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…水が商品になることの危険…  かくして伝統的農業が破壊される  【芝 親太】
http://www.asyura2.com/0510/nature01/msg/490.html
投稿者 愚民党 日時 2006 年 7 月 29 日 18:15:54: ogcGl0q1DMbpk
 

http://www.bund.org/opinion/20060725-1.htm


…水が商品になることの危険…

かくして伝統的農業が破壊される

芝 親太

はじめに

 地球温暖化がいわれる中、極端な大雨と旱魃が局地的に起こるようになっている。中国では、90年代以降、黄河の水が干上がって流れが途絶えてしまう(海まで届かない)「断流」といわれる現象が起きている。中国だけでなくアメリカでも、コロラド川で「断流」が確認されている。

 一方で、90年代後半からは、同じ黄河で大規模な洪水が毎年繰り返し起きている。アメリカでも毎年巨大なハリケーンの被害が報告されている。ヨーロッパや東南アジアなどでも局地的な熱波、降雨、洪水の被害が毎年報道されている。日本でも局地的な大雨の被害が増えている。

 水の循環に変化が起きていることはなんとなく実感できる。温暖化による水の循環の変化、水不足、食糧生産の危機が現実味を帯びてきているのだ。

 世界規模の水の循環、水不足の原因は温暖化によるものだけではない。世界規模で構築された経済システムが、水の危機に拍車をかけているのだ。

 インドの環境保護思想家であるヴァンダナ・シヴァは、著書『ウォーター・ウォーズ』(2003年 緑風出版 以下引用同書より)で、すでに何十年も前から形成され進行してきている水・生態系破壊を促す経済システム―水利システムを明るみに出している。シヴァは世界的に作られている水の利用をめぐる「誤った」システムが、水・生態系を破壊しているのだと訴える。

 世界規模での水の商品化に警鐘を鳴らし、水の民主主義―地域共同体による水管理の復権を訴えているのである。

水の民主主義の崩壊

 シヴァは、水利権への公的機関(大企業や行政機関も含む)の介入(=民営化)によって、もともと地域の共同体が持っていた水の所有権=使用権が奪われ、私有化されることを水の民主主義の崩壊だという。水の管理、水利が民営化されることは、実際には水の商品化につながるのだ。この水の民主主義の崩壊―水の商品化こそが、水の危機、水不足と水の汚染をもたらしているのである。

 シヴァの言う水の私有化はいくつかに大別できる。@水道の整備やダムの建設などの大企業が主導するインフラ事業Aいわゆる「緑の革命」を契機にして行なわれた農業の工業化B飲料水の瓶詰め販売などである。

 彼女は世界銀行が水の民主主義の崩壊―水の商品化、水不足と水の汚染に対して大きな責任を負っていると指摘する。世界銀行は緑の革命を主導したが、それ以外にも先進国の大企業と契約を結ぶことで、巨大な水利プロジェクトを動かしているのだ。

水道事業の営利化

 世界銀行は、90年代以降途上国の民営化という名目の下に、112カ国に対して138億ドルをかけて水道の整備事業も行った。水道整備の前提として最新技術の導入という趣旨から、世界的な水企業を経営に参加させることを義務付けている。それ自身は必要な面もあるだろうが、それが弊害も生み出している。

 「アルゼンチンでは世界銀行の融資による水民営化プロジェクトを入札するため、代表的フランス企業二社、リヨネーズ・デゾーとコンパニー・ジェネラル・デゾー、イギリス企業二社、テームズ・ウォーター、ノース・ウェスト・ウォーター、スペイン企業のカナル・イサベル・セグントがコンソーシアム(合弁企業)を形成した。ブエノスアイレスの公益事業体、オブラス・サニタリアス・デラ・ナシオンの従業員は1993年に7600人から4000人に削減された。3600人の首切りはもっとも高い成果の印と喧伝された。しかし水企業の人員は削減したが、水道料金は逆に高くなった。初年度、水道料金は前年度より13・5%も値上がりしたのである」(P156)

 これが世界銀行による水利プロジェクトの内実なのだ。世界銀行は水不足を水企業のためのビジネス・チャンスに変えようとしているのである。

 「世界銀行とその他の援助機関の基金を受けた私有化プロジェクトには通常、『官民協力』のレッテルが貼られている。しかし、官民協力とは通常、公共物の私有化のために公的資金を運用するものだという事実は隠蔽されている」(P153)

 今まで地域共同体の管理下にあった水利権が民営化され、外国の大企業の管理下に置かれる。それにより共同体の共有財産であった水が企業の私的商品になるのである。シヴァによれば、今や世界銀行とIMFは借款の条件の一つとして水の規制解除、水の民営化=大企業による水利権の私有化を要求している。その結果、国家や企業の水資源管理への介入に対する、地域住民との物理的な衝突が現実の問題となっている。以下はボリビアでの水戦争の例である。

 「1999年、世界銀行は、コチャバンバの地方水道会社セルビシオ・ムニシパル・デル・アグワ・ポターブレ・イ・アルカンタリヤード(SEMAPA)に、ベクテル社の子会社インターナショナル・ウォーターへの譲渡を推薦した。1999年、飲料水衛生法が通過し政府の撤退と民営化が決定した。1ヵ月の最低賃金が100ドルに満たない町の水道料金が1ヶ月20ドルになった。これは5人家族が2週間食べていける金額である」(P174)

 これに対しボリビアでは、2000年1月、コオルディナドーラ・デ・デフェンサ・デル・アグワ・イ・デラ・ビーダ(水と生活防衛連合)という市民連合が結成された。連合は大動員をかけて4日間、町をロックアウトした。1ヶ月の内に数百万のボリビア人がコチャバンバに集まりゼネストを打ち、交通を全面的にストップした。

 集会が開かれ、世界の水利権の防衛を求めるコチャバンバ宣言がそこで採択された。そのあと政府は価格の高騰を元に戻すと約束した。

 しかしそれは実行されなかった。それに対し2000年2月、コオルディナドーラは飲料水衛生法の廃止と私有化を許す法令の廃棄、水利事業契約の終了、水源法の制定への市民参加を求める平和的デモ行進を再び組織した。だが、こうした市民の要求は暴力的にはねつけられた。

 4月、政府は水の抗議行動を戒厳令を使って沈黙させようとしたのである。だがそのあと、ベクテルはボリビアから撤退した。政府は忌み嫌われた水民営化法を撤回せざるをえなくなった。報復としてベクテルはボリビア政府を訴えた。

 2005年8月14日に放映されたNHKの特集番組では、アメリカ、カリフォルニア州サンタクルーズの町での、水道事業民営化の是非をめぐる住民投票の様子が取材されていた。水道の管理権を企業から地元の共同体に買い戻すかどうかをめぐる問題だったが、共同体管理を主張する地元の老人は番組のインタヴューに対して、ボリビアの市民と同じように「水は自分たちの命である」と回答していた。

 経済のグローバル化が進む中、人間にとってかけがえのない水が商品化され、水を確保するための争いが始まっているのだ。

農業の工業化の失敗

 緑の革命の前までは、水の保護は従来の土着農業に固有の事柄であった。南インド、デカンでは水分の蒸発を抑えるために豆類と菜種の間にトウモロコシを植えている。しかし緑の革命が従来の土着農業を取り除き単一栽培を持ち込んだ。雨水だけの農業から灌漑農業になった結果、デカンの土は生きた有機成分を失い土壌乾燥が頻発するようになった。緑の革命が湛水、塩害、砂漠化を導き出したのだ。

 「有機肥料から化学肥料への転換と、乾燥型作物から水消費型作物への転換が水飢饉、砂漠化、湛水、塩害を準備した」(P181)のである。アズキモロコシや豆類など乾燥型作物を作っていた半乾燥地で灌漑を行なう。それは食材としての小麦や稲だけでなく、換金作物である綿花やさとうきびなどの水消費型作物を育てるということに連なる。それが水の危機につながるのだ。

 食糧生産の文化は、それを取りまく水の能力に呼応して進化してきたのである。少ない水で生きる作物が乾燥地域に出現し、水を必要とする作物は水の豊かな地域で進化した。それが自然の理にかなったことだ。しかるに緑の革命は、科学技術によって自然生態系のシステムをコントロールしようとする科学万能主義、生産力主義の産物だった。その無理が逆に農業を破壊したのである。

 たとえば「1エーカーの小麦畑を潤すのには、7・5キロの電動モーター付き灌漑ポンプと人間一人を使えば5時間ですむが、対照的に(伝統的な)ペルシャ式水車を使えば、牛で60時間、人間でも60時間かかる」(P188)という。だがその結果動力モーターを使った灌漑では、20年もしないうちに土地を涸らしてしまうのだ。土地の自然給水サイクルをはるかに上回る勢いで取水するやり方に無理があるのである。

 近代農業の灌漑システムに対してシヴァは、インドの伝統的水利システムの例を挙げ、そこに水確保への活路を見出そうとしている。

 「南インドの貯水システムは何世紀にもわたって使われているが、それは水のロスを防ぐべく連結させた数百個の貯水池網からなっている。クリシュナ流域の南、ラヤルシーマ地方ではこの貯水池システムで62万エーカーを潤しているという。パンタムスという石積みのダムが貯水用に使われている地域もある。南ビハールではアハールとビネスが水田の灌漑に使われているが、アハールは排水用水濠から取水し、ビネスは地域を北から南へ流れる川から取水する。1800年代に起きた二度の大干ばつでも、ガヤ地方はアハールとビネスが拡充していたお陰で切り抜けることができたのだという。ビハール州では、この方式を使っていなかった地域は飢饉に見舞われた」(P200)

 これまでの事例で見てきたように、伝統的なシステムは生態系のシステム―土地柄にかなったものであり、近代の科学技術によるよりもはるかに持続可能なのである。その逆に伝統的農業・灌漑システムの破壊は水不足と結びついている。

 自由主義経済の名の下に、全世界で水不足につけこむような形で、水の商品化・売買が行われている。民営化の名の下に水の民主主義は破壊され、水の商品化が進んでいる。既にこの構造は出来上がっているのだが、それが農業を破壊し、ひいては人類の生存から持続可能性も奪っているのである。

 そして知っておくべきことは、日本は水の輸入国だということである。日本は食料自給率が4割ほどであり、多くの食糧を海外からの輸入に頼っている。それは水の輸入ということでもある。日本では食べ物だけでなく、衣料品も水も海外からの輸入品であふれている。

 インドでは綿花などの換金作物が伝統的農業を破壊し、水不足を作り出しているわけだが、まさにインドや中国などの綿花によってわたしたちが普段着ている服は作られている。われわれ自身が水の商品化を進める自由主義経済の担い手であり、水不足による食糧生産の危機の当事者であることを、わたしたちは自覚しないわけにはいかない。われわれがどっぷり浸かっている日常生活の在り方そのものが、実は人類の持続可能性を奪っているのである。

(フリーライター)


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アナン国連事務総長 「国連水の日」(3月22日)に寄せるメッセージ

 清潔で利用できる水は、かけがえのない産物です。この新たな世紀にも、水を製造できる科学技術はまだ存在していません。水は代替も複製もできません。だからこそ、大切に守っていかなければならないのです。

 私たちは水なしには生きられません。それは生活のあらゆる側面で欠かせないものです。世界の多くの地域では、地下水面が低下し、帯水層が枯渇し、河川や湖沼が縮小し、農業による化学汚染が水質を脅かしています。安全な水へのアクセスと水管理の欠如は、開発途上地域における病気と死亡の80%に関わっているものと見られます。

 人口の急増、都市化および都市の貧困層の増大によって水不足の拡大が起きており、そのため、特に開発途上国では、「万人に水を」という目標が達成不可能と見られています。世界の各地、特に大都市では引き続き、増大する人口に対する飲用および廃棄物処理用の水供給が重大な課題となっています。

 国際社会は、富者にも貧者にも、すべての競合する利用者に対し、公平性、信頼性および経済的な入手可能性を十分に考慮した水供給を行うため、その権利と責任を行使しなければなりません。私たちにとっての挑戦は、水質と水量を保全するために人間の活動を管理することです。女性は家族の管理者として、中心的な役割を担うべきです。

 持続可能な開発において、水の果たす役割をグローバルに認識することは不可欠です。世界の人々は、水循環についての知識を向上させることにより、この稀少資源をよりよく管理する能力を身につけなければなりません。人間の英知という井戸を利用して、保全の文化と「青の革命」を開発・促進すれば、それを達成することができるのです。

2000年3月12日


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