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長田渚左の「トリビアン☆トリノ」第2回
http://torino.yahoo.co.jp/voice/serial/osada/at00007780.html
「8分の中断が、加藤選手に響きました」
天才とまで言われた世界記録保持者、加藤条治のレースを解説した堀井学氏は、わが事のようにうなだれた。
加藤の1本目のスタートは16組だった。
直前の15組で選手の転倒があり、整氷のために、彼のスタートは待たされた。
その結果が35秒59。
2本目の滑走では、自分らしさを取りもどして35秒19を出したが、2本のタイムを合計するレースでは、メダルには手が届かなかった。
翌日の新聞報道、テレビ解説でも、中断で集中力を欠いたことが敗因とされた。
スケート靴を長くはき続けたために、脚がうっ血していたのだとの分析もあった。
では、そこで聞きたい。
前の組の選手が転ぶことは想定外だったのか?
大舞台になればなるほど、人は思わぬミスをするものだ。
特にスピードスケートは、自分で何かをしなくてもほかの選手からの影響をモロに受ける。
ソルトレークシティー五輪でメダル候補のウォザースプーン選手がスタート5歩目で転倒したシーンも忘れられない。
そのほかにも、コースをはずれ、ふっとぶ選手もよく目にする。アクシデントが頻発するのが、スピードスケートだろう。
何かが起きたとき、自分はどう対応するか、それを100%考えておかなくてはならない。
ちなみに、ソルトレークシティー五輪でウォザースプーンが目の前で転倒するやいなや、ライバルの清水宏保はリンクから姿を消して、気分を切り替えた。
起こりうる可能性のすべてが想定内でないと、大舞台では通用しない。
あえて言いたい、乱されて自分のパフォーマンスに支障が出るのならば、そこまでだったということなのだ。
芯からの強さ
2004年アテネ五輪で、スピードスケートと同じようにタイムを争う競泳で、公約通りに2つの金を獲得したのが、北島康介選手だった。
彼はどんな大舞台であろうと、自分らしい泳ぎでタイムを出せるメンタルの強い選手だ。
でもいわゆるメンタルトレーニングはやっていない。
北島を育ててきた平井伯昌コーチが、メンタルトレーニングに否定的なのだ。
「心がドライバーで、体がクルマならば、いい環境へ、いい環境へと導くようなものでしょ。まるで動く歩道に乗っけて、そのまま丸ごとウァーッと天国へいこうとするようなものですよ」
つまりぬくぬくと心地よい状態のままで、何の障害も受けずに大舞台で勝てることなどないと考えてきたのである。
だから障害だらけの大舞台で闘うために、北島選手に対して子どものころから負荷をかけ続けてきた。
例えば、わざとハードなトレーニングや長時間泳いだ後に試合に出た。しかもその試合にも目標タイムを設定していた。
不利なことをはね返す訓練をやり、“水泳道”を極めてきたのだ。
芯(しん)から強くないと、世界新の1つや2つ出したからといって、世界では通用しないと考えてきたのである。
平井コーチはこうも言った。
「選手は弱い奴ほど文句を言うものだ。外国では日本食が食えないので力が出ない。米がないとダメ。あーでないとダメ。こーでないとダメ。ひどいのになると、人のたてる波で自分の泳ぎが小さくなった。プールが自分に合わない。自分の試合ができないことの種を次から次へ捜し出す……で、結果が出ないと、全部他のモノのせいにする」
心を乱されるような地雷がうまっているのが試合なのだ。ハナから自分のレースをできる、と思うほうが間違いなのかもしれない。
試合後、8分の中断についてきかれ、加藤自身はこう言った。
「影響はなかった」
加藤は「いくら自分がベストであっても圧勝したアメリカのチーク選手には届かなかったかもしれない」とだけ言ったのだ。
敗因を掘り下げようとしているのはマスコミだ。あのせいでダメ、このせいでダメ、と過剰に取り上げることこそ、納得がいかない。
加藤選手は、何の言い訳もしていない。
その点に注目したい。だから、彼はきっと今後のびると思う。
4年後、速さにプラスされた強さをたのしみにする。
(メディアアトリエ)
長田渚左(おさだ・なぎさ)
ノンフィクション作家。桐朋学園大学演劇専攻科卒業後、スポーツライター、キャスターとして活躍。フジテレビ「スーパータイム」では、10年間にわたりスポーツキャスターを務めた。現在は、「週刊ブックレビュー」(NHK-BS)の司会を担当する。著書に『こんな凄い奴がいた』『「北島康介」プロジェクト』(ともに文藝春秋)など多数。
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第1回 採点競技に思う――上村愛子の3度目のオリンピック - 2006年2月14日
http://torino.yahoo.co.jp/voice/serial/osada/at00007757.html