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この国はどこへ行こうとしているのか−−相国寺派管長・有馬頼底さん(毎日)
http://www.asyura2.com/0510/senkyo17/msg/626.html
投稿者 片瀬テルミドール夏希 日時 2005 年 12 月 10 日 09:35:53: x0P0raHFBfKZU
 

http://www.mainichi-msn.co.jp/tokusyu/wide/news/20051202dde012040002000c.html

◇「平和」訴え、世界を駆ける−−相国寺派管長・有馬頼底さん、京都からの発言

 ◇ゼニを儲けたなんて、儲けただけの話やないか。カネ儲けできない人たちのほうが、よく見えておる

 「紅葉、遅おすなあ」。京都の人の、それがこの秋のあいさつだった。やはり地球温暖化の影響なのかなあ。東京のテレビ局は競って古都の名刹(めいさつ)から生中継、ひたすら旅情を誘うけれど。じわり、忍び寄る異変が、やがて……。

 それが杞憂(きゆう)であればと願いつつ、朝、ひんやりした京都御苑を抜け、臨済宗相国寺(しょうこくじ)派管長、有馬頼底さん(72)に会いに行く。日米首脳会談のとき、金閣寺を小泉純一郎首相とブッシュ大統領に案内したお坊さんである。緊張しながらも、相国寺の塔頭(たっちゅう)、大光明寺にお邪魔すると、「ようお越しになったなあ」。まあるい笑顔に迎えられた。

 「金閣寺に出っぱりがあるでしょ。池へ突き出た。そこに腰掛けて、しばし歓談しました。ブッシュさん、庭をずっとご覧になって、じつに平和ですね。この庭はいいですね、とおっしゃった。私は申し上げた。いま、日本は平和かしらん。でも、世界が平和にならんとダメです。そう言いました。すると、ブッシュさん、大きくうなずいて、イエスとね。聞こえた。聞こえましたよ。小泉さんも、うーんとうなずいておられた」

 ●言いたかったこと

 と、ここまで話された有馬さん、ほんの一瞬、言葉を詰まらせ、険しい表情になった。

 「ほんとはねえ、アメリカさん、京都議定書にサインしてくれって言いたかったんです。温暖化や環境は大問題でしょ。美しい庭も京都も地球がちゃんとしてなあきませんからな。でも、そこまで言っていいものかどうか、悩んでね。いや、もっと言いたかったのは、ブッシュさん、国に帰ったら、すぐ、イラクから引き揚げなさい、と。執事長から、それだけはやめてください、胸の内に押さえて、押さえて、と諭されました」

 その立場ゆえ、ぐっとのみ込まれたというわけか。どうせなら、ガツンと言ってほしかった。コラッとしかってほしかった。錦秋の京都で蜜月ぶりを誇示する2人のリーダーをにらみつけて。「そうでしたなあ。ハハハ。まあ、世界が平和にならなあかん、ということだけは伝わったんと違いますか。そう信じたいですけどなあ」。老師、ちょっとバツ悪そうに頭をかく。

 ●くさい思い出

 平和、平和、と有馬さんが口すっぱくおっしゃるのにはむろん理由がある。少年時代の思い出が戦争につながっているからである。1945年8月15日は忘れられない。あの強烈なにおいとともに。

 「旧制中学1年でね。大分の軍需工場に行かされてました。学徒動員です。明けても暮れても弾薬箱を組み立てたり、鉄砲磨きをしたり。見上げれば、B29。終戦の日は防空ごうを掘っていました。田舎の小さな駅のトイレの横でした。掘っていると大便がしみ出てくる。くさいのなんのって。すると、重大放送があるというやないですか。それが玉音放送だったんです」

 鼻の粘膜にくっついた8・15体験、失礼ながら、噴き出してしまったけれど、老師の目はすぐさま悲しみに沈んだ。戦争の悲惨はドンパチがやんでも続くのだった。

 「私が小僧をしていた寺は兵隊の宿舎でした。放送を聞くなり、兵隊は日本は負けたんだ、と叫びだした。ところが、上官は兵隊をずらーっと整列させ、殴る。戦争に負けたとはなにごとだ! けしからん!と。しばらくして、その上官が兵士に袋だたきにあった。その光景を見たんですよ。もう階級なんてないですから。仕返しです。ああ、いやだ、いやだって思いましたなあ。すべて戦争のせいです」

 ●沖縄

 京都五山のひとつ、相国寺といえば、かの足利義満の創建になる由緒正しき禅寺である。その老師なら、座禅を組み、ときに弟子と禅問答をしていればよいのかもしれない。でも、有馬さんは違う。時間を惜しんで日本列島を飛び回り、世界を駆けめぐる。腰の軽さといったらない。たとえば沖縄の高校を訪れ、こんな熱弁を振るったらしい。

 「ひと通り、お話しさせてもらって、女子学生から質問があった。世界中でどの国が一番、平和ですか、と。私は答えた。日本だ、と。憲法9条があるからですよ。戦はしない、戦争を放棄した。それを変えようとする動きがあるけれど、みなさん、しっかり守ってくれ、わが国で唯一、地上戦があった沖縄、ご先祖が苦労なさったんだ。拍手でした。仏教は殺生を禁じています。虫けらだって殺しちゃいかんのですから。人間同士が殺しあっていいはずない」

 ●ヒルズ族

 そんな有馬さん、つい先だって、夜の東京は六本木ヒルズ51階の会員制クラブに現れ、いまをときめくヒルズ族らトップビジネスマンに禅を説いた。鎌倉の茶道、宗〓(そうへん)流十一世家元の山田宗〓さんと、一橋大イノベーション研究センター教授の米倉誠一郎さんが主宰するエグゼクティブの集いであった。その名を師と仰ぐ有馬さんの雅号をとって「大龍(だいりょう)会」と呼ぶ。なんだかミスマッチだけれど。

 「かれこれ8年くらいになるかな。春夏秋冬、趣向を凝らし、鎌倉で禅と茶の席をこしらえてくれる。俗臭ぷんぷん、経済界のエキサイティングな世界とは別の静謐(せいひつ)な世界を知れば、益することがあるかもしれん。1時間でも2時間でも心を無にする。それがいかに重要であるか。私の話が役立つのであれば、とお引き受けしているんです」

 勝ち組、負け組、そんな言葉ができた。ヒルズ族などはその勝ち組の代名詞。広大なマンションに住み、美人の女優と結婚し、うまいものを食べ歩く。老師に頼らねばならぬとは思えないのですが。

 「私は彼らに言っているんです。いま、君らは絶好調かもしれん。だが、明日はどうなるかもわからん。ソフトバンクの孫正義君も来たもんです。彼は言うんだ。不安で不安でたまらんのです、と。最近、ちっとも来んから破門だけどな、ハハハ。楽天の三木谷浩史君も忙しくて来なくなったな。禅は本来無一物の精神。生まれたとき、死んでいくとき、そうでしょ。煩悩は人間のアカでね、それを洗い流していけばいいんです」

 ●心字庭

 でも、この日本、戦後60年の時が流れて、ますますカネさえあれば、そんな世相になった。品がない。さらに老師に問うてみた。「カネ」とは、いったい、なんですか?

 「ゼニか、あんなもの、あってないようなもんや。ないんや。ないんや。ゼニを儲(もう)けたなんて、儲けただけの話やないか。実体なんか、なーんにもない。ゼニに固執し、執着すると、周囲が見えなくなる。カネ儲けのうまい人間が成功者か? いっこうにカネ儲けができない人間が劣っているか? そうではない。むしろ、その人たちのほうがさわやか、よく見えておる」

 枯れ山水だろうか、見事な庭を見せていただいた。白い砂に飛び飛びに石が並んでいる。「あれ、心という字になっています。心字庭と言うんです」。インタビューをはじめてわずか10分で正座をギブアップした体たらく、禅の修行など思いもよらない。「難しくない。はーっと息を吐けばいい」。できるかなあ。ただ、いつの世も心は汚れ、それを洗おうと努めてきた日本人がいたんだ。庭に教えられ、少し背筋がしゃんとした。

 ●千利休

 有馬さんの話題はまさに縦横無尽、なかでも印象的な話があった。千利休のこと。

 「利休の死因の謎です。なぜ、切腹まで追い詰められたか。私は豊臣秀吉が朝鮮に出兵したことへの敢然たる抗議だったのでは、とにらんでいるんです。それまでの唐物茶碗(ちゃわん)を遠ざけて、しきりに高麗茶碗を使うようになった。若くして茶の世界にデビューしてから何年か空白がある。堺でしょ。朝鮮に行ったんやないか。そこで茶碗の美に感動した。無心にろくろを回す陶工たちの住む地が、軍隊に蹂躙(じゅうりん)されることが耐えがたかったのでは、利休は反戦平和主義者だったのでは、とね」

 この国はどこへ行こうとしているのか。舵(かじ)取りをまかされている政治家も、そこがわからず、寺の門をたたく。

 「とっかえひっかえやってきます。(自民党前副総裁の)山崎拓さんも会いたい、会いたいというてきてるようです。靖国のことかいなあ。会いたくないんやけどなあ」【鈴木琢磨】

 ■人物略歴

 ◇ありま・らいてい

 1933年、東京生まれ。8歳のとき、大分県日田市の岳林寺で得度。相国、金閣、銀閣の3寺の住職をかねる。京都仏教会理事長。著書に「禅僧が往く」など。

毎日新聞 2005年12月2日 東京夕刊

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