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「前原(誠司・民主党代表)を抱き込め」。首相・小泉純一郎が自民党執行部の幹事長・武部勤、政調会長・中川秀直らに盛んに指示を飛ばしている。国会議員互助年金(議員年金)制度の即時廃止で民主党案を丸飲みしたトップダウンの決断はその序章に過ぎない。31日の内閣改造・党役員人事を受けた新体制下での「ポスト小泉」レースの胎動とともに、民主党揺さぶりの仕掛けは向こう1年の「小泉劇場」最終幕の主題となる。
「案を出させろ」特別会計改革に照準
「その提案を参考にしたい」。26日の党首討論。政府が検討中のアスベスト(石綿)対策法案を巡り、前原が被害者救済策を過去に遡って幅広く適用するよう求めた。小泉はすかさず柔軟姿勢で応じて見せた。
「自民党に今すぐ来てもいいような人たちばかりだ」「野党だからといって、余り与党との違いを出そうと考えない方がいい」。小泉は年齢で二回りも下の43歳、前原が新代表として登板して以来、しきりに秋波を送り続けている。議員年金問題では衆院選後、当初は連立を組む公明党の段階的廃止論に乗って取り組む姿勢を見せた。転換は17日の靖国神社への参拝直後だった。首相官邸を訪れた中川秀直に命じた。「即時廃止の民主党案に乗った方がいいんじゃないか」
続く第二弾の仕掛けも既に照準を定めている。特別会計の改革だ。衆院本会議での代表質問で、武部が自民党幹事長とは思えない大胆な特会改革論を展開。前原は出遅れるわけに行かないとばかり、本格論戦デビューとなった9月30日の衆院予算委員会で「31ある特別会計を6つに整理し、約5兆9千億円の予算の節減が可能だ」と提案した。小泉は「政府として真剣に検討する」としっかり受け止めて見せた。
特会改革は小泉が積年の懸案と位置づける道路特定財源の見直しと絡んで構造改革の優先課題に浮上してきた。この予算委の答弁は就任直後の前原へのご祝儀などではなかった。
「前原提案の具体的な中身はどうなっているんだ。民主党に出させろ」。小泉は党執行部や財務相・谷垣禎一などに盛んに檄を飛ばし、並々ならぬ関心を寄せている。「いい加減な内容なら許さない」とこわもては崩さない半面、現実的で手応えのある改革案なら議員年金廃止と同様に「丸飲み」も辞さない気配を漂わせている。「提案してくれたんだから、具体的に出してもらってはどうだ。本当にいいものなら採用すればいい。いいものは採り入れる」。21日の経済財政諮問会議でも小泉はこう繰り返した。
「選挙も終わったのだから、違いを埋めていくことが大事だ」。小泉は年金問題でも予算委で民主党政調会長・松本剛明にこう呼びかけ、衆参両院合同の年金改革協議会の早期再開に応じるよう促している。政府部内では官邸主導でサラリーマンの厚生年金と公務員の共済年金の統合・一元化を検討する関係省庁連絡会議を設置し、具体案の検討を急がせている。民主党を引っ張り出す誘い水にしたいからだ。
消費税率アップや憲法改正にらむ
9月の衆院選で296議席の大勝、公明党を合わせて全議席の3分の2を超す巨大与党を出現させた。その直後にもかかわらず、小泉はなぜ民主党に視線を送るのか。
中期的には2007年の参院選や、次の衆院選をにらむ戦略がある。自民党には大勝の反動で、次の選挙は敗北必至という「高所恐怖症」(元幹事長・加藤紘一)が漂う。一番の対症療法は最大の敵である民主党を揺さぶり、ガタガタにしてしまうことだ。まず官のリストラ、公務員の総人件費削減などで民主党の支持基盤である官公労を徹底してたたく。前原らが労組の呪縛を振り切り、構造改革路線の「対案」を出してくれば丸飲みして乗っかればいい。巨大与党の重みで民主党が割れでもしてくれれば思うつぼだ。
そこまで行かなくても、年金制度改革や消費税率引き上げ、さらに長期的な課題となる憲法改正と言った重量級の政治課題では、民主党とも折り合いをつけて乗り切りたいという思惑も秘める。少子高齢化社会のインフラとも言うべき年金改革や消費税増税の問題で国論を二分し、政争の具として選挙の争点にするのはできれば避けたい。28日には自民党は新憲法草案を公表した。憲法改正はそもそも衆参両院合わせて3分の2の勢力がないと発議できず、民主党の協力は欠かせない条件だ。
短期的には、残り任期1年となった小泉改革の総仕上げをにらむ。31日の「最後の人事」を終えた後は民主党取り込みは政局運営の有力なカードになる。長年の悲願だった郵政民営化で党内の「抵抗勢力」を正面撃破したとは言え、小泉はまだまだ気を緩めてはいない。前原が「改革競争」を掲げて先鋭的な改革案を繰り出してくれば、与党内や各省の反対を抑え込むテコとしても使えるという計算がある。
「今日の議論を聞いていると、あの時と同じだ。全く何も変わっていないということがよく分かった。これから1年、こういうことがずっと続くんだなと」
27日の諮問会議。時計の針が終了予定の午後7時を回って間もなくだった。険しい表情の小泉はこう切り出すと、一気にまくし立てた。標的は政府系金融機関の統廃合でそれぞれの所管官庁の官僚の論理を展開し、慎重な取り組みを主張した谷垣と経済産業相・中川昭一だった。
「私が郵政民営化を最初に唱えた時も、役所や自民党は郵便貯金には指一本触れさせないと全員が言い立てた。2001年に政策金融改革に切り込もうとした時も、橋本(龍太郎・元首相)さんが官邸に乗り込んできて、指一本触れさせないと見得を切った。あの時と何も変わっていないじゃないか。大臣は官僚に引きずられないようにしっかりやって欲しい」
小泉は終了時刻を15分もオーバーして机をたたきながら谷垣と中川を厳しく叱責し続けた。「政権発足以来、三本の指に入る激しい剣幕」(出席者の一人)だった。「それじゃッ」。バン、とテーブルに両手を突いて立ち上がると、谷垣らに弁明する一瞬のいとまも与えず、さっときびすを返して足早に部屋を出て行った。凍り付いた出席者たちが後に残された。
踏ん張れるか民主、公明も浮かぬ顔
政策金融改革、国と地方の税財政改革(三位一体改革)、特別会計や特定財源の改革、医療制度構造改革、公務員の定員純減と総人件費の削減――。小泉改革はあと1年あると言っても、実際に実行を裏付ける予算措置や立法措置を取るチャンスは来年1月召集の通常国会しかない。万が一、自民党内で「抵抗勢力」がしぶとく改革路線を阻もうとし、民主党やその一部の方が改革に踏み込んでくれば、小泉は協力を求めることに何らためらいは見せない。
「政治は好き嫌いでやるんじゃない。協力してくれるなら、それでいい」
小泉の持論である。過去4年半の政権運営を振り返っても、01年のアフガニスタン戦争支援のテロ特別措置法案を巡って当時の民主党代表・鳩山由紀夫と党首会談まで持ち込むギリギリの駆け引きを展開した。03年にも代表を退いていた鳩山に舞台裏で秋波を送っていた。これは情報戦の色彩も帯びているが、8月の衆院解散直後から、総選挙後のいまに至るまで、前原執行部にも入った有力幹部に自民党との水面下での接触の風聞が絶えない。
「与党との違いを出そうと意識しない方がいい」と前原民主党にアドバイスする小泉は、内輪では「連立政権入りの勧め」さえ口にしたりするほどだ。2大政党による政権交代可能な政治システムの確立を目指すのが今の小選挙区制選挙の大義だ。大連立などはもちろん理由がないし、民主党が踏ん張らないと政党政治は漂流しかねない。ただ、前原の「改革競争」を逆手にとって自民党に丸飲み戦略で来られると、民主党は対案を出しても存在感発揮どころか与党を助けるだけで、辛い展開になる。
自民党とがっちり手を組むはずの公明党も、どこか浮かない顔だ。議員年金廃止では小泉の頭越し決断でメンツをつぶされた。5年間で5回目の小泉の靖国参拝では初めて事前に連絡をもらえなかった。内閣改造の日程も代表・神崎武法が27日の党中央幹事会で11月2日になると言う見通しを示した翌日に前倒しされた。あれだけ総選挙では自民党と融合が進んだように見えながら、発言権を増すどころか政局の主導権は小泉に握られっぱなしだ。
小泉が仕掛けを止めずに独走し、政界の基本構図は落ち着かない。自民党大勝による「05年体制」(中川秀直)がこのまま定着する確証もまだ、ない。
(文中敬称略)
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内閣改造・党役員人事を受けた新体制は「小泉劇場」最終幕。民主党揺さぶりはその主題の一つだ
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