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寺澤有氏に聞く―「記者クラブ訴訟」判決の意味(JANJAN)
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投稿者 ロエンヒ 日時 2006 年 2 月 17 日 22:27:54: oeA7laveFLvrs
 

JANJAN http://www.janjan.jp/
寺澤有氏に聞く―「記者クラブ訴訟」判決の意味 2006/02/17
http://www.janjan.jp/media/0602/0602140264/2.php
 裁判所が司法記者クラブ加盟社記者だけに傍聴席と判決要旨を用意したことが、日本国憲法第21条(取材・報道の自由)や同第14条(法の下の平等)に違反するかどうか争われていた裁判で、東京地裁は、原告の訴えをすべて棄却、以下のような判断を示した(1月25日、東京地方裁判所民事第50部・奥田隆文裁判長)。

 「裁判所が、法定内に記者クラブ加盟社のための記者席を用意し、加盟社の記者に判決要旨を配布しているのは、公的機関として国民への情報開示義務と説明責任を果たすためにしているわけではない。記者クラブ加盟社の報道の自由や取材の自由を保証するためにしているわけでもない。単なる便宜供与に過ぎないのだから、記者クラブに加盟していないフリーランスのジャーナリストが記者席に座れなくても、判決要旨を受け取れなくても、差別でもないし憲法違反にもならない」 

 原告は、警察の不正や腐敗問題を中心に取材執筆活動をしているフリージャーナリストの寺澤有さん(39歳/経歴は下欄をご参照ください)。寺澤さんは、記者クラブ加盟社の記者と異なる差別的な扱いにより不利益を被ったとして、国家賠償法に基づき国に248万円の賠償を求め、2004年10月12日、東京地裁に提訴していた。

 「国民の『知る権利』をないがしろにする極めて不当な判決だ」として、2月2日、東京高等裁判所に控訴した寺澤さんに、今回の判決の意味と記者クラブ制度の問題点について聞いた(聞き手:清水直子)。

――裁判所でのどんな扱いが憲法違反と主張されたのですか?

 まず、2003年4月21日、札幌地裁における稲葉圭昭被告(元北海道警警部)の銃刀法違反などの判決公判(小池勝雅裁判長)のときのことです。ぼくは、90年代半ばから「警察が暴力団の犯罪を見逃すかわりに、押収丁数アップのためにけん銃の提供を受けている」と告発してきたこともあって、これはぜひ傍聴しなければならない公判でした。

 そこで事前に傍聴席1席と判決要旨1部を用意してほしいと札幌地裁へ文書で申し入れたのですが、どちらも拒否されました。結局、当日は傍聴席の抽選の列に並んだものの外れてしまい傍聴できなかったのですが、記者クラブ用には23席が用意されていました。

 03年7月24日には、東京地裁でフィクサーの大塚万吉こと趙万吉被告の恐喝未遂の初公判(合田悦三裁判官)がありました。趙被告は、消費者金融の武富士が、フリージャーナリストの山岡俊介さんの自宅の電話を盗聴していたり、警察から大量の犯歴などの個人情報を入手していたことをマスコミへ情報提供していた人です。

 (※ 2003年11月14日、ジャーナリスト、山岡俊介さん宅の電話を盗聴した疑いで、消費者金融の業界最大手、武富士の元専務たち5人が、警視庁に逮捕された。参考:情報紙 ストレイ・ドッグ(山岡俊介取材メモ)「武富士」)

 武富士は大手メディアに巨額のCM料や広告料を支払っていました。新聞やテレビは、大スポンサーについての趙被告の情報提供を黙殺し、山岡さんやぼくのようなフリーランスが雑誌で記事を書き続けていました。そのさなか、趙被告は警察と武富士との謀略ともいえる恐喝未遂容疑で逮捕されたのです。

 (※ 武富士は、独自取材に基づいて同社に批判的な記事を書いたフリーランスのジャーナリストや内部告発した元社員に対しては、次々に高額な損害賠償を請求する訴訟を起こした。参考:週刊金曜日「同時ルポ 武富士裁判」)

 すでに警察と武富士との癒着が国会でも取り上げられていたにもかかわらず、不可解なことに、趙被告の初公判は、一般傍聴席15席、司法記者クラブ席5席という東京地裁最小の法廷で行われました。山岡さんとぼくが開廷約30分前に到着したとき、一般傍聴席はすでに満席で、「立ち見でもいい」という人たちが数十名もいる始末。我々が空いていた司法記者クラブ席に座ったところ、裁判所の警備担当者から実力で排除されました。

――今回の判決についてどう考えますか?

 今から37年も前の1969年の博多駅事件の判例――その時点ですでに時代遅れの解釈なのですが――を引いて、取材報道の自由を極めて限定的に解釈した、実態にそぐわない、まったく時代遅れの判決です。(参考:最高裁判例集「博多駅事件」)

 判決では、取材や報道の自由は、「報道機関の報道行為、取材行為に対して国家機関が介入してはならないといういわゆる消極的な自由を意味するにとどまる」といっています。 歴史を振り返れば、昔から政府、役人、大企業など時の権力者たちは、自分たちに都合の悪いことをなるべく国民に伝えないようにしてきました。ただし、今どき、戦前のように警察や軍隊を使って輪転機を止めるような直接的な方法をとるわけがないでしょう。

 もっと巧妙に、メディアをコントロールして自分たちに都合の悪い情報を流さないようにしていますよ。例えば、大企業は新聞や雑誌、テレビに広告を大量に出稿することで、自分たちに都合の悪い情報を伝えさせないようにしていますし、役所は、記者と癒着して、外郭団体の講師を高額で引き受けさせたり、審議会のメンバーにして懐柔しています。

 こういった金銭や便宜の供与による情報コントロールが、今日的な取材報道の自由や国民の知る権利の侵害なのです。

――その情報コントロールの最たるものが記者クラブだということですね。

 そうです。中央官庁や各都道府県庁、市役所、裁判所、警察などの公的機関には、税金を使って記者室が置かれ、記者クラブに加盟する新聞・通信社・放送局だけが無料で使用しています。その上、受付の職員の人件費や光熱費、なかには電話代まで公共機関に税金で負担させていますからね。

 ぼくは新聞記者は同業者とはみなしていません。彼ら、彼女らは、役所が税金を使って集めた情報をタダでもらって右から左へ流して、再販制度に守られた定価で売るだけですから。地方紙の記者だった人に言わせれば「横書きのリリースを縦書きの新聞記事に直す」ようなことをして高給を得ているんですよ。

 フリーランスのジャーナリストがしているのは、そういう仕事ではありません。ぼくも役人に話は聞きますが、当事者や関係者に直接会って話を聞いて、事実を確かめた上で、記事を書きます。しかし、新聞記者は、役所が発表した情報を聞いて、さも自分たちが取材したかのように記事を書いています。

 ライブドア事件の記事でも「関係者によると」というふうに、いかにも検事が喋ったらしきことをそのまま書いているけれど、これではまるで検察の広報紙じゃないですか。こういうものを報道というのだろうかと思います。「捜査関係者によると」とか「検察庁の発表によれば」と前置きするならまだしも、情報の出所を明らかにしないのだから、怪文書と同じです。

 仮に検察が発表したからといって、その通りに記事を書く必要はないのです。松本サリン事件で第一通報者の河野義行さんを警察からのリークに基づく虚報を流した報道被害事件の教訓が、まったく活かされていませんね。(参考:フリー百科事典ウィキペディア「松本サリン事件」)

 例えば、いつ、どこで、車が何台衝突した、というような交通事故の記事も、多くは、記者が現場に行って取材しているのではなく、記者クラブにたむろしたままで警察が発表する情報をもとに書いているのです。だから、こういう「発表もの」については、どの新聞も書いている内容が非常に似通っています。

 記者クラブは、1890(明治23)年、帝国議会が開会した際に、傍聴取材を要求する記者たちが「議会出入り記者団」を結成したことが始まりです。国の役人は、このときから、記者クラブの記者たちを接待して手なずけていました。そして、第二次大戦の戦時統制下には、「大本営発表」だけを報じるようになりました。

 現在の記者クラブも報道内容が横並びになるだけでなく、自分のところだけ情報を「おもらい」できなくなると困るからと、役所に都合の悪いことは書かないような腰の引けた報道姿勢を生んでいます。

――記者クラブ加盟社は、「公的機関には国民への情報開示義務と説明責任があり、報道機関は国民の知る権利を代行している」と思っているのでは?

 だとしたら、今回の判決では、裁判所が報道機関のために傍聴席を用意したり、判決要旨を配るのは国民の知る権利に答えるための義務ではなく、便宜供与だと言っているのですから、この判決は取材報道の自由の侵害である、と書くべきでしょう。しかし、共同通信の配信記事も「裁判所が記者クラブだけに記者席を用意するのは憲法違反にならない」というだけで、肝心の前段を伝えていないのです。

 繰り返しますが、東京地裁がいっているのは、記者クラブの加盟社に記者席を用意するのも判決要旨を配るのも、公的機関が説明責任を果たし国民の知る権利に答えるための義務からではない。記者クラブにも義務としてやっているわけではないのだから、フリーのジャーナリストに記者席に座らせないのも判決要旨を配らないのも差別でもなんでもないという理屈です。記者クラブには用意する義務はあるけれど、フリーランスにはないというと差別的取り扱いになるから、予防線を張っているのです。

 もし、この理屈を認めるならば、記者クラブに加盟社に認めている待遇も、国や役所が、義務ではなく便宜供与というサービスで行っているのだから、今日からやめますと言われても文句は言えないはずです。

――記者クラブ加盟社のなかにも記者クラブに疑問を持っている記者はいますか?

 こういう裁判をしていると新聞労連(日本新聞労働組合連合)などメディア関連の労働組合に招かれて話す機会もあります。話を聞いた記者たちは、その場では「記者クラブは今のままではいけない」と盛り上がるのですが、行動しないまま、翌日には会社員に戻ってしまうんですよ。

 そもそもなぜ、彼ら、彼女らの高給が保障されているかというと、役所が税金で集めた情報を無料でもらいながら、再販制度に守られた定価で、広告料まで受け取って売っているからでしょう。新聞記者の人数を倍にする代わりに、給料を半分にして、現場の取材を徹底するようにしたら、紙面も面白くなるでしょうけれど、そんな方向性はないようですね。

 例えば、新聞社のサラリーマンは年収1200万円〜1500万円なんてざらですから、半分になったって600万円、700万円だろうというのは我々庶民の感覚。彼ら、彼女らは庶民ではありませんからね。記者クラブにいて横のものを縦にするだけでそんな高給をもらえるのですから、まじめに取材するのがばからしくもなるでしょう。

――自ら既得権を手放したりはしないのでしょうね。

 ですから、今年は、三つのことを強力に勧めていこうと思っています。まず、新聞は購読しない。テレビは見ない。NHK受信料は払わない。これを国民が実行すれば、記者クラブはなくなりますよ。

 ぼく自身、1990年代の終わりから、あまりきちんと新聞を読まなくなりました。インターネットでアサヒコムとか、ヨミウリ・オンラインとか、毎日インララクティブなんかに速報ニュースは出ていますから、翌朝届く新聞では、ネットで読んだのと同じ記事を読まされることになってしまいます。これで朝夕刊セットで4000円もとられるのはもったいないと思い、2000年になった頃には、きっぱり購読をやめました。

 新聞をとらなくなってすでに5年が経ちますが、まったく困ることはありません。ネットでニュースを見れば済みますし、役所の発表は役所のサイトを見たほうが正確ですから。本来、新聞を最も必要とするはずのプロが困っていないのですから、一般の人が新聞をとらなくても困らないと思いますよ。テレビ欄を見たかったらテレビ雑誌を買えばいいわけですし。

 テレビといえば、ぼくは、この仕事を始めてからすっかりテレビを見なくなりました。だって、ニュースも含めてやらせばかりだっていうことがよく分かりますし、インターネットの方が面白いですから。

 新聞でもテレビでも、特定の記事の対価や好きな芸人の演じるパフォーマンスだけを見てその対価だけを払う、ということはできませんが、インターネットやレンタルビデオならそれも可能です。

 今は、必要のないものまで見せられて時間と金を無駄にしていますが、早晩、新聞をとらなくても困らないのと同様、テレビを見なくても困らないということになるでしょう。見なくても払えといってくるNHK受信料は、断固たる意志で払わないようにします(笑)。(参考:NHK受信料支払い停止運動の会)

 新聞も民法テレビもNHKも、みんな経営危機に陥れば、彼らもなぜ自分たちがこんなに国民の支持を失ったのかと少しは考えるでしょう。

 もし、経営危機だからとよけいに記者クラブという既得権益にしがみつこうとすれば、紙面はますます発表ものでうめつくされ、つまらないから部数が減る、ますます利権にしがみつく、という悪循環に陥って、つぶれるだけです。

――過去にも同様の訴訟を起こして敗訴していますが、裁判をして得たものは? (参考:共謀罪反対THE INCIDENTS 「警視庁記者クラブ事件」)

 裁判をしてきたおかげで、取材がやりやすくなりましたね。我々のようなフリーランスが役人に質問をすると、答えないことの口実として、記者クラブに入っていない人の取材には応じない、というようなことを言われました。

 でも、記者クラブに加盟していないことを理由に取材に応じないのなら裁判をします、と言って、実際に裁判をしていることを示せば、たいてい回答をしてきます。裁判の結果だけを見れば、敗訴はしていますが、取材する上で得るところはたくさんありました。

 とくに地方では、行政機関の記者会見にはぼくは、フリーパスで出ています。稀に加盟者の幹事や役所の広報担当者に記者クラブに入っていないだろうと言われることがありますが、ぼくはこういう裁判をやってるけれど、もし妨害するなら、あなたを相手に裁判をしますよというと、引っこみますね。

――あとは、裁判で勝つだけですね。

 韓国には、近年まで日本の植民地支配の名残で記者クラブが存在していましたが、裁判所の決定(仮処分)をきっかけに廃止されました。もう世界中に記者クラブなどという恥ずかしい制度のある国は日本だけです。(参考:警察庁記者クラブ事件(14)韓国で記者クラブが廃止されたいきさつ)

 この記者クラブをなくすため、裁判は勝つまで続けます。どう考えてもこちらの主張の方が正しいので、裁判所が自分たちの非を認めるまで、100回でも200回でも裁判は続けます。このまま、裁判官の非常識ぶりを世界にさらし、裁判史に残すのは、恥だし、損だと思いますよ。

(清水直子)

     ◇

寺澤有(てらさわ・ゆう)ジャーナリスト
 1967年東京都生まれ。90年、中央大学法学部卒業。在学中から、自動車専門誌『ニューモデルマガジンX』(三栄書房)で、交通行政の問題を告発する連載を始める。以後、フリージャーナリストとして警察、検察、裁判所、会計検査院など、聖域になりがちな組織の腐敗を追及。主要週刊誌・月刊誌でスクープを連発してきた。警察問題を扱った著書に『警察庁出入り禁止』(風雅書房)、『おまわりさんは税金ドロボウ』『警察がインターネットを制圧する日』(編著、メディアワークス)ほか。製造物責任法(PL法)に関する著作では『PL法事始め』(共著、三一書房)、『欠陥商品のトラブル解決法』(風雅書房)がある。
 「共謀罪反対 THE INCIDENTS」編集長
 「共謀罪に反対する表現者たちの会」共同代表

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