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(回答先: 戦後世代の戦後60年(YODAN) 投稿者 吐息でネット右翼 日時 2005 年 10 月 11 日 21:57:28)
札幌市 花輪文男(83)
壮士は功なくして老い行く身となったが、生涯を通じて心にかかる不思議な思い出は消そうとしても消せるものではない
札幌市 花輪文男(83)
壮士は功なくして老い行く身となったが、生涯を通じて心にかかる不思議な思い出は消そうとしても消せるものではない。
あれは終戦の年に始めてジングルベルを聞いた雪の日であった。
ぼくは友人と二人で暫くぶりに小樽から汽車に乗り札幌に出た。和洋折衷の堂々たる駅舎を出ると、駅前通りは広々として特に目立つのは「山形屋旅館」と「北海ホテル」であった。往来の人は忌まわしい戦争を忘れたかの様に三々五々語らって歩いている中に、特に目立つ進駐軍の白線の付いた鉄帽を被ったMPの姿を横目に見ていると、粉雪は遠慮なく頬を撫で、石炭配りの橇馬車が鈴の音を響かせ、御者は頬かぶりして馬の尻を叩きながら「バイキバイキ」と叫び洟水を拭いていた。暫く行くと広い十字路があって、「三越百貨店」だけが一際目立ち、野天やテント張りの闇市とは違う雰囲気に誘われて覗くことにした。
始めての売り出しとあって人だかりは今まで見た事もない賑わいの中に溶け込んで、買う当てもないのに二階の雑貨売り場に出た。ショーケースは行儀よく3米間隔程に並び、これを取り巻く雑踏の人々は老若男女を問わず種々雑多な服装で、人目もはばからずに唯々眺めるだけ、腰を屈めて触って居る者も居たが、店員を呼ぶ声は滅多に聞かれない。
ぼくは前方二つ目のケースに目をやると、そこに居た人の中に復員姿の一人がジーッとこちらを見ている。色白の四角い顔は忘れもしない同期の「山下」である。彼はニタッと苦笑いをして何か話そうとする風振りだが聞こえない。「おい、山下ではないか、山下!山下!」と二度叫んでそこに行こうとしたが中々前に進めない。人垣をかき分け押し退けて一歩二歩と前に進むと山下も一歩二歩と後ずさりする。「おい、待てよ!」と叫んでいると、側に居た友人が「どうしたんだ、バカでかい声出して…」と言うのも聞かずにどんどん人垣を分けて進んだが、進めば進む程彼の姿が遠くなって遂に見失ってしまった。
不思議な事もあるものだと思ってフト思い付いたのは、彼は既に戦死している筈だと気が付いたからで、確かに31名の同期名簿の中から朱線が引かれているからである。
彼は室蘭出身で広島の将校学生当時は机を並べ将来を語り合った仲である。
よく彼の所に慰安袋が届いて雪印のチーズを分けてくれたお人よしであった。戦況厳しい19年の初秋に宇品から船出して南方に赴任した。不幸にも彼等5名と兵員を乗せた船はバシー海峡通過の時に海没したと区隊長から知らされた。ぼくは反対の北方行きとなったがあの時、「山下、お前と今度会うのは九段だな…」と笑って交わした言葉は今でも耳の奥にある。
ご遺族にとっては悲痛な思いになるからソーッとして今に至ったが、ぼくにとっては消すことの出来ない朋友との出会いであった事を胸に秘め、唯々ご冥福を祈ると共に戦争を呪うばかりである。
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