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http://d.hatena.ne.jp/gatonews/20060114/1137221727
北海道警の裏金問題を暴き、新聞協会賞を受賞していた北海道新聞社がどうやら道警と手打ちした模様です。北海道新聞のHPにお詫び記事が掲載されていましたので、まずは全文引用しておきますのでご覧ください(消される可能性もあるので)。
北海道新聞社は昨年三月十三日、朝刊社会面に「覚せい剤130キロ 道内流入?」「道警と函館税関『泳がせ捜査』失敗」などの見出しで、道警と函館税関が二○○○年四月ごろ、「泳がせ捜査」に失敗し、香港から密輸された覚せい剤百三十キロと大麻二トンを押収できなかった疑いがあるとの記事を掲載しました。
これに対し道警から「記事は事実無根であり、道警の捜査に対する道民の誤解を招く」として訂正と謝罪の要求があり、取材と紙面化の経緯について編集局幹部による調査を行いました。
その結果、この記事は、泳がせ捜査失敗の「疑い」を提示したものであり、道警及び函館税関の「否定」を付記しているとはいえ、記事の書き方や見出し、裏付け要素に不十分な点があり、全体として誤った印象を与える不適切な記事と判断しました。
関係者と読者の皆さまにご迷惑をおかけしたことをおわびします。
北海道新聞社
◇
「泳がせ捜査」失敗疑惑に関する記事についての北海道新聞社の社内調査の内容を報告します。
この記事の取材は、覚せい剤取締法違反などで逮捕され有罪が確定し服役中の稲葉圭昭・元道警警部が二○○三年三月に、自身の公判で明らかにしたのが発端で始まりました。稲葉元警部は「上申書」を読み上げる形で、自らが関与した「泳がせ捜査」が失敗したと暴露しました。元警部は、収監後も同じ内容を一部の関係者に伝えていました。本紙記者は、「上申書」の内容を確認するために、関係者らの取材を進めていました。
二○○五年には、元道警釧路方面本部長の原田宏二氏が、著書「警察内部告発者」の中で、服役中の稲葉元警部からの私信につづられていた話として「泳がせ捜査」について紹介することが分かり、取材を加速させました。
複数の捜査関係者などの取材をしたところ、稲葉元警部が暴露した話と矛盾しない証言が得られました。元警部の証言の信ぴょう性については、既に罪を認めて服役中の身でありながらあえて虚偽の話をつくる理由はない、とも考えられました。こうしたことから「泳がせ捜査失敗の疑い」として記事にしました。
社内調査では、一連の取材経過などについて検証しました。その結果、捜査関係者の証言の多くは伝聞に基づくものであり、警察と税関との緊密な協力のもとで、十分な監視のために多数の捜査員や職員を投入するのが一般的な、麻薬特例法に基づいた組織的な「泳がせ捜査」が行われたとの確証は得られませんでした。
稲葉元警部が暴露し、記事にも明示した「覚せい剤130キロ、大麻2トン」という莫大(ばくだい)な道内への流入量についても、元警部の証言以外に十分な根拠はなく、流入後の行方も不明のままです。
こうした点についていずれも裏付け取材が不十分でした。
泳がせ捜査は、密輸された覚せい剤や拳銃などの発見時に容疑者を逮捕せず、そのまま流通させ、密売グループ全体を摘発する手法です。薬物の場合は麻薬特例法、銃器は銃刀法で認められています。記事では、拳銃摘発のために薬物を見逃したとしましたが、これが事実とすれば合法的な泳がせ捜査ではなく、違法捜査にあたります。しかし、記事には違法か適法かの説明もありませんでした。
一方、稲葉元警部が上申書でいうところの「泳がせ捜査」がなかったという確証も得られませんでした。
掲載した記事は、泳がせ捜査をめぐる疑惑に関して報じたものですが、第一社会面トップという扱いの大きさや、「覚せい剤130キロ道内流入?」「道警と函館税関『泳がせ捜査』失敗」「大麻も2トン、密売か」などの見出しも含め、全体としては、法に基づいた道警と函館税関合同の泳がせ捜査があったという印象を読者に与えるものでした。
◇
「泳がせ捜査」失敗疑惑の記事 2005年3月13日朝刊第1社会面に掲載。道警銃器対策課と函館税関が2000年4月ごろ、泳がせ捜査に失敗し、香港から石狩湾新港に密輸された覚せい剤約130キロと大麻約2トンを押収できなかった疑いがあると報じた。
この覚せい剤と大麻は道内に流入し密売された可能性が強く、末端価格では計150億円以上と推定され、130キロという覚せい剤の量は、道内の年間押収量のおよそ500倍に相当すると、記した。
「泳がせ捜査」については、道警、函館税関が合同で実施し、犯行グループから拳銃を摘発するためのもので、覚せい剤、大麻の計2回の密輸入は見逃し、3回目に摘発する手はずだったが、捜査は失敗し、押収できなかったとした。
こうした内容は、複数の当時の捜査関係者らが証言したとし、捜査を担当した稲葉圭昭・道警元警部(覚せい剤取締法違反などの罪で逮捕され服役中)が自身の公判中に裁判所に提出した「上申書」でも明らかにしたと報じた。この「上申書」も併せて掲載し、道警と税関の「否定」も付記した。
◇
新蔵博雅編集局長 「泳がせ捜査」失敗の疑いを報じた本紙の記事について社内調査の結果、全体として説得材料が足りず、不適切なものであったとの結論に至りました。事の性格上、取材の困難さはありましたが、それは理由になりません。疑いを裏付ける続報を展開し得なかった力不足についても率直に反省いたします。編集局を挙げて取材力の向上に努め、読者の皆さまの信頼に応えていきたいと思います。
道警「道民の誤解解けぬ」
北海道新聞社が十四日朝刊で、昨年三月十三日の朝刊社会面に「道警と函館税関『泳がせ捜査』失敗」などの見出しで掲載した記事が不適切だったとし、「おわび」を掲載したことについて、道警の岩田満総務部参事官兼広報課長は十四日、「今回の記事内容によれば、当該記事の訂正も行われておらず、道民の誤解を解くものとは言えない」とのコメントを出した。
コメントは「北海道新聞朝刊に掲載された泳がせ捜査の事実は全く存在しないことから、抗議を行い、当該記事の訂正、謝罪を申し入れていた」としている。
この記事を読んで、まず一番に疑問に思うのは、公判において稲葉警部が『泳がせ捜査があった』と上申書を提出している点、元北海道警釧路方面本部長の原田宏二氏がこの問題に言及している(詳しくは「警察内部告発者・ホイッスルブロワー」をご覧ください)にもかかわらず、道警が主張する『事実無根である』との見解を受け入れ(受け入れたように見せかけ)、なぜお詫びを載せなければならないのかです。『泳がせ捜査がなかったという確証も得られませんでした』ともあります。よく記事を読み込んだ読者は首をひねるでしょう
通称稲葉事件(「北海道警察の冷たい夏」も参考になります)は、道警の闇とも言われている謎の多い事件です。事件の真相を知っていると思われる関係者が次々と自殺者し、道警警察官(女性)が暴力団関係者の車に乗っていて交通事故を起こすなど、道警と暴力団関係者の日常的な癒着が疑われる事が相次ぎました。いくつかの問題点があっても(これは注意すべきだったと思う)、疑いを報じるだけでも意味があったと考えています。新蔵博雅編集局長は『読者の皆様の信頼に応えていきます』とコメントしていますが、本当に読者の信頼は失われたのでしょうか。私には、これは道警の信頼に応えていきますという宣言にしか見えません。
つまりこれは、道新と道警の手打ち宣言です。そうでなければ、この理論が破綻した意味不明のお詫び記事の説明がつきません。
北海道の業界紙などには既に掲載されていることですが、道新内部では不祥事が続いています。室蘭支社の営業担当者が売上金を着服して逮捕されたのに続いて、東京支社でも同じようなことが起きていました。室蘭の場合は担当者を刑事告訴しましたが、なぜか東京の場合は依願退職(退職金を支払った)となりました。この弱みを道警に握られた上で、道警から「お詫び」が出た記事に関して捜査や訴訟をする(どう考えても訴訟とか無理だと思うし、やったらやぶへびですから、単なる脅しでしょう)などと詰め寄られていたようです。
既に道新では、昨春の人事異動で、私と一緒に「ブログ・ジャーナリズム―300万人のメディア」を出した高田昌幸さんを東京国際部に(さらにロンドンへ異動予定)、同時に、警察担当記者を東京社会部、テレビ局に出向させ、道警裏金チームを事実上解散していました。地ならしをした上で、道警との関係修復に乗り出していたわけで、今回のお詫び記事はその関係修復を道警にお知らせする「宣言」なのでしょう。今後、よほど社内事情が変わらない限りで道新から道警の不祥事を追求するような記事は出ないと考えてよいでしょう。そして、このような意味不明なお詫びを載せたことは、(その内幕が分かるにつれ)逆に読者の信頼を著しく低下させることでしょう。
確かに道新の広告部門の体質には問題があります。道新内部に道警と同じような裏金構造があったということです。しかし捜査を受け入れ、膿を出せば筋肉質な組織に生まれ変わる可能性がありましたが、道新は自らそれを捨てました。これは広告だけでなく、記者、事業などあらゆる部門に責任があります(特に記者は「広告は関係ない」といいがちだ)。外から見れば同じ北海道新聞。自らを正せない報道機関に他社を批判する資格はありません。
まず北海道新聞は新聞協会賞を返上すべきです。そして、道新の内部で意見があり、声があるなら外に伝えてほしい(この声が外に伝わるというのがなかなかない。案外内輪では組合とかが主張してたりするのですが、読者に伝わらなければ意味がないです)。また、新聞労連、ブログを書いている新聞業界内部の人、高田さんのたたえて持ち上げていた(私の嫌いな)ジャーナリズム原理主義者の方々は、今こそ真価が問われるのではないでしょうか。私はこの意味不明のお詫び記事の裏側で起きていることを、少しだけ説明するエントリーを書くことぐらいしかできませんが、普段から声高にジャーナリズムを叫んでいる方々は、具体的な行動を起こすことでしょう。これは道新だけでなく、新聞業界全体の信頼に関わる危機なのですから… 期待しています。