★阿修羅♪ > 雑談専用16 > 644.html ★阿修羅♪ |
Tweet |
(回答先: 【経済を自然に埋め込むことも】経済成長といいます。 マズローの欲求段階 投稿者 hou 日時 2006 年 1 月 06 日 19:54:44)
http://www.patagonia.com/japan/enviro/reports/2005/oc_casestudy.shtml
パタゴニアとオーガニックコットン:ケーススタディ
『Spring 2005』カタログ掲載
1994年初夏、カリフォルニア州ベンチュラにあるパタゴニア本社の会議室では、約2000万ドルの売り上げにおけるリスクを巡って、激しい議論が交わされていました。
1991年、パタゴニアは製品に使用している主要な4素材を対象として、それらが環境に与える影響に関する綿密な調査の実施を依頼しました。私たちは石油を原料とする化学繊維が最も悪影響を与えるだろうと予測していました。ところが、ずっと「ナチュラル」な素材だと思い込んでいた、従来の農法で栽培されているコットン100%の素材も、他と同じように環境に対して悪影響を与えているという事実を知り愕然としました。
従来の農法によるコットン栽培では、土壌、空気、地下水を汚染する農薬を大量に使います。そして農薬が散布される地域では健康障害が起きています。というのも、これら化学薬品の多くは、そもそも兵器用の神経ガスとして開発されたからであり、それを考えれば当然のことと言えるでしょう。それだけでなく、コットン農場周辺では人間と野生動物の出生異常や癌の発生率が高くなっています。これは虫との戦いに支払う代償としてはあまりに理不尽すぎるものです。しかも虫は1ガロン(約3.8リットル)500ドルもするような農薬にさえあっという間に耐性ができてしまうため、人間がこの戦いに勝つことはないのです。そしてその一方で、人間や野生動物は、農薬による被害に非常に長い間、あるいは一生、苦しみ続けるのです。
これほどまでに地球の環境に脅威を与える素材の使用に対して、私たちは何とか手を打たなければなりませんでした。しかし従来の農法によるコットンから作られるスポーツウェアは、当時パタゴニアの売り上げの20パーセントを占めていました。
代替案として持ち上がったオーガニック栽培のコットンは、当時も今も栽培、綿繰り、紡績、そして編んで織るまでのすべての過程にコストがかさみます。農業界は化学薬品産業に大きく依存し、またその影響を強く受けた組織体となっているのです。
当時、認証済みオーガニックコットンは、世界でほとんど栽培されていませんでした。オーガニック農業は多大な労働力を要します。農家の人たちは、害虫などによって作物に影響が及んでいないか目を見張らせるために、絶えず農場に出ていなければなりません。また草取りや堆肥の散布にもさらなる労力が必要であり、収穫前に葉を落とす作業にも有害な化学薬品を使わずに自然にまかせなければなりません。
パタゴニアがオーガニックコットンの使用に踏み切って、そのコストをカバーするために製品の価格を引き上げた場合、もし顧客がこの切り替えについてこなかったら、私たちはスポーツウェアのビジネスを失うことになります。その午後の会議で誰かが言ったように、私たちは「破滅」しかねなかったのです。
1994年のその日の会議は、パタゴニアの創業者イヴォン・シュイナードのこの言葉で終わりました。「この事実を承知の上で、今後も私たちが従来のコットンを使ってウェアを作り続けたなら、どちらにせよ私たちは破滅する。よし、やろう。オーガニックでいこう。」パタゴニアの取締役会は、1996年の春までにコットン製品をすべてオーガニックに切り替えることを採決したのでした。
私たちは1996年春のオーガニックコットンへの切り替えに向けて、3つの目標を設定しました。1. 製品を順調に売る。2. 衣料品業界の他の企業にもオーガニックコットンへの切り替えを促す。3. オーガニックコットン農業の成長を促進する。そしてほとんどの製品の販売利益を減らし、小売価格の引き上げを2パーセント以内に抑えることとしました。
けれども目標と現実は別のものでした。例えばパンツに必要な生地を探す場合、それまでは単にセールスマンが持ってくる素材のサンプル帳から気に入った生地を選ぶだけで済みました。しかし今や、ベール梱包された状態の原綿から製品ができあがるまでの全過程を、「猟犬」のごとく監視しなければなりません。パタゴニアの従業員は、供給プロセスの最初の段階までさかのぼらなければならなくなったのです。
私たちはオーガニックコットンのベール単位で取り扱うコットン仲介業者を探しました。最終的にオーガニックコットンの供給元として提携した紡績工場の中で、過去にオーガニックコットンを紡いだ経験があったのはわずか2社でした。1996年に使用したコットン素材のコストは、1995年の3倍にのぼり、しかも繊維の種類も少なかったために、私たちはコットン製品を91アイテムから66アイテムに減らさざるを得ませんでした。
私たちは一時的に、認証済みオーガニックに加えて「トランジショナル」コットンを使用することにしました。トランジショナル・コットンとは、オーガニックで栽培されてはいるが、農場がオーガニック栽培を始めてから必要十分な年数が経たないため、公式な認証済みオーガニックコットンとしては販売できないものを指します。従って私たちは、「オーガニックウェア」ではなく「オーガニック栽培のコットンを使用したウェア」として販売することを決めました。小さな違いかもしれませんが、まだ合成染料や従来の農法で栽培したコットンの糸を使っているという事実について、消費者を欺きたくなかったのです。
そして長めの繊維を使ったり、繊維や素材を製造段階で洗濯して縮めたりとさまざまな試みの結果、ついに優れた品質のウェアを製造するという、パタゴニア本来の姿に戻ることに成功したのでした。
私たちは他の企業にオーガニックコットンの使用を促し、オーガニックコットン農業を持続可能なビジネスにすることを目的に、何百人もの社員やジャーナリスト、衣料品企業の代表などを招いて、カリフォルニアのセントラルバレーで農場見学を実施しました。「工場的農業」というのが決して比喩的表現ではなく、それは、かつて美しかったこの土地の風景が荒涼とした姿になってしまった今現在の姿そのものであるということを、実際に目で見てもらいたかったのです。サンホアキンバレーにあるコットン農場の周辺数十キロの範囲では、鳥のさえずりも虫の声も聞こえません。空気は悪臭に満ち、目はヒリヒリと痛み、毒素が灌漑用水路を汚染しています。工場的農業は、汚染された「湖」にやってくる水鳥たちがその有毒スープに口をつけないように散弾銃で脅す、という職業まで作り出してしまったのです。
私たちが持っていた情報および調査結果は、マークス&スペンサー、ティンバーランド、ナイキなど、他の衣料品企業にすべて提供しました。私たちは自分たちだけでオーガニック農業を支えるのに十分な力を持っていないことを自覚していましたし、オーガニックの使用をセールスポイントにするつもりもなかったからです。私たちパタゴニアが切望していたのは、ただ単に「それが正しいことであるから」という理由で、衣料品業界全体のコットンがオーガニックコットンに切り替わることでした。
ようやく、十分なオーガニックコットン・ウェアを製造するだけのオーガニックコットンの栽培農家を確保したという自信を持つまでに至りましたが、製品ができ上がってくるまでは安心できません。2シーズンにわたり、私たちはサンホアキンバレーの天候を注意深く観察しました。もし提携した農家の収穫が少なければ、パタゴニアはスポーツウェアから手を引かなくてはなりませんでした。
そして1996年の春、オーガニック栽培のコットンを使用したスポーツウェアが初登場しました。驚いたことに、すべてが順調に運びました。価格のわずかな上昇に注目した人は少なく、また注目した人もオーガニックコットンという私たちの選択を称賛してくれました。
パタゴニアのオーガニックコットン計画が成功した理由は、顧客が私たちと同じ選択、つまり将来、環境に対する被害という隠された代償を払う代わりに、今、オーガニック製品にもう少しお金を払うという選択をしたこと。そしてさらに、パタゴニアのコットン製品が細部まで考え抜かれたデザインと品質を持ち合わせていることも、製品の売れ行きに大きくつながっていると言えるでしょう。
今年の時点で、さらに喜ばしい徴候があります。現在、毎年20パーセントの上昇を続けているオーガニック食品産業と同じように、オーガニックコットンに対する需要が世界中で急上昇し、その量はパタゴニアがオーガニックコットンへの切り替えをおこなった1996年の3倍にものぼっています。パタゴニアと協力を続けてきた農家、綿繰り、紡績、機織り、衣料品メーカーも、それぞれすべてが新たな別の収益を上げており、オーガニックコットンにかかるコストも従来の栽培方法のコットンに比べて約2倍までに下がりました。そして、パタゴニアの影響を受けた多くの企業が、オーガニックコットンへの切り替えに踏み切っています。
工業的に栽培、そして加工されたコットンからオーガニック栽培のコットンへ切り替えることは、確かに疑う余地のない前進です。しかし、問題が完全に解決されたわけではありません。有毒な農薬を使わない栽培方法であっても驚くべき量の水が必要であり、また、土壌を消耗させることなく永久に栽培を続けることは不可能です。また着古されたコットン製品は、たいてい捨てられてしまいます。私たちはこういった状況にさらに注目し続け、終わることなく輪が繋がる製品を作らなければなりません。つまりオリジナルと同等、あるいはそれに近い品質を持つ製品に無限にリサイクルできるウェア作りが必要なのです。コンピューター製造業者が廃棄処分される古いモデルのコンピューターに対して責任を持つべきであるように、私たちも寿命になってしまった製品に対する責任を負わなければなりません。
パタゴニアが提携している紡績工場の中には、私たちから刺激を受けて、毒性の少ない原料の使用や製造方法を積極的に取り入れている工場もあります。彼らが私たちと快く仕事をするのは、彼らにとっても社会にとっても、私たちがやろうとしていることが持続可能なビジネスを成功させるモデルとなると信じているからです。デービッド・ブラワーの言葉を借りれば、「死んだ地球でビジネスはできない」のですから。
「環境エッセイ」へ戻る