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東京の水、京都の水、ソウルの水
水が風土を作る
http://www.bund.org/culture/20060515-1.htm
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琵琶湖―命の水が危ない
貴志潤平
蛇口をひねれば水が出る。だがその水のながれはどうなっているのか。フィールドワークで水質検査に取り組んだことがあったが、その時私は琵琶湖を担当した。京都に住む私にとって、飲み水でもある琵琶湖の水がきれいなのか、汚染されているのかは、関心を持たざるを得ない問題だったからだ。
その結果だが、琵琶湖は思ったより汚染されていた。検査結果はペーハが7・5でほとんどの湖と同様に中性であった。しかしCOD(化学的酸素消費量)の値が20mg/1と高く、生活排水、工場廃水などの汚染が混入していることがうかがえた。電気伝導度の測定においても580マイクロジーメンスと非常に高く、排水により汚れた水であることがあきらかになった。
琵琶湖は関西の水瓶
琵琶湖は滋賀県にある淡水湖だが、面積約670平方km、日本で最も大きな湖である。世界の湖のなかでは淡水湖で129番目でしかないのだが、それでも琵琶湖の周囲は約235kmもある。湖のもっとも狭い部分には琵琶湖大橋が架かっており、これより北側部分を北湖、南側部分を南湖と呼ぶ。この北湖と南湖では、水質や水の働きが大きく異なるようなのである。
琵琶湖の水深は南湖では平均約4mなのにたいして、北湖は平均約43mもある。最大深は103・58mである。この北湖の深いところで年々酸素が減り、湖の底質が悪化している。またCODも増加している。琵琶湖周辺の下水道普及率は20年前は10パーセントであったが、いまでは70パーセントの普及となり、通常であればCODは下がるはずである。にもかかわらず汚染が続いているのは、周辺流域からの化学肥料や農薬の影響が指摘されている。
琵琶湖のような閉鎖水系の場合、無機物に変わった窒素・リンを栄養としてプランクトンが取り込み、その際酸素を消費すると考えられるのである。CODの上昇はこのプランクトンの影響によるという指摘もある。
湖の低酸素状態によりリンなどがもう一度解け出したりする場合もある。そのほかにも汚染の原因として、水上レジャーの普及による燃料の影響なども指摘されている。
琵琶湖には460本の一級河川が流入するが、このうちの120本は琵琶湖に直接流入する。そのため生活排水や工場廃水、代かき・田植え時期の濁水の流入なども、琵琶湖に集中してしまうのである。
20年ほどまえには合成洗剤による汚染が問題となったこともある。近年ではいわゆる環境ホルモンの生物等への影響も指摘されている。富栄養化によってシアノバクテリアの異常増殖がおこり、アオコの発生域と頻度の拡大は、琵琶湖全体の水質に深刻な影響を与えているのだ。
それに対し流出河川は、瀬田川と人工の琵琶湖疎水の2本のみで、その水は京阪神の約1400万人の飲料水等に利用されている。まさに「関西の水瓶」として琵琶湖はなくてはならない大切な水資源なのである。例えば京都で使われた水は鳥羽浄水場で処理されて、瀬田川の下流である淀川にもどされる。それを今度は大阪の人が利用する。人体には安全な処理がなされているとはいっても、琵琶湖の水は人間の体を通り下水となり、下流でまた処理されて繰り返し使い回されているのだ。つまり京都〜大阪の水源はひとつということなのである。
そのため、水源を別にもつことを提唱する人もいるが、現状ではこの水を守らなければ多くの人が生きてゆくことはすぐにでも困難になる。それが琵琶湖・淀川水系なのである。
琵琶湖の汚染はなにが原因か
琵琶湖をのぞむ比良山系は、関西の登山では一番人気の武奈ガ岳(1214m)などが連らなる。この山地が降った雨を涵養し琵琶湖へ流す。森は水を浄化し、土砂の流出を防ぎ二酸化炭素を吸収する。京都精華大学の山田国広氏は『水と暮らしの環境文化』(昭和堂出版)の中で、「下流の都市住民は、上流の森林に降った水を飲んでいることをほとんど意識していない。上流の森林が健全に育成されているからこそ、下流は安心して水が飲める」と書いている。本書中では同氏は下流の住民は森林の機能を評価して、例えば水源税や森林税や環境税というかたちで恩恵の還元をなすことを提唱している。
水質検査の結果琵琶湖の水がかなり汚染されていることがわかった時、私はいささか落胆した。水道の蛇口をひねれば水が出る、レバーを押せば尿が視界から消える。日常のあたりまえとなった動作に、「水の流れ」を考えることもなくなっていたことを恥ずかしいと思った。
農家に生まれ子供の頃から湧き水で育った。飲み水の大切さを生活の中で教えられていた。川を誰もが大切に守っていたのである、そうした思いを新たにした水質検査であった。
(京都サスナクラブ会員)
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川からの都市再生
ソウル・清渓川復元のこころみ
橋 渉子
「春の小川はさらさらいくよ―」。のどかな春の風景をうたった誰もが知っている曲だが、この小川はどこの川か。どこか地方の田舎の風景ではない。東京の代々木付近を流れていた河骨川という川の、大正時代の風景なのだ。ちょっと信じられないが、80年くらい前はスミレやレンゲが咲き、メダカや小鮒が泳ぐ川が東京を流れていた。現在河骨川は暗渠化され、当時の面影すらないそうだが…。
かつて東京にはこのような川がいくつも流れていた。しかし高度経済成長の中で水質が悪化、ドブ川になり、河岸をコンクリートで固めたり暗渠化されたりした。
同じことは隣の国韓国の首都ソウルでも起きていた。かつてソウルの中央には清渓川(チョンゲチョン)という川が流れていた。しかし水質の悪化が進み、汚くなった川は蓋がされ、その上には高架の高速道路が造られた。
しかしソウルでは昨年、この清渓川をもう一度川として復元させたという。2002年のソウル市長選で李明博氏が、暗渠となった清渓川の復元を掲げて立候補。清渓川復元慎重論をとなえる対立候補を破って当選した。
2003年から川を復元する工事が始まり、2005年秋、上を走る高速道路を撤去し、蓋を外して、全長5・8qの川が数十年ぶりに姿を現した。
一度暗渠となった川を復元するのは簡単なことではない。清渓川の上は多くの商店が立ち並び、高速道路には1日に17万台の車が行きかっていた。東名高速、横浜付近の1日の交通量は13万台ほどだ。
川を復活させるために、多くの商店を移転させ、川の上の高速道路も撤去した。 ソウル市がこのような思い切った事業を実行に移したのは、600年というソウルの歴史と共に流れてきた川を復活させることで、街の歴史を取り戻そうとしたからだ。
清渓川復元推進本部長の張錫孝氏は「かつてソウルは成長と開発が政策の最優先となっていましたが、これからは高度成長期に発生した都市問題などを治癒≠オて、ソウルの歴史・文化と自然環境を回復≠キることに集中しなければならないと考えています。その意味で、清渓川復元はとても重要な事業であるといえます」と語っている。
開発一辺倒ではないまちづくりがソウルの魅力となり、その結果、よりソウルが発展するというのがソウル市の考えだ。
清渓川を復元する際、一番問題になったのは川の上を通る1日17万台もの車をどうするのかだった。ソウル市は代替の道路をつくらない選択を取った。ソウルの交通渋滞は深刻で、騒音や排ガスによる大気汚染も問題になっていた。それを解決するためには、都市にこれ以上車が入ってくることは望ましくないと考えたからだ。
代わりに市が採った政策は、公共交通機関の充実だった。民間のバス会社に資金を出資して準公営企業形態にし、市民がバスの路線を利用しやすいよう全面的に改変した。道路にはバス専用レーンを設けるなど、バスで移動しやすいようにした。地下鉄は運行時間を延長したり本数を増やした。市民にはなるべく自家用車ではなく、公共交通機関を利用するよう呼びかけた。
最初は渋滞の悪化も見られたが、今では清渓川復元以前よりソウル市内全体の交通量が減ったという。
また、市内に川が流れることで、ヒートアイランド現象が緩和されるという結果にもなった。清渓川を復元することによって、川周辺の気温は3℃ほども下がったという。
高架道路がなくなり川が流れることで、街の景観もよくなった。歴史ある石橋が復元され、ソウルの歴史を垣間見られるようにもなった。
川沿いは遊歩道となっていて、市民や観光客が散歩を楽しんでいる。川には魚も戻りつつあるという。このプロジェクトは海外からも注目され、様々な国から視察団もきている。
ただ、この清渓川復元プロジェクトが、本当に持続可能な復元なのかという批判はある。昔ながらの川がよみがえったわけではなく、川の周囲はコンクリートで固められている。また流れている水も自然のものではなく、他の川から取水して浄水処理したものを流している。今の清渓川はいわば人工の川に他ならない。
韓国国内の環境NGOは、清渓川の上流も含めた再生を行うべきだと主張している。また、清渓川復元で商売ができなくなった商人はたくさんおり、そのようは人々、特に小さな店を借りて商売をしていた零細商人への生活保障が充分ではないという批判もある。
このプロジェクトは現在の市長が任期中に完成させようと、これだけ大掛かりな事業であるにもかかわらず、企画から完成までたった3年という短い期間で行われた。そのため環境面や商人への補償についての検討が、幾分疎かになったということは否定できないだろう。
とはいえ、このプロジェクトは日本で今後どのような街づくりをしていくかを考えたときに、参考になることはたくさんあると思う。今東京でもソウルでの成功を受けて、日本橋の上を走る首都高を無くして日本橋川を復活させようという動きが出てきている。 ソウル市HP http://japanese.seoul.go.kr/chungaehome/seoul/main.htm
(グリーンアクションさいたま会員)
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都・水源森林ボランティアに参加してみた
足尾衛
私たちの住む日本では、水不足を日常的に感じることはできない。私たちは水道の蛇口をひねれば当然のごとく水が流れてくることに慣れきってしまっている。
東京の水道水は多摩川と荒川水系から供給されている。では、その水源はどうなっているのか。水道局が管理する多摩川の水源森林のボランティアに参加してみた。
木の上は最高
多摩川は全長138q、流域面積1240平方q、水源である山梨県笠取山から東京を経て神奈川(羽田沖の東京湾)に流れ込む一級河川である。今回ボランティアに行ったのは、東京都奥多摩町。町の総面積2万2563haのうち森林面積は約94%の2万1161haを占める。人工林と天然林の割合はほぼ半数である。森林の保有内訳は公有林が4割で、このほとんどが東京都水道局の所管だという。
奥多摩駅から歩いて7〜8分、洒落たログハウス風の水源森林事務所に集まったボランティアは20人ほどだった。50〜60代の男性が多い。
自己紹介と準備体操の後、車で5分位移動し、登山道を歩いて5分の山の斜面が今回の作業現場だった。
作業はヒノキの枝打ちである。間伐、下刈り、植栽などの作業もあるが、冬から3月までの時期は枝打ちが作業の中心だ。ヒノキの巨木に8〜10mの高さまで登って、枝打ちのこぎりで葉の枯れた枝を次々と切っていく。一番人気の高い作業だという。
まずは4mのはしごを使っての作業だ。下から枝を順番に切りながら、少しずつ上に登って行く。はしごを登り切ると、その先は足場にする枝だけを幹から10pくらい残して切りながら、枯れ葉のないところまで登る。安全帯をしているがかなりの高さだ。
みな、20〜30分もすれば慣れてきた。枝を足場に登りつめたら、あとは残した枝を切りながら、はしごのあるところまで降りてくる。それで1本終了である。30〜40分である。
午前中の作業を終えると、焚火を囲んで各自が持ってきたお弁当の時間だ。枝打ちの指導をしてもらった森林組合と水道局の人たちとの談義に、しばし時間を忘れる。
このボランティアがスタートしてすでに4年近く、登録者数も700人を超えたという。なかには50回以上ボランティアに参加している人もいる。しかし若い人の参加が少ないことが課題と聞いた。
午後の作業は、「与作」と名付けられた登降機を使っての作業だ。足部とサドルの付いた腰部の2つに分かれた木登り器で、サドルに座りながら地上から木の上まで登ることができる。優れものである。使い慣れるまでには多少時間は要するが、はしごを使うより楽である。両手がフリーになるためのこぎりも使いやすくなる。何よりも10m近くの高さまで登っても座っていられるのだから、木の上からゆっくりと眺めを楽しむことができ爽快である。
30分ほどで1本の枝打ちが終わった。参加者の誰もが複数の木をすっきりさせることができた。
森が水を育む
川の水は雨が降ってないときも枯れることなく流れているが、それには大きく水源の森林が関与している。
@樹冠(樹木の枝葉)が降水を遮断し蒸発させる。A樹木の根から水分を吸収し、樹体内で水を移動させ、葉面から蒸散させる。B森林のスポンジのような土壌に降水を浸透させ貯える。
この森林の3つの役割によって、降水の循環ルートが違うのである。@とAは降水を大気に戻し、その大気が再び雲となって雨を降らせる。海や河川とは違うもう一つの水の供給源とも言われている。雨が降ったとき、そのすべてが地面にたどり着くわけではないのだ。平均15〜20%の雨水は遮断され、地面に落ちることなく大気中に蒸発するのである。
Bが大雨のときに土壌が雨水を吸収して河川の洪水を防ぎ、雨が降らないときにも貯留していた水を供給する水源涵養機能である。
地面にまで達した雨水は、そのまま地表流となって地面を流れていくもの、地面から蒸発するもの、そして地面に浸透していくものに分かれる。地面に浸透した雨水は、さらに土壌の中に溜まるもの(貯留水)、植物の根に吸収されるもの、地下水となるもの、基岩に達してさらに浸透するものに分かれていく。
この地面に浸透させる能力を左右させるのは、地表の土A0層(落葉層、腐葉・腐植層)の存在である。A0層を育むためには、森林の存在が欠かせない。木を育て、森を守らなければ、水の涵養機能は低下し山の土壌が流出してしまうのだ。私たちのライフラインの根幹をなす水は、森を育まなければ確保できないのである。
東京の森林面積は、急速な都市化と宅地化で減少している。水を育む森が消滅してしまえば、多摩川や荒川から水が供給されないこともありえる。
水源の森林は林業を営む人の激減で、まだまだ荒れているという。ボランティア作業を終えて森林隊事務所の風呂で汗を流しながら、森林保全の大切さと、水不足は遠い国の話ではないことを実感した。
(エコアクション21会員)
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(2006年5月15日発行 『SENKI』 1212号6面から)
http://www.bund.org/culture/20060515-1.htm
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