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未来へ向かって足元を <週のはじめに考える>
「歴史的な」といわれる転換も、案外身近な小さなことから始まっています。「そういえば…」と言わないために、未来に向かっていまを警戒しましょう。
ミステリー小説「獣たちの庭園」(ジェフリー・ディーヴァー著・土屋晃訳)には、ナチス総統・ヒトラーの寵愛(ちょうあい)を得ようと、大臣たちがライバル蹴(け)落としに躍起のさまが描かれています。
読み進むと、日本の内閣と自民党内の群像が脳裏に浮かびます。小泉純一郎首相と意見が違う人を、厳しく批判する大臣や党幹部たちです。論理を尊んできたはずの学者出身大臣さえ、大先輩の政治家を「抵抗勢力」と決めつけたりします。
■熱狂した大衆が後押し
“虎の威を借るキツネ”がなんと多いことでしょう。宮沢喜一・元首相の「もっと自由な議論がなければいけない」という苦言を真剣に受け止めてほしいと思います。
ナチス体制下、熱狂した大衆がユダヤ人迫害を後押ししたことは、八木あき子さんの「5千万人のヒトラーがいた!」に詳しく書かれています。裏では宣伝の天才といわれたゲッベルス宣伝相が巧みなメディア戦略を展開しました。
「短く分かりやすい言葉を繰り返す」ナチスの宣伝は、小泉流の“言語操り”に似ています。9・11総選挙で登場した「改革を止めるな」も、その後、連発された「日米はパートナー」も、言葉自体は簡潔ですから中身が十分理解できなくてもついそのまま同意しがちです。
当時と今は情報環境が違います。ナチス時代はラジオと新聞しかありませんから権力者の一方的宣伝が可能でしたが、多様なメディアのある現代は情報の比較が容易です。
しかし、人々はあふれる情報を選別することに疲れて思考を放棄、短い決めぜりふに引きずられているようにみえます。受け止められなかった情報はなかったのと同じです。
■肥大化する強者の欲求
小泉流政治は、新たな課題や敵を次々示し、政府の抱えている問題や失敗から国民の目をそらします。
決めぜりふの呪縛(じゅばく)から逃れ、「郵政改革は本当に国民のためになるのか」「自衛隊は米軍の世界戦略を補完させられるのではないか」などと考え始めた時には、教員、公務員給与の引き下げ、定数削減、高齢者の医療費負担引き上げなどが相次ぎ浮上、といった具合です。郵政問題はいずこへ、です。
市場万能主義、規制緩和の流れに乗って強者の欲求はますます肥大化し「戦後の崩壊」が進みます。今日の食にも困る大勢が公園のテントの中で震えているのを横目に、IT長者が「強い者がより強くなれる社会を」と公言します。日本国憲法は、恵まれた者が自制し、弱い者を助けて多くの人が幸福になる社会の実現を目指しているはずなのに…。
ワイマール憲法と呼ばれた第二次大戦前のドイツ憲法も、そのような社会権の思想を盛り込んだ先進的なものでした。しかし、その憲法が大統領の権限を強く認めていたことを利用して独裁的権力を握ったナチスは、全権委任法の制定で憲法そのものを実質的に捨て去りました。
総選挙圧勝後の首相や側近たちの言動とイメージが重なります。
フリーター、ニートなど若者が無気力で怠惰なようにいわれますが、背景には利潤追求が最優先になった経済界の現実があります。派遣、契約、臨時などの雇用形態で労働者を安く使う妙味を企業が知り、大学新卒者でさえ正社員に採用する機会を極端に減らしています。
先の総選挙で、小泉政治の被害者ともいえるそんな若者たちが自民党を後押ししたのは皮肉です。際限のない自由は隷従をもたらす−という哲学者の言葉が思い出されます。
ワイマール憲法に勝るとも劣らないほど先進的な日本国憲法も、いまや危機を迎えています。自民党がつくったのは憲法の「改正案」ではなく「新憲法草案」であることに留意しましょう。現憲法の規定の大部分が残っているとはいえ、基本思想は大きく変わっています。
現憲法の前文にある格調高い“非戦の誓い”は消え、代わって「国や社会を支え守る責務」が盛り込まれました。
自衛軍を保持し、軍事裁判所まで設置すること、さらに「自由、権利には責務、義務が伴う」とわざわざ書いていることを併せ考えると、戦後日本人が大事にしてきた「軍事を優先しない」という価値観は否定されると言っていいでしょう。
防衛庁の省への昇格も具体性を帯びてきました。
■苦い歴史を想起し懸念
中韓両国を無視して招いたアジアでの孤立を、国際連盟脱退、戦争突入という苦い歴史に重ねると懸念も生じます。内政も外交も手詰まりの中、見通しなき強気は危険なナショナリズムに点火しかねません。
将来、「あの時が転機だった」と悔やまないよう、足元をじっくり見つめ、いま起きていることをよく考えて行動しましょう。
http://www.tokyo-np.co.jp/sha/
「東京新聞」12/18社説(一部は紙面より引用)
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