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脳脊髄液減少症:潜在患者10万人、国は動かないのか 鳥取でも被害者勝訴
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/wadai/news/20060129ddm041040057000c.html
交通事故で「脳脊髄(せきずい)液減少症」と診断された鳥取市内の男性(36)が、加害者の男性を相手取って治療費など約980万円の支払いを求めた訴訟で、鳥取地裁が今月11日、加害男性に治療費など約670万円の支払いを命じていたことが分かった。古賀輝郎裁判官は判決で「事故で発症した」と因果関係を明快に認定した。脳脊髄液減少症を巡り、被害者側勝訴が明らかになったのは2件目。潜在的な患者は国内だけで10万人以上ともいわれており、国の対策が待たれている。【山下貴史、渡辺暖】
判決によると、被害男性は02年9月、車の助手席に同乗中に加害者の車に追突され、さらに対向車に衝突された。被害男性は体調不良が続いたが、加害者側の損害保険会社は「けがは軽い首の痛み程度」と半年で治療費の支払いを打ち切ったうえ、加害者がさらなる治療費の支払い義務がないことを確認する裁判を起こした。このため被害男性が反訴していた。
訴訟では、脳脊髄液減少症の治療経験が豊富な医師が被害男性の症状に関する鑑定を行い、脳や腰部のMRI検査などから、脳脊髄液減少症と診断する鑑定書を提出した。判決は、この鑑定結果を「信頼性が高い」としたうえで「頭痛、けい部痛、腰部痛、めまい感、吐き気などに関する男性の訴えが虚偽だとうかがわせる証拠はない。事故の結果、脳脊髄液減少症が発生した」と結論付けた。
加害者側は、脳脊髄液減少症の概念を全面否定している著名な整形外科医が「3週間以内の治療で済む」とした意見書を提出したが、判決は「意見書はことさらに傷害の程度を軽く見ようとしている。到底信用することができない」と一蹴(いっしゅう)した。
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■解説
◇司法、因果関係認定の流れ
「交通事故で脳脊髄液減少症が発症した」と認めた鳥取地裁判決は、周囲の無理解から二重三重に苦しんでいる患者を勇気付けるとともに、因果関係を認める司法の流れが定着しつつあることを示している。国は、脳脊髄液減少症を巡る医学的な論争を、事故当事者や司法に負わせたままにしており、被害者保護の観点からも早急な取り組みが必要だ。
事故と発症の因果関係を認めた民事判決は、福岡地裁行橋支部判決(昨年2月)に続いて2例目。津地裁伊勢支部でも因果関係を認めた和解成立(同7月)があった。加害者の刑事処分でも、「被害はむち打ち症の軽傷」とした当初の医師の判断が覆ったケースが分かっている。
脳脊髄液減少症は、脳と脊髄の周囲を循環している髄液が漏れると、頭痛やめまいなどの症状を起こす。交通事故などの難治性むち打ち症の「真相」とされる。
むち打ち症の患者の中には、痛みや周囲の無理解に基づくトラブルに耐え切れず、自殺する人さえいる。脳脊髄液減少症の研究は数年前に始まったばかりで、治療に取り組む医療機関は全国に数十しかなく、患者が診察を予約することすらも困難な状況にある。さらに、事故との因果関係を巡る当事者間の争いが、司法の場に持ち込まれるケースが増加している。
国に脳脊髄液減少症の研究を求める意見書を採択した都道府県議会は、この約2年間で16都府県に達した。厚生労働省や国土交通省、法務省など関係する省庁は、患者が置かれた実態を調査し、早急に対策を講ずる時期にきている。【渡辺暖】
毎日新聞 2006年1月29日 東京朝刊
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