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「あなたは『わが闘争』を読んだことがありますか?本当のところ、あれはいままで政治家によって書かれた本のなかで一番正直な本です」
英国の詩人W・H・オ―デンの言葉である。
彼が皮肉をこめて「称賛」する『わが闘争』は、いうまでもなくアドルフ・ヒトラ―(1889〜1945)の悪名高き著書だ。誹謗中傷と粗悪な論理にあふれ、通読するのはまことにつらい。しかし、政治とは何か、あるいは政治の邪悪さについて、非情な独裁者ならではの「ひらめき」を読み取ることもできる。
演説の重要さを繰り返し説く。
「この世界における最も偉大な革命は、決してガチョウの羽ペンで導かれたものでないのだ!」
「偉大な歴史的なだれを起した力は、永遠の昔から語られることばの魔力だけだった」
(『わが闘争』角川文庫)
一兵卒から独裁者に駆け上った原動力は、たしかに「ことばの魔力」、つまり演説・宣伝の力だった。
きわめて明快な人心掌握・操作術を述べる。
大衆の理解力は小さいが、忘却力は大きい。彼らは熟慮よりも感情で考え方や行動を決める。その感情も単純であり、彼らが望むのは「肯定か否定か、愛か憎か、正か不正か、真か偽か」のわかりやすさだ。
「民衆はどんな時代でも、敵に対する容赦のない攻撃を加えることの中に自分の正義の証明を見出す」。肝要なのは、敵をひとつに絞り、それに向けて憎悪をかきたてることだ。
言葉は短く、断定と繰り返しが必要だともいう。
こうした技術はヒトラ―の発明ではないかもしれない。いまでも、世界を正邪の二つに峻別することを好む米大統領もいれば、ワンフレ―ズとその繰り返しを持ち味にするこの国の首相もいる。
ヒトラ―は「時間」にも注意を払った。午前中の集会で演説したとき、誰も熱狂してこなかった。会場の「気分は氷のように冷ややかであった」。聴衆の冷静さほど扇動家にとって嫌なものはない。朝よりも昼を、昼よりも夜を。人々を「ことばの魔力」でまどわすための鉄則である、と。
大衆に寄り添うふりをしながら、驚くべき大衆蔑視の政治家だった。大衆は愚鈍だから「小さなうそより大きなうそにだまされやすい」と言い切る。
世界の「悪」をすべてユダヤ人のせいにし、ひたすら「ア―リア人種の優越」をふりかざした彼は、微細なまでに政治技術を磨きつつ、大きなうそで人々を幻惑したのだった。
映画「ヒトラ― 最期の12日間」が上映されている。予想を超えるヒットだったようだ。悪の権化というよりは、人間らしい弱みを持った独裁者、どちらかといえば卑小な人物として描かれている。
たしかに彼は人間の弱さ、卑小さを熟知していた。その弱さに徹底的につけいって権力を握り、政治の邪悪さを極限にまで拡大してみせた男だった。
時の墓碑銘(エピタフ) 小池民男(本社コラムニスト)
朝日新聞 2005 9 26
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