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「普天間」なぜ米国は譲歩したのか=古本陽荘(政治部)
◇共に戦う同盟へ質的変化−−重くなる日本の責任
「これでもノーと言うのか。もうフットボールを投げれば届く距離ではないか」。普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)移設をめぐる日米協議が最終局面を迎えた時、米高官はこう不快感を表明したという。
移設先をめぐっては防衛庁がキャンプ・シュワブ沿岸部(同県名護市)を提示。米政府は海上の辺野古沖縮小案を譲らず、10月26日の合意までの最後の3日間の日米交渉は緊迫した。
米側は移設先の位置を防衛庁案から300メートルの距離まで近づけ、さらに200メートルまでとだんだん歩み寄った。それでも防衛庁側は「国の天然記念物ジュゴンのエサとなる藻場への影響を最低限に抑えるには沿岸案しかない」との主張を崩さず、最後は米側が大幅に譲歩したのだ。
県外移設を悲願とする沖縄県から見れば、日米両政府が名護市の拡大地図を鉛筆でなぞりながら決着させた交渉と映るだろう。負担軽減とは名ばかりで「絶対、容認できない」(稲嶺恵一・沖縄県知事)という地元のやり切れない気持ちは理解できる。
だが、今回の決着を「物理的な距離」だけから論じるのは早計である。防衛庁案と米国案は本質的に異なっており、表面的にはドタバタに見える交渉で米政府が最後に譲歩した背景には日米関係の質的な変化があるからだ。「米国の意向に沿わなければ日米関係は壊れる」という旧来型思考では日米同盟の変化の本質を見失う。
ワシントンで10月29日に開かれた日米安全保障協議委員会(2プラス2)で普天間移設は正式決定されたが、米政府が譲歩した理由はまさに2プラス2でまとめた在日米軍再編の中間報告に示されている。そこには日米関係は「共に戦う」同盟へと本質的な変化を遂げる方向性が打ち出されており、より対等な立場で米国と話し合う土壌が出来ていたことがうかがえる。
「移設を実施するのは防衛庁だ。信用できないのか」
先月25日、ローレス米国防副次官と密会した大野功統防衛庁長官は、激しい口調で防衛庁案の妥当性を主張した。安全保障をめぐる日米の議論で、日本側が対等の立場で交渉するのは極めて異例。まして防衛庁が矢面に立つことも例がなかった。
防衛庁が移設先をキャンプ・シュワブの陸上部分と主張したのは、96年の日米の普天間返還合意から9年たっても着工できずにいる海上の辺野古沖現行計画の二の舞いになることを避けたかったからだ。海上なら環境が問題となり、反対運動で工事は進まない。久間章生・元防衛庁長官は毎日新聞の取材に「米国なら法律で、提供水域をランクづけし、それを厳しく運用していけば、海上でも立ち入りを禁止できる。日本では海上は海上保安庁の管轄だし、警察権で排除できる陸地とは事情が違う」と指摘。デュープロセス(法の適正手続き)を重視する米国の法律万能社会のようにはいかないと強調した。
日米間には移設の実現可能性をデュープロセスと絡め、それが当然と考えるかどうかの感覚の違いがあった。米政府は地元の名護市長が理解を示した辺野古沖縮小案の方が陸地よりも騒音や事故の危険性が少ないと判断し、「ジュゴンと人の命のどちらが大事か」と迫ってきたが法制度などの面で日本の事情に疎かったように思える。
外務省は米側の主張に沿う形での解決を望み、防衛庁と対立した。外務省を通じて「最後は防衛庁が折れるので辺野古沖縮小案でまとまる」とのメッセージが米国に伝わったことから、米政府も辺野古沖縮小案での決着を確信していた形跡がある。
結局、米側が譲歩したのは、同盟関係が質的に変わる過程で日本側の交渉力が増したからだ。中間報告で示した自衛隊と米軍の「役割・任務分担」では、国際的な活動を含め、情報共有や輸送など後方支援分野で自衛隊が米軍の任務を「肩代わり」する方向性が明確になった。普天間移設は米国にとっても小さな問題ではなかった。しかし、自衛隊を「真の軍事的パートナー」として受け入れようとしている大きな文脈から見れば、移設問題で日米同盟の変革が揺らぐようなことは米国の国益ではなかった。同盟変革の果実を得るため普天間では譲ったのだ。
むしろ米国の譲歩で日本は高いツケを負ったと受け止めるべきだろう。世界規模で展開する米軍の「後方支援部隊」として自衛隊を位置づけることを本当に望んでいるのか−−。もう一度冷静に日米同盟のあり方を考えるべき時期に来ている。
http://www.mainichi-msn.co.jp/eye/kishanome/
「毎日新聞」11/02 朝刊
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