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カナダ先住民地区における水銀汚染事件の臨床的追跡調査(1975−2002)
http://www.asyura2.com/0510/health11/msg/500.html
投稿者 Kotetu 日時 2006 年 6 月 23 日 11:46:57: yWKbgBUfNLcrc
 

(回答先: Re: 目の前の現実にはコメントしない学者って・・・ 投稿者 Kotetu 日時 2006 年 6 月 23 日 06:20:35)

《さうすウェーブ》
http://www.southwave.co.jp/swave/0_inf/edit.htm
http://www.southwave.co.jp/swave/8_cover/2003/cover0307.htm


 【特別寄稿】

カナダ先住民地区における水銀汚染事件の臨床的追跡調査
(1975−2002)


原田正純・藤野 糺・大類 義・中地重晴・大野秀樹

原田正純・熊本学園大学教授ら5人の医師・研究者は2002年8月から9月にかけて、カナダのオンタリオ州の水銀汚染先住民族の調査を行った。前例のない27年ぶりの追跡調査だ。そのレポートが特別寄稿された。なお、写真は同行したジャーナリスト・農 孝生さんの提供による。


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57人を検診。約8割が「水俣病」と考えられる
前例のない27年目の同一医師による追跡調査


《はじめに》

地域の患者たちを検診する原田さん(右端)と藤野さん(左から2人目)
著者らは1975年に2回にわたってカナダ、オンタリオ州にある水銀汚染地区に行き、疫学的・臨床的調査を行った。その結果、軽症だが水俣病がすでに発生していると報告した(3、4)。その後、州政府は公式には水俣病を認めなかったが、漁獲・魚食の禁止、補償金などの対策がとられたという。
しかし、その後の汚染住民に関する報告はみられなかった。当時の頭髪水銀値と臨床症状が明らかになっていた例が長期経過後にどのように変化しているかを明らかにすることはメチル水銀の長期的影響、安全基準を知る上でとても重要なことであると考えた。
そのために、2002年9月に著者らはその後の経過を見るために現地を訪れ調査を試みた。水銀汚染地区におけるこのような長期経過後の追跡調査は水俣(日本)でも十分に行われていない。もちろん、世界にも他では見られないものである。


《調査方法》

2002年8月31日から9月3日まで現地(Grassy Narrows)に滞在して聞き取り調査と日本の水俣病検診で行われているのと同じ臨床検診を行った。同時に可能な限り頭髪を採取して水銀の分析を行った(分析方法は同じ)。食物連鎖からくる頭髪中の水銀は90%以上がメチル水銀であることが明らかであることから総水銀のみを分析した(20)。同地区の衛生関係者や住民の協力を得て、希望者を調査対象とした。


■神経症状では「感覚障害」が最も目立った


《結果》
検診対象者はGrassy Narrows に在住の57人であった。受診者は男性34人、女性23人。対象者の年齢は1歳から90歳までの各年齢層にわたった。1歳から10歳までが7人、11歳から20歳までが2人、21歳から30歳が6人、31歳から40歳が11人、41歳から50歳までが7人、51歳から60歳まで8人、61歳から70歳まで13人、71歳から80歳までが2人、90歳が1人であった。

自覚症状が全くない者は8人。しかし、1人を除くと7人は幼児であった。四肢痛だけを訴えた者4人、しびれだけ訴えた者2人以外は複数の自覚症状をもっていた。自覚症状の中で多いものは以下の症状であった。手足のしびれ感numbnessの38例(66.6%)、次いで四肢・関節・腰痛pain in limbs 26例(45.6%)、からす曲がり(こむらがえり)crampus of limbs 24例(42.1%)、めまい17例(29.8%)聴力障害15例、転び易い14例(24.5%)、頭痛13例(22.8%)、ふるえ12例(21.0%)、物忘れ12例(21.0%)、指先が動き難い・物をとり落す10例(17.5%)などであった。

神経症状では感覚障害が最も目立った症状であった。感覚障害の部位にも特徴があって四肢の末端優位の感覚障害(glove and stocking type)が31例で最も多く、口周辺(perioral)の感覚障害9例、全身の感覚障害が6例、半身の感覚障害が3例が見られた。起立平衡・歩行障害(直線歩行、片足立ち障害、Mann’phenomen陽性など)が21例、聴覚障害17例、振戦trmor 12例、失調ataxia 7例、言語障害7例、眼球運動障害7例、視野狭窄(対面法)constriction of the visual field 6例、知的障害9例、痙攣発作4例、失神発作4例などが確認された。

聞き取りで確認された合併症には次のようなものがあった。高血圧10例、糖尿病8例、心臓障害6例、頚椎など脊椎障害5例、脳梗塞5例、骨折など外傷5例、甲状腺障害2例、がん、Burger’s disease、ザルコイドージス、ミオクロヌス、ルーゲリック病など各1例が確認された。


「水俣病」と考えられる人は約8割と水俣の汚染地区なみであった
診断には水俣で行政が用いている診断基準を適応してみた。すなわち、四肢および口周辺の感覚障害に加えて運動失調、視野狭窄、聴力障害、起立平衡障害、眼球運動障害、振戦、言語障害などが複数認められるものを水俣病とした(11例)。これらの症状が認められるものの、他の疾患の影響も重なっていると考えられたものを水俣病+合併症とした(12例)。四肢末端優位の感覚障害のみ(Only)の者および他の症状が認められるが感覚障害が変動しやすい者などを暫定的に水俣病疑いとした(22例)。

しかし、この群については著者らは軽症水俣病またはメチル水銀の影響がある者と考えている。それを合計すると水俣病としたものは45例(78.9%)の高率であった。問題がある人が受診したとはいえ、水俣の汚染地区なみに高率である。

脳性小児まひが3例、知的発達遅滞が3例見られた。これらは胎生期におけるメチル水銀の影響が考えられるが証拠がない。これらの小児をのぞくと水俣病と水俣病+合併症は24歳から90歳(平均年齢は63.1歳)までで水俣病疑い(軽症水俣病)とした者は18歳から65歳(平均50.8歳)で高年齢の方が水俣病の症状をそろえており、かつ重症であった。

汚染企業と州政府、連邦政府は基金を出して患者の救済措置(認定)を行っている。この地区が水銀汚染地区であることから、1986年以来、Mercury Disability Boardを創設して救済措置のための認定を行っている。すなわち、一定の基準を満たす症状をもつ患者に対して月1人当たり250カナダドル(以下同じ)から800ドルの補償金を支払っている。今回の対象者のうち21人がその救済対象として認定を受けている。最低の250ドルの支給を受けている者が8人、300ドルが3人、350ドル、450ドル、600ドル、700ドルが各2人、最高は800ドル1人であった。否定された者が20人、未決定(保留)が3人、未申請が13人いた。

■明確な水俣病患者はさらに存在。軽症者は認定されず


この救済措置(処遇)による認定と先の著者らの診断と比較すると水俣病11人中6人が認定で5人が未認定である。水俣病+合併症では12人中9人が認定である。軽症水俣病は22人中認定はわずか3例であった。脳性まひまたは精神発達遅滞の6人中2例は認定されていた。他の疾患と考えられた4人中1人は認定されていた。年齢との関係をみると(小児を除く)認定患者は39歳から90歳で(平均61.5歳)、未認定は18歳から65歳(平均41.1歳)で高齢者が多く認定されている。汚染のピークが1970年代であったことも関係あると考えられるが、加齢による症状が付加されているとも考えられる。
これらの結果を考察するとかなり明確な水俣病患者が他にもまだこの地域および近在に存在して居ること、軽症者はほとんど水俣病と認められていないことが明らかになった。その一方で合併症についてはかなり幅広く認定し救済していることが分かる。


加齢とともに症度は全般的に重症化していた
頭髪中の総水銀分析は50人について行われた。頭髪水銀値は最低は0.11ppm、最高は18.1ppm(平均2.11ppm)であった。現在水銀汚染はこの地域では改善されて、軽微と考えられた。

前回調査との比較を行った。前回調査したGrassy Narrowsの住民44人中19人(43.18%)はすでに死亡していた。ただし、死因は不明である。

前回調査はGrassy Narrows ともう1つの居留地White Dogを合わせて89人を調査している。最も多かった自覚症状は四肢の痛みで40例(44.9%)、次いでしびれ感が28例(31.4%)、こむらがえりが16例(17.9%)であった。神経症状では聴力障害が40例で最も多かった。注目されたのはglove and stocking typeの感覚障害15例、perioralの感覚障害5例、視野狭窄9例、失調8例、振戦21例などが確認された。この時、これらの症状をもつ者は頭髪水銀値も高かったことなどから軽症水俣病と考えた。

今回も前回と同じように水俣病に見られる自覚症状や神経症状が高頻度に見られている。これらの症状はメチル水銀の影響と考えざるを得ない。しかし、現在の頭髪水銀値は低いことから過去の継続的・長期にわたる汚染によるものと考えられる。また、加齢や合併症の影響もあってか症度(日常生活支障の程度)は重症化していた。

■基準以下の頭髪水銀でも長期に継続すれば慢性型水俣病に



検診を興味深げにのぞきこむ子供たち

前回の頭髪水銀の分析は東京都衛生研究所(Tokyo Metropolitan Resarch Laboratory of Public Health)でおこなった。長い頭髪は根元から3 p毎に切断してそれぞれについて分析した。それによると夏季に生えた頭髪に水銀は多く含まれることが明らかになった。それは彼らが夏季に魚を多食するからで、水銀汚染の原因は魚にあった。また、現在追跡できた9人についてみると、頭髪水銀値は安全基準の50ppmを超えてはいない。したがって、安全基準以下であっても長期に汚染が継続すれば水俣病(慢性型)が発症するということが実証された貴重な症例と考えられた。


1975年と比較できた症例は以下の9例であった。
Case 1: 65歳、male.元ガイド。1975年8月にほとんど症状はなかった。頭髪水銀値は6.3ppmから7.5ppmであった。今回、脳梗塞で半身麻痺が見られ、起立歩行障害、軽度言語障害、Glove and stocking型の四肢感覚障害が見られた。脳梗塞が合併した水俣病と診断した。委員会は認定。

Case 2: 53歳、male.漁業・狩猟。1975年8月にはほとんど症状はなかった。頭髪水銀値は2.0ppmから23.4ppmであった。今回は四肢感覚障害、起立平衡障害がみられ水俣病と診断。委員会は認定。

Case 3: 55歳、male.元チーフ。1975年3月には症状はほとんどなかった。頭髪水銀値は13.2ppmから20.9ppm。今回、口周辺および四肢末端の感覚障害、軽度起立平衡障害が見られた。糖尿病が合併している。委員会は認定。

Case 4: 68歳、male.漁業。1975年8月には自覚症状はほとんどなかったが口周辺および四肢感覚障害、振戦が見られていた。頭髪水銀値は7.5ppmから35.3ppmであった。今回、全身の痛覚障害、口周囲および四肢感覚障害、眼球運動障害、聴力障害、振戦、起立平衡障害などがみられ、ほぼ典型的な水俣病。委員会は認定。

Case 5: 67歳、male.元ガイド。1975年3月には四肢痛を訴え、四肢感覚障害のみがみられた。頭髪水銀値は13.1ppmから36.3ppm。今回、全身の感覚障害と四肢に強い感覚障害、言語障害、聴力障害、失調が見られ、心臓障害、高血圧が合併している。ほぼ典型的な水俣病と診断。頭髪水銀値は今回測定したうちで最も高い18.1ppmを示した。委員会は認定。

Case 6: 73歳、male.元ガイド、漁業。1975年8月にはしびれ感、四肢痛、振戦が見られていた。アルコールとの関係が疑われていた。頭髪水銀値は5.3ppmから23.8ppmであった。今回、しびれ感、四肢痛、頭痛、ふるえ、物を落とす、足がもつれる、こむらがえりなどの訴えが強い。四肢感覚障害、聴力障害、言語障害、失調、振戦が確認された。高血圧、結核、瞳孔障害による視力低下なども見られるが、ほぼ典型的な水俣病と診断。委員会は認定。

Case 7: 90歳、male.元ガイド。1975年3月にはしびれ感、四肢痛を訴え、四肢感覚障害が見られていた。頭髪水銀値は30.8ppmから44.2ppmであった。今回、高血圧、脳梗塞による半身マヒとパーキンソン症状、起立・歩行障害、軽度痴呆、失明、心障害、加えて口周辺および四肢感覚障害、振戦、聴力障害が見られる。高齢による症状と合併症が著明であるが水俣病も存在していると診断。行政的にも認定。

Case 8: 61歳、male.元ガイド。1975年8月には症状はほとんどなし。頭髪水銀値は2.3ppmから8.5ppm。今回、多彩な自覚症状を訴える。全身性感覚障害、聴力障害、失調、眼球運動障害、強度の管状視野狭窄がみられる。心因性症状が加わっている。15年前に1ヵ月間(?)意識喪失があって、それ以来体調が悪いという。脳循環障害や心因反応が合併しているが、水銀の影響は否定できない。行政的には否定されている。

Case 9: 62歳、male.元漁業。1975年8月には軽い振戦のみで自覚症状もなかった。頭髪水銀値は6.8ppmから18.7ppm。今回、四肢末端に強い感覚障害と起立平衡障害が見られた。軽症水俣病と考えられたが、行政的には否定。

《考察》

1970年にEnglish-Wabigoon River system に最高27.8ppmの水銀を含む魚が発見されて以来(1)、次々と魚の水銀汚染の報告が相次いだ(2、3)。そのために、Commercial fishingと魚の摂食が禁止された。この地区では魚を多食するかわうそ(otter),minkが姿を消し(1)、異常な飛び方をしている禿たか(turkey vulture)が目撃され(5)、禿たかの肝臓から96ppmの水銀が検出され、また、この地区の水鳥の肝臓、肉、卵からも高濃度の水銀が検出されていた(5、6)。さらに、現地で捉えられたネコは水俣病の症状を示しており(3)、その解剖所見も典型的なネコ水俣病の所見を示し、脳からは16ppm、肝臓から67ppm、毛から392ppmという高濃度の水銀が検出された(7)。この水域の魚をネコに与えると約90日でネコは水俣病になることも実験的に証明されていた(8、9)。このように水銀による環境と食物連鎖の汚染は明らかであった。汚染源は上流の苛性ソーダ工場であった(3、4)。

汚染地区には2つの先住民の居留地(reservation)があった。彼らは主として漁業や狩猟、観光ガイドを仕事としていた。当然のことながら住民の頭髪、血液の水銀値は高かった。すなわち、1970年の時点でGrassy Narrowsで最高95.77ppmの水銀が頭髪から分析されている。もう一つの近くの居留地White Dogでは最高198ppmの頭髪水銀値が確認されていた。それ以降、Environmental Health Services branchによると水銀値は低下傾向を示していると報告されていたが(10)、1975年の著者らの頭髪水銀調査では最高80.3ppm、71人中44人は20ppm以上、23人は30ppm以上であった(3)。同時に調査したClarkson(Rochester University)のデータでも最高105ppmを検出している(11)。

1970年のGrassy Narrowsの住民の血液中の水銀値も高く平均で46.37ppbで最高159ppbであった。White Dogではさらに高く平均で77.39ppb、最高で385ppbであった(10)。著者らは血中水銀の分析は行っていない。しかし、当然、人に対する影響が心配された。

■カナダでは1975年代には発症していたと考えられる


1975年3月と8月の2回にわたり現地を訪れ臨床・疫学的調査を行った(3、4)。その結果、頭髪水銀値は安全基準の50ppmを超え、水俣病に見られる軽い神経症状を確認した。すなわち、すでに、人体にメチル水銀の影響が見られると考えた(3、4)。しかし、水俣で1956年当時に見られたような、いわゆるHunter・Rassell syndromeといわれるような重症・典型例は発見されなかった(12、13)。しかし、その後の研究によって、このような重症例の発症は例外的なことであって通常は慢性型の軽症水俣病の発症が多いことが明らかになってきた(14)。
1970年代になって水俣病の病像が慢性・非典型化してきたことから「最もミニマムなメチル水銀の影響は何か」「何が水俣病か」という病像論論争が日本ではおこってきた(14、15)。水俣では1959年に認定制度ができて水俣病かどうかは特別の委員会が決定するようになった。この委員会は四肢末端の感覚障害に加えて視野狭窄、失調、言語障害、聴力障害のうち複数の症状が確認されなければ水俣病としなかった。それに対して著者らは四肢末梢に強い感覚障害は中枢性の障害であること(16)、このような感覚障害はメチル水銀中毒においてその蓋然性がきわめて高いことを明らかにしていった(15、16)。したがって、著者らはこのような四肢の感覚障害が確認されれば水俣病と診断してよいと主張した(14)。この考察からすると1975年代にGrassy Narrows,White Dogにはすでに水俣病が発症していたことになる(3)。同様にBrasil,Amazon水域にもすでに水俣病は発症していると考えられる(17、18、20)。

最近に至っても世界の各地で水銀汚染が報告されている。大気、土壌、生物、魚貝類から住民の頭髪などの水銀を分析した結果、数箇所に汚染地区の存在が明らかになっている。しかし、臨床医が水銀汚染の人体影響に関心を持たないのか、報告者の多くが臨床医でないことによるのか汚染地区の住民の健康に関する臨床的研究は極めて少ない。したがって、頭髪水銀値が高いという報告はあってもその人間がどのような症状をもっているのか、いないのか明らかでない。著者らの調査の特徴は頭髪水銀を採取に当たっては直接、生活状況、既往歴、家族歴、自覚症状、神経精神症状、合併症などを確認しながら行うことにある(17、18)。しかも、今回の調査は27年目の追跡調査であったこと、しかも前回と同一医師によって行われたという点で他に全く類を見ないものである。

■27年前には軽症だったが、現在では典型的な水俣病に


その結果、27年前に軽症で確信がもてなかったものが、今回ほぼ典型的な水俣病の症状を示していた。また、異常といえるほど高率に四肢感覚障害や失調、視野狭窄など水俣病にみられる症状が確認された。水銀汚染の存在を背景に考察するならばこれらは水俣病と診断される。したがって、著者らが確認した1975年当時にもすでに水俣病が発症していたといえる。また、当時ほとんど症状がなかったものが今回は水俣病の症状が確認された。これらの例の当時の頭髪水銀値は比較的高いものであるが50ppmという安全基準を下回っていた。これから導かれることは頭髪水銀値が仮に安全基準以下であっても長期に汚染が継続すれば慢性水俣病が発症するということである。現在、妊娠した女性に関しては頭髪水銀値が安全基準値以下でも胎児に影響を与える可能性があるという報告がある(18、19)。
しかし、安全基準の問題は妊婦と胎児だけの問題ではないことを示唆している。また、四肢末端優位の感覚障害(glove and stocking type sensory disturbance)はMinamata areasやAmazon basinなど水銀汚染地区でも高率に見られ、ここでも前回も今回も多数確認された(3、14、17)。そのことから著者らが主張しているように四肢感覚障害はメチル水銀に極めて特徴的な症状であるといえる(14、15、18)。したがって、今回の診断では一応、わが国で議論のある感覚障害だけ確認された例は典型例と区別して考察したが、著者は他の原因を除外できれば感覚障害だけでも水俣病と診断することができると考えている。

胎児性水俣病の発生の可能性はきわめて当該地区では高い状況にある。3例の脳性まひ、3例の精神遅滞を確認した。しかし、胎児性水俣病は症状が成人水俣病ほど特徴がないために、早急な結論は出せなかった。重症者はすでに死亡している可能性もあってさらに詳しい疫学調査での裏付けが必要である。

■医療費と年金の給与だけでは真の救済にはならない



この屈託のない子供たちに負の遺産を残してはならない
Mercury Disability Board は水俣病と公式に認めたわけではないと主張したが、Boardの認定は著者らの水俣病の診断とよく一致した。しかし、軽症や心因反応の強いものが除外されていた。その意味では日本の行政の水俣病基準に酷似している。ただし、合併症なども大胆に認定していた点は救済と言う点からは評価される。しかし、単に医療費と年金の給与だけでは真の救済にはならない。現地の実情を見て感じたことは医療機関の充実に加えて生活基盤の充実や雇用の促進など福祉的な政策の必要があるということであった。そういった施策を行うためには彼らが間違いなく水俣病であったことの確認が必要である。
今回は貴重なデータを得ることができた。しかし、本調査は短期間のほんの氷山の一部に過ぎない。さらに汚染された住民の詳細な調査を行う必要がある。そうすれば住民の救済ばかりでなく、メチル水銀の影響について新しい知見を加えることで世界に貢献できると考える。


《要約》

1) カナダ・オンタリオ州の水銀汚染された先住民居留地を27年ぶりに再調査した。このような調査研究はほかに例を見ない。前回対象者の43.1%は死亡していた。頭髪水銀値は27年前とすれば著明に減少していた(平均2.11ppm)。

2) 57人の住民の水俣病に関する臨床検査を行った。しびれ感66.6%、四肢痛45.6%、こむら返り42.1%などの自覚症と四肢末端優位の手袋足袋状の感覚障害31例、口周辺感覚障害9例、全身感覚障害6例、起立平衡障害21例、聴覚障害17例、振戦12例、失調9例、眼球運動障害7例、言語障害7例、視野狭窄6例、知的障害9例、痙攣発作4例などが見られた。

3) 水俣病と診断したもの11例、合併症があるが水俣病でもあるもの12例、主として四肢の感覚障害だけで症状が軽いが、メチル水銀の影響(軽症水俣病)と考えられたものが22例であった。これらを合計するとメチル水銀の影響を受けていると考えられるものは45例で実に受診者の78.9%になる。過去の長期にわたる汚染によるものと考えられる。

4) 同時に高血圧10例、糖尿病8例、心臓障害6例、脳梗塞5例など合併症も見られた。

5) 27年前に症状がなかったもの、四肢の感覚障害だけであったものなどは現在ほぼ典型的な水俣病の症状をそろえていた。それは頭髪水銀値が50ppm以下でも長期に汚染が続けば水俣病が発症すること、初期には主として四肢の感覚障害だけでも後に典型的な水俣病に発展することを示している。

6) 脳性まひ3例、精神発達遅滞3例が見られたが、胎児性水俣病と診断するには証拠不十分であった。

7) Mercury Ability Boardの判断はほぼ著者らの診断と一致したが、合併症を広く救済している一方で軽症が除外されていた。

8) さらに詳細な臨床疫学的調査をすすめるならばメチル水銀の人体におよぼす影響についての貴重な教訓を残す。


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【Reference】


(1) Fimreite N.& Reynolds L.M.:Mercury contamination of fish in Northwestern Ontario,J.Wildl.Manag.37;62-68(1973)


(2) Annet C.S.,D’Itri F.M.,Ford J.R.& Price H.H.:Mercury in fish and Waterfowl from Ball lake,Ontario,Michigan State Univ.,Agricultural Experiment Station Paper No.6682(1974)


(3) Harada M.,Fujino T.,Akagi T.&Nishigaki S.:Epidemiological and clinical study and historical background of mercury pollution on Indian reservations in northwestern Ontario, Canada, Bull. Institute. Constit. Med., Kumamoto Univ.26;No3,4,169-184(1976)


(4) Harada M.,Fujino T.,Akagi T.& Nisigaki S.:Mercury contamination in human hair at Indian reservation in Canada,Kumamoto Med.J.,30;57-64(1977)


(5) Fimreite N.:Mercury contamination of aquatic birds in northwestern Ontario, Report of Univ.Tromso, Norway(1972)


(6) Vermeer K.,Amstrong F.A.J.& Hatch D.R.:Mercury in aquatic bird at Clay lake,western Ontario,J.Wildl.Manag.:37;58-61(1973)


(7) Takeuchi T.,D’Itri F.M.,Fisher P.V.,Annett C.S. &Okabe M.:The outbreak of Minamata disease(methylmercury poisoning)in cats on Northwestern Ontario reserves,Environ.Research:13;215-228(1977)


(8) Munro I.C.,Charbonneau S.M.&McKinley W.P.:Studies on the Toxicity of methylmercury,Reported by Toxicology Devision Food Research Laboratories Health Protection Branch,Health and Welfare Canada,Ottawa(1974)


(9) Charbonneau S.M.,Munro L.C.,Nera E.A.,Willes R.F.et al:Subacute toxicity of methylmercury in the adult cat,Toxicology and Applied Pharmacology,27;569-581(1974)


(10) Methylmercury in northwestern Ontario,prepared in mid-November 1974.by the Ontario Ministry of Health.


(11) Clarkson T.W.:Exposure to methyl mercury in Grassy Narrows and White Dogreserves.Report ,The Medical School,Universitu of Rochester(1976)


(12) Minamata disease,Study group of Minamata disease,,Medical School of Kumamoto University(1968)


(13) Hunter D.& Russell R.R.:Focal cerebral atrophy in a human subject due to organic mercury compounds, J.Neurol.Neurosurg.Psychiat.,17;235-241(1954)


(14) Harada Masazumi:Minamata disease,Methylmercury poisoning in Japan caused by environmental pollution,Critical Rev.Toxicol.,25;1-24,(1995)


(15) Harada Masazumi:Grassroots movements by Minamata disease victims,Asian Cultural Studies Special Issue No 10,International Christian University,Institute of Asian Cultural Studies,255-263(200!)


(16) Ninomiya T.,Ohmori H.,Hashimoto K.,Turuta K.,Ekino S.:Expansoin of methylmercury poisoning outside of Minamata, An epidemiological study on chronic methylmercury outside of Minamata,Environmental Reseach,70;47-50(1995)


(17) Harada M.,Nakanishi J.,Yasoda E.,Maria C.N.P.,Oikawa T.,et al: Mercur pollution in the Tapajos River basin,Amazon mercury lebel of head hair effects, Environment International 27;285-290(2001)


(18) Harada Masazumi:Neurotoxicity of methylmercury,Minamata and the Amazon,in”Mineral and Metal Neurotoxicology” ed.by Yasui M.,Storong M.J.,Ota K.Verity M.A.,177-188p,CRC press,New York(1997)


(19) Grandjean P.,Weihe P.,White R.F.,Debes F.,Araki S.,Yokoyama K.et al:Congenital deficit in 7-year-old children with prenatal exposure to methylmercury, Neurotoxicol/Teratol.19;417-428(1997)


(20) Akagi H.,Malm O.,Kinjo Y.,Harada M.,Pfeiffer WC.et al:Methylmercury pollution in the Amazon,Brazil,Sci.Total Environ.,178;85-95(1995).


【Address】

 
1.
Department of Social and Welfare Studies Kumamoto Gakuen University,862-8680 Oe 2-5-1 Kumamoto City
 
2.
Kyoritu Hospital Department of Neuropsychiatry, Sakurai-machi 2-2-28, Minamata 867-0045
 
3.
9 Midle Gate Winnipeg, MB,R3C 2C5, Canada.
 
4.
Environmental Monitoring Laboratory, Benten-machi 2-1-30, Minato-ku, Osaka,552-0007.
 
5.
Department of Hygine, Kyourin University. Shinkawa6-20-2,Mitaka-shi 181-8611



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