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日本海新聞
http://www.nnn.co.jp/rondan/tisin/051013.html
温故知新 −ビル・トッテン−
民営化、自己責任の社会
2005/10/13の紙面より
先週米国のハリケーンについて書いたが、書き足りないのでもう一度今週も取り上げる。今回の災害が明らかにしたことの一つは、米国が実はどの先進国よりも貧困が多いという事実である。
先進国一の貧困率
米国勢調査局の発表によると二〇〇四年度の米国の貧困率は12・7%、人数にすると三千七百万人が貧困線以下で暮らす。ブッシュ政権成立の年から上昇して四年間で貧困者数は約五百九十万人も増えた。米国民の医療保険未加入率は15・7%で約四千五百八十万人が医療保険に入っていない。これも前年比八十万人増である。州別では今回ハリケーンの被害をうけたミシシッピやルイジアナはワースト10にランクされている。そして貧困者が暮らす地区が壊滅的な被害を受け、少数の黒人が行う略奪事件を、企業がスポンサーとなっている米国メディアは記事として大きく取り上げた。
日本の大手メディアが取り上げることのなかった記事で私が興味深く読んだのは、米国を襲ったハリケーンのてん末をキューバと比較したものであった。二〇〇四年九月、過去五十年間で最大規模の風速一六〇マイルの大型ハリケーン“アイバン”がカリブ海諸国(グレナダ、ジャマイカ、キューバ)を直撃した。キューバでは避難勧告で千五百万人以上の国民が高地へ避難し、二万世帯が破壊されたが死者は一人も出なかった。ニューオリンズのような略奪や暴力、戒厳令が出されることもなかった。それは米国のような大きな貧富の差がなかったからであろう。
米のすべてを美化
キューバは綿密に計画された避難警告システムを持ち、地域住民の避難に際して誰が手助けがいるのかが明記された資料があり、避難シェルターには近隣のかかりつけの医師が配置され、例えば誰がインシュリンを必要としているのかといった情報まで配布されていた。医師であってもわれ先にと自分の車で安全なホテルへ避難するのではなく、近所の人々と一緒にシェルターへ移動するのがキューバ流のやり方だったのだ。ハリケーンや地震のような自然災害は個人ではどうすることもできない。豊かで自由な市場経済でありながら多くの死者を出した米国と、その米国に経済制裁を科せられている貧しいキューバの状況は、自然災害の多い日本でわれわれがどちらの道を選択したいか、選択すべきかを考えるよい事例である。
国家にはその成り立ちや伝統、長い間に培われた文化がある。少し前の日本はキューバのように誰もが同じボートに乗っている国であった。日本の町並みは似通っていて、駅を降りると商店街が並び住宅地になる。さまざまな職業の人が隣近所で似たような家に住み、高級住宅街とされる地区でも人々はあいさつを交わし、米国のような高い塀で囲まれたコミュニティを作ることはなかった。
農耕民族が一つの水源を共同で使い、秋の収穫を目指して田畑に気を配りつつ助け合いながら暮らしてきたからだと言えば、西洋人の懐古趣味だと言われるかもしれない。しかしそれのどこが悪いのだろうか。地震や台風がくれば自分の家だけでなく高齢者を気遣う、そのような行動は今日、明日で身に付くものではない。祖父母や両親の姿を見て、そのDNAの中に助け合いや共存共栄が染み込んでいたのが少し前の日本人だったように思う。よく「島国根性」などといって悪い面ばかりを指摘するが、米国についてはすべてを美化し、悪い部分を見ないようにしていることに気付くべきである。
弱者に金を使うな
今回の米国のハリケーンで露呈したことは、国を動かしている一部の富裕層が政治家をも動かして自分たちの利益になるように奉仕させているということである。一般の国民を支援するためには税金を使わせたくない、だから社会投資はなるべく少なくする。富裕層は金があるから国に頼らなくても自分を守ることができるから公共交通機関のような社会インフラなど米国には不要なのだ。
それだけではない。自分の子弟は私立に行かせるので公立学校への予算削減を主張する。高額な民間の保険に入れる自分たちには国が提供するメディケアなどの国民健康保険もなくしたい。民間のガードマンを雇えるから警察さえ少なくしようとしているのが米国である。
こうしてすべてを民営化、私有化して社会投資を少なくしたい。社会的弱者に使われるお金はなるべく少なくしたい。避難命令を出したのだから、被災したのは自己責任だというのが米国政府の基本態度である。おそらく今ブッシュ政権がもくろんでいるのは被災地の復興作業でどうやって企業をもうけさせるかであろう。小さい政府、民営化、自己責任の社会。それが日本があがめる米国である。(アシスト代表取締役)
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