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特集ワールド・ちょっと待った!:メタボリックシンドローム
メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)が話題となって以来、「ウエスト85センチ以上」の男性たちは妻に責められ、あるいは笑われ、何とも肩身が狭いらしい。一方、「ギリギリセーフ」と小躍りする84センチ組もいる。こうも一喜一憂すべき話なんだろうか?
◇「自己管理力なし」論−−永江朗さん(フリーライター)
◇肥満断罪の圧力、独り歩き心配
5月に厚生労働省が「平成16年 国民健康・栄養調査」の結果を発表し、マスコミ各社がメタボリックシンドロームを大きく取り上げてクローズアップした。その脅迫的とも言えるトーンで、国民の多くが危機感を持ったと思う。生活習慣病の引き金になり、死亡率も高いと言われれば、誰でも嫌な思いをするだろう。
実際は、血中の中性脂肪の診断基準や、男性でウエスト85センチ未満という日本のボーダーラインの設定がかなり低めだとの異論もある。無理やり国民を病気や病気予備軍に仕立て上げているようにも感じる。
厚労省の発表は、生活習慣病を予防し、医療などの社会的コストを減らそうとする努力とも評価できる。しかし、危機感が高まれば、医師にとっては診療報酬に結び付き、製薬会社は売り上げ向上につながるという具合に、厚労省と関係が深い分野に「利益」が分配されるよう期待しているのではないか、とさえ疑いたくなる。
疲れて帰宅したお父さんが、家庭では食事を減らされ、夜中のウオーキングに駆り出されるなど、笑えない影響も出ているようだ。ウエスト85センチ以上の男性など普通にいる。
米国ではプロテスタントの宗教観の影響もあって「おなかぽっこり」などの肥満だと「自己管理力の欠如」と断罪され、「病気になるのは自業自得だ」といわんばかりの社会的プレッシャーがある。日本でも、その論調が独り歩きしないか心配だ。
21世紀に入って日本人は競争に脱落し、はい上がれなくなる恐怖をかつてないほど感じている。常に競争させることは経営者にとっては効率的で都合のいい社会かもしれないが、まるで19世紀の産業革命期に戻ったように、自分の幸福を見いだせない社会になっている。
さらに加えて、「メタボリック・リストラ」の対象になったり、「ウエスト85センチ以上は保険料割り増し」などという生命保険が出たり、果ては入社試験でウエストを測られたりなどということが始まったらどうするのだろうか。
成人男性の約半数が危険な状態や予備軍というのなら、日本はなぜ世界的な長寿国なのか説明ができない。平均寿命が急激に落ち込んでいるというデータを聞いたことがない。
多くのサラリーマンは、「適度な運動」をする時間もなく働きづめだ。メタボリックシンドロームという言葉で脅迫的に「自己責任」を問うよりも、企業や自治体に安く気軽に使えるスポーツジムを作らせるようプレッシャーをかけるほうが、よほど国民のためになるだろう。【太田保馬】
◇ウエスト「85センチ以上」−−大櫛陽一さん(東海大医学部教授)
◇算出に問題一喜一憂は無意味
「ウエスト85センチ」は、40〜69歳の日本人男性の平均(84・7センチ)とほぼ同じ。標準範囲の真ん中です。私に言わせればむしろベストサイズですよ。一方、女性の平均は男性より約5センチ小さい79・3センチ。ところがメタボリックシンドロームの基準は90センチと、男性より逆に5センチも大きい。実に奇妙な話です。
各国のメタボリックシンドロームの基準は、米国では男性103センチ、女性89センチ、中国は男性90センチ、女性80センチ。女性の基準値が男性を上回るのは日本だけです。各国の基準を検証した最近の論文には「奇妙な結果が出るので、日本のウエスト基準は使わないことを推奨する」とまで書かれています。
なぜ日本は、85センチや90センチが基準となってしまったのでしょうか。日本では、血糖、総コレステロール、血圧などに危険因子を持つ人の内臓脂肪面積を調べ、ウエスト基準を算出しました。しかし調査対象が数百人と少ないうえ統計処理方法にも誤りがあります。
ウエスト基準の算出のもとになった危険因子の一つである「総コレステロール220ミリグラム/デシリットル以上」自体にも問題があります。世界各国の総コレステロールの上限値は「260〜270」で、日本の値は極端に低い。確かに20代で「220」なら問題ですが、閉経後の女性では実に55%が「220以上」です。ところが日本では彼女たちの多くが「高脂血症」と診断され、コレステロール低下薬を飲まされている。本来、遺伝性の高コレステロール症患者以外には不要な薬が、年間約3300億円の市場に拡大しています。
そもそも日本人は、総コレステロール値が180を下回ると、がんや感染症、うつ病による自殺などで死亡率が逆に上がることも分かっています。最近「小太りの方が長生き」と言われるのはこのためです。
今回のメタボリックシンドロームに限らず、日本の診断基準の最大の問題点は男女別・年齢別でないことです。
メタボリックシンドロームの基準に一喜一憂するのは無意味です。例えば、心筋梗塞(こうそく)との因果関係が一番はっきりしている「悪玉コレステロール」とも呼ばれるLDLコレステロール値が、今回の基準には含まれていません。この症候群の概念は本来、心筋梗塞や糖尿病などの予防や診断に使えるものではありません。25日の日本糖尿病学会の国際シンポジウムでも、英国の研究者が「混乱を避けるため、メタボリックシンドローム自体を使うのをやめよう」と宣言しました。あくまで食事内容の見直しや運動など、生活改善を始める目安として使われるべきものなのです。【小国綾子】
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◇ながえ・あきら
1958年、北海道旭川市生まれ。「宝島」「別冊宝島」の編集兼ライターを経て、93年から現職。著書に「平らな時代」「インタビュー術!」など。
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■人物略歴
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1947年、徳島市生まれ。大阪大大学院工学研究科修士課程修了。88年から現職。04年、約70万人の健診結果を基に日本初の男女別・年齢別基準範囲を発表。近著に「検査値と病気 間違いだらけの診断基準」(太田出版)。
毎日新聞 2006年5月29日 東京夕刊
http://www.mainichi-msn.co.jp/kurashi/kenko/news/20060529dde012100012000c.html
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