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http://www.mainichi-msn.co.jp/tokusyu/wide/news/20051215dde012040042000c.html
戦後60年 作家・野坂昭如さんの寄稿
◇言葉がない、日本語がない。これでは記号が飛びかった戦争中と変わらない。大人の言葉を若者に聞かせる仕組みを構築すべきだろう
焼け跡闇市派を自称し、独特の文体で知られる作家、野坂昭如さん(75)。脳こうそくのリハビリ中に見えてきた「いまの日本」について寄稿してもらった。
今年は戦後60年だった。一つの節目に違いないが、ぼくにとっては日々是(これ)同じ。空を仰ぎ見て、この世の来し方、これからを思う。この「平和」な日本で、異常とされる事件が多発し、世間は驚き嘆き、殺人ゲームの影響だのビデオがどうした、家庭環境、教育問題をあげつらい、精神病理学、心理分析の専門家はしたりげに解説、通りいっぺんの講釈を述べる。しかし問題はそう簡単じゃない。世間にしてみれば他人事、自分とはかかわりのない事件とみなし、本質について誰も考えようとしない。
この曖昧(あいまい)さこそ日本人の特徴。この前の敗戦を振り返ることなく、うやむやのうち繁栄を遂げ、「平和」というスローガンに、いつしか日本人は自分でモノを考えなくなった。そのツケがまわってきたのではないか。ぼくの狭い見聞では、今の日本が、特に外交において、何を言っているのかよく判(わか)らない。
基地問題はアメリカのいいなり。小泉純一郎首相は、これも日米関係強化とおっしゃるが、今や日本は、アメリカ本土防衛の最前線国家列島といえる。
にしても、小泉率いる自民党の圧勝は、国民の総意に基づいて選ばれた結果である。「改革を止めるな」「イエスかノーか」。響きのいい言葉が並び、若い世代、無党派層に加え、都市部の浮動票層が小泉流ドライさを歓迎、これが票につながったという。
今、若者にとって、新聞やテレビで報道されている内容について、それがいいかげんなのかどうかすら判らない。国際情勢や国内における問題は、自分の上を通りすぎていくことであり、これは、都会における四季の移り変わりに等しい。かたや大人たちは、子供としゃべることを放棄しているがごとく見える。言葉がない、日本語がない。これでは記号が飛びかった戦争中と変わらないじゃないか。
意見が違っても構わない、大人の言葉を聞かせる仕組みを構築すべきだろう。
小泉首相の支持率も上昇したとか。だが、この支持率のはじき出し方は実に曖昧。さらに、支持率の高いことは果たしていいことなのか、正しいことなのか。これについてマスメディアは触れない。一つの道として、多数決は結構なことだが、民主主義がお手軽に使われているきらいがある。
ぼく自身、いまだに民主主義というものを一つ一つ確かめているようなところがある。どこかまだ民主主義に対するいかがわしさが残ったまま。日本が戦争に負けて、アメリカから与えられたのが民主主義。さあこれから民主主義になるといわれても、多くの国民にはピンとこない。良いものは良いと、さっぱり判らないまま従った。かえりみて、戦中の軍国主義をいわれてもはっきり判らない。「軍隊が誠」の考え方がまかり通る世の中、小学校で閲兵分列(注1)、中学では軍事訓練をさせられた世代が、必ずしも軍国少年だったとは言えない。軍国主義というものに支配されていたとは考えていなかった。
戦争に負けて、大人たちの態度はガラリと変わり、昨日までの敵も何もない。人も国家も一日で変わり得る、それが人間というもの。だからこそ、今現在、常に疑問を持ち、疑ってみる必要があるのだ。
確かに日本は独裁政権のもとで、圧制に苦しんでいるわけじゃない。だが、戦後の繁栄を謳歌(おうか)する中、いつしか日本人は、個人で地道にものを考えることをしなくなった。ムードに流されて支持、不支持の意見を表明、その音頭をとっているのがマスコミ。この図式は、さらに酷(ひど)くなっている。
選挙中の報道は、マドンナ候補やら刺客やらに終始、郵政民営化一本やりについて、実現後の具体的な解説など、もっとあっていいはずだった。言葉のみが先走る小泉首相の、いわば欠陥をかばい立てする結果となった。
小泉劇場とやらを一歩出て、国民がようやく与党の衆議院3分の2を占める意味を知る。これは危ないと自民党を見捨てる時、すでに手遅れか。任期はあとわずか、後釜を狙う人たちを待っているのは、小泉政権の尻ぬぐい。
今後、憲法の改正に向けての動きが活発になる。
今の政府の現状を見れば、論議が尽くされるとは到底思えない。憲法第9条は、軍隊を持たぬ日本の盾の役割を果たしてきた。
ぼくは、日本は戦争に向かない民族だと思っている。憲法について言うならば護憲派である。
しかし、この問題を本気で考えるのは、これからを生きる若者たちであるべきだろう。「軍」を持つとはどういうことなのか、アメリカのいいなり、お上の決めるままでなく、これからどう生き残っていくのかを若者こそが決定しなければならない。
民族を支える大きな要素に農がある。だが、日本は農を捨てた。自分たちの土地を捨て、そこから出てくる実りをほったらかし、他の国に任せる。これは、日本人として生きていく上で、基本的な大事なものを失ったに等しい。
食いものとエネルギーを他国に任せ、豊かな国と錯覚している。
日本人はおっとりした気質。食糧危機が来るなんて考えもしない。その日暮らしでなんとかなるという民族性。今こそ、日本の置かれている現状を確かめて認識を新たにする必要がある。このままでは本当に危なっかしい。食い物がないんだから。日本の自給率、かの荒れ果て乾ききったアフガニスタンより、低いのだ(注2)。地球規模の環境破壊が進むなかで、世界を覆う凶作が始まらないとは限らない。
さて、輸入ですべてまかなっている日本はどうなるか。改正食糧法による減反の08年度までの廃止が決まり、今、日本全国の水田で米や麦作り、日本民族を飢えさせない古くからの準備が少しずつ進んではいるにしても、間に合うかどうか。
カネで解決できる? カネなんて、もはや紙ですらなく液晶画面上の数字でしかない。くどいのを承知で申し上げる。自給率についての議論を高め、米を大切にすること。
何にせよ、しゃべりあうことが大事。生きた言葉で議論することに意味がある。
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注1 軍隊が、兵隊を検閲するために行う行進。銃剣の代わりに竹やりを担ぐなどして小、中学校でも行われ、軍の視察もあった。
注2 FAO(国連食糧農業機関)によるとアフガニスタンの食糧自給率(穀物ベース)は97〜99年平均で94%。日本は04年で28%。
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■人物略歴
◇のさか・あきゆき
1930年神奈川県鎌倉市生まれ。CMソング作詞家などをへて、68年に「アメリカひじき」「火垂(ほた)るの墓」で直木賞受賞。主な著作に「エロ事師たち」「戦争童話集」、近著に「最後の林檎」。
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