた。てっきり失意のうちにおありかと思いきや、これが大違い。03年に辻元清美衆院議員の秘書給与詐取事件で自身の秘書まで逮捕され、続く衆院選で惨敗したころもサバサバしておられたけれど。どうしてそんなにお元気?
「当たり前ですがな。衆議院の議員会館320号室にはサヨナラしましたが、政治活動にサヨナラはできませんで。いまの状況ならいよいよそう。選挙前から憲法行脚をやっているんです。永田町かいわいで憲法問題といえば、改憲問題でしょ。これ、大変間違ってる。憲法を暮らしに生かすことを考えなあかん。それが私の政治家としての出自だから。その一枚看板でやってきたんですから」
●段ボール箱の山
もはや社民党は「絶滅危惧(きぐ)種」(辻元さん)、しきりに三宅坂エレジーが聞こえてくるけれど、護憲の顔、がんこおばさんは意気軒高である。でもねえ。かつて社会党委員長として「山の動く日」を味わい、衆院議長まで務めた、その政治家が、お世辞にも立派とはいえない雑居ビルの片隅に居候である。スタッフにごま塩せんべいを振る舞ったり。見れば、段ボール箱が積み上げられたまま。
「そりゃ議員生活36年、捨てるわけにいかないものだらけで」
なるほど、土井ファイルともなれば、戦後日本の政治史を検証するうえで貴重な資料となるに違いない。いったい、どんな政界の舞台裏が……。ところが、そのひとつの段ボール箱から怪しげな物体が、ぬーっ。ありゃ、何で?
「ふ・く・ろ・う」
まじめな顔しておっしゃる。えっ、ふくろう? そう聞き返しても、やっぱり同じ。段ボール箱からはみ出していたのは、ふくろうの頭だった。ずっしり重い木彫りのふくろう、そして竹で編んだふくろう。別の段ボール箱からも出てくる、出てくる。ちっちゃなふくろうの置物やアクセサリー、その数1000以上はある。議員会館からまとめて引っ越してきた。
●ミネルバの使者
「ふくろうは、ギリシャ神話に出てくる知恵の神さま、ミネルバの使者ですよ。アテネの守護神はふくろう。私の足りんところを助けてほしいって気持ちですよ、ハハハ。もう30年くらいになるかなあ、土井はふくろうを集めてるらしいぞって、だんだん口コミで伝わって、お土産なんかでもらうようになってね。議員会館はふくろうであふれ返ってましたよ」
ゴケン、ゴケンと鳴くわけじゃないけれど、ふくろうがおたかさんの守護神だったとは。貫く。それは孤独な営み。たとえ仲間がいたとしても。そうでしょ。「言うときますけどね、そんなこと思っておったら貫けませんで」。あっさり否定されたものの、それは照れだろう。だって、段ボール箱に<ふくろう冬眠中>なんて書いてあったり、愛情たっぷりだから。
●機銃掃射
その一貫した人生の原点は1945年8月15日にあった。京都女子専門学校(現京都女子大)の学生だった土井さんは神戸にいた。
「夏休みで、京都から帰ってました。食糧難でしたから、さつまいもやかぼちゃを育てて。実家は空襲で焼け、農機具小屋が住まいでした。玉音放送を聞き、これで空襲がなくなる、明日から希望が……、解放感が広がりました。学徒動員で宝塚の工場で働いていたころ、米軍の機銃掃射も浴びましたからね。でも、戦争はそれだけじゃない。もの言えば唇寒し、夜は灯火管制、真っ暗、憂うつで」
そして戦後しばらくたって、にぎわいの戻った京都は京極の映画館で映画を見た。ジョン・フォード監督の「若き日のリンカーン」である。ヘンリー・フォンダ演じる弁護士時代のリンカーンに心を奪われた。迫害をはねのけ、貧しい黒人を助ける、そのかっこよさにあこがれたのである。弁護士になりたい、そう思いはじめた勝ち気な女子大生は、ある看板を目にする。<平和主義と憲法9条>
●原理原則
「いよいよ憲法が施行され、京都の町中に看板が立ってね。そのひとつが同志社大の田畑忍先生の講演でした。のちに私の指導教授になっていただきましたが、同志社の栄光館で話を聞きました。戦争しない条文がある。そんないいことはない。戦争がどんなひどいものかわかってましたからね。平和には政治家の気構え、国民の不断の努力が必要だ、と先生は力説された。感動しましたよ。初めて民主主義と出合ったんですから」
そんな土井さん、この秋、思い出の地、京都で教壇に立った。
「龍谷大学で、私と憲法というテーマでね。学生諸君、真剣に聞いてくれました。憲法と違う日常をつくって、その日常に合わせて憲法を変える、そんな逆立ちの発想になっているんだって。こんな質問がありました。テレビに出てくる代議士は原理原則論は弱いですねって。よく見てます。なんでも現実、現実。でもね、ここに憲法がある、これも現実でしょ」
●自民党の新憲法草案
とはいえ、改憲ムードは高まるばかり。戦後60年、焼け跡から立ち上がって、高度経済成長もなしとげた日本が自主憲法制定へ大きくカジを切ろうとしている。自民党は結党50年の党大会で「新憲法草案」を発表、そこに「自衛軍」保持が明記された。文面を一べつしたおたかさん、ムッとした。
「これ、新憲法の制定よ。改憲と同じ意味なんかじゃない。現憲法をご破算にするってこと。新憲法の制定は、国名が変わったり、クーデターがあったりした場合でね。文章だって、とても格調が高くなったとはいえませんわね。アジアの指導者と交流をしていますが、みな9条の行方を心配してますよ。脅威的存在ができれば、軍備競争になる。憲法の国際的意義はものすごく大きいんですよ」
●イエスウーマン
立場はどうあれ、これほどの情熱の政治家がもう国会にいないのか、と改めて不思議に思えてきた。いくら小泉純一郎首相の人気があろうと、小泉チルドレンだらけ、これから勉強しますじゃねえ。でも、土井社会党時代も土井チルドレンっていたし、女性議員が大躍進して、マドンナブームもあった。
「あんたッ! 土井チルドレンとはえらい違いですで。刺客なんてのと、あのころのマドンナを一緒にせんといてや! いまはイエスマン、イエスウーマンばっかりでしょ、一夜にして、反対してたのが賛成になったりね。付和雷同。民主主義の否定だし、独裁的でしょ。バカみたいな国会になって」
森は美しく、暗くて深い。
だが私には約束の仕事がある、 眠るまでにはまだ幾マイルか行 かねばならぬ、
眠るまでにはまだ幾マイルか行 かねばならぬ。(安藤一郎訳)
社会党委員長を辞するに際して、アメリカ人の詩人、ロバート・フロストの詩に自らの思いを託した。その思いは変わらない。お気に入りのふくろうを手に土井さん、こんなふうに語るのだった。
「旧首相官邸、覚えてる? あそこの塔屋の四方にふくろうがいた。伝説がある。ミネルバのふくろうは、世が夕闇迫れば、飛び立つ。暮色に覆われ、見定めがつかない政治になってきたから、どこかへ飛んでいったんと違うかなあ。ここに来てるかもしれんね」
【鈴木琢磨】
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■人物略歴
◇どい・たかこ
1928年、神戸市生まれ。同志社大大学院修士課程修了。同志社大、関西学院大などで憲法学の講師。69年、衆院初当選。86年、社会党委員長、93年、細川護煕内閣発足で憲政史上初の女性衆院議長。96年、社民党2代目党首。
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