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2006/02/23の紙面より
http://www.nnn.co.jp/rondan/tisin/060223.html">http://www.nnn.co.jp/rondan/tisin/060223.html から転載。
イギリス人のジェームス・ラブロック博士は、地球環境に影響を与える微量成分に関する分析の進展に貢献した科学者である。一九六〇年代にはNASAで火星の生物探査計画に参画し、火星と違い地球では、その大気がほぼ一定の割合で維持されている状況を続けていることから、地球の生命体が生存するために最適な状態に調整・維持しているという「ガイア説」を提唱した。
客観的データ提供
ガイアとは、ギリシア神話にでてくる大地の象徴である女神の名前である。ガイア説が出た当時はラブロック博士がその研究対象とした科学界からは批判され、この理論にとびついたのはエコロジーやニューエイジ思想の活動家たちだった。ガイア説は、一九六〇年代に書かれたレーチェル・カーソンの「沈黙の春」に客観的データを提供したからである。
「沈黙の春」は農薬や化学物質による環境汚染の重大性について警告を発したもので、当時米国ではそれらは無制限に使用されていた。日本でも終戦後、進駐軍がチフスやシラミの撲滅として日本人に大量のDDTを散布したというが、この安価に大量生産できるDDTを米国では森林などに大量に使用していた。虫は殺しても人間には無害であると信じられていたが、カーソンの主張は、自然の一部にすぎない人間にも最後には化学物質の汚染の影響が及ぶ、という当時にしては衝撃的なものだった。ラブロック博士がDDTやPCBが地球規模で広がっていることを明らかにしたことで、その主張に客観的データが提供されたのである。
私が米国で大学を卒業してから最初に就いたのはアポロ計画の仕事だった。アポロ宇宙飛行士が人類初めて月の軌道を回ったときに撮影した、暗闇の空間に浮かんだ青い地球の写真は今でも記憶に残っている。美しい、けなげな地球の写真もまた、この博士の理論を裏付けるために一役買っていたかもしれない。
「温暖化は手遅れ」
科学技術の分野では当初受け入れられなかったガイア説だが、徐々に多くの人々の知るところとなり、最近ではネイチャー誌に記事が掲載されるまでになっている。その博士が今月初め、「ガイアのリベンジ(復讐)」という新著を出し、それに先立って先月、英インディペンデント紙に地球温暖化は手遅れだという持論を展開した。一例をあげると北極の氷がどんどん解け始めていて、あと数十年で全部解けてしまい、氷の表面に太陽が反射してもその九割は反射するが、暗い海は太陽の熱を吸収しそれによって地球はもっと熱くなるというのである。
確かに、世界自然保護基金は北極の氷はこの十年間で9・2%減っており、今世紀末までには夏に北極の氷が消滅する可能性があると予測している。北極の氷がなくなることで世界の残りの部分の気温がどれくらい上昇するか、昨夏の暑さを思い出せば想像することも恐ろしい。北極のシロクマが絶滅することは間違いないが、沈黙の春と同じで、シロクマに起こることが人間には起こらないと、私たちは今でも高をくくっている。
北極だけではない。南極大陸の上に氷がある南極では、温暖化によって氷が解けると海面が上がる。海面上昇によってモルジブ共和国のように世界地図から消える国や、日本でも海沿いの平地部の多くが消滅することになる。
ラブロック博士の不吉な未来予測に対してはもちろん賛否両論あるだろう。もし人間が、特に先進国がいかなる警鐘をも無視して現在の方向のまま突き進めば、ごく近い将来、この繊細な、相互に依存して存在する生命体の住む青い地球は、火星のように死んだ惑星にならないとは限らない。
「警鐘」に心を開く
しかし私は悲観論は取りたくない。かつてバックミンスター・フラー博士が「宇宙船地球号」という概念を提唱したが、それは「環境や生態系を損なうことなく地球を可能な限り短い時間で全ての人間のために機能させるにはどうしたらいいか」という問い掛けだった。われわれはみな地球号の乗組員なのだ。科学によってここまで発展した文明が、これほど大きな問題を抱えるに至った今、その解決には科学以外の方向にわれわれが行くべきだということに気付けばよい。そして最も地球を痛め付けている先進国が直面している少子化もピークオイルも、問題ではなく「好機」としてとらえれば、ずっと短期間のうちによい方向にハンドルを切ることができるだろう。
あらゆるメッセージに心を開き、地球号の未来を考えるときにきている。ラブロック博士のメッセージの価値はそこにあるのだ。(アシスト代表取締役)
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