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http://www.ohmynews.co.jp/News.aspx?news_id=000000003128 から転載
【映画】外来魚に始まる生態系と社会構造の危機
『ダーウィンの悪夢』試写会から
大倉 寿之 2006-11-17 07:53
撮影者:ビターズ・エンド提供
12月23日よりシネマライズ(渋谷)にて公開される映画『ダーウィンの悪夢』を試写会で見た。舞台は、タンザニア、ケニア、ウガンダの3カ国に囲まれたヴィクトリア湖。淡水湖としては、世界第3位の広さを誇り、琵琶湖の100倍にもなる。ここにはかつて、500種とも1000種とも言われるほど多種多様な魚類が生息し、その生物多様性のゆえに「ダーウィンの箱庭」と呼ばれていた。
しかし、悲劇はおよそ50年前にナイルパーチという外来魚が放流されたことから始まる。このナイルパーチは全長2メートル、大きいものなら重さ100キログラムにまで成長する。肉食魚であるために、ヴィクトリア湖にもとからいた魚類を次々と駆逐していった。今や、ダーウィンの箱庭は危機に瀕している。生態系の危機にとどまらず、事態を途方もなく深刻にしているのは、ナイルパーチが様々な社会問題をも引き起こしているからである。
湖のほとりにあるムワンザの町にナイルパーチを加工する工場が建ち、ヨーロッパや日本に向けて大量輸出が始まる。すると、内陸で農業を営んでいた人たちなどが富を求めてムワンザへの移動を始めた。急激な人口増加は町を不自然に膨張させ、歪みを抱えて発展させていく。ナイルパーチをヨーロッパに運ぶ飛行機のパイロットを客にとり、売春をする娼婦たち。蔓延するエイズ。親に死なれ、取り残されてストリートチルドレンとなる子どもたち。
撮影者:ビターズ・エンド提供
ナイルパーチを加工する工場が雇える従業員の数は限られている。あとは、工場から廃棄される魚のあらを、日々の食べ物とするほかはないたくさんの人々が生まれる。不衛生極まりない環境は、日本では想像すら出来ないほど劣悪で、思わず目を背けてしまうほどだ。子どもたちは、乏しい食べ物をめぐっていさかいを繰り広げ、安眠すら許されない路上での生活を余儀なくされる。ナイルパーチの梱包材を溶かして作った粗悪なドラッグを嗅ぎ、不安や恐怖から一時的に逃れる以外に安息を得ることが出来ない子どもたち。その姿は見るものに言葉にならない感情を呼び覚ます。ヴィクトリア湖畔には、悪夢のような光景が広がっているのだ。
ナイルパーチは、日本にも毎年、数千トン前後(04年度は約4000トン)輸入されており、他人事ではない。知らず知らずのうちに白身魚として、日本人も口にしているのだ。ただし、ナイルパーチを敬遠しても、問題が解決するわけではない。ナイルパーチの加工業が崩壊すれば、現地での悲劇が増幅するだけだ。
映画はナイルパーチを軸に展開していくが、外来種問題に南北問題が複雑に絡み合っている。北に暮らす人々の幸福が、南に暮らす人たちの不幸の上に成り立っているのである。ヨーロッパからタンザニアに飛んでくる飛行機は、空のままやってくるわけではない。ザウパー監督が執拗に探るうちに明らかになる真相は、カラシニコフなどの武器や弾薬、ときには戦車まで載せてやってくるということだ。これらが、内戦の続くアフリカ各地に転売されていた。身軽になった飛行機は、今度はナイルパーチを満載してヨーロッパへ飛ぶ。二重に収奪されるアフリカがここにはある。
撮影者:ビターズ・エンド提供
この映画に描かれたアフリカは、ザウパー監督のフィルターを通っているとはいえ、ドキュメンタリーである。このような現実が日常としてあることを、日本人はにわかには受け入れがたいことだろう。映画は決して解決策を教えてくれはしないが、心にズシンと重たい衝撃を与えて、見る者に何かしなくてはならない気にさせる。すでに上映された欧米で大きな反響を巻き起こしたのはもっともだ。われわれ日本人は、この映画にどのような視線を投げかけるのだろうか?
『ダーウィンの悪夢』
監督 フーベルト・ザウパー
時間 1時間52分
公開 2006年12月23日よりシネマライズ(渋谷)にてロードショー。ほか全国で順次公開。
配給 ビターズ・エンド
【ウェブサイト】
www.darwin−movie.jp
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投稿者: piyopiyo
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