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「泳がせ捜査」記事でおわび 裏付け取材が不足 「組織的捜査」確証得られず 北海道新聞 2006/01/14
…(略)…
稲葉元警部が暴露し、記事にも明示した「覚せい剤130キロ、大麻2トン」という莫大(ばくだい)な道内への流入量についても、元警部の証言以外に十分な根拠はなく、流入後の行方も不明のままです。
こうした点についていずれも裏付け取材が不十分でした。
泳がせ捜査は、密輸された覚せい剤や拳銃などの発見時に容疑者を逮捕せず、そのまま流通させ、密売グループ全体を摘発する手法です。薬物の場合は麻薬特例法、銃器は銃刀法で認められています。記事では、拳銃摘発のために薬物を見逃したとしましたが、これが事実とすれば合法的な泳がせ捜査ではなく、違法捜査にあたります。しかし、記事には違法か適法かの説明もありませんでした。
一方、稲葉元警部が上申書でいうところの「泳がせ捜査」がなかったという確証も得られませんでした。
…(略)…
記事を読んで驚いてしまった。「覚せい剤130キロ、大麻2トン」というのは大変な大事件であり、巷間囁かれているように、この北海道警察と北海道新聞の一部幹部との癒着からの”手打ち”おわび記事であったのなら看過は絶対にいけないことである。
これは僕が実際に大阪の暴力団組織にいた人間から聞いた話だが、賭場の取り締まりの際に警察とその暴力団組織との間でとんでもないやりとりがされている例もある。
まず警察署の幹部が賭場へのガサ入れの日時を、賭場を仕切る組織の幹部に事前に内密に知らせる。その伝達を受けた組織はその日時には上客の常連は来場しないように手をまわし、近所の商店街などのあまり得にならないような客をその日時には招く。
ガサ入れ当日、踏み込んだ捜査員らによって、あわれ商店街のオヤジさん等はお縄を頂戴することになるが、その際、賭場で立ち働いていた組織の人間も数名お縄をいただく。しかし、これは逮捕されるということを事前にその組員本人たちから了承をとっている。賭場で働いていた彼らが刑期を終え刑務所から出てくれば、その分いいことがあるというわけである。
当然のことながら、新聞には警察の功名としてその記事が載ることになる。
いったいそんなことをして、賭場を仕切る組織のほうにはどんなメリットがあるのかと思われるかもしれないが、その逮捕劇後には、また気兼ねなく賭場が営めるということになっているのだ。
今更、警察と暴力団との癒着、また警察と新聞社幹部との癒着、さらに新聞社と暴力団との癒着などを云々するのも馬鹿らしいほど(また云々したところで一般の市民にはどうしようもない)、そういう慣習は長く続いてきたといっていいだろう。
しかしながら、今回の件は「覚せい剤130キロ、大麻2トン」というとんでもないものが介在している。これは絶対に見逃してはならぬものだと思う。
一方で、ジャーナリズムの大事な問題もある。
社名などは伏せるが、暴力団の組員がある大新聞社の幹部と交通事故を起こした。もちろんその暴力団組員は話し合いの場で難癖をつけた。ところが、その組員は相手の新聞社が出した一枚の名刺に驚愕してしまった。そこには誰もが知る大紋と、その代表の組長の側近の幹部の名が記されていたからだった。
こういうことを考えれば、その北海道新聞の事件にあたった記者有志たちは、世の中にとって貴重な存在であるということがわかるはずだ。
【この事件の参考サイト】
・北海道新聞が危ない…ついに道警に謝罪か?怒れ560万道民(情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士)
http://blog.goo.ne.jp/tokyodo-2005/e/5c8e5e68a2ba8afa0056241c05aa9201
・道警による北海道新聞社長逮捕説のその後(情報紙「ストレイ・ドッグ」(山岡俊介取材メモ))
http://straydog.way-nifty.com/yamaokashunsuke/2006/01/post_2782.html
北海道新聞
http://www.hokkaido-np.co.jp/Php/kiji.php3?&d=20060114&j=0022&k=200601147030
「泳がせ捜査」記事でおわび 裏付け取材が不足 「組織的捜査」確証得られず 2006/01/14
北海道新聞社は昨年三月十三日、朝刊社会面に「覚せい剤130キロ 道内流入?」「道警と函館税関『泳がせ捜査』失敗」などの見出しで、道警と函館税関が二○○○年四月ごろ、「泳がせ捜査」に失敗し、香港から密輸された覚せい剤百三十キロと大麻二トンを押収できなかった疑いがあるとの記事を掲載しました。
これに対し道警から「記事は事実無根であり、道警の捜査に対する道民の誤解を招く」として訂正と謝罪の要求があり、取材と紙面化の経緯について編集局幹部による調査を行いました。
その結果、この記事は、泳がせ捜査失敗の「疑い」を提示したものであり、道警及び函館税関の「否定」を付記しているとはいえ、記事の書き方や見出し、裏付け要素に不十分な点があり、全体として誤った印象を与える不適切な記事と判断しました。
関係者と読者の皆さまにご迷惑をおかけしたことをおわびします。
北海道新聞社
◇
「泳がせ捜査」失敗疑惑に関する記事についての北海道新聞社の社内調査の内容を報告します。
この記事の取材は、覚せい剤取締法違反などで逮捕され有罪が確定し服役中の稲葉圭昭・元道警警部が二○○三年三月に、自身の公判で明らかにしたのが発端で始まりました。稲葉元警部は「上申書」を読み上げる形で、自らが関与した「泳がせ捜査」が失敗したと暴露しました。元警部は、収監後も同じ内容を一部の関係者に伝えていました。本紙記者は、「上申書」の内容を確認するために、関係者らの取材を進めていました。
二○○五年には、元道警釧路方面本部長の原田宏二氏が、著書「警察内部告発者」の中で、服役中の稲葉元警部からの私信につづられていた話として「泳がせ捜査」について紹介することが分かり、取材を加速させました。
複数の捜査関係者などの取材をしたところ、稲葉元警部が暴露した話と矛盾しない証言が得られました。元警部の証言の信ぴょう性については、既に罪を認めて服役中の身でありながらあえて虚偽の話をつくる理由はない、とも考えられました。こうしたことから「泳がせ捜査失敗の疑い」として記事にしました。
社内調査では、一連の取材経過などについて検証しました。その結果、捜査関係者の証言の多くは伝聞に基づくものであり、警察と税関との緊密な協力のもとで、十分な監視のために多数の捜査員や職員を投入するのが一般的な、麻薬特例法に基づいた組織的な「泳がせ捜査」が行われたとの確証は得られませんでした。
稲葉元警部が暴露し、記事にも明示した「覚せい剤130キロ、大麻2トン」という莫大(ばくだい)な道内への流入量についても、元警部の証言以外に十分な根拠はなく、流入後の行方も不明のままです。
こうした点についていずれも裏付け取材が不十分でした。
泳がせ捜査は、密輸された覚せい剤や拳銃などの発見時に容疑者を逮捕せず、そのまま流通させ、密売グループ全体を摘発する手法です。薬物の場合は麻薬特例法、銃器は銃刀法で認められています。記事では、拳銃摘発のために薬物を見逃したとしましたが、これが事実とすれば合法的な泳がせ捜査ではなく、違法捜査にあたります。しかし、記事には違法か適法かの説明もありませんでした。
一方、稲葉元警部が上申書でいうところの「泳がせ捜査」がなかったという確証も得られませんでした。
掲載した記事は、泳がせ捜査をめぐる疑惑に関して報じたものですが、第一社会面トップという扱いの大きさや、「覚せい剤130キロ道内流入?」「道警と函館税関『泳がせ捜査』失敗」「大麻も2トン、密売か」などの見出しも含め、全体としては、法に基づいた道警と函館税関合同の泳がせ捜査があったという印象を読者に与えるものでした。
◇
「泳がせ捜査」失敗疑惑の記事 2005年3月13日朝刊第1社会面に掲載。道警銃器対策課と函館税関が2000年4月ごろ、泳がせ捜査に失敗し、香港から石狩湾新港に密輸された覚せい剤約130キロと大麻約2トンを押収できなかった疑いがあると報じた。
この覚せい剤と大麻は道内に流入し密売された可能性が強く、末端価格では計150億円以上と推定され、130キロという覚せい剤の量は、道内の年間押収量のおよそ500倍に相当すると、記した。
「泳がせ捜査」については、道警、函館税関が合同で実施し、犯行グループから拳銃を摘発するためのもので、覚せい剤、大麻の計2回の密輸入は見逃し、3回目に摘発する手はずだったが、捜査は失敗し、押収できなかったとした。
こうした内容は、複数の当時の捜査関係者らが証言したとし、捜査を担当した稲葉圭昭・道警元警部(覚せい剤取締法違反などの罪で逮捕され服役中)が自身の公判中に裁判所に提出した「上申書」でも明らかにしたと報じた。この「上申書」も併せて掲載し、道警と税関の「否定」も付記した。
◇
新蔵博雅編集局長 「泳がせ捜査」失敗の疑いを報じた本紙の記事について社内調査の結果、全体として説得材料が足りず、不適切なものであったとの結論に至りました。事の性格上、取材の困難さはありましたが、それは理由になりません。疑いを裏付ける続報を展開し得なかった力不足についても率直に反省いたします。編集局を挙げて取材力の向上に努め、読者の皆さまの信頼に応えていきたいと思います。
道警「道民の誤解解けぬ」
北海道新聞社が十四日朝刊で、昨年三月十三日の朝刊社会面に「道警と函館税関『泳がせ捜査』失敗」などの見出しで掲載した記事が不適切だったとし、「おわび」を掲載したことについて、道警の岩田満総務部参事官兼広報課長は十四日、「今回の記事内容によれば、当該記事の訂正も行われておらず、道民の誤解を解くものとは言えない」とのコメントを出した。
コメントは「北海道新聞朝刊に掲載された泳がせ捜査の事実は全く存在しないことから、抗議を行い、当該記事の訂正、謝罪を申し入れていた」としている。