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【ロンドン=中村宏之】ロンドン名物のドアなし旧型2階建てバスが、12月9日を最後に一般路線から引退する。
半世紀にわたって街を駆け抜け、優美な姿と乗り降りが自由な開放感からロンドン市民に慕われたが、車体の老朽化や車イスへの対応を理由に新型バスに代わるからだ。姿を消しつつある「ロンドンの象徴」に、市民の間ではお別れムードが高まっている。
「ルートマスター」と呼ばれるこの旧型バスは、1956年に運行を開始。車内では車掌が、検札業務のほか、行き先案内をしたり、混雑時にお年寄りや子供連れに席を譲るよう協力を求めたりするなど、人情味あふれる乗り物だった。
乗客は、停留所でなくても、自由に乗り降りできた。危険な飛び乗りに、車掌が大声で注意する姿もロンドンらしい光景だった。
68年の製造終了まで、ロンドン向けだけで2760台が作られた。第2次大戦中の航空機製造技術を活用した屋根やボディーは、女性的な曲線で、石造りの堅牢(けんろう)な建物が多いロンドンでは際だって見えた。
これまで、さまざまな映画のシーンに使われたほか、エリザベス英女王が在位25周年を迎えた77年には、銀色に塗装した25台の特別仕様車が、バッキンガム宮殿の周囲を走って祝福したことでも知られる。
ただ、車イスでは乗り込むことができず、障害者に配慮した公共交通機関を2016年までに整備するよう求めた欧州連合(EU)統一基準はクリアできない。車両故障や、飛び乗り・飛び降りの事故も多く、「年間1人は死者が出る」(市交通局)点も、時代にそぐわなくなっていた。
今月14日からは、「遺産ルート」と銘打った観光用路線での運行が始まるが、一般路線を走る姿を見る機会は残り少なくなり、バス停で写真を撮ったり、車掌と思い出話に花を咲かせる乗客が増えている。
子供のころからバスに親しみ、「私たちの愛したバス」の著書があるフリージャーナリスト、トラビス・エルボローさんは、「ルートマスターはロンドンの街の魅力を宣伝するために生まれてきた」と振り返り、ドア付きで乗り降りが自由にできない新型バスについては、「街の中で思いがけない発見をする楽しみが減る」と惜しむ。
一般路線を走るルートマスターは現在、市中心部を通る「159番線」の25台を残すのみ。ラストランの当日は、マラソン中継のようにテレビカメラでバスを追いかける計画もある。ロンドン市民の哀愁を乗せて、ルートマスターは半世紀の運行に幕を閉じる。
(2005年11月8日23時31分 読売新聞)