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特集:疲労と老化 ストレス社会への対処法−−大阪市立大大学院・渡辺恭良教授
<Medical Information21>
◇疲労は放置しない−−大阪市立大大学院医学研究科・渡辺恭良教授
時間に追われるビジネスマンだけでなく、幼児やお年寄りまですべての現代人がストレスにさらされています。過労やストレスで生じる「疲労感」は、私たちに「放置すると健康を損ないますよ」と呼びかけている危険信号でもあります。疲労と老化には共通点が多いことが明らかになり、疲れに適切に対処することが、健康で若々しい心と体を持ち続けることにもなるという考え方が広まっています。若々しく生きるには「疲労」を理解して、適切に対処することは重要です。「疲労」がどこまで科学的に解明されていて、予防はできるのでしょうか。最新の知見を紹介します。
◇半年以上が4割弱◇
軽い疲れならば短時間の休憩や睡眠で元気が回復します。ところが、肉体や精神を酷使していないのに、また食生活や睡眠時間も大きく変わっていないのに疲労感が抜けず、回復までに週や月の単位の時間が必要なことがあります。このしつこい疲れ「慢性疲労」には医学的な治療が必要です。厚生労働省が1998年に愛知県の豊川保健所管内で行った疫学調査では住民の約60%が「疲れている」と回答しました。疲れの継続している期間を「6カ月未満」と「6カ月以上」に分けると「6カ月以上」が全体の37%を占めました。疲れを感じている人の半数以上が「仕事などの作業能率低下」を実感しています。社会的影響度を示すため文部科学省の疲労研究班は04年にまとめた報告書で疲労による日本全体の経済損失を年間1兆2000億円と試算しています。
◇科学的な計測方法◇
「疲れ」を科学的に評価するには、新しい指標が必要です。客観的に疲労度をみる方法のひとつにディスプレーに表示された数字を被験者が小さい順に押す試験があります。これを繰り返すと健康な人でも反応時間が徐々に遅くなり、やがては「疲れ」を訴えます。個人差があるために他の人との比較は難しいものの、個々の相対的な疲労度ならば評価できます。テストには時間がかかるため医療機関などの外来で患者さんに実施するのは難しいようです。
血圧を測るように手軽に疲労度が判定できる装置の研究・開発が行われていて、近赤外線を指先に当てて疲労度を測定するシステムは近い将来の実用化が期待されています。文科省研究班のリーダーを務め、疲労の研究に取り組む大阪市立大学大学院医学研究科教授の渡辺恭良さんはいいます。「指を1分間センサーにかざすだけで疲労度が測れるような仕組みを探しています」。検査時間を短縮するためには男女別、年齢別、疲労度別などいろいろな条件で集めたデータが必要。現状は「同一人物に対して毎日のストレスを比較する方法で実用レベルに近づいている段階」だそうです。
◇子どもは危機的状況に
◇生体リズム破たん◇
慢性疲労症候群(表参照)にかかると、健康に生活していた人でも原因不明の強い全身けん怠感、微熱、頭痛、筋肉痛、精神神経症状などに見舞われて、生活に重大な支障を来します。この新しい考え方は米疾病対策センター(CDC)が88年に提唱した慢性疲労症候群の概念で、原因はストレス説、ウイルス感染説、内分泌異常説、免疫異常説、自律神経失調症説などが研究結果として発表されています。ところが慢性疲労症候群患者には明確な共通点が見られず、治療の標準化は進んでいません。
文科省研究班は慢性疲労症候群の本態は、ストレスや過労で体に炎症などが生じたときに放出される物質の量が増えるなどの異常が起こり、それが引き金となり、脳・神経系に起きる機能障害であるとの説を提唱しました。その上で生活環境因子と患者さんの遺伝的背景、気質・性格なども含めて慢性疲労の罹患(りかん)リスクを検討しました。
国内の不登校児の調査では、慢性疲労症候群に似た症状が多数発見されて、小児型慢性疲労症候群という概念が示されました。深夜まで外出している眠らない子どもたちは「慢性時差ぼけ状態」であり、体内の生体リズムの破たんが睡眠障害や自律神経機能異常、糖代謝異常などを引き起こしているのに加えて学業不振(意欲、集中力や記銘力の低下)にまで陥るのです。全国約15万人と推計される不登校児にも、生体リズムの破たんがその原因になっているケースがあると結論しています。
疲労状態にあって創造性が足りず、感情的に切れやすい子どもたちが増えていることから渡辺さんは「きちんとした生活を送れない環境におかれている子どもたちが、最も危機的な状況にあるのではないでしょうか」と懸念しています。
◇メカニズムを知り、ビタミンB群など活用を
◇医師の認知度低く◇
疲労のメカニズムが明らかになりつつある中で、適切な措置を施して慢性疲労症候群を予防しようという試みも始まっています。ところが、臨床で疲れを診ている医師はほとんどいないという現実があり、「疲労を訴える患者さんに何をすればいいのか分からない」(渡辺さん)医師も少なくないそうです。
受診しても血液を調べて貧血がないことを確認する程度だったり、心臓肥大を疑ったり、肺炎を疑う医師が多く、結局は何もないと判断してビタミン剤を飲むよう勧めて、しかも薬を処方せずに薬局へ行くよう促す医師もいるそうです。
疲労症の予防、疲労症になってからの治療を科学的に行うには、疲労の本質を調べて、疲れを増大させる要因と疲労を軽減する要因を知らなければなりません。動物実験では、体内で過剰に生産された活性酸素が細胞や細胞内のたんぱく質を傷つけて、細胞や組織からサイトカインという物質が大量に放出されることが分かりました。
◇老化の進行抑え、若さ保つ効果も
◇微量成分の役割◇
疲れに有効な対策を探るため文科省研究班はアンケート調査を行いました。大阪市民1219人を対象に「疲れを感じた」時にどのような行動をして、なおかつそれが効果的と実感している割合を調べました。すると最多の56%が実践していたのは「入浴」で、半数弱の「入浴剤の利用」、3人に1人の「コーヒー」の順、「よい」と回答した割合はそれぞれ約40%、約15%、5%未満と必ずしも満足度は高くありません。そこで「よい」とする回答が多かったものをみると、「笑い」「アロマセラピー」「アニマルセラピー」「温泉」が上位を占め、そのほかに「マッサージ」「指圧」「体操」「栄養ドリンク」も効果が感じる割合が高い対策でした。
疲労回復に必要な成分のうち自ら体内では作れないビタミンB1とパントテン酸は食品から摂取しなければなりません。ところが、ビタミンB1の摂取状況を05年の国民健康・栄養調査でみると、15歳以上の日本人が食品から摂取するビタミンB1の平均摂取量は、男女ともに推定平均必要量を下回っています。「ビタミンB1不足」と言えるレベルではないものの、疲れにくい体を作るにはビタミンB1の補給が必要です。
またビタミンB1を効率よく摂取するためには、医薬品などに使われている物質で、体内吸収されてからビタミンB1になるビタミンB1誘導体「フルスルチアミン」が使われています。フルスルチアミンもビタミンB1も小腸から吸収されますが、フルスルチアミンの方が数十倍から数百倍も吸収されやすく、しかも体内に入ってからも筋肉や脳に行き渡りやすいという特徴があります。
またビタミンB群のひとつであるパントテン酸には、ストレスが細胞に与える障害を緩和する副腎皮質ホルモンの分泌を調整する働きがあります。ストレスがかかっている細胞の負担を軽減する効果もあるため、「抗ストレスビタミン」という異名もあるほどです。ただし、パントテン酸は不安定な物質であるために、医薬品などには「パントテン酸カルシウム」が使われています。
最近話題になっているコエンザイムQ10(CoQ10)は、体のいたるところでビタミンEとともに酸化を防止する物質として作用していて、動脈硬化の予防効果があるといわれています。40歳を過ぎると体内での濃度が下がることから、疲労回復や老化の進行緩和などの効果を期待して不足分を補充する目的で、食品や化粧品などに利用されています。
ところが疲労を研究している医師にたずねても、CoQ10が効いたという答えが返ってくる割合は5%程度だと渡辺さんはいいます。「CoQ10の数値が下がっていても何もしないのは医師がその重要性に気付いていないのではないでしょうか」
健康の基本はバランスの良い食事と質の良い睡眠。ところが、現代社会では思い通りにいかないことの方が多いのが実情です。渡辺さんは「ただ漠然と医薬品や栄養ドリンクを飲めば元気になるわけではありません。体に必要なエネルギーを効率よく作り出せる栄養状態を整えることが老化や疲労を予防、軽減でき、健康的に生きることにつながります」とアドバイスします。
◇五つの補酵素、バランス大切
●細胞の質まで低下
ヒトは60兆個もの細胞でできています。日本人の平均寿命まで生きるとして約80年間、細胞が絶えず分裂を繰り返し、体は少しずつ生まれ変わっています。ところが、年をとるにつれて細胞が生まれ変わるペースが徐々に遅くなり、細胞の質まで低下します。これが老化です。疲労が蓄積した時にも細胞は老化と同じ状態に陥ります。
老化に伴い表れる主な症状は(1)もの忘れ、もの覚えが悪くなる(2)視力の低下(3)耳が遠くなる(4)肌のしみが消えない(5)疲れやすくなる(6)どうきや息切れが起こりやすい−−といったものがあります。ハードなスポーツや仕事の後で、老化で起きる脳や目、耳、肌、心臓などの現象が感じられることがあります。身体が示すサインをみると、老化と疲労に共通点が多いのは、老化と疲労がともにエネルギー代謝の低下が一因になっているからです。老化を促進する悪者である酸素ラジカルとか、活性酸素という言葉を最近よく見聞きするようになりました。活性酸素で傷んだ細胞を修復する能力が低下するのが、疲れが取れない、あるいはエネルギー不足で体力が続かない過労です。
このとき細胞はエネルギー不足で活性酸素を細胞から取り除く抗酸化物質の生産量が減り、細胞内にあって体に必要なエネルギー(ATP)を作りだす器官であるミトコンドリアまでもが、活性酸素で傷ついてその機能を発揮できなくなります。壊れた細胞や組織を修復する素材となるアミノ酸やたんぱく質がエネルギーが足りずに作れず、細胞にたまった老廃物も処理されずにたまります(老化する)。このようにして体内でエネルギーを作る化学反応(代謝)が低下すると、細胞では酸化を防ぐ物質までが作れなくなり、壊れた細胞が修復・再生できず、老廃物を処理できなくなるという悪循環に陥ります。しかも年齢と共に悪循環から抜け出しにくくなり、やがて細胞の質まで悪化するのです。
渡辺さんは「過度の運動や老化に伴い不足した物質を補充すれば老化の進行も穏やかになり、疲労を取り除くのに有効です」と話します。老化は防ぐことができないけれど若さを長く保つことはできるのです。
●エネルギー不足の解消
疲労の原因がエネルギーの枯渇であれば、ATPの材料となる栄養素を酵素や補酵素と一緒に補えば十分のはずですが、過度の疲労時には、エネルギーの供給が不十分で新たなエネルギーの素材となるアミノ酸などの補給が必要になります。休息で回復する疲労と異なり、老化が進むとATPそのものを作り出す細胞の能力が落ちます。
疲労や老化にとって重要な物質であるATPを作りだすエネルギー代謝=図=においては、ビタミンB1、パントテン酸、CoQ10、α−リポ酸、L−カルニチンの五つの補酵素という物質が必要です。しかも老化・疲労防止効果を得るには体内での五つの成分のバランスが大切です。
ATPの元になる「アセチルCoA」を作るのに必要なのは、3大栄養素のうち主に炭水化物(ブドウ糖)と脂肪です。ブドウ糖からアセチルCoAを作るのに必要なのは、ブドウ糖がミトコンドリアで変化したピルビン酸に作用するピルビン酸デヒドロゲナーゼという酵素と、ビタミンB1、α−リポ酸です。脂肪の場合はまず、消化・吸収の過程で分解された脂肪酸がパントテン酸の助けによりアシルCoAに変化します。このままではミトコンドリアに入れないため、L−カルニチンと反応してアシルカルニチンとなってミトコンドリア内部に入り込み、再びパントテン酸の助けによりアシルCoAに戻ります。その後アシルCoAはアセチルCoAとなり、TCA回路に入って分解され、CoQ10の働きでATPに変わります。
ここで重要なのは、五つの成分のうち「ビタミンB1」と「パントテン酸」は体内で作ることができず、常に体外から補給する必要があるということ。その他の3成分は体内で作れますが、年齢と共に生産能力は衰えるのです。微量であっても必須の成分の状態を調べて不足があれば補うことで、疲れにくく、若々しい体を保つことができるのです。
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《慢性疲労症候群》
6カ月以上続く疲労があり、下記の条件を満たすもの。
A:下記の四つの条件をすべて満たす。
●新しい明確な発症である
●過労などが原因でない
●休養をとっても回復しない
●職業、教育、社会、個人レベルで以前に比べて活動力が低下している
B:下記のうち四つ以上の症状が続いているか繰り返している。
○記憶力や集中力が低下して職業、教育、社会、個人レベルで重大な障害を来している
○のどが痛い
○リンパ節がはれている
○筋肉が痛い
○関節が痛い(発赤や腫れはみられない)
○頭痛(新たに発症したもの、もしくは痛みの程度が強まっている)
○労作後に1日以上続く強いけん怠感
毎日新聞 2005年12月3日 東京朝刊
http://www.mainichi-msn.co.jp/science/medical/news/20051203ddm010100156000c.html
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