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http://www.jcp.or.jp/akahata/aik4/2006-10-03/2006100309_01_0.html
2006年10月3日(火)「しんぶん赤旗」
若手研究者の不幸な現実
日本の科学技術継承を脅かす
日本物理学会 坂東昌子会長にきく
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日本物理学会(約二万人)の新しい会長に愛知大学教授の坂東昌子さんが選ばれ、九月から就任しました。女性では二人目です。会長として力を注ぎたい問題などについて話を聞きました。
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――力を入れたいことを。
学会規模で研究者の環境について実態調査をやりまして、さまざまな問題があることがわかったのですが、とくに深刻なのが若手研究者の問題です。
博士課程修了者半分は無業者に
基礎物理学の分野では、研究は軽視される傾向にあり、大学教員のポストがどんどん少なくなっています。現在、物理の博士課程修了者が毎年三百〜四百人、うち半分が就職。大学などの研究職もありますが、いわゆるポストドク―二年、三年といった任期の非常勤研究員もその中に入ります。残る半分が無業者という状況が続いています。
二十七歳で大学院を終えて、任期付きの研究職を二度やると三十代半ば。三十五歳を超してこれからどうするかと悩んでいる人は多いのです。
一九九〇年代に日本の科学技術を支えるため、ポストドク一万人計画が立てられ、超過達成して博士課程修了者が多くなっているにもかかわらず、若い人たちの将来が見えていないのは、大変不幸な現実です。
育った若い人材については大きく分けて、二つの課題があります。その一つは、物理学の発展を支えている重要な部分は、これらの若い中堅層だということをもっと真剣に受け止めることです。その層が就職できず、途中で研究を辞める人が大量に出てくると、ちょうど中国の「文化大革命」の影響のような事態になりかねない、日本の科学技術の継承という意味からも、まず、ここを解決しないと将来がないのじゃないか、学会でできることは全力つくしてやらないといけないというのが私の気持ちです。
もう一つは、物理学の最先端を習得し研究してきた人材が、より広い分野で活躍できるような基盤をつくることです。科学技術がこれだけ浸透している現代社会で、企業の技術者としての貢献、教育分野での活躍、より広く行政や科学普及のための仕事に幅広くキャリアを生かす道筋を具体的に作る必要があります。
もちろん今までもジャーナリストや科学普及活動、新しい技術を必要とする分野で活躍している人はいるのですが、まだまだ例外的なキャリアのように社会も学会自身も思い込んでいる節があります。
博士課程まで進んだ本人にとっても、小さい時から夢を持って物理をやろうと思い、研究を続けてきたのに、その夢の先が、不安定な、生活できない状態では、今後が思いやられます。学会、組織として取り上げて世論を形成していくことが重要ではないかと思います。
――具体的にはどんな取り組みを。
今年から学会としても、「ポストドク問題検討委員会」をつくって、かなり突っ込んだ議論をしています。政府機関や企業との接触を通じて、多方面で知的人材の活用を、という声も大きくしていきたい。いま理科嫌いが増えているといわれているんですが、日本の将来のために科学教育に人材をもっと投入してもいいんじゃないか。その方向も提言したいと思っているんです。
物理学は素粒子とか宇宙とか既成の対象だけでなく、生物物理という分野や、社会現象にまで応用するような経済物理とか、幅広い分野に応用できる学問です。若い人たちがいろんな分野に進出してほしいとも思っているのです。
――専門は素粒子論ですね。
世界をつくっている素粒子というのは、分類してみると三つの「世代」をつくっており、それぞれは似たような構成を持ち質量だけが違うといわれていますが、質量の起源や世代の起源は何だろうか、とかに関心がありますね。
私は理論分野で、計算もしなければいけませんが、人と議論するのが大事だと思っています。議論して問題を突き詰めていく作業が好きです。十年前から素粒子分野では五、六十人が集まって夏の一週間、合宿形式で議論する場を続けています。今年は韓国でおこないました。
湯川スピリットどう継承するか
――来年は湯川秀樹生誕百年です。
思い出すのは、先生が、科学というのは今よりちょっと先のことを考える、先走りが大事だといって、黒板に市電の絵を描き、その前方へポンと飛び出す図を描いたこと。湯川先生が残されたもの、私は湯川スピリットと呼んでいますけど、どう継承していくのかについて、最近、再認識したことがいろいろあります。
たとえば、湯川先生は、社会現象にも科学的な分析を試みておられ、その延長線上に、核兵器廃絶の問題も科学として突き詰めておられたことなど、その学問的な深さと広がりには驚かされます。
湯川先生は平和のことなど社会的な活動もされましたが、物理学会は純粋な科学のための組織として生まれたのは確かなのですが、科学の精神をどう社会に伝えるのか、物理学の成果をもっと社会で生かすためにどうすればよいか、そのため学会としてどんな活動ができるか、今、物理学会も変革期だなと思っています。(三木利博)
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一九三七年生まれ。一九六五年京都大学大学院理学研究科博士課程修了後、同大学助手を二十三年間務めた後、同大講師を経て、一九八七年より現職。専門は素粒子論。
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